訪問理美容サービスとは、外出が難しい高齢者の自宅に理容師・美容師が訪問し、調髪や洗髪などを行うサービスです。多くの市区町村が介護保険の枠組みとは別に独自の助成制度として実施しており、要介護3〜5を対象に自己負担500〜2,000円、年2〜8回程度まで助成する例が多く見られます。ただし対象となる要介護度・自己負担額・回数は自治体によって大きく異なります。この記事では制度の位置づけ、対象条件、料金の目安、申請方法を自治体・厚生労働省の公表情報にもとづいて整理します。
訪問理美容サービスとは
訪問理美容サービスは、寝たきりや歩行困難などの理由で理容室・美容室への外出が難しい高齢者を対象に、理容師・美容師が自宅を訪問して調髪・洗髪・顔そりなどの基本的な理美容サービスを提供する仕組みです。この記事で主に扱うのは、市区町村が実施する助成制度(多くは後述する市町村特別給付)で、要介護度や年齢などの条件を満たすと自己負担が軽減されます。厚生労働省の通知では、在宅の高齢者向けの理容・美容サービスは大きく4つの類型に整理されています[1]。
出張理容・出張美容との違い
1つ目の類型は、介護保険とは無関係に理容師・美容師が個人で行う「出張理容・出張美容」で、費用は全額利用者の実費です[1]。これに対して市区町村の「訪問理美容サービス」は、後述するとおり多くが介護保険料を財源とした市町村特別給付事業として位置づけられており、利用者の自己負担が定額の助成額まで軽減される点が異なります[1]。
介護保険の「身体整容」との違い
厚労省の整理における2つ目・3つ目の類型は、次のような介護保険サービスの枠組みの中の話です。
- 2つ目の類型は、訪問介護員の資格を持つ理美容師が行う「身体整容」で、これは訪問介護の介護報酬に含まれるため追加の費用徴収はできません[1]
- 3つ目の類型は、訪問介護の前後に理美容サービスを行う場合で、介護保険サービスと明確に区分したうえで別料金とすることが認められています[1][2]
- デイサービス事業所内で理美容サービスを提供する場合も、通所介護と明確に区分できれば利用者の実費負担で実施でき、提供時間は通所介護の提供時間には含めない扱いとされています[2]
これらはいずれも「身体整容」や訪問介護の枠組みの中の話であり、本記事で解説する市区町村独自の「訪問理美容サービス」とは別の仕組みです。
市区町村特別給付・独自事業としての位置づけ
本記事で扱う訪問理美容サービスの多くは、4つ目の類型である「市町村特別給付事業」に該当します[1]。市町村特別給付とは、介護保険料を財源に市区町村が独自に上乗せして実施できる給付で、対象条件・助成額・回数を各自治体が個別に定めています。中野区のように「介護保険特別給付 訪問理美容サービス」と名称に明記する自治体もあれば[9]、高齢者福祉事業として位置づける自治体もあり、財源の建てつけや呼称は自治体によって表現に差があります。いずれの場合も、全国一律の制度ではなく、居住する市区町村ごとに条件が異なる点をまず押さえておく必要があります。
対象者の条件
訪問理美容サービスの対象者は、年齢・要介護度・居住形態などの条件で定められています。ここでは複数自治体の条件を比較します。
要介護度の目安(自治体で異なる)
お住まいの自治体では何歳から、要介護いくつから対象になるのでしょうか。対象となる要介護度は自治体によって大きな幅があります。神戸市[6]や江戸川区[19]のように要介護4・5のみを対象とする自治体がある一方、関市や中津川市のように要介護1〜5までを幅広く対象とする自治体もあります。政令市・特別区の多くは要介護3〜5を目安としていますが、これはあくまで目安であり、必ずお住まいの自治体窓口で最新の条件を確認してください。
各自治体の公表情報をもとに作成。要介護1から対象の自治体もあれば、要介護4・5に限定する自治体もあり幅があります。お住まいの自治体の条件は個別にご確認ください。
在宅であることが前提(施設入所者は対象外)
訪問理美容サービスは、基本的に自宅で生活している高齢者を対象とした制度であり、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護保険施設に入所している人は対象外とされています。世田谷区[8]・中野区[9]・千代田区[10]・港区[16]・豊島区[17]・練馬区[18]・三郷市[14]・中津川市[13]・江戸川区[19]など、多くの自治体がこの点を明記しています。神戸市も、デイサービス利用は対象外で自宅訪問のみが対象と明記しています[6]。施設に入所している家族の理美容費については、後述する「施設入居者の理美容費との違い」で扱います。
障害者手帳保有者が対象になるケース
要介護度による条件に加えて、身体障害者手帳の等級を要件とする自治体もあります。新宿区では65歳以上・要介護4・5のほか、身体障害者手帳1・2級等で寝たきり相当かつ外出困難な人も対象に含めています[15]。中津川市でも、要介護1〜5に加えて65歳以上で身体障害者手帳1〜3級を持つ人が対象となる場合があります[13]。関市では身体障害者手帳を保有し寝たきり・車椅子を常時使用する人も対象に含まれます[11]。手帳の等級や年齢要件は自治体ごとに異なるため、要介護度の条件を満たさない場合でも、手帳を保有していれば対象になる可能性があるかどうか、窓口に確認するとよいでしょう。
利用料金・自治体の助成額の目安
訪問理美容サービスの多くは、1回あたりの利用料金のうち一定額を自治体が助成し、残りを利用者が自己負担する仕組みです。自己負担額・年間回数はいずれも自治体差が大きいのが実情です。
自己負担額の相場
実際に窓口へ支払う金額はどのくらいなのでしょうか。複数自治体の例を見ると、1回あたりの自己負担額はおおむね500円〜2,000円の範囲に収まっています。名古屋市[4]・神戸市[6]・横浜市[5]・川崎市[7]・新宿区[15]・中津川市[13]は2,000円、世田谷区は1,000円[8]、中野区は1,500円[9]、千代田区は710円[10]、港区は500円[16]、練馬区は500円[18]、江戸川区は800円[19]、三郷市は基本サービスが無料(パーマ・毛染め等は実費)となっています[14]。同じ「訪問理美容サービス」という名称でも、自己負担額に4倍近い差があることになります。
各自治体の公表情報をもとに作成。自己負担額は500円〜2,000円の幅があり、居住する自治体によって異なります。
年間利用回数の上限
年間の利用回数(利用券の交付枚数)も、後述する自治体比較表のとおり2〜8回程度と幅があり、「訪問理美容サービスは年◯回まで」と一律には言えません。千代田区の年8回が多い部類で[10]、三郷市の年2回が少ない部類です[14]。神戸市[6]・横浜市[5]・新宿区[15]・関市[11]のように、申請月により交付枚数が変動する自治体もあります。
パーマ・カラーなど対象外メニュー
助成の対象となるのは、多くの自治体でカット(調髪)・洗髪・顔そりなど基本的な理美容サービスに限られます。パーマや毛染め(カラー)といったメニューは対象外で、希望する場合は全額利用者の実費負担となる例が三郷市で明記されています[14]。訪問理美容サービスを「フルサービスの美容院が自宅に来る」という感覚で利用すると、想定外の実費が発生することがあるため、依頼前にどこまでが助成対象かを確認しておくと安心です。
申請方法・利用の流れ
実際に利用するには、どのような手続きが必要なのでしょうか。申請から利用までの流れは、自治体によって細部は異なるものの、共通するパターンがあります。
申請窓口と必要書類
申請窓口は、多くの場合、区市町村の高齢福祉担当部署や地域包括支援センター(高齢者の相談を無料で受け付ける地域の窓口)です。必要書類としては、一般的に次のようなものが求められます。
- 利用申請書
- 介護保険被保険者証の写し
- 要介護認定結果通知書
- 該当者は身体障害者手帳の写し
近年はオンライン申請に対応する自治体も増えており、横浜市では令和7年4月から要介護4・5の対象者向けにオンライン申請が開始され、処理には約1か月かかるとされています[5]。オンライン申請への対応を進める自治体は他にもありますが、対応状況は自治体によって差があるため、窓口またはホームページで個別に確認してください。
利用券の交付から予約までの流れ
申請が受理され利用が決定すると、利用券(チケット)が交付されます。利用者は、利用券に記載された登録理美容店・協力店に自分で連絡し、訪問日時を予約します。登録店の一覧は、利用券の交付時に自治体から案内されるか、自治体のホームページで確認できることが多いので、事前に見ておくとスムーズです。訪問時には利用券と自己負担分の現金を用意し、施術後に理美容師へ渡すのが一般的な流れです。予約は理美容店側の訪問可能な日程に左右されるため、希望日の余裕を持って早めに連絡することが望ましいでしょう。
年度途中申請の場合の注意点
訪問理美容サービスの利用券は年度単位で交付されるのが一般的で、年度の途中で申請すると、交付される枚数(回数)が満額より少なくなる自治体があります。関市・横浜市・神戸市・新宿区では、申請月によって交付枚数・助成額が変動する仕組みが確認できます[11][5][6][15]。神戸市のように、年度が変わるたびに継続申請(自動更新ではない)が必要な自治体もあるため、前年度に利用していたからといって手続きなしで継続できるとは限りません。年度の切り替わり時期には、あらためて自治体窓口に確認することをおすすめします。
自治体ごとの制度比較
訪問理美容サービスは全国一律の制度ではなく、政令市・特別区・一般市それぞれで条件が異なります。ここではリサーチで確認できた自治体の例を比較します。詳細は必ずお住まいの自治体窓口でご確認ください。
政令市の例(名古屋市・横浜市・神戸市・川崎市)
| 自治体 | 対象要介護度 | 自己負担 | 年間回数 |
|---|---|---|---|
| 名古屋市 | 65歳以上・要介護3〜5(要介護3は追加要件あり) | 2,000円 | 6回 |
| 横浜市 | 要介護4・5、または要支援1〜要介護3で福祉保健センター長が認めた者(区の高齢者福祉の窓口が個別に認めた場合) | 2,000円(駐車場代500円が別途の場合あり) | 6回(申請月により変動) |
| 神戸市 | 65歳以上・要介護4または5のみ | 2,000円 | 1〜4回(申請月により変動、毎年度継続申請) |
| 川崎市 | 65歳以上・要介護3〜5、市内在宅居住 | 2,000円(所得にかかわらず一律) | 6回 |
出典:名古屋市[4]、横浜市[5]、神戸市[6]、川崎市[7]
特別区の例(世田谷区・中野区・千代田区など)
| 自治体 | 対象要介護度 | 自己負担 | 年間回数 |
|---|---|---|---|
| 世田谷区 | 65歳以上・要介護3〜5 | 1,000円 | 6枚 |
| 中野区 | 要介護3〜5、在宅で寝たきり・認知症により通所困難 | 1,500円 | 6枚(2か月に1枚) |
| 千代田区 | 65歳以上・要介護3以上 | 710円 | 8回(年度途中申請は月1.5回分換算) |
| 新宿区 | 65歳以上・要介護4・5、または身体障害者手帳1・2級等で外出困難 | 2,000円 | 6回(申請月により変動) |
| 江戸川区 | 40歳以上・要介護4または5(在宅) | 800円 | 6枚(10月以降申請は3枚まで) |
出典:世田谷区[8]、中野区[9]、千代田区[10]、新宿区[15]、江戸川区[19]
江戸川区は年齢下限が40歳と、他の多くの自治体(65歳以上)より広く設定されている点が特徴です。
一般市の例(三郷市・関市・中津川市)
| 自治体 | 対象要介護度 | 自己負担 | 年間回数 |
|---|---|---|---|
| 三郷市 | 65歳以上・要介護4または5、介護保険施設未入所 | 基本サービス無料(パーマ等は実費) | 2回 |
| 関市 | 要介護1〜5、または身体障害者手帳保有の寝たきり・車椅子常時使用者 | 2,000円券を交付 | 1〜4枚(申請月により変動) |
| 中津川市 | 要介護1〜5、または65歳以上で身体障害者手帳1〜3級 | 2,000円助成 | 6枚 |
出典:三郷市[14]、関市[11]、中津川市[13]
関市では、市税を滞納している場合は対象外とする独自条件が設けられています[11]。このように、要介護度・自己負担額・回数以外にも自治体ごとに細かな独自条件があるため、政令市・特別区・一般市のいずれであっても、必ずお住まいの自治体窓口で最新の条件をご確認ください。より広い高齢者福祉の文脈では、家族介護者の負担軽減を目的としたレスパイトケアを解説した記事もあわせてご覧ください。
施設入居者の理美容費との違い
ここまで見てきたとおり、訪問理美容サービスは在宅の高齢者を対象とした制度であるため、特別養護老人ホームなどの介護保険施設に入所している人の理美容費とは扱いが異なります。
施設サービス費に含まれない「日常生活費」扱い
介護保険施設に入所している場合の理美容代は、介護保険給付の対象となる施設サービス費には含まれず、「その他の日常生活費」として全額利用者の自己負担となります[12]。つまり、施設入所者は訪問理美容サービスの助成対象にもならず、施設内での理美容も介護保険の給付対象にもならないという二重の意味で、在宅の高齢者とは異なる扱いになります。ショートステイの利用時における費用の考え方についてはショートステイを解説した記事で整理していますので、あわせてご確認ください。
負担限度額認定の対象にならない点
低所得の施設入所者向けに、食費・居住費の自己負担を軽減する「負担限度額認定」という制度がありますが、この軽減の対象には理美容代は含まれていません。理美容費は施設サービス費とも負担限度額認定とも別枠の「日常生活費」として扱われるため、施設に入所している家族の理美容代について自治体の助成を期待することはできない点に注意が必要です。自己負担の軽減制度全般については高額介護サービス費を解説した記事もご参照ください(高額介護サービス費も理美容代のような日常生活費は対象外です)。
利用時の注意点・よくある疑問
訪問理美容サービスの利用にあたって、事前に確認しておきたい点を整理します。
家族の立ち会いは必要か
家族の立ち会いが必須かどうかを明記している自治体の公表ページは、今回のリサーチでは確認できませんでした。訪問時の本人の体調管理や、利用券・自己負担分の受け渡しなどの実務を考えると、立ち会いが望ましい場合や、事業所によっては立ち会いを求められる場合もあり得ます。利用を予定している場合は、事前に自治体の担当窓口、または予約する理美容店に個別に確認しておくことをおすすめします。
感染症対策はどうなっているか
理容所・美容所における衛生管理・消毒の基準は、都道府県・保健所が所管する理容師法・美容師法にもとづく規制の枠組みで定められています。高齢者施設・在宅における感染対策の考え方については、厚生労働省が「介護現場における感染対策の手引き」を公表しており、手洗い・器具の消毒など基本的な感染対策の考え方が整理されています[3]。個別の訪問理美容サービスにおける具体的な感染対策の実施状況は事業者によって異なるため、体調に不安がある場合は事前に自治体または理美容店に相談してください。
まとめ
- 訪問理美容サービスは、外出が難しい高齢者の自宅に理容師・美容師が訪問するサービスで、多くの自治体が市町村特別給付・独自事業として実施している
- 対象要介護度は自治体によって幅があり、要介護1から対象の自治体もあれば要介護4・5に限定する自治体もある
- 自己負担額はおおむね500円〜2,000円、年間利用回数は2〜8回と自治体差が大きい
- 施設入所者は対象外で、施設内の理美容費は「日常生活費」として全額自己負担、負担限度額認定の対象にもならない
- パーマ・カラーなどは多くの自治体で助成対象外のため、依頼前に対象メニューを確認する必要がある
まずは要介護度・年齢・障害者手帳の有無を確認したうえで、お住まいの地域包括支援センターまたは高齢福祉担当窓口に問い合わせることから始めましょう。
このサイトは、特定の理美容店・事業者を評価・推奨するものではなく、公的機関・自治体が公表している制度情報を横断的に整理してお伝えすることを目的としています。制度の詳細・最新の条件は自治体によって異なり、年度によって改定される場合もあるため、個別の申請・利用にあたっては必ずお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。サイトの立ち位置について詳しくはこのサイトについてをご覧ください。