介護保険の保険者とは|全国1,571市区町村が運営する仕組みを解説

介護保険を運営する保険者は全国1,571の市区町村。都道府県・国との役割分担や広域連合による広域化の仕組みも解説します。

目次

介護保険の「保険者」とは、制度を運営し、要介護認定や保険給付、保険料の徴収を実際に行う主体のことです。多くの人は健康保険の「保険者」(協会けんぽや健康保険組合)と混同しがちですが、介護保険の保険者は皆さんが住んでいる市区町村(特別区含む)です。この記事では、なぜ市区町村が保険者なのか、都道府県や国はどんな役割を担っているのか、広域連合によって複数市町村が運営を共同化しているケースまで、厚生労働省の公表資料にもとづいて整理します。

介護保険の保険者とは|運営するのは市区町村・特別区

介護保険法第3条・第5条にもとづき、介護保険の保険者は市町村および特別区です。厚生労働省の介護サービス情報公表システムでも「皆様がお住まいの市区町村(保険者といいます。)が制度を運営しています」と説明されています。2021年(令和3年)時点で、全国の保険者数は1,571にのぼります。

保険者である市区町村は、要介護認定の実施、保険料の賦課・徴収、保険給付(介護サービス費用の支払い)、介護予防のための地域支援事業などを一手に担っています。つまり「介護保険証を発行しているのはどこか」「介護保険料を納める先はどこか」という問いへの答えが、そのまま保険者ということになります。

健康保険の保険者との違い

会社員が加入する健康保険は、協会けんぽや健康保険組合が保険者になりますが、介護保険はこうした職域の団体ではなく、居住地の市区町村が保険者となる点が大きな違いです。40歳になると勤務先の健康保険料と合わせて介護保険料(第2号被保険者分)が徴収される仕組みのため、保険者が別であることに気づきにくいのですが、介護サービスの利用や要介護認定の申請窓口は、勤務先の健康保険組合ではなく、住んでいる市区町村の介護保険担当課になります。

健康保険と介護保険の保険者の違い 健康保険の保険者は協会けんぽ・健康保険組合で勤務先が単位。介護保険の保険者は市区町村・特別区で居住地が単位。 保険者の違い 健康保険 協会けんぽ・ 健康保険組合 保険者の単位 勤務先 介護保険 市区町村・ 特別区 保険者の単位 居住地
健康保険の保険者は勤務先の協会けんぽ・健康保険組合、介護保険の保険者は居住地の市区町村・特別区という違いがあります。

「地域保険」としての基本的な考え方

介護保険は、地域住民に身近な行政主体が地域の実情に応じて運営する「地域保険」として設計されています。高齢化率やサービス基盤の整備状況は地域によって大きく異なるため、全国一律の国が直接運営するのではなく、住民に最も近い市区町村が保険者となる仕組みが採られました。

なぜ市区町村が保険者になったのか

厚生労働省老健局の資料では、市町村は「地域住民に身近な行政主体」であることから保険者とされ、地域の実情に応じたサービス整備や保険料設定を行う制度設計になっていると説明されています。市町村は3年を1期とする介護保険事業計画を策定し、それにもとづいて地域ごとの保険料水準を設定します。

地域密着型サービスの指定権限も市区町村に

この考え方は、サービス事業者の指定・監督権限の分担にも表れています。訪問介護や特別養護老人ホームなど広域型のサービスは都道府県・政令市・中核市が指定監督する一方、小規模多機能型居宅介護や地域密着型特別養護老人ホームといった「地域密着型サービス」は、原則としてその地域の住民だけが利用できるサービスとして、保険者である市区町村が指定・監督を行います。地域の実情をよく知る市区町村だからこそ判断できる、という位置づけです。

保険者(市区町村)が具体的に行う事務

保険者としての市区町村は、主に次のような事務を担っています。

市区町村(保険者)が担う主な事務の一覧 資格管理、要介護認定の実施、保険料の賦課・徴収、保険給付、地域支援事業の実施、介護保険事業計画の策定の6つ。 保険者が担う主な事務 ✓ 資格管理(取得・喪失) ✓ 要介護認定の実施 ✓ 保険料の賦課・徴収 ✓ 保険給付(費用の支払い) ✓ 地域支援事業の実施 ✓ 介護保険事業計画の策定
市区町村は資格管理から保険料の徴収、保険給付、事業計画の策定まで一連の事務を担っています。
  • 被保険者の資格管理:40歳到達・転入出・死亡などにともなう資格の取得・喪失手続き
  • 要介護認定:認定調査の実施、介護認定審査会の運営、要介護度の判定
  • 保険料の賦課・徴収:第1号被保険者(65歳以上)の保険料額の決定と徴収
  • 保険給付:介護サービス利用時の費用(介護給付・予防給付)の支払い
  • 地域支援事業の実施:介護予防・日常生活支援総合事業、包括的支援事業などの運営
  • 介護保険事業計画の策定:3年ごとにサービス見込み量や保険料水準を計画する

要介護認定の具体的な流れについては別記事で詳しく説明しています。また、地域支援事業のうち総合事業については介護予防・日常生活支援総合事業とはを解説した記事を参照してください。

都道府県の役割|保険者を支える立場

介護保険法第5条第2項では、都道府県は市町村に対して「必要な助言及び適切な援助」を行う義務があると定められています。都道府県自体は保険者ではありませんが、次のような形で保険者である市区町村を重層的に支えています。

  • 財政安定化基金の設置・運営:保険財政が不足した市区町村への貸付・交付
  • 介護サービス事業者の指定・監督:居宅サービス・施設サービス等(地域密着型サービスを除く)の指定と監督
  • 介護保険事業支援計画の策定:都道府県内のサービス基盤整備の方針を示す計画
  • 報告徴収などによる市町村支援

都道府県が負担する保険給付費の割合は原則12.5%ですが、介護保険施設に係る給付については17.5%に引き上げられます。つまり、保険者としての実務は市区町村が担い、都道府県はその運営基盤を財政面・事業者管理面から支える構造になっています。

国の役割と介護保険の財源構成

国は制度全体の枠組みを定めるほか、財源面でも大きな役割を担っています。厚生労働省老健局の資料(令和3年度予算ベース、給付費11.9兆円)によると、介護給付の財源は次のように構成されています。

  • 第1号保険料(65歳以上が負担):23%
  • 第2号保険料(40〜64歳が負担):27%
  • 国庫負担金【定率分】:20%
  • 国庫負担金【調整交付金】:5%
  • 都道府県負担金:12.5%(介護保険施設に係る給付の場合は17.5%)
  • 市町村負担金:12.5%

介護保険施設(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設等)の給付については、都道府県負担金が17.5%に、国庫負担金【定率分】が15%に変わる点に注意してください。

保険料(50%)と公費(50%)がおおむね半分ずつを占める構成です。介護保険料の仕組み自体については介護保険料とはl40歳からの徴収方法と全国平均額を解説した記事で詳しく解説しています。

介護保険の財源構成(令和3年度予算ベース) 第1号保険料23%、第2号保険料27%、国庫負担金(定率分)20%、国庫負担金(調整交付金)5%、都道府県負担金12.5%(施設給付は17.5%)、市町村負担金12.5%の内訳を示す横棒グラフ 介護保険の財源構成 第1号保険料 23% 第2号保険料 27% 国庫負担金(定率分) 20% 国庫負担金(調整交付金) 5% 都道府県負担金 12.5% (施設給付は17.5%) 市町村負担金 12.5% 保険料50%・公費50%が おおむね半分ずつを占める構成
介護保険の財源は保険料(第1号23%・第2号27%)と公費(国・都道府県・市町村の負担金)がおおむね半分ずつを占めています。

調整交付金の役割

国庫負担金のうち5%分にあたる「調整交付金」は、後期高齢者の加入割合や第1号被保険者の所得段階別の分布が市区町村ごとに異なることによる保険料の格差を、全国ベースで調整するためのものです。普通調整交付金と、災害など特別な事情に対応する特別調整交付金の2種類があります。ただし会計検査院の令和5年度決算検査報告では、この調整交付金が一部で過大に交付されていた事例も指摘されており、算定の適正化が課題となっています。

財政安定化基金とは|保険財政が不足したときの仕組み

介護給付費が見込みより増えたり、保険料の収納が計画どおりに進まなかったりすると、市区町村の介護保険財政が赤字になるおそれがあります。こうした事態に備えて、都道府県が設置しているのが「財政安定化基金」です。

  • 貸付:各年度の財源不足額を市区町村に貸し付け、原則3年で無利子償還
  • 交付:災害や景気変動など特別な事情がある場合、保険料の収納不足額の2分の1以内を交付

交付を受けた分の補填は、国・都道府県・市区町村(保険料や交付を受けた市町村の負担)でおおむね3分の1ずつ負担する仕組みです。基金は2,000億円規模を目安に国費で創設・積み増しされてきました。この基金があることで、一時的な財政悪化が起きても、市区町村の一般財源からの穴埋めに頼らずに制度を維持できるようになっています。

広域連合・一部事務組合による広域化

小規模な市町村が単独で介護保険を運営すると、認定審査会の委員確保が難しかったり、近隣市町村との間で保険料に大きな差が出たりする課題があります。そこで、複数の市町村が共同で介護保険の運営を行う「広域化」が進められています。厚生労働省の令和2年4月1日時点の集計では、次のような実績があります。

  • 広域連合(地方自治法にもとづく特別地方公共団体):26地域・165市町村
  • 一部事務組合:14地域・45市町村
  • 介護認定審査会など機関の共同設置:266地域・1,038市町村

広域化の目的は、要介護認定業務の効率化・公平性の確保に加え、介護保険財政そのものを広域化することで、近隣市町村間の保険料の不均衡を解消し、保険料の変動を平準化することにあります。国はこうした広域連合・一部事務組合の設立を予定する地域に対し、システム構築費の2分の1を補助する制度も設けています。

広域化に参加する市町村数(令和2年4月1日時点) 広域連合26地域165市町村、一部事務組合14地域45市町村、機関の共同設置266地域1038市町村を示す横棒グラフ 広域化に参加する市町村数 広域連合(26地域) 165市町村 一部事務組合(14地域) 45市町村 機関の共同設置(266地域) 1038市町村 棒の長さは市町村数に比例 令和2年4月1日時点の集計
広域化には広域連合(165市町村)・一部事務組合(45市町村)・機関の共同設置(1038市町村)の3形態があります。

実例:福岡県介護保険広域連合

広域連合の実例として、福岡県介護保険広域連合があります。平成11年7月に設立された特別地方公共団体で、県内5市26町2村の合計33市町村で構成されています。市町村の窓口が住民対応を行い、各支部が認定調査や給付管理を担当、広域連合本部が保険料の決定や給付費の支払いを行うという役割分担で運営されています。このように広域連合になると、保険者としての事務の一部を「本部」と「支部(旧市町村)」で分担する構造になる点が特徴です。

介護保険事業計画|3年ごとに見直される仕組み

保険者である市区町村は、3年を1期とする「介護保険事業計画」を策定する義務があります。この計画には、地域で見込まれる介護サービスの必要量や、それにもとづく保険料水準の見通しなどが盛り込まれます。都道府県も、市区町村の計画を踏まえて「介護保険事業支援計画」を策定します。

3年に1度、この計画の見直しに合わせて第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料の基準額も改定されます。お住まいの地域の介護保険料が数年おきに変わるのは、この計画期間に連動しているためです。なお、計画期間の沿革(当初の年数など)については資料によって記述が異なる部分があるため、正確な制度改正の経緯を確認したい場合はお住まいの市区町村や厚生労働省の公表資料を直接確認することをおすすめします。

引っ越したら保険者はどうなるか|住所地特例との関係

介護保険は、原則として「住民票のある市区町村」が保険者になります。そのため引っ越しをすると、新しい住所地の市区町村が新たな保険者になるのが基本です。

ただし、施設に入所するために住民票を移した場合にまで転居先の市区町村が保険者になってしまうと、施設が多く立地する市区町村に給付費の負担が偏ってしまいます。そこで設けられているのが「住所地特例」という仕組みで、介護保険3施設や有料老人ホーム、軽費老人ホーム、養護老人ホーム(定員29人以下の小規模な「地域密着型特定施設」を除く)に入所して住民票を移した場合でも、転居前の市区町村が引き続き保険者となる特例が適用されます。住所地特例の対象者数は増加傾向にあり、平成24年度の11.5万人から平成29年度には16.0万人まで増えています。住所地特例の詳しい要件や手続きは介護保険の住所地特例とはを解説した記事にまとめています。

住所地特例の対象者数の推移 住所地特例の対象者数は平成24年度の11.5万人から平成29年度の16.0万人へ増加している折れ線グラフ。 住所地特例の対象者数の推移 11.5万人 16.0万人 平成24年度 平成29年度
住所地特例の対象者数は平成24年度の11.5万人から平成29年度には16.0万人まで増加しています。

自分の保険者を確認する方法

自分の保険者がどこかを確認したいときは、次の方法があります。

  • 介護保険証(介護保険被保険者証)を確認する:保険者の名称・番号が記載されています
  • お住まいの市区町村の介護保険担当窓口に問い合わせる:多くの場合「高齢福祉課」「介護保険課」といった名称の部署が担当しています
  • 広域連合・一部事務組合に加入している地域かどうかを確認する:この場合、保険者は個別の市町村ではなく広域連合等の名称になります

施設入所などで住民票を移している場合は、住所地特例が適用され、現在住んでいる市区町村ではなく転居前の市区町村が保険者のままになっているケースもあるため、介護保険証の記載を必ず確認してください。

保険者を理解するうえでの注意点

保険者にまつわる情報を調べる際は、次の点に注意してください。

  • 介護保険の保険者を識別する番号(保険者番号)と、事業所を識別する「介護保険事業所番号」は別の番号です。両者を混同した解説も見られるため、正確な桁数や構成が必要な場合は、お住まいの市区町村や厚生労働省に直接確認することをおすすめします。
  • 広域連合・一部事務組合に加入している地域では、保険料の決定や給付の実務が「本部」と「市町村窓口」に分かれていることがあるため、問い合わせ先を間違えないようにしましょう。
  • 制度は3年ごとの事業計画見直しにあわせて保険料水準や運用が変わることがあります。最新の情報は必ずお住まいの市区町村の公式発表で確認してください。

まとめ

  • 介護保険の保険者は、皆さんが住んでいる市区町村・特別区(全国1,571保険者)。健康保険とは異なり、勤務先ではなく居住地の自治体が運営主体になる
  • 都道府県は保険者ではないが、財政安定化基金の運営や事業者指定などで市区町村を支える立場。国は財源の半分(公費)を負担し、調整交付金で地域差を調整している
  • 小規模な市町村では、広域連合・一部事務組合によって複数市町村が共同で保険者機能を運営しているケースがある(全国で広域連合26地域・一部事務組合14地域)
  • 施設入所などで住民票を移した場合は「住所地特例」により転居前の市区町村が保険者のままになることがあるため、介護保険証の記載を確認する
  • 制度は3年ごとの介護保険事業計画にあわせて見直されるため、保険料や運用の最新情報は必ずお住まいの市区町村で確認する

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よくある質問

介護保険の保険者は誰ですか?

お住まいの市区町村・特別区が保険者です。全国に1,571の保険者があり(令和3年時点)、要介護認定や保険料の徴収、保険給付などを行っています。健康保険のように勤務先の健康保険組合が保険者になることはありません。

都道府県は介護保険の保険者ではないのですか?

都道府県は保険者ではありません。ただし介護保険法第5条にもとづき市区町村への助言・援助義務を負っており、財政安定化基金の運営や介護サービス事業者の指定・監督などを通じて保険者を支える役割を担っています。

広域連合とはどのような仕組みですか?

複数の市町村が共同で介護保険の運営を行う特別地方公共団体です。令和2年4月時点で全国26地域・165市町村が広域連合に加入しており、要介護認定の公平性確保や保険料の平準化を目的としています。福岡県介護保険広域連合など、県内の多数の市町村が参加している実例があります。

引っ越すと保険者は必ず変わりますか?

原則として住民票のある市区町村が新たな保険者になります。ただし、介護保険3施設や有料老人ホームなどに入所するために住民票を移した場合は「住所地特例」が適用され、転居前の市区町村が引き続き保険者となることがあります。

自分の保険者がどこか分からないときはどうすればいいですか?

介護保険証(介護保険被保険者証)に保険者の名称と番号が記載されています。手元にない場合は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口(高齢福祉課・介護保険課など)に問い合わせて確認できます。

介護保険事業計画とは何ですか?

保険者である市区町村が3年を1期として策定する計画で、地域で見込まれる介護サービスの必要量や、それにもとづく保険料水準の見通しなどが盛り込まれます。この計画の見直しに合わせて、多くの市区町村で介護保険料の基準額も改定されます。

参考・出典

  1. 介護保険制度における広域連携及び都道府県による小規模自治体の補完 (厚生労働省老健局)
  2. 財政安定化基金について (厚生労働省老健局(社会保障審議会介護保険部会資料))
  3. 住所地特例<参考資料> (厚生労働省老健局(社会保障審議会介護保険部会第85回参考資料3))
  4. 介護保険とは (厚生労働省 介護サービス情報公表システム)
  5. 組織のご案内 (福岡県介護保険広域連合)
  6. 事業所番号の考え方について (独立行政法人福祉医療機構(WAM))
  7. 介護保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの(令和5年度決算検査報告) (会計検査院)
  8. 介護保険事業状況報告 (厚生労働省)