介護保険の指定居宅サービス事業者とは、訪問介護やデイサービスなどの居宅サービスを提供するために、都道府県知事等から個別に「指定」を受けた事業所のことです。指定を受けていない事業所は、たとえ実質的に同じようなサービスを行っていても介護保険からの給付を受けられません。指定を受けた事業者に支払われる介護報酬の仕組みも、この指定を前提に成り立っています。この記事では、指定の仕組み・基準・6年ごとの更新制度・指定取消の実例まで、厚生労働省や自治体の公表資料にもとづいて解説します。「この事業所はちゃんと指定を受けているのか」を確認する方法もあわせて紹介します。
指定居宅サービス事業者とは何か
定義と対象サービスの範囲
介護保険で「居宅サービス」と呼ばれるのは、訪問介護・訪問看護・通所介護(デイサービス)・短期入所生活介護(ショートステイ)・福祉用具貸与など、自宅で暮らす要介護者が利用するサービス群を指します。これらのサービスを提供して介護報酬を受け取るには、事業者があらかじめ都道府県知事等から「指定居宅サービス事業者」としての指定を受けている必要があります。指定は法人単位ではなく、事業所ごと・提供するサービスの種類ごとに行われる点が特徴です。同じ法人が複数の事業所を運営していても、指定は事業所単位で個別に必要になります。
大阪市が公表している申請案内でも、指定居宅サービス事業者・指定居宅介護支援事業者・指定第1号事業者(介護予防・日常生活支援総合事業の指定事業者)は、いずれも事業所ごとに指定手続きが必要であると説明されています。なお、ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所も、これとは別に指定を受ける必要がある事業者のひとつです。
居宅サービスに含まれる代表的なサービスには、次のようなものがあります。
- 訪問系:訪問介護(ホームヘルプ)、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導
- 通所系:通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)
- 短期入所・居住系:短期入所生活介護・短期入所療養介護(ショートステイ)、特定施設入居者生活介護
- 福祉用具系:福祉用具貸与、特定福祉用具販売
ケアマネジャーが作成する居宅サービス計画(ケアプラン)に位置づけられるサービスの多くは、この「居宅サービス」区分に含まれており、それぞれのサービス種類ごとに個別の指定基準が定められています。
「居宅サービス事業者」との違い
単に「居宅サービス事業者」という場合は、指定の有無を問わずサービスを提供している事業者全般を指すこともありますが、介護保険の給付対象となるのは指定を受けた「指定居宅サービス事業者」に限られます。指定を受けずに類似のサービスを提供すること自体は禁止されていませんが、その場合は介護保険が使えない全額自己負担のサービス(いわゆる保険外サービス・混合介護の枠組み)として提供することになります。家族が事業所を選ぶ際は、この「指定の有無」が介護保険を使えるかどうかの分かれ目になることを押さえておく必要があります。
指定は誰が行うのか(指定権者)
都道府県知事・政令指定都市・中核市長
居宅サービスの指定権者は、原則として都道府県知事です。ただし政令指定都市・中核市に指定された市では、その市長が指定権者となります。たとえば大阪市の場合は大阪市長が指定居宅サービス事業者の指定権者です。指定基準(人員・設備・運営に関する基準)についても、国の基準省令を踏まえたうえで、各都道府県・政令指定都市・中核市が条例で定めています。そのため、細部の運用は自治体によって多少異なる場合があります。
地域密着型サービスとの違い
小規模多機能型居宅介護や認知症対応型通所介護などの「地域密着型サービス」は、居宅サービスとは別の区分として、市町村長が指定権者になります。地域密着型サービスは、その市町村の住民が原則としてその市町村内の事業所しか利用できない仕組みになっており、指定権限も基礎自治体である市町村に置かれています。「居宅サービス=都道府県(または政令市・中核市)」「地域密着型サービス=市町村」という指定権者の違いを押さえておくと、事業所選びの際にどの自治体に確認すればよいかが分かりやすくなります。
この違いが生まれた背景には、地域密着型サービスが「住み慣れた地域での生活を支える」という趣旨で創設された経緯があります。居宅サービスが都道府県単位で広域的に事業者を管理するのに対し、地域密着型サービスは市町村が地域の実情に応じてきめ細かく事業者を把握・指導できるようにする狙いがあります。家族が事業所のパンフレットや契約書を見て「指定権者」の欄に都道府県ではなく市町村の名前が書かれていた場合は、地域密着型サービスに該当している可能性が高いと考えてよいでしょう。
指定基準の3本柱(人員・設備・運営)
指定を受けるための基準は、厚生労働省令「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年3月31日厚生省令第37号)に定められており、サービスの種類ごとに人員基準・設備基準・運営基準の3本柱で構成されています。
人員基準
サービスごとに、必要な職種・資格・配置人数が定められています。たとえば訪問介護であればサービス提供責任者や訪問介護員の配置基準、通所介護であれば生活相談員・機能訓練指導員・介護職員の配置基準などが定められており、これを満たさなければ指定を受けられません。
設備基準
事業所として必要な設備・広さ・備品に関する基準です。相談室や事務室の設置、感染症対策のための設備、緊急時の連絡設備など、サービスの種類に応じて必要な設備が細かく定められています。
運営基準
サービス提供の記録・契約時の重要事項説明・苦情対応の体制・事故発生時の対応・秘密保持など、日々の運営で守るべきルールです。運営基準違反は、後述する指定取消の主要な原因のひとつになっています。
これらの基準の詳しい解釈は、厚生労働省老健局が発出した通知(いわゆる「老企第25号」)で示されています。基準省令だけでは読み取りにくい運用上の細かい取り扱い(人員配置の考え方や兼務の可否など)は、この解釈通知とあわせて確認するのが実務上の一般的な方法です。都道府県・政令指定都市・中核市は、この国の基準を踏まえたうえで、地域の実情に応じた独自の条例を定めることもできるため、同じサービスでも自治体によって細部の運用が異なる場合があります。
指定の有効期間と6年ごとの更新制度
平成18年(2006年)法改正で導入された経緯
指定に有効期間が設けられたのは、平成18年(2006年)4月に施行された介護保険法改正がきっかけです。それまで指定には有効期間の定めがなく、一度指定を受けると、よほどの問題がない限り指定の見直しが行われる機会がありませんでした。しかし介護保険制度が定着していく中で、指定基準等を事業者が継続して満たしているかどうかを定期的にチェックする必要性が指摘されるようになり、指定の有効期間を6年とする更新制度が導入されました。有効期間内に更新手続きを行わなければ、期間満了とともに指定の効力を失い、介護報酬の請求ができなくなります。この仕組みにより、長期間にわたって実地指導や監査を受けていない事業者であっても、少なくとも6年に一度は指定基準を満たしているかどうかが確認される体制になっています。
図:指定の有効期間は6年間で、満了日までに更新申請を行わないと指定の効力を失う(名古屋市・大阪市の公表資料をもとに作成)。
更新申請のタイミングと手数料
更新の案内は、自治体から有効期間満了日の概ね3か月前に個別に送付されるのが一般的です(名古屋市・大阪市の例)。更新手続きは有効期間満了日までに完了させる必要があり、複数のサービス種別の指定を受けている場合は、サービスごとに申請書類を提出する必要があります。自治体によっては更新時に手数料の納付が必要な場合もあります。なお、保険医療機関・保険薬局としての指定(許可)にもとづく「みなし指定」の事業者は、この更新手続きが不要とされています(後述)。
指定を受けられない欠格事由
指定取消から一定期間を経過しない者
介護保険法・指定基準では、指定を拒否される「欠格事由」が定められています。代表的なものが、過去に指定取消処分を受けてから一定期間を経過していない法人・事業者です(一般的な解説では5年とされることが多い項目ですが、正確な年数・対象範囲は介護保険法の条文・各自治体の運用によって定められているため、事業者自身が確認する際は都道府県・市区町村の窓口や法令原文で確認することをおすすめします)。指定取消手続きが始まったことを察知して自ら廃業(指定辞退)した場合も、同様に一定期間は再指定の対象外とされる運用が取られています。これは、不正を行った事業者が看板を変えて短期間で再参入することを防ぐための仕組みです。
家族としてこの欠格事由の詳細まで調べる必要は基本的にありません。「指定取消歴のある事業者は一定期間、再び指定を受けられない仕組みがある」ということと、次の見出しで説明する「指定状況は公的なシステムで確認できる」ということの2点を押さえておけば十分です。
法令違反・刑罰による欠格
このほか、禁錮以上の刑に処せられてその執行が終わっていない者、労働関係法令や社会保険関係法令に基づく罰金刑を受けてから一定期間を経過していない者なども欠格事由に該当します。役員や事業所の管理者に、過去に不正・不当な行為があった場合も指定が拒否されることがあります。欠格事由の詳細な期間・範囲は法令・自治体条例で定められており、事業者を選ぶ家族側が直接この基準を確認する機会は少ないですが、「指定取消歴のある事業者は一定期間再指定を受けられない」という制度があることは知っておくとよいでしょう。
欠格事由の仕組みが設けられている理由は、指定取消などの重い処分を受けた事業者が、法人名や代表者名だけを変えて実質的に同じ体制のまま短期間で再び指定を受け、同じ問題を繰り返すことを防ぐためです。特に人員基準違反や不正請求は利用者の安全・保険財政の両方に直結するため、一定の「冷却期間」を置くことで、事業者側に組織体制の立て直しを求める趣旨があります。家族が事業所選びで欠格事由そのものを調べる機会は少ないものの、指定を受けている事業所は最低限この審査を通過している、という理解にはつながります。
指定取消・効力停止となる主な事由
不正請求・記録の偽造
指定取消や効力の全部・一部停止の主な事由には、介護給付費の不正請求、サービス提供記録の虚偽記載・偽造、実地指導・監査における虚偽の答弁や検査拒否、人員基準・運営基準の重大な違反などがあります。指定取消を受けると、その事業所は介護保険サービスを提供できなくなり、利用者は他の事業所への切り替えを迫られることになります。
実際に公表された指定取消の事例
指定取消の処分内容は、各自治体のウェブサイトで随時公表されています。たとえば大阪市は、記録の偽造や実地指導時の虚偽答弁等を理由に、訪問介護事業者に対して指定取消処分を行ったことを公表しており、利用者58名分の介護給付費について不正請求として返還請求の対象となった事例が示されています(効力発生日は令和7年3月1日)。このように、指定取消は珍しい出来事ではなく、全国の自治体で継続的に発生・公表されています。全国的な取消件数の集計は厚生労働省が指導・監査に関する会議資料の中で扱っていますが、年によって変動があるため、気になる場合は都道府県・市区町村の公表ページを直接確認するのが確実です。だからこそ、契約前に「この事業所は現在も有効な指定を受けているか」を確認しておくことが大切です。確認方法は次の見出しで具体的に説明します。
利用者・家族が指定状況を確認する方法
介護サービス情報公表システムの使い方
自分や家族が利用を検討している事業所が実際に指定を受けているかどうかは、厚生労働省が運営する介護サービス情報公表システムで確認できます。都道府県・サービスの種類・地域を指定して検索すると、指定を受けている事業所の一覧や、人員体制・運営情報などが掲載されています。契約前にこのシステムで事業所名を検索し、実在の指定事業所であることを確認しておくと安心です。システムの具体的な検索手順や見方は介護サービス情報公表システムの使い方を解説した記事で詳しく紹介しています。
WAM NETとの違い
独立行政法人福祉医療機構(WAM NET)でも高齢・介護分野の施設情報を検索できるページが用意されていますが、介護サービス事業所の指定状況そのものを網羅的に確認する窓口としては、厚生労働省の介護サービス情報公表システムが基本となります。WAM NETは制度解説や施設情報の補助的な参照先として活用し、指定の有無そのものを確認したい場合は介護サービス情報公表システムを使う、という使い分けを意識するとよいでしょう。
加えて、事業所によっては都道府県・市区町村が独自に「指定事業者一覧」をホームページ上でPDFや一覧表として公表している場合もあります。介護サービス情報公表システムに未反映の直近の指定・廃止情報を確認したい場合は、事業所所在地の都道府県・市区町村の介護保険担当課のページも確認すると、より新しい情報が得られることがあります。契約前に「指定通知書の写しを見せてもらう」という方法も、事業所側に協力してもらえれば確実な確認方法のひとつです。
みなし指定という例外
対象となる医療機関・薬局
病院・診療所・薬局が健康保険法にもとづく保険医療機関・保険薬局としての指定(許可)をすでに受けている場合、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅療養管理指導・通所リハビリテーションなど一部の介護保険サービスについては、別途の介護保険側の指定申請が不要となる「みなし指定」という仕組みがあります。三重県の解説によれば、保険医療機関・保険薬局としての指定を受けている時点で、対応する介護保険サービスの指定も自動的に受けたものとして扱われます。
みなし指定のメリット・注意点
みなし指定の事業者は、前述した6年ごとの指定更新の手続きも原則不要です(保険医療機関・保険薬局としての指定の更新に合わせて扱われるため)。ただし、みなし指定であっても運営基準を満たす必要がある点は通常の指定居宅サービス事業者と変わりません。家族側から見ると、「病院の中に訪問看護ステーションがある」「近所の薬局が居宅療養管理指導を行っている」といったケースでみなし指定が使われていることがある、という程度の理解で十分です。
みなし指定の制度が設けられている理由は、医療機関・薬局はすでに医療保険制度の中で厳格な指定(保険医療機関・保険薬局の指定)や監督を受けており、介護保険側で改めて同じような審査を重複して行う必要性が薄いためです。結果として、医療機関・薬局にとっては介護保険サービスへの参入手続きの負担が軽減され、利用者にとっては医療と介護の両方のサービスをスムーズに受けやすくなるというメリットがあります。
指定を辞退・廃止・休止する場合の手続き
届出の期限
事業者が指定を辞退する場合や、事業所を廃止・休止する場合は、原則として1か月前までに自治体へ届出を行う必要があります(埼玉県の公表資料)。事業所の名称変更などの変更届・再開の届出は、それぞれ変更日・再開日から10日以内に提出することとされています。これらの期限を守らないまま事業を止めてしまうと、利用者への影響が大きくなるだけでなく、自治体との信頼関係にも関わります。
図:事業者が対応する主な届出・案内のタイミングを、対象日(変更日・廃止日・満了日)からの日数で比較(埼玉県・名古屋市の公表資料をもとに作成。バーの長さは日数に比例)。
利用者への影響と代替サービスの確保
事業所が廃止・休止・指定辞退となる場合、利用者は他の事業所へのサービス切り替えが必要になります。ケアマネジャーが中心となって、利用者の状態や希望に合う代替の事業所を探し、ケアプランを見直す流れになるのが一般的です。家族としては、通っている事業所から「廃止・休止」の案内があった場合、早めにケアマネジャーへ相談し、サービスが途切れないよう調整することが大切です。
特に訪問介護や訪問看護のように利用者の生活に密着したサービスが急に使えなくなると、家族の介護負担が一時的に増える可能性があります。事業所側には利用者への周知や引き継ぎへの協力が期待されますが、実際の調整はケアマネジャーとの連携が中心になるため、廃止・休止の連絡を受けたら先延ばしにせず、できるだけ早い段階で今後の見通しを相談しておくと安心です。
指定後も続く事業者側の手続き(参考)
加算算定のための届出
ここからは家族が直接手続きする内容ではなく、事業所側の内部手続きの参考情報です。指定を受けた事業者が各種加算を算定するためには、「介護給付費算定に係る体制等状況一覧表」の提出が必要で、埼玉県の例では訪問系・通所系サービスは算定開始月の前月15日まで、短期入所系・施設系サービスは算定開始月の初日までに提出することとされています。同じ法人が複数の事業所を運営する場合も、指定・更新・各種届出は事業所ごとに行う必要があり、都道府県をまたいで展開する場合は進出先ごとに指定権者・運用が異なる点にも注意が必要です。こうした行政手続きの積み重ねの上に、私たちが目にする日々の介護サービスが成り立っています。
家族にとっての関わり方
家族側でこれらの届出内容を直接確認する必要はありませんが、「利用中の事業所で急に加算(サービス料金)が変わった」「サービス内容の説明が変わった」といった場合、背景にこうした届出・体制変更が関係していることがあります。気になる変更があった場合は、担当のケアマネジャーや事業所の相談窓口に確認すれば、理由を説明してもらえます。
注意点とよくある誤解
「指定を受けている」=サービスの質が保証されているわけではない
指定は、あくまで人員・設備・運営に関する最低限の基準を満たしていることの確認であり、サービスの質そのものを評価・保証するものではありません。指定を受けている事業所の中にも、対応や体制に差があります。事業所選びの際は、指定の有無を前提条件として確認したうえで、実際の見学や説明、介護サービス情報公表システムに掲載された運営情報などもあわせて確認することが大切です。
法改正で基準が変わる可能性がある
介護保険制度は3年ごとに大きな見直し(介護報酬改定・制度改正)が行われており、指定基準や更新制度の細部も改正される可能性があります。この記事の内容は執筆時点の公表情報にもとづくものであり、実際に手続きを行う際は、最新の情報を都道府県・市区町村の窓口や厚生労働省の公表資料で確認してください。
まとめ
- 指定居宅サービス事業者は、都道府県知事等から事業所ごとに指定を受けた事業者のことで、指定を受けて初めて介護報酬を請求できる
- 指定基準は人員・設備・運営の3本柱で構成され、平成18年の法改正以降は6年ごとの更新が必要
- 過去に指定取消を受けてから一定期間(一般に5年とされることが多い)を経過しない事業者などは、指定を受けられない欠格事由に該当する
- 不正請求や運営基準違反があると指定取消・効力停止の処分を受けることがあり、実際に自治体が公表している事例もある
- 事業所が指定を受けているかどうかは、厚生労働省の介護サービス情報公表システムで確認できる
- ただし指定はあくまで最低限の基準を満たしている証明であり、サービスの質そのものを保証するものではない
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