介護保険の住所地特例とは、自宅のある市町村とは別の市町村にある特別養護老人ホームや有料老人ホームなどに入所して住民票を移しても、入所前の市町村が引き続き介護保険の保険者(保険料を集めて給付を行う市町村)になる仕組みです。根拠は介護保険法第13条で、保険料の納付先も要介護認定の申請先も転出前の市町村のままになります。この記事では、対象施設の範囲、保険者の判定ルール、届出の種類と期限(住民異動から14日以内とする自治体が多い)、保険料の徴収方法、要介護認定の扱い、施設所在地の地域密着型サービス・総合事業の扱いまで、厚生労働省・自治体の資料をもとに解説します。
介護保険の住所地特例とは何か
最初に押さえておきたいのは、親が他の市町村の施設に入るとき、「住民票を施設に移すかどうか」で場面が2つに分かれる点です。
- 住民票を施設に移す場合:住所地特例の場面になります。法律上は要件を満たせば自動的に転出前の市町村が保険者のままになりますが、保険者がその事実を把握するために届出が必要です。
- 住民票を移さない場合:そもそも住所地特例の場面にならず、保険者は転出前の市町村のままです。住所地特例の届出も不要です。
住民票は生活の実態どおりに置くのが原則です(詳しくは注意点の章で説明します)。
定義と法的根拠(介護保険法第13条)
介護保険は市町村(特別区を含む)が保険者となる「地域保険」であり、原則として住民票のある市町村の被保険者になります。この原則は介護保険法第9条に定められており、「住所地主義」と呼ばれます。住所地特例は、この住所地主義の例外として同法第13条に置かれた規定です。
住所地特例対象施設に入所又は入居(入所等)をして施設所在地に住所を変更した被保険者のうち、入所等の際に他の市町村に住所を有していた者は、第9条の規定にかかわらず、当該他の市町村が行う介護保険の被保険者とする(要旨)
— 介護保険法第13条第1項(e-Gov法令検索)
つまり、A市に住んでいた人がB市の対象施設に入り住民票をB市に移した場合でも、介護保険上はA市の被保険者のままになります。対象となる施設は第1項の各号で列挙されており、次の3類型です。
- 介護保険施設
- 特定施設
- 老人福祉法第20条の4に規定する養護老人ホーム(老人福祉法第11条第1項第1号の措置、つまり市町村の措置(決定)で入所した人に限る)
また第3項では、対象施設は施設所在地の市町村と保険者である市町村に対して「必要な協力をしなければならない」と定められています。また、多くの自治体は施設が提出する入所・退所の連絡票の様式を設けています(連絡票の節で説明します)。
なぜこの仕組みがあるのか(施設のある市町村に負担が偏るのを防ぐ)
厚生労働省が社会保障審議会介護保険部会(第85回、令和元年11月14日)に提出した参考資料3「住所地特例」では、制度の趣旨が次のように説明されています。
介護保険は地域保険の考え方から、住民票のある市町村が保険者となるのが原則だが、この原則をそのまま施設入所者にあてはめると、施設等の所在する市町村に給付費の負担が偏ってしまうことから、施設等の整備が円滑に進まないおそれがある(趣旨)
— 厚生労働省 社会保障審議会介護保険部会(第85回)参考資料3「住所地特例」
特別養護老人ホームなどの施設に入所する人は要介護度が高く、1人あたりの給付費も大きくなりがちです。施設が多い市町村ほど他の市町村から入所者が集まり、その市町村の給付費と保険料負担が膨らんでしまうと、どの市町村も自分の区域内に施設を整備することに消極的になりかねません。そこで、「住民票を移しても、移す前の市町村が引き続き保険者となる仕組み」として住所地特例が設けられました。
同資料の図では、住所(住民税・行政サービス・選挙権)は施設のあるB市に移る一方、介護保険の保険者・保険料・保険給付はもとのA市のままと整理されています。介護サービスの費用は、B市にある施設や事業者からA市に請求される流れになります。
よくある誤解(住民票を移さなければ無関係・施設に入れば自動適用 等)
住所地特例は名称が分かりにくいこともあり、いくつかの誤解が生じやすい制度です。代表的なものを、実際の取扱いと該当する章とあわせて整理します。
| よくある誤解 | 実際はどうか(→該当章) |
|---|---|
| 住民票を移さなければ関係ない | 上の2分岐のとおり、その場合は特例の場面にならず届出も不要 |
| 対象施設に入所すれば自動的に適用される | 法律上の要件を満たしても、保険者が事実を把握するには本人・家族の届出と施設からの連絡票が必要。届出がないと保険者が特例の適用を把握できない(→手続き) |
| 保険料は施設のある市町村に払う | 保険料は転出前の市町村に納め続ける(→保険料) |
| すべての施設が対象になる | 認知症グループホームや定員29人以下の地域密着型の施設は対象外(→対象施設) |
| 施設のある市町村のサービスは使えない | 施設所在地の市町村が指定する地域密着型サービス6種類と総合事業・地域包括支援センターは利用できる(→施設所在地のサービス) |
住所地特例の対象になる施設・ならない施設
対象施設の一覧(介護保険施設・特定施設・養護老人ホーム)
介護保険法第13条第1項の3類型を、実際の施設名で整理すると次のとおりです。川崎市・東京都福祉局などの案内で内容は一致しています。
| 法律上の類型 | 該当する施設 | 補足 |
|---|---|---|
| 介護保険施設 | 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)/介護老人保健施設(老健)/介護医療院 | 介護老人福祉施設は入所定員30人以上のものに限る |
| 特定施設(地域密着型特定施設を除く) | 有料老人ホーム/軽費老人ホーム(ケアハウス、A型等)/有料老人ホームに該当するサービス付き高齢者向け住宅 | 施設が介護サービスの指定を受けているかどうかに関係なく対象 |
| 養護老人ホーム | 老人福祉法第20条の4に規定する養護老人ホーム | 市町村の措置(決定)で入所した人に限る(老人福祉法第11条第1項第1号) |
なお、かつて介護保険施設に含まれていた介護療養型医療施設は令和6年3月末で廃止されています。自治体のウェブページによっては対象施設として名称が残っている場合がありますが、現行の対象施設としては上記の3施設(介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護医療院)が該当します。
対象外の施設(グループホーム・地域密着型・有料老人ホームに該当しないサ高住)
対象外となるのは、主に「地域密着型サービス」に区分される施設・事業所です。具体的には次のとおりです。
- 地域密着型介護老人福祉施設(入所定員29人以下の特別養護老人ホーム)
- 地域密着型特定施設(入居定員29人以下の介護専用型の有料老人ホーム等)
- 認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)
- 小規模多機能型居宅介護などの地域密着型サービスの事業所
- サービス付き高齢者向け住宅のうち、有料老人ホームに該当しないもの
自治体の案内で「定員30人未満」と書かれている場合と「定員29人以下」と書かれている場合がありますが、同じ意味です。
地域密着型サービスは、原則としてその市町村の住民だけが利用する小規模なサービスとして、市町村が指定・監督する仕組みになっています。他の市町村から入所者を広く受け入れることを前提としていないため、住所地特例の対象からは外れています。したがって、親を他の市町村の認知症グループホームに入居させて住民票を移した場合は、住所地特例は適用されず、原則どおり住民票を移した先の市町村が保険者になります。
サービス付き高齢者向け住宅のうち、食事等の提供がなく有料老人ホームに該当しないものが対象外になる点は、次の項で説明します。
サービス付き高齢者向け住宅が対象になる条件(平成27年4月1日施行の改正)
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、有料老人ホームに該当するかどうかで扱いが分かれます。東京都福祉局の案内では、サ高住が住所地特例の対象となる条件として、「有料老人ホームに該当するサービス(食事、介護、家事、健康管理)を提供していること」と「地域密着型特定施設に該当しないこと」の2点が示されています。食事・介護・家事・健康管理のいずれかを提供していれば老人福祉法上の有料老人ホームに該当するため、多くのサ高住がこの条件を満たしますが、安否確認と生活相談のみを提供する住宅は対象になりません。
この扱いには経緯があります。平成23年の介護保険法改正(平成24年4月1日施行)では、特定施設入居者生活介護の指定を受けていない賃貸方式のサ高住が住所地特例の対象から除外されました。2013年の介護保険部会資料によると、当時のサ高住のうち特定施設の指定を受けているものは5%にとどまり、89%は賃貸借契約であったため、大半のサ高住が対象外となっていました。
その後、平成26年改正(平成26年6月25日公布、平成27年4月1日施行)で、有料老人ホームに該当するサ高住が改めて対象に加えられました。そのため、平成27年3月31日以前からサ高住に入居していた人は対象外のまま(改正法の経過措置)で、平成27年4月1日以降に入居した人から適用されます。制度創設からの改正の流れは改正経緯の表にまとめています。サ高住の制度そのものについてはサービス付き高齢者向け住宅とは何かを解説した記事で詳しく説明しています。
対象施設かどうかの調べ方(都道府県等が公表する一覧)
入所を検討している施設が住所地特例の対象かどうかは、都道府県・指定都市・中核市が公表している一覧で確認できます。厚生労働省は介護保険最新情報Vol.428(平成27年2月26日)で、都道府県等に対して「住所地特例対象の有料老人ホーム一覧」を公表するよう依頼しており、厚生労働省のウェブサイトには「全国の有料老人ホーム一覧(住所地特例対象施設に限る)」として各都道府県等のページへのリンクがまとめられています。神奈川県のように毎月更新している自治体もあります。
特別養護老人ホームは定員29人以下の地域密着型でない限り対象、介護老人保健施設・介護医療院は定員にかかわらず対象になるため、施設の種類と定員を確認すれば足ります。判断に迷う場合は、施設に直接「住所地特例の対象施設か」を尋ねるか、転出前の市町村の介護保険担当課に問い合わせる方法があります。
保険者はどこになるのか|ケース別の判定
住所地特例で最も分かりにくいのが、「結局どの市町村が保険者になるのか」という点です。内閣府の提案募集検討専門部会に厚生労働省が提出した資料(平成30年10月16日)には、典型的なケースが図で整理されています。以下、その資料をもとにケース別に説明します。
自宅から他の市町村の施設に入る場合
最も基本的なケースです。A市の自宅に住んでいた人がB市の住所地特例対象施設に入所し、住民票をB市に移した場合、介護保険の保険者は引き続きA市です。保険料はA市に納め、要介護認定もA市に申請し、介護サービスの費用はB市の施設からA市に請求されます。住民票・住民税・選挙権はB市に移ります。
2つ以上の対象施設を順に移った場合
介護保険法第13条第1項ただし書および第2項第1号は、2以上の住所地特例対象施設に継続して入所等をし、順次住所を移した者については、「最初の住所地特例対象施設に入所等をした際」に住所を有していた市町村が保険者になると定めています。内閣府資料の図でも、A市の自宅からB市の介護保険施設に入り、さらにB市内の別の介護保険施設に移った場合について、「2以上の施設に順次移した場合も含む」としてA市が保険者であると整理されています。
たとえば、A市の自宅からB市の有料老人ホームに入居し、その後にB市やC市の特別養護老人ホームに移った場合でも、対象施設から対象施設へ途切れなく移っている限り、保険者はA市のまま変わりません。
いったん子の家などに住民票を移してから入所した場合
注意が必要なのがこのケースです。内閣府資料では、A市の自宅から「B市内の親族宅等に一旦住民票を移し」、その後にB市の対象施設に入所した場合は、B市が保険者になると整理されています。住所地特例は「入所等の際に他の市町村に住所を有していた」ことが要件なので、入所の直前にB市内の親族宅に住民票があれば、B市内の一般住宅からB市内の施設への入所と同じ扱いになり、特例は適用されません。
同様に、B市の認知症グループホームなど対象外の施設に住民票を移した場合は特例に該当せず、原則どおり住民票のあるB市が保険者になります。対象外施設を経由したあとで対象施設に入所し直しても、A市には戻りません。子世代が親を呼び寄せて自宅で同居してから施設を探す場合、住民票をどのタイミングで移すかによって保険者が変わることを理解しておく必要があります。
同じ市町村内の施設に入る場合
横浜市の案内にあるように、同じ市内の一般住宅から市内の施設に入所する場合は、住所地特例に該当しません。住民票を移しても保険者は変わらないため、住所地特例の届出は不要で、通常の住所変更の手続きだけで済みます。
ここまでのケースを整理すると次のとおりです。
| ケース | 保険者 | 理由 |
|---|---|---|
| A市の自宅→B市の対象施設 | A市 | 住所地特例の基本形 |
| A市の自宅→B市の対象施設→B市・C市の別の対象施設 | A市 | 最初の対象施設に入所した際の住所地(法第13条第2項第1号) |
| A市の自宅→B市の親族宅→B市の対象施設 | B市 | 入所の際の住所がB市のため特例に該当しない |
| A市の自宅→B市の認知症グループホーム等(対象外) | B市 | 対象外施設のため原則どおり住民票の市町村 |
| A市の自宅→A市の対象施設 | A市 | 市町村をまたがないため特例に該当しない |
住所地特例の手続き|届出の種類と期限
親の入所が決まってから家族が行う手続きを、時系列で1つにまとめると次のようになります。1〜3はこの章で、4〜6はそれぞれ後の章(要介護認定・保険料・医療保険との違い)で説明します。
- 住民票の転出届・転入届:本人または家族が、転出前の市町村と施設所在地の市町村の住民担当窓口に、入所(引越し)の前後に提出します。通常の住所異動の手続きで、転入届は住民基本台帳法上、一般に転入した日から14日以内とされています。
- 住所地特例適用届:本人または家族が、転出前の市町村の介護保険担当課に、住民異動から14日以内(とする自治体が多い)に提出します。被保険者証や本人確認書類などを添えます。
- 施設の連絡票:施設が、施設所在地の市町村と保険者の市町村に、入所後に「入所連絡票」を提出します。家族は施設に提出の有無を確認しておきます。
- 被保険者証の再交付:保険者(転出前の市町村)が、新しい住所を記載した被保険者証を交付します。鹿児島市のように、届出の際に被保険者証の持参を求める自治体があります(→被保険者証の再交付と記載)。
- 通知送付先の変更(必要な場合):家族が書類を管理するなら、保険者の介護保険担当課に送付先変更を申し出ます(→通知の送付先を家族宛にする方法)。
- 後期高齢者医療・国民健康保険の住所地特例の届出:都道府県外へ移る場合(後期高齢者医療)や他の市町村へ移る場合(国民健康保険)は、転出前の市町村の医療保険担当窓口にも届出が必要になります(→手続きを並行して行うときの注意)。
適用届・変更届・終了届の3種類
住所地特例に関する届出は、多くの自治体で「適用届」「変更届」「終了届」の3種類に分かれています。届出名は新宿区の案内を例にとったもので、一般に次の場面で提出します。
| 届出名 | 出す場面 |
|---|---|
| 住所地特例適用届 | 対象施設に入所して住民票を区外に移すとき |
| 住所地特例変更届 | 対象施設から別の対象施設に移るなど、届出内容に変更があったとき |
| 住所地特例終了届 | 施設を退所して一般住宅に戻るなど、特例の対象でなくなったとき |
名称は自治体によって多少異なりますが、多くの自治体では「適用・変更・終了」の3つの局面で届出を求めています。ただし、自治体による手続きの違いで触れるとおり、柏市のように本人からの申し出を不要とする自治体もあります。
提出先・期限・必要書類(自治体の実例)
提出先は転出前の市町村(保険者)の介護保険担当課です。自治体の案内を実例で整理すると次のとおりです。
| 自治体 | 期限 | 提出先 | 必要書類 |
|---|---|---|---|
| 新宿区 | 住民異動があった日から14日以内 | 介護保険課資格係 | 区の案内で確認 |
| 鹿児島市 | 14日以内 | 介護保険の担当窓口 | 被保険者証、本人確認書類 |
| 荒川区 | 異動日から14日以内 | 介護保険課のみ(区民事務所では受け付けない) | 身元確認書類、マイナンバー確認書類、代理人が届け出る場合は委任状 |
※平成28年1月以降はマイナンバー制度の開始にともない、届出書に原則としてマイナンバーを記入する扱いとしている自治体もあります。
親の入所手続きを子が代行することが多いため、荒川区・鹿児島市の例で挙げられている書類を整理すると次の4点になります。
- 本人の介護保険被保険者証
- 本人のマイナンバーが分かる書類
- 届け出る人の本人確認書類(身元確認書類)
- 代理人が届け出る場合の委任状
ただし、具体的な様式や添付書類は自治体ごとに異なるため、事前に転出前の市町村のウェブサイトか窓口で確認してください。
施設側が行う連絡票の提出
本人・家族の届出とは別に、施設側も施設所在地の市町村と保険者の市町村に報告することになっています(川崎市の案内)。介護保険法第13条第3項では、対象施設が施設所在地の市町村と保険者市町村に協力する義務が定められています。また、多くの自治体は「住所地特例施設入所・退所連絡票」のような様式を設けています。鹿児島市では施設が連絡票を提出することとされ、川崎市では施設が所在地市町村と保険者市町村の両方に報告する取扱いになっています。
この連絡票は、保険者が住所地特例の適用・終了を正確に把握するための重要な情報源です。松山市は、施設からの連絡票が提出されないと「保険料賦課や給付に影響」が出る旨を案内しています(賦課とは保険料の請求のことです)。入所時に施設の相談員に「住所地特例の連絡票を保険者に送ってもらえるか」を確認しておくと、届出漏れを防ぎやすくなります。
自治体による手続きの違い
届出の運用は自治体によって差があります。新宿区・荒川区・鹿児島市のように本人側からの14日以内の届出を求める自治体がある一方、柏市のように転出時に住民票の手続きをすれば必要書類を後日郵送する運用とし、本人からの申し出を不要としている自治体もあります。また、来庁不要で郵送により手続きできる自治体や、電子申請に対応している自治体もあります。
さらに、福岡県介護保険広域連合のように複数の市町村が広域連合を組んで介護保険を運営している地域では、規約に基づき資格管理や保険料の請求(賦課)を広域連合が処理しており、住所地特例の適用・変更・終了届や入所・退所連絡票の様式も広域連合が定めています。転出前の市町村がどのような運用をしているかは、必ず個別に確認が必要です。
保険料はどこにいくら払うのか
転出前の市町村の保険料段階で徴収される
住所地特例が適用される間、介護保険料は転出前の市町村に納め続けます。鹿児島市のFAQでは、保険料徴収・要介護認定・介護サービスの全てが施設入所前の市町村で継続すると説明されています。中野区も、区外の対象施設に転出した後も引き続き中野区が保険者であると案内しています。
第1号被保険者(65歳以上)の介護保険料は、市町村ごとに基準額と所得段階が定められており、金額は市町村によって異なります。たとえば中野区の令和6年度の基準額は年額75,282円で、所得に応じた19段階の設定です。住所地特例の適用中は、施設のある市町村ではなく転出前の市町村の基準額と所得段階で保険料が計算されます。市町村ごとの保険料の決まり方や段階については介護保険料の仕組みを解説した記事を参考にしてください。
年金天引き(特別徴収)はどうなるか|保険者が変わらない限り根拠は同じ
住所地特例の適用中は保険者が変わらないため、年金からの天引き(特別徴収)の根拠自体は変わりません。ただし、住民票の異動に伴って一時的に納付書払いに切り替わる取扱いをする自治体もありうるため、天引きがそのまま続くかどうかは転出前の市町村の介護保険担当課に確認してください。特例が終了して保険者が変わるときには、これとは別の注意点があります。
特例の適用中:中野区の案内では、月額15,000円(年額18万円)以上の年金を受給している人は、原則として年金からの天引き(特別徴収)で保険料を納めるとされています。住所地特例の対象者は転出前の市町村の被保険者のままなので、天引きの根拠となる保険者は変わりません。ただし、住民票の異動をきっかけに一時的に納付書払いへ切り替える運用をしている自治体もありうるため、転出前の市町村に取扱いを確認しておくと安心です。
特例の終了時:特例が終了して住民票のある市町村が保険者になる場合や、対象外の施設に移って保険者が変わる場合には、旧保険者の天引きと新保険者の納付が重なる時期が生じることが考えられます。中野区は、転出により保険者が変わる場合について次のように案内しています。
特別徴収の中断までに約3か月かかりますので、転出後も年金から天引きされる場合があります
— 中野区「介護保険料の決め方と納め方」
納めすぎた保険料は、中野区の案内のとおり後日還付されるか、その後の保険料に充当されます。二重に納めたように見えても最終的には精算されますが、年金の振込額が減った理由が分からず不安になる家族も多いため、保険者の変更があった時期の年金振込通知と納付書は手元に残し、不明点は保険者の介護保険担当課に確認するのが確実です。
通知の送付先を家族宛にする方法
保険料の決定通知や被保険者証、要介護認定の結果通知などは、原則として被保険者本人の住所(施設)に送られます。本人が書類の管理を行うのが難しい場合、富士見市のように「送付先変更申出書」を提出すれば、親族宛に通知を送るようにできる自治体があります。子世代が保険料の納付や認定の更新を管理するのであれば、住所地特例の届出とあわせて送付先の変更を申し出ておくと、書類の見落としを防ぎやすくなります。
要介護認定・被保険者証はどうなるのか
認定申請は転出前の保険者へ
要介護認定の新規申請・更新申請・区分変更申請は、いずれも保険者である転出前の市町村に対して行います。鹿児島市のFAQでも、要介護認定は施設入所前の市町村が継続して行うとされています。施設が申請を代行する場合も、施設所在地の市町村ではなく保険者市町村に書類が送られます。
要介護認定のほか、負担限度額認定証や負担割合証など保険給付に関する申請・交付も、保険者が窓口になります。施設の利用料に関わる書類の申請先や有効期限の扱いは、転出前の市町村の介護保険担当課に確認してください。
認定調査は施設所在地の市町村に嘱託されることがある
要介護認定には、調査員が本人を訪問して心身の状況を確認する認定調査が必要です。保険者市町村と施設が離れている場合、保険者の職員が毎回訪問するのは現実的でないため、介護保険法第27条第2項には「当該被保険者が遠隔の地に居所を有するときは、当該調査を他の市町村に嘱託することができる」と定められています。この規定により、住所地特例の適用者の認定調査は、施設所在地の市町村に嘱託されることがあります。調査を受ける本人や家族から見ると、施設のある市町村の調査員が訪問し、その結果をもとに保険者市町村の介護認定審査会が判定する、という流れになります。
なお、要支援・要介護に該当しない人が総合事業を利用するための基本チェックリストについては、西宮市の案内にあるとおり施設所在地の市町村が実施します。これは次の章で説明する地域支援事業の取扱いによるものです。
被保険者証の再交付と記載
介護保険の被保険者証は保険者が交付するため、住所地特例の適用中も転出前の市町村が発行したものを使い続けます。住民票を施設所在地に移すと住所欄の記載が変わるため、鹿児島市のように届出の際に被保険者証の持参を求める自治体があり、新しい住所を記載した被保険者証が保険者から交付されます。被保険者証には保険者名と保険者番号が記載されているので、施設のある市町村と保険者名が異なることで、住所地特例が適用されていることが分かります。被保険者証の見方や記載事項については介護保険被保険者証とは何かを解説した記事で詳しく説明しています。
施設所在地のサービスを使えるか|地域密着型サービス・総合事業の扱い
地域密着型サービス6種類が利用できる
有料老人ホームやサ高住などの特定施設に入居している人は、施設が提供する特定施設入居者生活介護(施設職員による介護サービス)ではなく、外部の訪問介護や通所介護を利用する場合があります。ここで問題になるのが地域密着型サービスの扱いです。西宮市の案内にあるとおり、地域密着型サービスは原則として保険者の市町村にある事業者のみ利用できますが、住所地特例の対象者は施設所在地の市町村の事業者も利用できる、という例外が設けられています。
根拠は介護保険法第42条の2第1項です。住所地特例適用要介護被保険者が「特定地域密着型サービス」を利用する場合には、施設所在地の市町村の長が指定する事業者も保険給付の対象になると定められています。特定地域密着型サービスは法第8条第14項に定められた次の6種類です。
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 夜間対応型訪問介護
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)
富士見市の案内でも、施設所在地の市町村が指定するこれら6種類の地域密着型サービスを利用できると明記されています。
総合事業・地域包括支援センターは施設所在地の市町村
介護予防・日常生活支援総合事業や地域包括支援センターの運営などの地域支援事業についても、施設所在地の市町村が担当します。介護保険法第115条の45第1項では、地域支援事業の対象となる被保険者に「当該市町村の区域内に所在する住所地特例対象施設に入所等をしている住所地特例適用被保険者を含む」と定められています。つまり、総合事業の利用や地域包括支援センターへの相談は、保険者市町村ではなく施設所在地の市町村で行うことになります。西宮市や富士見市の案内でも同じ趣旨が説明されています。
原則との違い(保険者の市町村のサービスしか使えないのが原則)
地域密着型サービスは、その市町村の住民が利用することを前提に市町村が指定・監督するサービスなので、原則として保険者の市町村が指定した事業者しか利用できません。この原則をそのまま住所地特例の対象者にあてはめると、施設所在地で日常的に受けられる小規模多機能型居宅介護や認知症対応型通所介護を使えず、地域包括支援センターも遠く離れた保険者市町村のものになってしまいます。
そこで住所地特例の対象者については、保険者(保険料・給付費の負担)は転出前の市町村に残したまま、特定地域密着型サービス6種類と地域支援事業は施設所在地の市町村で受けられるよう、法第42条の2第1項と第115条の45第1項に例外が置かれています。住所地特例は「財政負担の帰属」と「サービスを受ける場所」を切り離した仕組みになっているといえます。
国民健康保険・後期高齢者医療の住所地特例との違い
住所地特例は介護保険だけでなく、後期高齢者医療制度と国民健康保険にもあります。ただし、判定の単位と届出が必要になる場面が異なります。
| 制度 | 判定の単位 | 届出が必要になる転出 | 窓口 |
|---|---|---|---|
| 介護保険 | 市町村 | 他の市町村の対象施設へ転出したとき | 転出前の市町村の介護保険担当課 |
| 後期高齢者医療 | 都道府県(広域連合) | 他の都道府県の対象施設へ転出したとき | 転出前の市町村の後期高齢者医療担当窓口 |
| 国民健康保険 | 市町村 | 他の市町村の対象施設へ転出したとき | 転出前の市町村の国民健康保険担当窓口 |
後期高齢者医療は都道府県単位で判定される
後期高齢者医療制度は都道府県ごとに設置された後期高齢者医療広域連合が運営しているため、住所地特例は都道府県単位で判定されます。東京都後期高齢者医療広域連合の案内では、病院、障害者支援施設、のぞみの園、養護老人ホーム・特別養護老人ホーム、有料老人ホーム・介護保険施設等に入所して「東京都外へ転出」した場合に、引き続き東京都の広域連合の被保険者となるとされています。一方、都内の他の区市町村への転出であれば広域連合は変わらないため、住所地特例の手続きは不要です。
したがって、都内のA区から都内のB市の特養に入所する場合、介護保険では住所地特例の届出が必要(保険者はA区のまま)ですが、後期高齢者医療では手続きは不要(東京都の広域連合のまま)、という組み合わせになります。
国民健康保険の住所地特例
75歳未満で国民健康保険に加入している人が、病院・介護保険施設・特定施設・グループホーム等に入所して他の市町村に転出する場合も、転出前の市町村の国民健康保険が継続する住所地特例があります。いわき市の案内では、転出届の際に窓口で申し出ることで手続きする運用が示されています。国民健康保険は市町村単位なので、判定の単位は介護保険と同じですが、対象施設の範囲は介護保険とまったく同じではない点に注意が必要です。
手続きを並行して行うときの注意
親を他の市町村の施設に入れる場合、住民票の転出・転入、介護保険の住所地特例届、後期高齢者医療または国民健康保険の住所地特例の手続きを同時期に進めることになります。介護保険は市町村単位、後期高齢者医療は都道府県単位で判定されるため、同じ転出でも「介護保険は届出が必要、後期高齢者医療は不要」といった組み合わせが生じます。窓口も介護保険担当課と国保・後期高齢者医療担当課で分かれていることが多いので、転出前の市町村の窓口で「介護保険と医療保険の両方について、住所地特例の手続きが必要か」を確認してから進めると、どちらかの届出を忘れるリスクを減らせます。
注意点・よくある失敗
届出漏れで保険料や給付に影響が出る
最も多い失敗は、住民票の転出・転入だけを済ませて、介護保険の住所地特例届を出し忘れることです。届出や施設からの連絡票がないと、保険者は転出の事実だけを把握して資格喪失の処理を進めてしまう可能性があります。また、転入先の市町村が住所地特例の対象者だと把握できず、誤って保険料を請求してしまう可能性も考えられます。住民異動から14日以内とする自治体が多いので期限を守り、届出の控えを保管しておくことが重要です。
対象外の施設に移った時点で特例は終わる
住所地特例は対象施設に入所している間だけ続く仕組みです。特別養護老人ホームから同じ市町村内の認知症グループホームに移る、施設を退所して施設所在地の子の家で同居する、といった場合には、対象外の施設・住宅に移った時点で特例が終了し、住民票のある市町村が保険者になります。保険者判定の章で述べたとおり、一度特例から外れた後に再び対象施設に入所しても、もとの市町村に保険者が戻るわけではありません。
この場合に家族が行う手続きは、まず転出前の市町村(それまでの保険者)の介護保険担当課に終了届を提出することです。あわせて、新しく保険者となる住民票のある市町村の介護保険担当課に、要介護認定の引き継ぎと保険料の取扱い(年金天引きの切り替えを含む)を確認します。年金天引きの切り替えには時間がかかる場合があるため、年金天引きの節で説明した還付・充当の流れも頭に入れておくと安心です。
実態と異なる場所に住民票を置かない
「保険者を変えたくないから」「手続きが面倒だから」といった理由で、実際には施設で生活しているのに住民票を自宅や子の家に置いたままにする、あるいは実際に住んでいない場所に住民票を移す、といった対応は避ける必要があります。富士見市は、実態と異なる住民票の届出は刑法第157条(公正証書原本不実記載等)に触れるおそれがあると注意喚起しています。住所地特例は、住民票を実態どおり施設所在地に移したうえで保険者を転出前の市町村に残す制度なので、この仕組みを正しく使えば住民票を偽る必要はありません。
制度改正の経緯と対象者数の推移
2000年の創設から現在までの改正の流れ
住所地特例は平成12年(2000年)の介護保険制度創設時から存在しましたが、当初の対象は介護保険3施設(介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護療養型医療施設)のみでした。その後、社会保障審議会介護保険部会(第85回)参考資料3などによると、次のように対象が拡大・調整されてきました。
| 改正等 | 公布・施行 | 内容 | 根拠資料 |
|---|---|---|---|
| 制度創設 | 平成12年4月施行 | 介護保険3施設が対象 | 介護保険部会(第85回)参考資料3 |
| 平成17年改正 | 平成18年4月1日施行 | 介護専用型特定施設(定員30人以上)・養護老人ホームを追加 | 介護保険部会(第85回)参考資料3 |
| 平成18年改正(三位一体改革) | 平成18年3月31日公布・平成18年4月1日施行 | 特定施設全般(有料老人ホーム・養護老人ホーム・軽費老人ホーム・適合高齢者専用賃貸住宅(当時))に拡大 | 介護保険部会(第85回)参考資料3 |
| 平成23年改正 | 平成24年4月1日施行 | 特定施設入居者生活介護の指定を受けていない賃貸方式のサ高住を対象外に | 介護保険部会(第85回)参考資料3 |
| 平成26年改正 | 平成26年6月25日公布・平成27年4月1日施行 | 有料老人ホームに該当するサ高住を再び対象化 | 介護保険部会(第85回)参考資料3 |
| 適用除外施設退所後の取扱いの見直し | 平成30年4月1日施行 | 障害者支援施設等から入所した場合の保険者を見直し | 介護保険最新情報Vol.620 |
住所地特例対象者数の推移
社会保障審議会介護保険部会(第85回)参考資料3には、介護保険事業状況報告年報にもとづく住所地特例対象者数の推移が年度ごとに掲載されています。平成24年度の115,292人(第1号被保険者に占める割合0.37%)から平成29年度の160,423人(0.46%)へ、5年間で45,131人増加しました。平成29年度の第1号被保険者数は34,878,658人で、対象者はその0.46%にあたります。年度別の推移は下のグラフのとおりです。この記事で確認できた最新の公表値は平成29年度のものです。
対象者が増えている背景には、高齢者人口そのものの増加に加え、平成27年4月からサ高住の多くが対象に加わったことが影響していると考えられます。第1号被保険者全体から見れば0.5%未満の少数ですが、人数にすると16万人を超える規模であり、他の市町村の施設に親を入所させる家族にとっては決して珍しい制度ではありません。
平成30年4月1日施行の見直し:障害者支援施設等から入所した場合
この項目は、親が障害者支援施設等に入所していた場合だけ関係する項目です。該当しない方は読み飛ばして問題ありません。
介護保険最新情報Vol.620(平成30年2月2日、厚生労働省老健局介護保険計画課)によると、平成30年4月1日以降、指定障害者支援施設・障害者支援施設・国立重度知的障害者総合施設のぞみの園・救護施設(特定適用除外施設)を退所して住所地特例対象施設に入所した場合は、施設所在地の市町村ではなく、障害福祉サービスの「支給決定や措置を行った市町村」(救護施設の場合は保護の実施機関等)が介護保険の保険者になるよう見直されました。
これらの施設に入所している間は介護保険の適用除外となっており、退所して介護保険施設等に移った時点で被保険者になります。見直し後は、もともと障害福祉サービスの支給決定をしていた市町村が保険者となります。平成30年3月31日以前に入所した人については従前の取扱いのままで変更はありません。また、退所予定日の3か月前から要介護認定の申請を受理できる扱いも示されています。
まとめ
- 介護保険の住所地特例は、他の市町村の対象施設に入所して住民票を移しても転出前の市町村が保険者であり続ける仕組みで、介護保険法第13条に定められている。住民票を移さなければそもそも特例の場面にならない
- 対象施設は介護保険施設(特養・介護老人保健施設(老健)・介護医療院)、特定施設(有料老人ホーム・軽費老人ホーム・有料老人ホームに該当するサ高住)、養護老人ホームで、認知症グループホームや定員29人以下の地域密着型施設は対象外
- 保険料の納付先・要介護認定の申請先は転出前の市町村のまま。2つ以上の対象施設を順に移っても最初の入所時の市町村が保険者だが、親族宅や対象外施設を経由すると特例は適用されない
- 届出は適用・変更・終了の3種類で、住民異動から14日以内の提出を求める自治体が多い。施設側の連絡票とあわせて漏れなく行う
- 住所地特例の対象者は、施設所在地の市町村が指定する地域密着型サービス6種類と総合事業・地域包括支援センターを利用できる(法第42条の2第1項・第115条の45第1項)。対象者は平成29年度で160,423人(第1号被保険者の0.46%)
介護保険制度は3年ごとの改定などにより内容が変わることがあり、住所地特例の対象施設や手続きも過去に何度も見直されてきました。実際に届出を行う際は、転出前の市町村の介護保険担当課や入所予定の施設に最新の取扱いを確認してください。このサイトは特定の施設・事業者の評価や推奨は行わず、公的データにもとづく中立的な情報提供に努めています。運営方針の詳細はこのサイトの立ち位置をご覧ください。