「訪問調査で何を聞かれるのか」「うまく答えられず、実際より軽く判定されたらどうしよう」——要介護認定の申請をした後、多くの家族がこうした不安を抱きます。その調査結果をまとめるのが認定調査票です。市区町村の職員や委託を受けた調査員が、全国共通の「基本調査74項目」と、数値化できない実情を書き添える「特記事項」を使って本人の心身の状態や生活状況を記録し、この内容がコンピュータによる一次判定、介護認定審査会による二次判定の両方の土台になります。本記事では、認定調査票の構成、訪問調査の流れ、家族の同席が推奨される理由、判定にどう影響するかを厚生労働省の資料をもとに解説します。
認定調査票とは|要介護認定の判定材料になる公式書類
認定調査票は、介護保険の要介護認定を申請した後に実施される「訪問調査」の結果をまとめる書類です。要介護認定の申請方法や認定までの流れを経て日程調整された訪問調査で、調査員が本人や家族から聞き取った内容がこの1枚の書類に集約されます。認定調査票の記載内容は、その後の判定プロセスすべての出発点になるため、正確に記録されることが重要です。
概況調査・基本調査・特記事項の3点構成
厚生労働省の「認定調査票記入の手引き」によれば、認定調査票は次の3つの要素で構成されます。
- 概況調査:現在受けているサービスの状況、置かれている環境、家族構成など基本情報
- 基本調査:全国共通の74項目からなる心身状態のチェックリスト
- 特記事項:基本調査の選択肢だけでは表しきれない具体的な状況を自由記述で補足する欄
この3点セットがそろって初めて、認定調査票として機能します。基本調査は選択式のため客観性・全国共通性が保たれる一方、個々の事情を数値だけで表すのは難しいため、特記事項が実態を補う役割を担っています。
誰が記入し、どこに保管されるのか
認定調査票は訪問調査を担当した認定調査員がその場、または調査後に記入します。記入済みの認定調査票は市区町村を通じて介護認定審査会に提出され、主治医意見書とあわせて審査資料として扱われます。認定調査票そのものは申請者本人にも開示請求が可能ですが、通常は市区町村が保管し、更新認定の際の過去データとしても参照されます。
認定調査員とは|誰が自宅や施設を訪問するのか
訪問調査を実際に行うのは「認定調査員」と呼ばれる人です。誰でも担当できるわけではなく、一定の資格要件と研修修了が定められています。
市区町村職員またはケアマネジャーが担当
認定調査員は、原則として市区町村の職員が担当しますが、新規申請以外の更新認定などでは、都道府県知事等の指定を受けた居宅介護支援事業者等に調査が委託されることがあります。委託を受けて調査を行うのは、介護支援専門員(ケアマネジャー)や、それに準ずる看護師・社会福祉士など、一定の資格と実務経験を満たした人です(報酬や委託の運用は自治体ごとに異なります)。
認定調査員研修の修了が必須要件
神戸市や岡崎市などの委託要件を見ると、資格要件に加えて「都道府県等が実施する認定調査員研修の修了」が共通して求められています。基本調査74項目は選択の仕方に判断のぶれが生じやすい項目もあるため、全国どこで調査を受けても評価基準がそろうよう、調査員には研修受講が義務付けられている形です。
基本調査74項目の中身|7つの群に分かれる評価軸
認定調査票の中心となる基本調査は、全国共通の74項目で構成され、内容ごとに7つの「群」に分類されています。
7つの群のうち、④精神・行動障害(BPSD関連)は本人の自己申告だけでは捉えにくく、家族からの補足情報が特に重要になる群です。
7群それぞれの評価対象
厚生労働省の手引きによると、基本調査74項目は次の7群に分類されています。
- ①身体機能・起居動作:麻痺、拘縮、寝返り、起き上がり、歩行など
- ②生活機能:移乗、移動、食事摂取、排泄、着脱、整容など
- ③認知機能:意思の伝達、記憶、見当識、金銭管理の理解など
- ④精神・行動障害:被害的な言動、作話、徘徊、火の不始末など、いわゆるBPSD(行動・心理症状)に関する項目
- ⑤社会生活への適応:薬の内服管理、金銭管理、集団への適応、買い物など
- ⑥特別な医療:点滴、経管栄養、透析、酸素療法、褥瘡の処置など、直近14日間に受けた医療処置の有無
- ⑦日常生活自立度:障害高齢者の日常生活自立度、認知症高齢者の日常生活自立度の2つの区分
「能力」「介助の方法」「有無」という3つの判定軸
74項目はさらに、評価の仕方によって3つの判定軸に分かれます。
- 能力で評価する項目:歩行できるか、視力・聴力はどうか等、本人の身体的・認知的な能力そのものを問う項目
- 介助の方法で評価する項目:食事摂取や移乗の際、実際にどこまで介助されているか(見守り・一部介助・全介助等)を問う項目
- 有無で評価する項目:麻痺・拘縮の有無、被害的な言動など精神・行動障害の有無を問う項目
ここで注意したいのは、「能力」と「介助の方法」は別物として扱われる点です。例えば歩行が一人でできる(能力あり)と判定されても、転倒が不安で家族が毎回付き添っている(介助の方法として一部介助が発生している)場合、その付き添いの実態は「介助の方法」の項目や特記事項であわせて伝える必要があります。
訪問調査の流れ|所要時間と当日の進め方
実際の訪問調査がどのように進むのか、自治体の案内をもとに整理します。
所要時間は30〜60分程度、自宅や入院先で実施
昭島市や東大和市の案内によると、訪問調査の所要時間はおおむね30〜60分程度です。場所は自宅が中心ですが、入院中であれば病院、施設入所中であれば入所先の施設で実施されます。事前に市区町村または委託先の調査員から日程調整の連絡が入り、都合のよい日時を相談できます。
概況の聞き取りから基本調査項目のチェックまで
当日はまず、現在利用しているサービスや生活環境などの概況調査を聞き取り、その後、基本調査74項目について本人への質問や実際の動作確認(歩行、立ち上がりなど)を通じてチェックしていきます。並行して、選択肢だけでは表しきれない具体的な事情を調査員がメモし、後日「特記事項」として清書します。
家族の同席が重要な理由|「その場だけ頑張る」問題への対策
訪問調査には、可能な限り家族や普段の様子を知る人の同席が強く推奨されています。
本人の回答が実態と異なるケースがある
厚生労働省の手引きには「独居者や施設入所者等についても、可能な限り家族・施設職員等、調査対象者の日頃の状況を把握している者に立ち会いを求め、できるだけ正確な調査を行うよう努める」と明記されています。調査員が来ると本人が普段以上にしっかり受け答えしてしまったり、逆に不安から実態より弱った様子を見せてしまったりすることがあり、家族や日頃の状況を知る人の情報が判定の正確さを左右します。
事前に日頃の様子をメモしておく
厚労省の手引きでは、調査当日に行ってもらった動作と、聞き取りによる日頃の状況が食い違う場合は「調査日より概ね過去1週間の状況において、より頻回な状況に基づき選択を行い、その違いを具体的に特記事項に記載する」というルールが定められています。つまり、その場限りの様子ではなく、直近1週間程度でより頻繁に見られる状態で評価する建付けになっています。このルールを踏まえ、昭島市や東大和市などの自治体も、普段の困りごとや介助の内容を事前にメモしておくことを案内しています。
特記事項の役割|数値化できない介護の手間を伝える欄
基本調査は選択式のチェックリストであるため、個々の事情の濃淡までは表現しきれません。それを補うのが特記事項です。
特記事項に何を書いてもらうべきか
特記事項には、基本調査の選択肢では拾いきれない具体的な介護の手間(例:夜間の見守りが頻回に必要、特定の動作にだけ強い介助を要する等)を記載してもらうことが重要です。同席する家族は、調査員が基本調査の質問をしている最中でも、日頃困っている具体的な場面を補足して伝えることができます。
特記事項が二次判定を左右することがある
厚生労働省「要介護認定はどのように行われるか」(WAM NET掲載)によれば、特記事項に具体的な介護の手間が示されていれば、介護認定審査会による二次判定で一次判定結果を変更する根拠になり得ます。ただし、「在宅か施設か」「家族介護者がいるかどうか」といった環境面の事実のみを理由にした変更は不適当とされています。これは、単に環境が違うというだけで判定を軽くしたり重くしたりしないための歯止めであり、あくまで記載された介護の手間の具体的な内容そのものが判断材料になる仕組みです。
一次判定と二次判定の流れ|認定調査票がどう使われるか
認定調査票に記載された内容は、その後どのように判定に反映されるのでしょうか。
一次判定はコンピュータによる要介護認定等基準時間の推計
一次判定では、認定調査票の基本調査結果がコンピュータに入力され、多数の高齢者を対象に実際の介護に何分かかったかを調べた統計データ(1分間タイムスタディ調査)をもとにした計算方法によって「要介護認定等基準時間」が推計されます。専門的な計算の詳細は覚える必要はありませんが、要点は「基本調査で答えた内容が、そのままコンピュータでの一次判定の材料になる」ということです。この基準時間は実際の介護時間そのものではなく、身体介護・機能訓練・医療関連行為など5分野の合計時間をもとに、要支援1〜2、要介護1〜5のいずれかへ仮に振り分ける統計的な指標です。
二次判定は介護認定審査会が主治医意見書と合わせて判断
一次判定の結果は、保健・医療・福祉の学識経験者で構成される介護認定審査会(委員数は自治体ごとに定められます)による二次判定で最終確認されます。ここでは一次判定の結果に加え、主治医意見書と認定調査票の特記事項の内容を突き合わせて審査が行われます。特記事項に具体的な介護の手間が明記されていれば、一次判定の結果が修正されることもあります。
申請から認定結果が出るまでの期間
認定調査票の作成から最終的な認定結果通知までには、一定の期間がかかります。
法定の目安は原則30日以内
宇都宮市の案内および厚生労働省の資料では、申請から認定結果通知までの期間は原則30日以内が法定の目安とされています。この期間内に訪問調査・一次判定・二次判定のすべてが完了することが想定されています。
実務では1〜2か月かかることもある
ただし、訪問調査の日程調整や介護認定審査会の開催サイクル、主治医意見書の作成待ちなどの事情により、実務上は1〜2か月程度かかるケースもあります。急いでサービスを利用したい場合は、申請時点で市区町村の窓口に見込み期間を確認しておくとよいでしょう。
訪問調査の前に準備しておきたいこと
訪問調査を実態に即した内容にするために、事前にできる準備があります。
困りごとの記録・お薬手帳・介護日誌の用意
訪問調査の前に、次のようなものを用意しておくと当日の聞き取りがスムーズになります。
- 直近1〜2週間で困った場面のメモ(転倒しかけた、着替えに時間がかかった、夜間に何度も起きた等)
- お薬手帳
- 通院・処置の記録(経管栄養、点滴、褥瘡処置など「特別な医療」群に関わる情報)
- ふだん介護している家族の連絡先・当日の同席可否
聞かれやすい項目を事前に把握しておく
基本調査74項目は、身体機能・生活機能・認知機能・精神行動障害・社会生活・特別な医療・日常生活自立度という7群にわたります。事前にどのような項目が聞かれるかを把握しておくことで、当日焦らず、日頃の状況を漏れなく伝えやすくなります。厚生労働省は「認定調査員テキスト」を公式サイトで公開しており、より詳細な判断基準を確認することもできます。
判定結果に納得できないときの対応
訪問調査や認定調査票の内容が実態と異なっていたと感じる場合、後からできる手続きがあります。
区分変更申請はいつでも可能
認定結果が出た後、心身の状態の変化や、実態とのずれを感じた場合は区分変更申請をいつでも行うことができます。江東区の案内でも、有効期間の途中であっても区分変更申請が可能であることが明記されています。区分変更申請では、あらためて訪問調査(認定調査票の作成)が行われます。
介護保険審査会への審査請求は3か月以内
認定結果の手続き自体に不服がある場合は、都道府県に設置される介護保険審査会への審査請求という制度もあります。愛知県の案内によれば、審査請求は処分を知った日の翌日から3か月以内に行う必要があります。区分変更申請と審査請求は目的も期限も異なるため、状況に応じてどちらが適切か市区町村の窓口に相談するとよいでしょう。
まとめ|認定調査票は要介護認定の土台になる書類
- 認定調査票は「概況調査」「基本調査74項目」「特記事項」の3点で構成され、訪問調査の結果を記録する公式書類
- 訪問調査は市区町村職員または研修修了済みの認定調査員(ケアマネジャー等)が担当し、所要時間は30〜60分程度
- 基本調査は身体機能・生活機能・認知機能など7群に分かれ、「能力」「介助の方法」「有無」という3つの軸で評価される
- 家族や日頃の状況を知る人の同席が推奨されており、直近1週間程度のより頻回な状態を基準に評価するルールがある
- 特記事項は二次判定(介護認定審査会)で一次判定結果を左右しうるため、具体的な介護の手間を伝えることが重要
介護保険制度は3年ごとに見直しが行われており、認定調査の運用や様式が変更される可能性があります。実際の手続きにあたっては、お住まいの市区町村の最新の案内をあわせてご確認ください。当サイトの記事の評価方針についてはこのサイトについてもご参照ください。