訪問マッサージは、あん摩マッサージ指圧師が自宅や施設を訪問して行う施術で、健康保険法等にもとづく医療保険の「療養費」として給付されます。介護保険のサービスではないため、要介護認定の有無にかかわらず、医師が必要と認めた症状であれば利用の対象になり得ます。自己負担は医療保険の一部負担金と同じ1〜3割で、原則6か月ごとに医師の同意書が必要です。この記事では、対象となる症状、同意書の取得方法、自己負担割合の仕組み、訪問看護・訪問リハビリとの違いを、厚生労働省の資料にもとづいて解説します。
訪問マッサージとは何か(医療保険の療養費制度)
訪問マッサージとは、通院が難しい人の自宅や施設に、あん摩マッサージ指圧師が出向いて施術を行うサービスです。施術そのものは民間のサービスに見えますが、医師の同意書があり、療養費の支給要件を満たす場合には、健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度などの医療保険から給付を受けられます。この給付の枠組みを「療養費」と呼びます[1]。
あん摩マッサージ指圧師とは
あん摩マッサージ指圧師は、「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」にもとづく国家資格です。厚生労働省の資料によると、あん摩・マッサージ・指圧の技術を用いて、筋肉のこわばりや血行不良の改善などを図る専門職として位置づけられています[2]。訪問マッサージを提供できるのは、この国家資格を持つ施術者に限られます。
はり師・きゅう師との違い
はり師・きゅう師も、あん摩マッサージ指圧師と同様に独立した国家資格であり、いずれも療養費の対象になり得ますが、対象となる疾患の範囲が異なります。厚生労働省の資料では、あん摩マッサージ指圧師の療養費対象を「筋麻痺・筋萎縮・関節拘縮等、医療上マッサージを必要とする症例」としている一方、はり師・きゅう師については神経痛・リウマチ・頸腕症候群・五十肩・腰痛症・頸椎捻挫後遺症等の慢性的な疼痛を主とする疾患を対象としています[2]。同じ「訪問での施術」でも、資格と対象疾患が異なる点に注意が必要です。
介護保険ではなく医療保険が適用される理由
訪問マッサージは、要介護認定を前提としたサービスではなく、あくまで医師が医療上の必要性を認めた場合に、医療保険の療養費として給付される仕組みです[1]。そのため、要介護認定を受けていない人でも、医師の同意書があれば利用できる可能性があります。逆に、要介護認定を受けていても、医師が医療上の必要性を認めなければ療養費の対象にはなりません。この点は、介護保険サービスである訪問リハビリテーションなどとの大きな違いです。
訪問マッサージを利用できる人の条件
訪問マッサージが療養費の対象となるには、症状面での条件と、医師による同意が必要です。単に「マッサージを受けたい」という希望だけでは対象になりません。
対象となる症状(筋麻痺・関節拘縮等)
厚生労働省の資料では、あん摩マッサージ指圧師による療養費の対象を「筋麻痺、筋萎縮、関節拘縮等、医療上マッサージを必要とする症例」としています[2]。具体的には、次のような症状が想定されます。
- 脳血管疾患の後遺症による片麻痺
- 関節が固まって動かしにくくなる拘縮
- 廃用症候群等による筋力低下
実際に対象となるかどうかは、診察した医師の判断によります。
疲労回復・慰安目的は対象外
単なる疲労回復や慰安、リラクゼーション目的のマッサージ、疾病の予防を目的とした施術は療養費の対象外です[1]。訪問マッサージはあくまで医療上必要な施術に対して給付される制度であり、癒やしや気分転換を主目的としたサービスとは制度上の位置づけが異なります。
医師の同意書が必要な理由と取得方法
訪問マッサージを療養費の対象として利用するには、医師が交付する「同意書」が原則として必要です。同意書は、医療上の必要性を医師が確認したことを示す書類であり、無診察のまま交付することは認められていません[1]。
同意書交付までの流れ
一般的な同意書交付までの流れは、次のとおりです。
- かかりつけ医など医師の診察を受ける
- マッサージによる症状の改善が医療上必要かどうか、医師が判断する
- 必要と判断された場合、医師が同意書を作成・交付する(施術者側からの依頼を受けて医師が確認のうえ発行するケースもあるが、いずれも医師が実際に診察したうえでの交付が前提[1])
- 同意書に記載された症状名・往療の要否等をもとに、施術が開始される
同意書の有効期間は原則6か月
同意書の有効期間は原則6か月です(変形徒手矯正術については1か月)[1]。この期間を過ぎて施術を継続する場合は、あらためて医師の診察を受け、新たな同意書の交付を受ける必要があります。半年に一度、症状の経過を医師が確認する仕組みになっていると理解しておくとよいでしょう。
6か月ごとの再同意と施術報告書
継続して施術を受ける場合、施術者が作成する「施術報告書」を医師が確認し、症状の経過を踏まえて再同意するかどうかを判断する連携の仕組みがあります[1]。施術報告書には、施術内容や症状の変化などが記載され、医師が同意を継続するかどうかの判断材料になります。この仕組みにより、漫然とした施術の継続を防ぎ、医療上の必要性が定期的に確認される形になっています。
訪問(往療)が認められる条件
訪問マッサージのうち、施術者が利用者の自宅等へ出向く「往療」が療養費の対象となるかどうかも、医師の判断にもとづきます。
ひとりで通院できない場合の判断基準
同意書には訪問・往療の要否を記載する欄があり、医師は、独歩での通院が困難であることや、認知症等により単独での外出が難しいことなどを踏まえて往療の必要性を判断します[1]。単に「通院が面倒」という理由だけでは、往療が認められる根拠にはなりません。
要介護度との関係
同意書には、参考情報として要介護度を記載する欄が設けられています[1]。ただし、これはあくまで医師が往療の必要性を判断する際の参考情報のひとつであり、要介護度そのものが往療の可否を自動的に決めるわけではありません。要介護認定を受けていない人でも、医師が通院困難と判断すれば往療の対象になり得ますし、逆に要介護度が高くても医師が通院可能と判断すれば対象外となる場合があります。
自己負担割合と料金の目安
訪問マッサージが療養費の対象として認められた場合、利用者の自己負担は、医療保険の一部負担金と同じ1〜3割です[3][6]。年齢や所得区分によって負担割合が異なる点は、通常の医療機関を受診したときと同じ考え方です。
図:訪問マッサージの自己負担割合は、加入する医療保険の一部負担金の区分に応じて1〜3割となります。
自己負担は1〜3割
療養費として給付される費用のうち、患者が窓口で支払う(または後日負担する)割合は1〜3割です[3][6]。残りの7〜9割は、加入している医療保険の保険者から給付されます。ただし、これは「療養費の算定基準額」に対する割合であり、施術所が独自に設定する料金と必ずしも一致するとは限らない点に留意してください。なお、訪問マッサージにかかる費用は、往療料に加えて施術料(マッサージ施術そのものの料金)もあわせて発生します。施術料は部位数や実施内容によって施術所ごとに算定が異なるため、実際にいくらかかるかは契約前に施術所へ見積もりを確認しておくと安心です。
窓口での支払いが軽くなる「受領委任」という仕組み
平成31年1月から導入された、施術者が利用者に代わって保険者へ費用を請求する「受領委任」という仕組みでは、利用者はいったん全額を立て替える必要がなく、施術所の窓口では自己負担分(1〜3割)のみを支払えば済みます[3]。残りの費用は、施術者が利用者に代わって保険者へ直接請求します。受領委任を導入していない施術所を利用する場合は、いったん全額を支払い、後日保険者に療養費の支給申請をして払い戻しを受ける「償還払い」になることがあります。
往療料の目安
施術者が利用者の自宅等へ訪問する際にかかる往療料は、令和6年10月の改定で、それまでの「4kmまで2,300円・4km以上2,550円」という距離区分から、1回につき2,300円(4km以上の加算は廃止)に一本化されました。同時に、離島・中山間地域等では1回250円の特別地域加算が創設されています[3]。この金額は施術者が保険者に請求する基準であり、患者の自己負担はこの1〜3割に相当する部分です。施術料と往療料は別建てで計算されるため、実際の自己負担額はこれらの合計に負担割合を乗じたものになります。
訪問看護・訪問リハビリとの違い
訪問マッサージは、名称の似ている訪問看護や訪問リハビリテーションと混同されやすいサービスです。しかし、適用される保険制度や実施者、必要な書類が異なります。
適用される保険制度の違い
訪問マッサージは、要介護認定の有無にかかわらず医療保険の療養費として給付されます[1]。一方、訪問看護は医療保険または介護保険のいずれかが適用され、要介護認定を受けている人は原則として介護保険が優先されます。訪問リハビリテーションは原則として介護保険のサービスで、要介護1以上の認定を受けていることが前提になります。同じ「自宅に来てもらう医療・介護系サービス」でも、適用される保険制度の前提が異なる点に注意が必要です。
実施者・目的の違い
訪問マッサージを行うのはあん摩マッサージ指圧師で、必要書類は医師が交付する同意書(原則6か月有効)です。訪問看護は看護師等が実施し、主治医が交付する「訪問看護指示書」にもとづいて行われます。訪問リハビリテーションは理学療法士・作業療法士等が実施します。それぞれ資格・実施内容・根拠となる書類が異なるため、利用を検討する際は、まずかかりつけ医に相談し、自身の状態に合う制度を確認することが大切です。
| 項目 | 訪問マッサージ | 訪問看護 | 訪問リハビリ |
|---|---|---|---|
| 適用保険 | 医療保険(療養費) | 医療保険または介護保険(要介護認定があれば原則介護保険優先) | 原則介護保険(要介護1以上) |
| 実施者 | あん摩マッサージ指圧師 | 看護師等 | 理学療法士・作業療法士等 |
| 必要書類 | 医師の同意書(原則6か月有効) | 主治医の訪問看護指示書 | 医師の指示にもとづく計画書等 |
利用開始までの流れ
訪問マッサージを利用するまでの一般的な流れを整理します。
医師への相談から施術開始まで
まずはかかりつけ医に、マッサージによる症状改善の必要性を相談します。医師が診察のうえ医療上の必要性を認めれば、同意書が交付されます。同意書をもとに、あん摩マッサージ指圧師が施術計画を立て、施術が開始されます。往療(訪問)が必要な場合は、その旨も同意書に記載されます[1]。
受領委任を導入している施術所の探し方
受領委任制度を導入している施術所であれば、窓口での立て替え払いの負担を抑えられます。導入状況は施術所によって異なるため、相談時に受領委任の取扱いがあるかどうかを確認するとよいでしょう。加入している医療保険の保険者(協会けんぽ、健康保険組合、市区町村国保など)の窓口でも、療養費や受領委任の取扱いについて案内を受けられます[6]。このほか、かかりつけ医やケアマネジャー、地域包括支援センターに相談すると、地域で受領委任を導入している施術所を紹介してもらえる場合があります。
注意点・よくあるトラブル
訪問マッサージの利用にあたっては、療養費制度特有の注意点があります。
同一疾病の医療機関治療との併給禁止
同一の疾病について医療機関で治療を受けている場合、その治療を受けた日と同じ日に行われたマッサージの施術は、療養費の対象外となります[1][4]。整形外科などで同じ症状の治療を受けている人は、施術を受ける日を分けるなど、医療機関での治療とマッサージの施術が重複しないよう注意が必要です。
頻回施術の適正化(月16回超の取扱い)
療養費制度では、施術が過度に頻回にならないよう適正化の措置が設けられており、月16回を超える施術や、訪問施術料、温罨法、変形徒手矯正術については、所定料金の50%で算定する減算の取扱いがあります[3]。この減算は、施術者が保険者から受け取る療養費の算定額を抑える仕組みであり、利用者の自己負担額がそのまま単純に増減するとは限りませんが、施術内容によっては窓口負担にも影響し得るため、施術頻度が多い場合は施術者に確認しておくと安心です。制度の内容や算定率は改定によって見直されることがあるため、最新の情報は厚生労働省の案内で確認してください。また、療養費の不正請求を防ぐための指導監督のあり方についても、厚生労働省の社会保障審議会「あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会」で継続的に議論されています[5]。施術頻度や請求内容に疑問がある場合は、施術者や保険者に確認するとよいでしょう。
なお、療養費の算定基準や自己負担の考え方は、介護保険制度の見直し(原則3年ごとの改定)と同様に、診療報酬・療養費の改定のたびに見直される可能性があります。本記事の金額や基準は本記事執筆時点の情報であり、最新の内容は厚生労働省や加入する医療保険の保険者の案内を確認してください。
まとめ
- 訪問マッサージは介護保険ではなく、医療保険の「療養費」として給付される制度である
- 対象は筋麻痺・関節拘縮等、医療上マッサージが必要な症状に限られ、疲労回復・慰安目的は対象外
- 療養費として利用するには、医師の診察にもとづく同意書(原則6か月有効)が必要
- 自己負担は医療保険の一部負担金と同じ1〜3割で、受領委任制度により窓口負担を抑えられる場合がある
- 訪問看護・訪問リハビリとは適用される保険制度・実施者・必要書類が異なるため、まずかかりつけ医に相談することが大切
訪問マッサージにかかる費用は、条件を満たせば医療費控除の対象になる場合もあります。あわせて確認しておくとよいでしょう。
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