通院等乗降介助は、要介護1〜5と認定された方が通院などの際に、訪問介護員が運転する車両への乗車・降車の介助や、通院先での受診手続きの介助を受けられる訪問介護サービスの一区分です。1回(片道)あたりの介護報酬は97単位で、自己負担割合に応じて約97円〜291円が目安になります(運賃は別途)。この記事では、対象者の要件、対象となる行き先、介護タクシーとの違い、利用の流れを厚生労働省・自治体の資料にもとづいて解説します。
通院等乗降介助とは
通院等乗降介助は、介護保険法第8条第2項に定められた訪問介護の一形態です。総務省行政評価局の資料では「居宅要介護者について、通院等のため、指定訪問介護事業者の訪問介護員等が自らの運転する車両への乗車又は降車の介助を行うとともに、併せて、乗車前若しくは降車後の屋内外における移動等の介助又は通院先若しくは外出先での受診等の手続、移動等の介助を行った場合に、介護給付費の算定をすることができるもの」と定義されています(出典:総務省行政評価局資料)。一般に「介護タクシーを保険で使う」という表現で語られることが多いサービスですが、制度上は訪問介護の一区分として位置づけられている点がポイントです。
含まれる3つの介助行為
秋田県潟上市が公開している通院等乗降介助Q&Aによれば、算定の対象となる行為は次の3つが一連のものとして評価される、いわゆる包括評価です(出典:潟上市Q&A)。
- 乗車前・降車後の屋内外における移動等の介助
- 車両への乗車・降車の介助
- 通院先・外出先での受診等の手続き、移動等の介助
これらはひとまとまりの行為として評価されており、乗降の介助だけを切り出して算定したり、逆に移動の介助だけを別建てで請求したりすることはできません。
平成15年度の介護報酬改定で創設
通院等乗降介助は、平成15年度の介護報酬改定で新設された区分です。厚生労働省が公表した社会保障審議会介護給付費分科会の資料によれば、創設当初の単位数は1回100単位でした(出典:厚生労働省関連資料)。創設と同じ平成15年5月8日付けの通知では、身体介護として算定できる場合とこの区分で算定する場合の使い分けが示されています(出典:石川県「介護保険関連通知集」)。その後の介護報酬改定のたびに単位数の見直しが行われ、令和6年度改定の直前は99単位でした。最新の単位数については後述します。なお、本記事で使う「算定」とは、介護保険からの給付として費用が計算・請求されることを指します。
介護保険法上の位置づけ
通院等乗降介助は訪問介護(介護保険法第8条第2項)の一形態として位置づけられており、独立した別のサービス種別ではありません。そのため事業所側も、あらかじめ運営規程にこのサービスを行う旨を明示し、都道府県等へ届け出ておく必要があります(出典:名古屋市資料)。事業所の指定を受けていても、この届出をしていなければ通院等乗降介助として算定することはできません。
対象者となる要件
通院等乗降介助を利用できるのは、要介護認定で要介護1〜5と判定された方に限られます。ここでは対象者の要件を整理します。
要介護1〜5が対象、要支援1・2は対象外
名古屋市が公開している資料には「要支援は算定の対象外」「要介護1~5に該当する利用者であること」と明記されています(出典:名古屋市資料)。この根拠は「指定介護予防サービスに要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成18年3月17日老計・老振・老老発第0317001号)にあります(出典:潟上市Q&A)。要支援1・2の方は、市区町村が運営する介護予防・日常生活支援総合事業などの枠組みで通院の支援方法を検討することになり、通院等乗降介助そのものを利用することはできません。
ケアプランへの位置付けが必須
名古屋市資料が示す算定要件のひとつに「あらかじめ居宅サービス計画(ケアプラン)に必要な理由や心身の状況等を明記していること」があります(出典:名古屋市資料)。思いついたときに単発で利用できるサービスではなく、ケアマネジャーが利用者の状態や通院の必要性を踏まえてケアプランに位置づけたうえで利用する仕組みになっています。
名古屋市資料に見る算定の4要件
名古屋市の資料は、通院等乗降介助の算定にあたって次の4つの要件を挙げています(出典:名古屋市資料)。
- 事業所が通院等乗降介助を行う旨を運営規程に明示し、都道府県等に届け出ていること
- 道路運送法上の許可等に抵触しないこと(後述する運送業許可の種類に関わる要件)
- あらかじめ居宅サービス計画に必要な理由・心身の状況等を明記していること
- 利用者が要介護1〜5に該当すること
この4つがすべて満たされて初めて算定が可能になります。
対象となる行き先・対象とならない行き先
通院等乗降介助は「通院」という言葉が使われていますが、通院以外の外出でも一定の条件を満たせば対象になります。
対象になる例
福島県白河市の公式ページでは、対象となる行き先として次の例が挙げられています(出典:白河市「通院等乗降介助について」)。
- 通院
- 日常生活に必要な買い物
- 役所での手続き
- 銀行での手続き
- 選挙
北海道旭川市の資料でも、預貯金の引き出しなど本人が日常的・経常的に行う必要がある手続きへの同行は対象になりうるとされています(出典:旭川市資料)。
対象外になりやすい例
一方で白河市の同ページでは、次のような利用は対象外とされています(出典:白河市)。
- 仕事
- 趣味や嗜好のための利用(習い事、ドライブ、旅行等)
- 理美容
- 冠婚葬祭
旭川市の資料も、「安易にタクシー代わりに利用することは許容しない」との考え方を示しています(出典:旭川市資料)。
自治体によって線引きに幅がある点に注意
「日常生活に必要な買い物」がどこまで含まれるかなど、対象・対象外の線引きの表現は自治体によって幅があります。同じ行き先でも、頻度や本人の状態、ほかに手段がないかどうかによって判断が分かれることもあるため、最終的な可否は担当のケアマネジャーや保険者(市区町村)に確認する必要があります。
入院・退院時や施設間移動の扱い(令和3年度改定)
通院等乗降介助は当初、居宅を起点または終点とする外出が想定されていました。しかし令和3年度介護報酬改定により、次の2点が新たに可能になりました(出典:潟上市Q&A)。
- 入院日・退院日における通院等乗降介助の算定
- 居宅が始点または終点となる場合に限り、通所介護・短期入所生活介護事業所等と病院等との間を移動する際の乗降介助の算定
対象者の要件や日常的な行き先の基本的な線引きについては、その後の改定で大きな変更があったことを示す一次資料は見当たりません。改定年度によって変更点が異なるため、いつの制度改正の話をしているのかを混同しないよう注意が必要です。
1回あたりの料金・自己負担額の目安
通院等乗降介助の費用は、介護報酬として算定される「介助部分」と、事業所に支払う「運賃部分」の2つに分かれます。ここでは介助部分の単位数と自己負担額の目安を整理します。
令和6年度改定で99単位→97単位に
厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会が公表した令和6年度介護報酬改定に関する資料によれば、訪問介護の基本報酬のうち通院等乗降介助は、令和6年度介護報酬改定で改定前の99単位から改定後97単位に見直されました(出典:厚生労働省社保審資料)。厚生労働省「介護報酬の算定構造」(令和6年4月改定箇所版)や、独立行政法人福祉医療機構(WAM NET)が公開する令和6年6月改定箇所版でも97単位であることが確認できます(出典:厚生労働省、WAM NET)。単位数は片道につき1回として算定されます。
自己負担額の目安(1〜3割)
1単位10円の地域を前提にすると、97単位の自己負担額の目安は、1割負担で約97円、2割負担で約194円、3割負担で約291円です。自己負担割合は所得に応じて1〜3割に分かれており、詳しくは介護保険の自己負担割合を解説した記事で説明しています。
運賃(タクシー代)は全額自己負担
注意したいのは、通院等乗降介助として算定されるのはあくまで「乗車・降車の介助」「移動の介助」「受診手続きの介助」という介助行為の部分だけだという点です。総務省行政評価局の資料が示すとおり、移送に係る運賃(タクシー代等)そのものは介護給付の対象外で、全額利用者の自己負担になります(出典:総務省行政評価局資料)。介護保険で賄われるのは介助部分の97単位分のみで、実際の乗車運賃は別途、事業所が定める料金を支払う必要があります。
民間の介護タクシーとの違い
「介護タクシー」という呼び方は法令上の正式名称ではなく、複数の事業形態を指してまとめて使われていることが多い言葉です。ここでは仕組みの違いを整理します。
運送業許可の種類で分かれる仕組み
秋田県潟上市のQ&Aに示されている運送業許可の種類の比較によると、主に次のような区分があります(出典:潟上市Q&A)。
- 一般乗車旅客自動車運送事業(福祉輸送限定・道路運送法4条許可):運転者は二種免許、ナンバーは緑・黒。要介護・要支援認定者等を広く対象とする、いわゆる民間の介護タクシーの多くが該当する
- 特定旅客自動車運送事業(道路運送法43条許可):運転者は二種免許、ナンバーは緑・黒。自社の介護保険サービス利用者を対象とし、輸送範囲はケアプランに基づく。訪問介護の通院等乗降介助はこの43条許可が該当する
- 自家用有償旅客運送・福祉有償運送(道路運送法にもとづく登録、NPO等):運転者は一種免許、ナンバーは白・黄
訪問介護事業所が提供する通院等乗降介助は、このうち特定旅客自動車運送事業(43条許可)にもとづいて行われるものです。
保険が使えるかどうかの見分け方
ただし、保険が使えるかどうかを最終的に分けるのは運送業の許可の種類そのものではありません。実際に介護保険の対象になるのは、(1)訪問介護事業所として指定を受け、通院等乗降介助を行う旨を運営規程に明示して都道府県等に届け出ていること、(2)利用者本人が要介護1〜5に該当し、ケアプランに通院等乗降介助として位置づけられていること——の2つの条件を満たした場合です(出典:名古屋市資料)。いわゆる民間の「介護タクシー」の多くはこの届出をしておらず、自由料金の実費サービスとして提供されています。同じ「介護タクシー」と呼ばれていても、依頼先が条件を満たしているかどうかは事業所やケアマネジャーに確認することが欠かせません。
利用の流れ
通院等乗降介助を利用するまでの一般的な流れを整理します。
ケアマネジャーへの相談とケアプラン反映
利用の流れは、まずケアマネジャーに通院の頻度や送迎の困りごとを相談することから始まります。ケアマネジャーはアセスメントにもとづき、必要な理由や心身の状況、具体的な介助内容をケアプランに明記します(出典:名古屋市資料)。ケアプランへの位置づけがないまま利用を始めることはできません。
対応事業所の探し方
通院等乗降介助を提供できるのは、運営規程にその旨を明示し都道府県等に届け出ている訪問介護事業所に限られます。すべての訪問介護事業所がこのサービスに対応しているわけではないため、ケアマネジャーに対応可能な事業所を確認してもらうのが確実です。事業所が決まったら、送迎の希望日時や行き先、院内介助の要否などを事前に伝えておくとスムーズに調整できます。
院内介助・受診中の待ち時間の取り扱い
通院に付随する介助のうち、病院内での対応がどこまで介護保険の対象になるかは、誤解が生じやすいポイントです。
院内介助が認められる例外的なケース
病院内での移動や受付の手続き等の介助(院内介助)は、原則として医療機関のスタッフが対応すべきものとされています。潟上市のQ&Aによれば、院内介助を例外的に算定するには、次の4点をケアプランに記載する必要があります(出典:潟上市Q&A)。
- 院内介助が必要な理由
- 家族の介護体制
- 具体的な介助内容と所要時間
- 院内介助が医療機関側から得られないことを確認した経緯
単に「付き添ってほしい」という希望だけでは算定できず、病院側の対応状況を確認したうえでの判断になります。
受診中の待ち時間は別算定できない
受診の順番待ちや診察・検査にかかる待ち時間については、その長さや内容にかかわらず、身体介護として別に算定することはできません。潟上市の資料では、待ち時間は通院等乗降介助に包括される取り扱いであることが示されています(出典:潟上市Q&A)。待ち時間中に個別の見守りや介助が必要な場合でも、通院等乗降介助の算定額(97単位)に含まれる形になります。
利用回数の考え方
「月に何回まで利用できるのか」という疑問もよく聞かれます。ここでは回数の考え方を整理します。
回数の法定上限はない
回数の上限を直接定めた法令上の規定はありません。潟上市のQ&Aをはじめ、自治体の資料にも「月◯回まで」という一律の回数制限は示されていません。
区分支給限度基準額との関係
実際に利用できる回数は、要介護度ごとに定められている区分支給限度基準額(1か月に介護保険で利用できるサービスの上限額)の範囲内で、ケアマネジメントにより必要性が認められ、ケアプランに位置づけられた分に限られます。通院等乗降介助を頻回に利用すると、他の訪問介護や通所サービス等と合算した単位数が限度額に近づき、利用できる他のサービスの幅が狭くなることもあるため、ケアマネジャーが全体のバランスを見ながら調整します。法定の回数上限はなく、区分支給限度基準額とケアプラン上の必要性によって実質的に決まる、という理解が実態に近いといえます。
よくある誤解・注意点
ここまでの内容を踏まえ、特に誤解が生じやすい2点を整理します。
「介護タクシーなら何でも保険が使える」は誤解
「介護タクシーに乗れば介護保険が適用される」という理解は正確ではありません。保険が使えるかどうかは、事業者が訪問介護事業所として通院等乗降介助の届出をしているか、ケアプランに位置づけられているかによって決まります。行き先や院内介助の可否についても自治体ごとに運用の幅があるため、迷ったときは自己判断せず、担当のケアマネジャーや保険者の窓口に確認するのが確実です。
移送だけでなく介助が伴うことが条件
通院等乗降介助は、あくまで「乗車・降車の介助」「移動等の介助」「受診手続きの介助」という介助行為があって初めて算定できるサービスです。介助を伴わない単なる移送(本人が自力で乗り降り・移動でき、手続きも自分で行える場合の送迎)は、この区分の対象にはなりません。「介護タクシーを呼べば保険が使える」という理解は正確ではなく、介助の必要性がケアプラン上で確認されていることが前提になります。
まとめ
- 通院等乗降介助は要介護1〜5の方が対象で、要支援1・2は対象外
- 対象となるのは乗車・降車の介助、移動等の介助、受診手続きの介助という一連の行為に限られる
- 1回(片道)あたりの介護報酬は令和6年度改定で97単位となり、自己負担額の目安は1割で約97円、2割で約194円、3割で約291円(運賃は別途全額自己負担)
- 通院等乗降介助は特定旅客自動車運送事業(43条許可)にもとづくサービスで、民間の介護タクシー(4条許可)とは保険適用の可否が異なる
- 利用回数に法定の上限はなく、区分支給限度基準額とケアプラン上の必要性で実質的に決まる
介護保険制度は3年ごとに報酬改定が行われ、単位数や算定要件が見直されることがあります。この記事の内容は上記の一次資料にもとづいていますが、実際の利用にあたっては、必ず担当のケアマネジャーや自治体の窓口で最新の取り扱いを確認してください。このサイトは特定の事業所やサービスを評価・推奨するものではなく、公的データにもとづく中立的な情報提供に努めています。運営方針の詳細はこのサイトの立ち位置をご覧ください。