親や配偶者が要介護認定を受けた状態で引っ越しをするとき、多くの人が戸惑うのが介護保険の手続きです。転入先の市区町村に転入日から14日以内に必要書類を提出すれば、それまで受けていた要介護認定をそのまま引き継げます。この記事では、転出・転入それぞれの手続きと注意点を、自治体・厚生労働省の公的資料にもとづいて解説します。
介護保険は住所が変わると保険者(運営する市区町村)も変わります。転入日から14日以内に受給資格証明書を提出すれば、それまでの要介護認定をそのまま引き継げます。14日を過ぎると認定調査からやり直す新規申請になります。
なお、施設入所のために住所を移す場合は「住所地特例」という別のルールが適用されることがあり、その場合は保険者の扱いが本記事で説明する通常の転入・転出とは異なります(詳しくは後述の住所地特例の章で説明します)。まずはご自身のケースがどちらに当たるかを確認してください。
介護保険の転入・転出手続きとは(住所地主義の基本ルール)
介護保険の被保険者資格は、住民票のある市区町村(住所地)が保険者になるという「住所地主義」を原則としています。引っ越しによって住所地の市区町村が変われば、それに伴って保険者も変わるため、旧住所地の市区町村では被保険者資格を喪失し、新住所地の市区町村で新たに被保険者資格を取得するという手続きが必要になります。
住所地主義とは何か
住所地主義とは、介護保険の保険者(運営主体)を、被保険者が実際に住民票を置いている市区町村とする考え方です。転出・転入の際は「住所のある市区町村で手続きが必要」という前提で説明されています(大田区・江戸川区など多くの自治体の案内による)。ここでいう「転出」「転入」は、いずれも住民票の異動(転居届・転出届・転入届)に連動する手続きであり、住民票の異動と介護保険の手続きは切り離せないものだと理解しておくことが出発点になります。
転出・転入で被保険者資格はどう動くか
他の市区町村へ転出すると、その転出(住民票の異動)をもって旧住所地の市区町村での被保険者資格を喪失します。そして、転入先市区町村での住民登録が完了した転入日から、新住所地の市区町村の被保険者資格を取得します。なお、介護保険の被保険者は年齢で2区分に分かれており、65歳以上は「第1号被保険者」、40〜64歳の医療保険加入者は「第2号被保険者」と呼ばれます。すでに要介護(要支援)認定を受けている人にとって重要なのは、この資格の切り替えにあわせて「認定をどう引き継ぐか」という手続きが別途必要になる点です。次の見出しから、転出時・転入時それぞれの具体的な手続きを見ていきます。
他市区町村へ転出するときの手続き(受給資格証明書の交付申請)
他の市区町村へ転出する際は、旧住所地の介護保険担当窓口で「介護保険受給資格証明書」の交付を申請します。この証明書は、転入先の市区町村で認定を引き継ぐために必要な書類であり、転出時に忘れずに受け取っておくことが、その後の手続きをスムーズにする鍵になります。
受給資格証明書とは
介護保険受給資格証明書とは、旧住所地の市区町村で受けていた要介護度・要支援区分や認定の有効期間などを証明する書類です。転出時にこの証明書の交付を受け、転入先の市区町村へ転入日から14日以内に提出すれば、旧住所地での認定結果を引き継げます(東大阪市・枚方市の案内による)。この「14日以内」は転出日ではなく、あくまで転入日が起算日になる点は他の見出しでも繰り返し確認します。
転出時に窓口で行うこと
転出の手続きでは、住民票の転出届とあわせて、介護保険担当窓口で被保険者証(介護保険証)を返却し、受給資格証明書の交付を申請します。荒川区の案内では「転入日とは住民票の異動日」と明記されており、この住民票の異動日が、次の見出しで説明する「14日以内」の起算日になる点に注意が必要です。証明書を受け取らずに転出してしまうと、転入先で改めて旧住所地に照会が必要になり手続きが遅れる原因になるため、転出時の窓口対応で必ず受け取っておいてください。
転入先市区町村での手続きと「14日以内」のルール
転入先の市区町村では、受給資格証明書を添えて要介護認定の引き継ぎ手続きを行います。ここで最も重要なのが「転入日から14日以内」という期限です。大田区、江戸川区、新宿区、東大阪市、枚方市、荒川区など、確認できた複数の自治体の案内で共通してこの期限が案内されています。
「14日以内」とはいつからいつまでか
起算日となる「転入日」は住民票の異動日を指します(荒川区の案内による)。つまり、住民票の転入届を提出した日(または転入の事実が生じた日)から数えて14日以内に、介護保険担当窓口へ受給資格証明書を提出する必要があります。新宿区の案内では「14日を経過した場合は新規申請になります」と明記されており、この期限は単なる目安ではなく、認定を引き継げるかどうかを分ける実質的な期限であることが分かります。
起算日は転入日(住民票の異動日)です。転出日ではない点に注意してください。
転入時に必要な書類
必要書類は自治体によって異なるため、事前確認が欠かせません。共通して求められるのは受給資格証明書と本人確認書類ですが、大田区や江戸川区では、マイナンバー連携により受給資格証明書の提出を省略できる場合があると案内されています。40〜64歳(第2号被保険者)の場合は、江戸川区のように医療保険証の提示を求める自治体もあります。転入先市区町村の介護保険担当窓口に事前に問い合わせ、必要書類を確認しておいてください。
認定を引き継げる場合・引き継げない場合の違い
転入時の手続きは、旧住所地ですでに要介護認定を受けていたかどうかで大きく変わります。ここを正しく理解しておくと、転居のスケジュールを立てる際の見通しが立てやすくなります。
すでに要介護認定を受けている場合
旧住所地で要介護(要支援)認定を受けていた人は、転入日から14日以内に受給資格証明書等を添えて申請してください。この期限内であれば、要介護度・有効期間を含めて前住所地の認定結果がそのまま引き継がれます。江戸川区の案内では「転入前の区市町村の認定結果が江戸川区において自動的に引き継がれます」と明記されており、改めての認定調査は原則不要です。転居直後で心身の状態を再度調査されるという負担を避けられる点は、この期限内手続きの大きなメリットです。
まだ認定を受けていない場合
転入前に要介護認定を受けていなかった人が、転入後に介護サービスを利用したい場合は、通常の新規認定申請を行うことになります。要介護認定は、市区町村の職員等が心身の状態を聞き取る「認定調査」、かかりつけ医が作成する「主治医意見書」、両者をもとに専門家が審査・判定する「介護認定審査会」という一連のプロセスを経て決定されます(厚生労働省の説明による)。新宿区の案内でも、14日を経過した場合は新規申請の扱いになるとされており、この場合は認定結果が出るまでおおむね1か月程度を要するのが一般的です。
同一市区町村内で転居する場合の手続き
他の市区町村への転出とは異なり、同じ市区町村内での転居(住所変更)では、受給資格証明書の交付や14日以内といった期限付きの引き継ぎ手続きは不要です。保険者そのものが変わらないため、認定は継続したまま、住所の変更手続きのみを行います。
横浜市の例|住所変更届の要否
同一区内での転居であっても、65歳以上の人、要介護認定を受けている40〜64歳の人、被保険者証の交付を希望する人は、区役所の保険年金課などへの届出が必要です(横浜市の案内による)。届出はオンライン申請にも対応しています。届出の内容は被保険者証の住所書き換えが中心で、認定そのものは継続します。
枚方市の例|期限のない届出
枚方市の案内では、転居の場合は転出・転入のような特定の期限は定められておらず、被保険者証や負担限度額認定証(発行されている場合)を窓口に提出し、記載事項の変更を行うだけとされています。転出・転入の「14日以内」という期限は、あくまで保険者が変わる場合の認定引き継ぎに関わるルールであり、同一市区町村内の転居には適用されない点を区別して理解しておく必要があります。
住所地特例とは何か|通常の転入・転出との混同に注意
介護保険には、住所地主義の例外として「住所地特例」という制度があります。これは、介護保険施設等に入所するために住所を移した場合に、施設所在地ではなく元の住所地の市区町村が引き続き保険者となる仕組みです。通常の転入・転出とは逆方向の扱いになるため、混同しないよう注意が必要です。より詳しい制度の仕組みは介護保険の住所地特例とは何かを解説した記事で説明しています。
通常の転入・転出は転居先の市区町村が保険者になりますが、介護保険施設等への入所を理由とする住所地特例では、例外的に元の住所地の市区町村が保険者のままになります(江戸川区・名古屋市の案内にもとづく)。
住所地特例の対象になる施設
住所地特例の対象となるのは、以下の施設です(江戸川区・名古屋市の案内による)。これらの施設に入所・入居するために住民票を施設所在地へ移した場合、保険者は元の住所地の市区町村のまま変わりません。
- 特別養護老人ホーム(定員30人以上)
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
- 有料老人ホーム
- 軽費老人ホーム
- 養護老人ホーム
- 一定の要件を満たすサービス付き高齢者向け住宅
対象にならない施設(混同しやすいポイント)
一方で、以下の施設は住所地特例の対象外で、施設所在地の市区町村が保険者になります(江戸川区の案内による)。
- グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
- 定員29人以下の地域密着型サービスを提供する施設
「介護施設に入所すれば住所地特例が自動的に適用される」と誤解しているケースが多いため、入所を検討している施設が対象施設に含まれるかどうかは、事前に施設側や市区町村の窓口に確認しておいてください。
住所地特例の届出方法
住所地特例の対象施設に入所・転所・退所した場合は、前住所地の市区町村へ「住所地特例適用届」(転所の場合は変更届、退所の場合は終了届)を提出する必要があります。日野市の案内では、窓口・郵送・マイナポータルを使った電子申請の3通りの方法が案内されています。なお、新宿区の案内では住所地特例適用届についても「異動日から14日以内」の提出が明記されていますが、この期限の扱いは自治体によって差がある可能性があるため、実際に手続きする際は届出先市区町村に要確認です。
手続きが遅れた場合に生じるリスク
転入後14日以内という期限を過ぎてしまうと、単に手続きが面倒になるだけでなく、実際の介護サービス利用に影響が及ぶことがあります。
認定を引き継げず新規申請になる
枚方市の案内では「申請が遅れますと、介護保険の要介護認定の引継ぎができなくなり、新規に申請手続きからやり直していただく必要があります」と明記されています。新規申請となれば、改めて認定調査を受け、介護認定審査会の審査・判定を経る必要があり、結果が通知されるまでおおむね1か月程度かかるのが一般的です。その間、それまで利用していた介護サービスの支給限度額や区分が確定しないため、サービス利用の計画に支障が生じるおそれがあります。
負担限度額認定証にも期限がある
枚方市の案内によれば、施設サービス利用時の食費・居住費を軽減する「負担限度額認定」も、転入した月のうちに申請しないと、その月は軽減を受けられず全額自費になるとされています。要介護認定の引き継ぎだけでなく、こうした負担軽減の手続きにも期限があるため、転居が決まった時点で早めに窓口へ相談しておくことが重要です。
自治体ごとの手続き例(比較)
「14日以内」というルールは共通していますが、必要書類や案内の細部は自治体ごとに異なります。転居前に転出元・転入先の両方の市区町村の案内を確認しておくと安心です。
8自治体の手続き名称・期限・必要書類の比較表
| 自治体 | 手続き名称 | 期限 | 必要書類 |
|---|---|---|---|
| 大田区 | 受給資格証明書の交付(転出時)/要介護認定申請(転入時) | 転入後14日以内 | 本人確認書類、受給資格証明書(マイナンバー連携で代替可) |
| 江戸川区 | 受給資格証明書の交付・提出 | 転入日から14日以内 | 受給資格証明書、本人確認書類、40〜64歳は医療保険証 |
| 新宿区 | 受給資格証明書の交付/住所地特例適用届 | 転入日から14日以内(住所地特例適用届は異動日から14日以内) | 受給資格証明書(マイナンバー連携対応) |
| 東大阪市 | 受給資格証明書(転出・転入) | 14日以内 | 受給資格証明書 |
| 枚方市 | 転入・転居・転出の介護保険手続き | 転入・転出とも14日以内(転居は期限なし) | 受給資格証明書、被保険者証、負担限度額認定証 |
| 荒川区 | 受給資格証明書の交付 | 転入日(住民票異動日)から14日以内 | 受給資格証明書、本人確認書類 |
| 横浜市 | 住所変更届(同一区内転居)/転出届 | 明記なし(速やかに) | 被保険者証、本人確認書類 |
| 日野市 | 住所地特例 適用・変更・終了届 | 住所異動時 | 本人確認書類 |
表のとおり、多くの自治体で「転入日から14日以内」という期限が共通して案内されている一方、横浜市の同一区内転居や日野市の住所地特例のように、期限の明記のしかたが異なるケースもあります。次の一歩として、まずはご自身の実家がある自治体名と「介護保険 転入 転出」で検索するか、転出元・転入先双方の介護保険担当窓口に直接電話で確認してください。制度の詳細は自治体ごとに変わるため、この記事の内容だけで判断せず、必ず最新の一次情報にあたることが重要です。
よくある間違い・注意点
転入・転出の手続きでは、いくつかの典型的な勘違いが起きやすいポイントがあります。
住所地特例と通常の転入・転出を混同する
「介護施設に入るために住所を移した」場合と、「自宅を引っ越した」場合とでは、保険者の扱いが正反対になります。前者は原則として元の住所地の市区町村が保険者のままになる住所地特例が適用される可能性があり、後者は通常どおり転居先の市区町村が保険者になります。施設入所にあわせた住所変更の際は、住所地特例の対象施設に該当するかどうかを必ず確認しましょう。要介護認定そのものの仕組みについては要介護認定とは何かを解説した記事もあわせてご覧ください。
「14日以内」を転出日と勘違いする
期限の起算日は「転出日」ではなく「転入日」(住民票の異動日)です。転出の手続きを早めに済ませたつもりでも、実際に転入先で住民票を異動した日から14日のカウントが始まる点を見落とすと、期限を過ぎてしまうことがあります。転居のスケジュールを立てる際は、転入日を基準に14日以内の予定を組んでおくことが大切です。
受給資格証明書を持たずに転入先へ行ってしまう
転出時に受給資格証明書の交付を受けずに引っ越してしまうと、転入先の窓口で旧住所地への照会が必要になり、手続きに時間がかかります。マイナンバー連携により証明書の提出を省略できる自治体もありますが、対応状況は自治体ごとに異なるため、転出前に旧住所地の窓口で受給資格証明書を受け取っておいてください。ここまでは転入・転出にともなう手続きを取り上げましたが、話題を変えて、転居の有無にかかわらず発生する要介護認定の更新についても触れておきます。要介護認定には有効期間があり、転居がなくても更新の手続きが必要になります。更新のタイミングについては要介護認定の更新申請とは何かを解説した記事も参考にしてください。
まとめ
- 介護保険は住所地主義が原則で、他市区町村へ転出すると保険者が転居先の市区町村に切り替わる
- 転出時に旧住所地で受給資格証明書の交付を受け、転入日から14日以内に転入先へ提出すれば、要介護認定をそのまま引き継げる
- 14日を過ぎると新規の認定申請が必要になり、結果通知までおおむね1か月程度かかる
- 介護保険施設等への入所にともなう住所移転では、住所地特例により元の住所地の市区町村が保険者のままになる場合があり、通常の転入・転出とは逆方向の扱いになるため混同に注意が必要
- 同一市区町村内の転居では、受給資格証明書や14日以内といった期限付きの引き継ぎ手続きは不要だが、自治体によっては住所変更の届出が必要
※外国人家族が対象の場合
住民基本台帳に登録された外国人住民も、原則として日本人と同様に介護保険の被保険者となり、同じ住所地主義にもとづく転入・転出手続きが適用されます(住民基本台帳法の改正による)。ただし、以下のような在留資格は適用除外となる場合があります(川口市の案内による)。
- 「特定活動」のうち医療を受ける活動を行う人およびその日常生活上の世話をする人
- 観光・保養を目的として滞在する人およびその配偶者
- 「外交」の在留資格を持つ人
- 日米地位協定に基づく米軍関係者とその家族
該当するかどうか不明な場合は、居住する市区町村の介護保険担当窓口や出入国在留管理庁の案内で確認してください。
介護保険制度は3年ごとに見直しが行われており、手続きの詳細や必要書類は自治体・年度によって変わることがあります。実際に転居する際は、必ず転出元・転入先双方の市区町村の最新の案内を確認してください。このサイトは特定の施設やサービスを評価・順位付けするものではなく、公的機関の一次情報にもとづいて制度を並列に紹介する編集方針をとっています。詳しくはこのサイトの立ち位置をご覧ください。