介護保険の被保険者資格は、40歳になった、65歳になった、引っ越しをした、家族が亡くなったといった生活の節目に応じて自動的に取得・喪失します。しかし「転入・転出のときは14日以内に手続きが必要」「届出を忘れると要介護認定を引き継げない」といった具体的な決まりは、直面してから初めて知る人がほとんどです。この記事では、介護保険法の条文と複数の自治体の案内にもとづき、資格を取得・喪失するタイミングと、そのときに必要な手続きを整理して解説します。
介護保険の資格取得・喪失とは
介護保険の「被保険者資格」とは、介護保険制度の対象者として保険料を納め、必要になったときに介護サービスの給付を受けられる立場のことです。年金や健康保険のように自分で加入・脱退の手続きをするものではなく、年齢や住所、医療保険の加入状況といった条件を満たすと自動的に取得され、条件から外れると自動的に喪失する仕組みになっています。
被保険者資格の基本的な考え方
介護保険法第9条は、被保険者を次の2種類に区分しています。
- 市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(第1号被保険者)
- 市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)
つまり被保険者資格が発生する条件は「年齢」と「住所」、そして40〜64歳の間は「医療保険への加入」という3つの要素で決まります。この3要素のいずれかが変化したタイミングで、資格の取得・喪失が起こります。
第1号被保険者・第2号被保険者との関係
資格取得・喪失のタイミングは、第1号被保険者か第2号被保険者かによって条件がわずかに異なります。第1号被保険者は「65歳以上・住所要件のみ」で資格が決まるのに対し、第2号被保険者は「40〜64歳・住所要件・医療保険加入」の3条件がそろって初めて資格が発生します。そのため、40〜64歳で医療保険に加入していない人(後述する生活保護受給者など)は、住所があっても第2号被保険者にはなりません。第1号・第2号被保険者それぞれの給付内容や保険料の違いについては、介護保険の被保険者区分の違いを解説した記事で詳しく説明しています。
40歳になると自動的に第2号被保険者として資格を取得し、65歳になると自動的に第1号被保険者へ切り替わります(水戸市の案内にもとづく)
資格を取得するタイミング
介護保険法第10条は、資格取得の時期を4つのケースに分けて定めています。日常生活で関わる機会が多いのは、40歳到達・65歳到達・転入の3つです。
40歳に達したとき
区域内に住所を有する医療保険加入者が40歳に達したとき、自動的に第2号被保険者としての資格を取得します。水戸市の案内によれば、特別な届出をしなくても40歳になった月から自動的に資格を取得し、同じ月から介護保険料の徴収が始まります。厚生労働省も40歳を迎える人向けにリーフレットを公表し、この制度の切り替わりを周知しています。
65歳に達したとき
区域内に住所を有する者が65歳に達したときも、自動的に資格を取得します。この場合は第1号被保険者としての資格です。水戸市の案内では、65歳になるときも自動的に第2号被保険者から第1号被保険者へ切り替わるとされており、本人による特別な手続きは不要です。ただし、第1号被保険者になると保険料の納め方が年金からの天引き(特別徴収)などに変わるため、自治体から送付される通知や保険証の内容は確認しておくとよいでしょう。
他市町村から転入したとき
40〜65歳未満の医療保険加入者、または65歳以上の者が、他の市町村から区域内に住所を有するに至ったとき(転入したとき)も、資格取得の事由になります。転入によって「住所要件」を新たに満たすことになるためです。このケースは自動では完結せず、後述のとおり転入先の市町村へ一定期間内の届出が必要になります。
資格を喪失するタイミング
介護保険法第11条は、資格喪失の時期についても定めています。取得と同様、日常生活で関わりが多いのは死亡・転出・医療保険脱退の3つです。
死亡した翌日
被保険者が死亡した場合、資格喪失日は死亡日の翌日です。松山市の案内でも、死亡による資格喪失は「死亡日の翌日」と明記されています。区域内に住所を有しなくなった日の翌日から資格を喪失するという条文の一般原則が、死亡のケースにもそのまま当てはまる形です。
他市町村へ転出した日
転出の場合は扱いが異なり、原則の「翌日」ではなく「転出確定日(住所変更をした当日)」に資格を喪失します。松山市の案内では、転出時の資格喪失日は転出確定日であるとされています。死亡は「翌日」、転出は「その日」という違いを押さえておくと、後述する届出期限の起算日を誤らずに済みます。
医療保険加入者でなくなったとき(第2号被保険者の場合)
第2号被保険者(40〜64歳)は、住所要件に加えて医療保険加入者であることが資格の条件になっているため、区域内に住所を有する40〜65歳未満の者が医療保険加入者でなくなったときも、資格喪失の事由に該当します。転職や退職にともなう医療保険の切り替えの際に、一時的に医療保険未加入の期間が生じないよう注意が必要です。
資格取得・喪失の届出手続き
40歳到達・65歳到達・死亡による資格の取得・喪失は、住民基本台帳の情報と連動して自治体側で自動的に処理されるため、本人による個別の届出は基本的に不要です。一方、転入・転出をともなう場合は、期限内の届出が必要になります。
転入時は14日以内の手続きが必要
枚方市の案内によれば、他市町村から転入した場合、転入日から14日以内に転入先の市町村へ届出を行う必要があります。すでに要介護認定・要支援認定を受けていた人は、転出前の市町村で交付を受けた「受給資格証明書」を転入先市町村の窓口に提出することで、認定区分を引き継ぐことができます。内子町の案内でも、転入時は受給資格証明書を持参し14日以内に手続きするよう案内されています。
転出時は受給資格証明書の交付を受ける
転出する側は、転出前に住んでいた市町村の窓口で「受給資格証明書」の交付を受けます。これは、転出先の市町村で改めて要介護認定の申請をし直さなくても、それまでの認定区分を引き継ぐために必要な書類です。枚方市・内子町の案内では、転出日から14日以内に転出先市町村へこの証明書を提出することが求められています。
期限内に提出しないと、認定区分を引き継げず新規申請扱いになります(枚方市の案内にもとづく)
届出を怠った場合の不利益
枚方市の案内では、転入・転出それぞれの届出期限(14日以内)を過ぎて受給資格証明書を提出しなかった場合、それまでの要介護認定を引き継げず、転入先市町村で新規に要介護認定の申請をし直す必要があるとされています。新規申請の場合、認定結果が出るまでの間は原則として保険給付を受けられず、介護サービスを利用した費用は全額自己負担になります。届出の遅れがそのまま費用負担の増加に直結しうる点は、あらかじめ知っておく価値があります。転入・転出にともなう手続き全体の流れは、介護保険の転入・転出手続きを解説した記事でも整理しています。
生活保護受給者の適用除外
生活保護を受給している人については、年齢によって介護保険の扱いが異なります。
40〜64歳と65歳以上の違い
豊前市の案内によれば、40〜64歳の生活保護受給者は、医療保険に加入していないことが多いため、介護保険の第2号被保険者としての資格を持たない「適用除外」の状態になります。前述のとおり第2号被保険者の資格には医療保険加入という条件があるため、医療保険未加入の生活保護受給者はこの条件を満たさないためです。一方、65歳以上の生活保護受給者は、医療保険加入の有無にかかわらず第1号被保険者となります。第1号被保険者の資格要件は年齢と住所のみで、医療保険加入は条件に含まれていないためです。
介護扶助との関係
40〜64歳で介護保険の第2号被保険者になれない生活保護受給者が介護サービスを必要とする場合は、介護保険ではなく生活保護法にもとづく「介護扶助」で対応します。小田原市のFAQでも、この年齢層の生活保護受給者は原則として介護保険の被保険者にならず、介護が必要になった際は生活保護制度の枠組みで支援を受けることが説明されています。65歳以上の生活保護受給者は第1号被保険者として介護保険から保険給付を受け、自己負担分について生活保護の介護扶助で補う形になります。
適用除外施設とは
年齢や住所の条件を満たしていても、特定の施設に入所している間は介護保険の被保険者にならない「適用除外施設」という仕組みがあります。
対象となる施設の種類
介護保険法施行法第11条・介護保険法施行規則第170条にもとづき、次のような施設に入所している間は適用除外施設の対象になります(全国的に11種類程度が定められています)。
- 救護施設(生活保護法第38条第1項第1号に規定する施設)
- 障害者支援施設(生活介護および施設入所支援を行うもの)
- 医療型障害児入所施設
- 国立ハンセン病療養所
- のぞみの園
- 労働者災害補償保険法にもとづく被災労働者向けの介護援護施設
北海道・千葉県・神戸市・三重県・新潟県など複数の自治体が、この適用除外施設の一覧を案内ページで公表しています。
適用除外施設入所中は被保険者資格の対象外になる
適用除外施設に入所している間は、年齢や住所の条件を満たしていても介護保険の被保険者資格を持ちません。長期入所を前提とした施設に住所を移す人まで一律に被保険者とすると、施設所在地の市町村に保険料負担や事務負担が偏ってしまうことに配慮した仕組みです。適用除外施設への入退所があった場合は、「介護保険関係届(適用除外関係)」の提出が必要になります。該当する施設に入所・退所する予定がある場合は、施設の担当者や市町村の窓口に手続きを確認しておくと安心です。
海外転出・海外からの転入時の扱い
海外への転出・海外からの転入にともなう資格の取扱いについては、複数の自治体一次情報を確認しましたが、今回明確に案内しているページを見つけることができませんでした。ここでは条文の一般原則にもとづく解釈として、慎重に触れるにとどめます。
資格喪失の考え方(一般原則からの解釈)
介護保険法第11条の原則は「区域内に住所を有しなくなった日の翌日から資格を喪失する」というものです。海外転出の場合も、住民票の異動などにより区域内に住所を有しなくなった日の翌日に資格を喪失するのが原則と考えられます。ただし、これはあくまで条文の一般原則からの解釈であり、実際の運用の細部(住民票の扱いや一時的な海外滞在との区別など)は自治体ごとの案内で確認する必要があります。
注意点
海外転出・転入は、国内の引っ越しと異なり住民票の異動手続き自体が特殊なケースを含みます。介護保険の資格得喪だけでなく、医療保険や年金など他の制度とも関わる場合があるため、海外への転出・転入を予定している場合は、手続きの詳細を必ずお住まいの市区町村の窓口に確認してください。本記事ではこの点について断定的な記述を避けています。
手続きを忘れるとどうなるか
ここまで見てきた届出の中でも、特に見落としやすい点を整理します。
保険給付を受けられない期間が生じるケース
枚方市の案内では、転入日から要介護認定が確定するまでの間は、原則として保険給付を受けられない(介護サービスの費用が全額自己負担になる)とされています。転入時に14日以内の届出と受給資格証明書の提出を行わなかった場合、それまでの認定を引き継げず新規申請の扱いになるため、この「給付を受けられない期間」が長引く可能性があります。転入・転出が決まった時点で、早めに窓口へ相談しておくことが負担を抑えるポイントです。
被保険者証の返還義務
練馬区の案内によれば、介護保険法第12条にもとづき、資格を喪失した被保険者(またはその家族)は、被保険者証を速やかに市町村へ返還する義務があります。死亡・転出などで資格を喪失した際は、届出とあわせて被保険者証の返還も忘れないようにしましょう。なお、練馬区の案内では、40歳到達・65歳到達・死亡など住民異動届と連動する事由については個別の届出が不要とされる一方、適用除外施設の入退所や生活保護受給開始による医療保険脱退の際は届出が必要とされています。手続きの要否は自治体によって案内が異なる場合があるため、迷ったら窓口に確認するのが確実です。
まとめ|資格取得・喪失のタイミングと手続きを押さえておく
介護保険の被保険者資格は、年齢・住所・医療保険加入という条件の変化にともなって自動的に取得・喪失しますが、転入・転出のように本人による届出が必要な場面もあります。要点を整理すると次のとおりです。
- 40歳・65歳到達、死亡による資格の取得・喪失は住民基本台帳と連動して自動的に処理され、個別の届出は基本的に不要
- 転入・転出をともなう場合は、転入日・転出日から14日以内に受給資格証明書を提出する届出が必要
- 届出を怠ると要介護認定を引き継げず、認定確定までの介護サービス費用が全額自己負担になる可能性がある
- 生活保護受給者は40〜64歳は原則適用除外(介護扶助で対応)、65歳以上は第1号被保険者になるという違いがある
- 救護施設・障害者支援施設など特定の「適用除外施設」入所中は被保険者資格の対象外になる
介護保険制度は3年ごとに大きな見直し(制度改正)が行われており、本記事で紹介した手続きの詳細も変更される可能性があります。実際に手続きを行う際は、お住まいの市区町村の窓口で最新の運用を確認してください。当サイトでは特定の施設やサービスの評価・推奨は行わず、公的な一次情報にもとづく中立的な情報提供に努めています。運営方針の詳細はこのサイトについてをご覧ください。