「介護が必要かもしれないけれど、まず何から相談すればいいのか分からない」という段階でも使える窓口があるのをご存知でしょうか。地域支援事業とは、市町村が保険者として実施する介護保険制度の枠組みの一つで、要介護状態になる前の予防や、高齢者・家族の相談支援を目的としています。「総合事業」「包括的支援事業」「任意事業」という3つの事業で構成され、それぞれ財源の負担割合や実施内容が異なります。介護保険サービス(介護給付・予防給付)とは別枠の事業であり、要介護認定を受けていない人でも利用できる相談窓口が含まれる点が特徴です。この記事では、厚生労働省の実施要綱や自治体の公表資料にもとづき、3事業の違いと財源構成、地域包括支援センターとの関係を整理します。
地域支援事業とは何か
そもそもこの事業はどのような法的根拠にもとづき、誰が実施しているのでしょうか。まず基本を確認します。
介護保険法が定める根拠
地域支援事業は、介護保険法にもとづき、厚生労働省が定める通知(実施要綱)で具体的な実施基準が示されている事業です。この実施要綱は制度の変化にあわせてたびたび改正されており、地域支援事業は固定的な制度ではなく、社会状況にあわせて内容が見直され続けている点がまず押さえておきたいポイントです。具体的な条文番号や直近の改正時期については、後述の「直近の制度改正動向」でまとめて紹介します。
実施主体は市町村(保険者)
地域支援事業を実施するのは、介護保険の保険者である市町村です。都道府県や国が直接実施するわけではなく、それぞれの市町村が地域の高齢化の状況や既存の社会資源をふまえて、事業内容を組み立てます。そのため、後述するとおり、同じ「地域支援事業」という枠組みの中でも、実施内容の詳細は自治体によって差が出ます。
介護給付とは別枠で設けられている理由
介護保険には、要介護・要支援の認定を受けた人が使う「介護給付」「予防給付」のほかに、この地域支援事業という枠組みがあります。地域支援事業が別枠で設けられている理由は、要介護状態になる前の予防や、認定の有無にかかわらず必要になる相談支援、地域全体の体制づくりといった、個別の給付だけではカバーしきれない機能を担うためです。次の章で、その中身を3つに分けて見ていきます。
地域支援事業を構成する3つの事業
では、この枠組みは具体的にどのような事業から成り立っているのでしょうか。性格の異なる3つの事業に分かれており、全体像を先に把握しておくと、以降の各論が理解しやすくなります。
3事業の全体構造(図解)
総合事業の概要
正式名称は「介護予防・日常生活支援総合事業」で、要支援者や、市区町村・地域包括支援センターで行う「基本チェックリスト」(日常生活の困りごとの有無を確認する簡易な質問票)により支援が必要と判断された人を対象に、訪問型・通所型のサービスや生活支援サービスを提供する事業です。地域支援事業の3事業の中では唯一、第2号保険料(40〜64歳が納める保険料)も財源に含まれる点が、後述する財源構成の違いにつながっています。
包括的支援事業の概要
地域包括支援センターが担う相談支援・権利擁護・ケアマネジメント支援などの中核業務と、在宅医療・介護連携や生活支援体制整備、認知症支援、地域ケア会議といった地域づくりの機能をあわせ持つ事業です。地域包括支援センターの運営費もこの包括的支援事業に含まれます。
任意事業の概要
市町村が地域の実情に応じて独自に実施する事業で、家族介護支援事業や成年後見制度利用支援事業、介護給付等費用適正化事業などが例として挙げられています。名前のとおり「任意」であるため、実施の有無や内容は自治体によって差があります。
総合事業の位置づけ
3事業の中でも、住民が日常的に関わることが多いのが総合事業です。要支援者向けの具体的なサービス提供に関わる範囲が広く、独立した記事として詳しく解説する価値のあるボリュームがあるため、ここでは位置づけの確認にとどめます。
対象となるサービスの範囲
総合事業は、要支援1・2の認定を受けた人や、基本チェックリストにより支援が必要と判断された人を主な対象に、訪問型サービス・通所型サービス・その他の生活支援サービス、および一般高齢者向けの介護予防に関する事業(一般介護予防事業)を実施します。地域支援事業の3事業の中では、住民が直接サービスとして利用する場面が最も多い事業です。
総合事業の詳しい内容は別記事で解説
総合事業の対象者やサービスの種類、利用手続きの詳細については、介護予防・日常生活支援総合事業とは|対象者とサービスの種類を解説で個別にまとめています。総合事業に該当するかどうかを具体的に知りたい場合は、そちらもあわせてご確認ください。
包括的支援事業の4つの柱
包括的支援事業は、地域包括支援センターが担う中核4業務(総合相談支援業務・権利擁護業務・包括的継続的ケアマネジメント支援業務・第1号介護予防支援事業)に加えて、地域全体の体制づくりを目的とした次の4つの事業から構成されます。先に全体像を一覧で確認しておきます。
| 事業名 | 主な内容 |
|---|---|
| 在宅医療・介護連携推進事業 | 医療機関と介護事業所の連携を推進 |
| 生活支援体制整備事業 | 見守り・外出支援などの担い手づくり |
| 認知症総合支援事業 | 認知症の人・家族への支援体制整備 |
| 地域ケア会議推進事業 | 多職種で地域課題を検討・施策形成 |
在宅医療・介護連携推進事業
医療と介護の両方が必要になる高齢者が、住み慣れた地域で切れ目のない支援を受けられるよう、地域の医療機関と介護事業所の連携を推進する事業です。地域の医療・介護資源の把握、医療・介護関係者の情報共有支援、在宅医療・介護連携に関する相談窓口の設置などが含まれます。
生活支援体制整備事業
見守りや外出支援、家事援助といった生活支援サービスを地域で担う仕組みをつくる事業です。生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員)の配置や、地域の関係者が集まる「協議体」の設置がこの事業の柱になっています。厚生労働省の令和6年度の見直しでは、この生活支援体制整備事業の一環として「住民参画・官民連携推進事業」が新たに設けられました。
認知症総合支援事業
認知症の人やその家族への支援体制を整える事業です。早期に医療・介護サービスにつなげる「認知症初期集中支援チーム」の設置や、地域における相談対応や関係機関との連絡調整を行う「認知症地域支援推進員」の配置などが含まれます。
地域ケア会議推進事業
個別の支援が難しいケースを多職種で検討する「地域ケア会議」を通じて、地域に共通する課題を見つけ出し、必要な社会資源の開発や市町村レベルの施策形成につなげる事業です。個別事例の検討にとどまらず、地域全体の課題解決を目指す点が特徴です。
地域包括支援センターの運営自体も含まれる
包括的支援事業には、上記の4事業のほかに、地域包括支援センターが担う総合相談支援業務・権利擁護業務・包括的継続的ケアマネジメント支援業務・第1号介護予防支援事業という中核4業務、すなわちセンターの運営そのものも含まれます。地域包括支援センターとの関係については、後述の章で改めて整理します。
任意事業の内容と自治体差
任意事業は、市町村が地域の実情にあわせて独自に組み立てる事業です。厚生労働省の実施要綱では、代表的な事業として次のようなものが例示されています。
- 家族介護支援事業:介護者の負担軽減(交流会・介護方法の指導など)
- 成年後見制度利用支援事業:申立て費用の助成など権利擁護の支援
- 介護給付等費用適正化事業:給付実績のチェックなど制度運営の適正化
家族介護支援事業
介護をしている家族の負担軽減を目的とした事業です。介護方法の指導や、介護者同士が悩みを共有できる交流会の開催、一時的に介護から離れられる支援などが例として挙げられています。実施内容や規模は自治体によって異なります。
成年後見制度利用支援事業
判断能力が十分でない高齢者について、成年後見制度の利用を支援する事業です。申立てに必要な費用の助成や、市区町村長による申立てが必要なケースへの対応などが含まれます。任意事業の中でも権利擁護に直結する事業として位置づけられています。
介護給付等費用適正化事業
介護給付の内容が適正に運用されているかを点検する事業で、給付実績のチェックや、ケアプランの点検などが含まれます。利用者が直接サービスとして受けるものではなく、制度全体の適正な運営を目的とした事業です。
実施内容が自治体によって異なる理由
任意事業は、その名のとおり実施が義務づけられていない事業です。市町村ごとの高齢化率や既存の福祉資源、財政状況をふまえて、どの事業をどの程度の規模で実施するかが決められます。そのため、お住まいの自治体でどのような任意事業が行われているかは、市区町村のホームページや介護保険担当窓口で確認する必要があります。
地域支援事業の財源構成
地域支援事業は、市町村だけでなく国や都道府県、そして65歳以上・40〜64歳の被保険者が納める保険料からも支えられている制度です。そのうえで、総合事業と、包括的支援事業・任意事業とで負担割合が異なります。これは、総合事業だけが第2号保険料を財源に含んでいることが大きな理由です。
総合事業と包括的支援事業・任意事業の負担割合(図解)
総合事業の負担割合
奈良市や坂出市が公表している介護保険財源の資料によると、総合事業の財源は、次のような構成になっています。
- 国25%
- 都道府県12.5%
- 市町村12.5%
- 第1号保険料(65歳以上が納める保険料)23%
- 第2号保険料(40〜64歳が納める保険料)27%
第2号保険料も財源に含まれる点が、次に説明する包括的支援事業・任意事業との大きな違いです。
包括的支援事業・任意事業の負担割合
一方、包括的支援事業と任意事業には第2号保険料の負担がありません。財源は、国38.5%、都道府県19.25%、市町村19.25%、第1号保険料23%という構成になります。総合事業に比べて公費(国・都道府県・市町村の合計)の割合が高く設定されているのが特徴です。
実際の交付額は自治体ごとに決定される点に注意
ここで示した割合は、厚生労働省の地域支援事業実施要綱にもとづく標準的な負担割合であり、複数の自治体の公表資料でも共通して確認できる数値です。ただし、実際にどのくらいの交付金が各市町村に配分されるかは、それぞれの自治体の予算編成や国の予算状況によって年度ごとに決定されます。正確な金額を知りたい場合は、お住まいの市区町村の介護保険担当課に直接確認するのが確実です。なお、この財源構成は制度全体を支える仕組みであり、利用者本人の自己負担額に直接影響するものではありません。ただし、総合事業のサービスを実際に利用する際には別途利用者負担が発生する点は、後述の「サービス利用に進んだ場合の費用負担」で説明します。
地域包括支援センターとの関係
地域支援事業、特に包括的支援事業の内容は、実際には地域包括支援センターという窓口を通じて住民に届けられます。ここで両者の関係を整理しておきます。
実質的な相談窓口としての地域包括支援センター
地域包括支援センターは、介護保険法第115条の46にもとづき市町村または委託を受けた法人が設置する機関で、包括的支援事業の中核4業務(総合相談支援業務・権利擁護業務・包括的継続的ケアマネジメント支援業務・第1号介護予防支援事業)を実質的に担っています。つまり、住民から見れば、地域支援事業の包括的支援事業に該当する部分は「地域包括支援センターに相談する」という形で利用することになります。
保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員の3職種配置
地域包括支援センターには、次の3つの専門職が配置され、それぞれの専門性を持ちながらチームとして相談に対応する体制になっています。
| 職種 | 主な専門領域 |
|---|---|
| 保健師(またはこれに準ずる者) | 健康・医療面の相談 |
| 社会福祉士(またはこれに準ずる者) | 権利擁護・福祉制度に関する相談 |
| 主任介護支援専門員(またはこれに準ずる者) | ケアマネジメント支援 |
地域包括支援センターの詳細は別記事で解説
地域包括支援センターの具体的な業務内容や利用方法、探し方については、地域包括支援センターとは|相談できる内容・探し方をわかりやすく解説で詳しく説明しています。実際に相談先を探したい場合は、そちらもあわせてご覧ください。
利用者目線で受けられる相談・サービス
制度の仕組みを理解したうえで、実際に住民として何が受けられるのかを確認します。
要介護認定の有無を問わず無料で相談できる
目黒区や北海道の案内でも示されているとおり、地域包括支援センターへの相談は、要介護認定を受けているかどうかにかかわらず、無料で利用できます。「まだ介護保険を使うほどではないかもしれないが心配」という段階でも相談の対象になります。
実際に相談できる内容の例
相談できる内容は幅広く設計されています。
- 介護保険サービスの利用や要介護認定の申請に関する相談
- 高齢者虐待や消費者被害(悪質商法など)への対応
- 成年後見制度の利用に関する相談
- 在宅医療と介護の連携に関する相談
- 認知症に関する相談
- 見守りや配食といった生活支援に関する情報提供
- ケアマネジャーへの技術的な支援(ケアマネジャー自身からの相談)
サービス利用に進んだ場合の費用負担
地域包括支援センターへの相談自体は無料ですが、相談の結果として総合事業のサービス(訪問型サービスや通所型サービスなど)を実際に利用する段階になると、所定の利用者負担が発生します。負担限度額の考え方については、介護保険負担限度額認定証とは|対象者と申請方法を解説もあわせて確認しておくと、費用面の見通しが立てやすくなります。
直近の制度改正動向
地域支援事業は固定的な制度ではなく、近年も継続的に見直しが行われています。ここでは直近の主な改正動向を確認します。
令和6年度の改正(住民参画・官民連携推進事業の新設等)
令和6年度には、包括的支援事業の柱の一つである生活支援体制整備事業の中に、「住民参画・官民連携推進事業」が新たに設けられました。地域の担い手不足が課題になる中で、住民の参画や民間事業者との連携を後押しする狙いがあります。
令和7年度の改正(実施要綱の最終改正)
地域支援事業の実施基準を定める厚生労働省の通知「地域支援事業の実施について」(老発第0609001号)は、根拠となる介護保険法第115条の45にもとづき、令和7年7月17日付(老発0717第5号)で最終改正が行われています。このように、地域支援事業の実施要綱はほぼ毎年のように部分改正が続いており、介護保険制度が3年ごとに大きな見直し(制度改正)を受けるのとあわせて、細かな運用も継続的に更新されている点に注意が必要です。本記事の内容は執筆時点の公表情報にもとづいており、最新の運用はお住まいの市区町村や地域包括支援センターに確認してください。
よくある誤解・注意点
地域支援事業をめぐっては、名称の近さなどから誤解が生じやすいポイントがあります。ここで整理しておきます。
「総合事業」と「地域支援事業」は同じではない
「総合事業」という言葉が、地域支援事業そのものと混同されることがあります。しかし正確には、総合事業は地域支援事業を構成する3事業(総合事業・包括的支援事業・任意事業)のうちの一つです。地域支援事業という大きな枠組みの中に、総合事業・包括的支援事業・任意事業という3つの下位事業が並んでいる、という関係だと理解しておくと混同を避けられます。
地域支援事業は無料なのか
地域支援事業のうち、地域包括支援センターでの相談や、包括的支援事業に含まれる各種の支援は無料で利用できます。一方で、総合事業に含まれる訪問型サービスや通所型サービスなど、実際にサービスとして提供されるものについては、利用者負担が発生する場合があります。「地域支援事業=すべて無料」ではなく、相談支援の部分は無料、サービス利用の部分には負担が生じ得る、という区別が必要です。
誰が対象になるのか
地域支援事業の対象は、事業ごとに異なります。総合事業は主に要支援認定者や基本チェックリスト該当者を対象としますが、包括的支援事業に含まれる地域包括支援センターの相談機能は、要介護認定の有無にかかわらず、担当地域に住む高齢者本人やその家族が幅広く利用できます。「認定を受けていないから相談できない」と思い込んで連絡をためらう必要はありません。
まとめ
地域支援事業は、市町村が実施する介護保険制度の枠組みで、総合事業・包括的支援事業・任意事業という性格の異なる3つの事業から構成されています。要点を整理すると次のとおりです。
- 地域支援事業は介護保険法第115条の45にもとづき、市町村が実施主体となる事業で、総合事業・包括的支援事業・任意事業の3つで構成される
- 包括的支援事業には在宅医療・介護連携推進事業、生活支援体制整備事業、認知症総合支援事業、地域ケア会議推進事業に加え、地域包括支援センターの運営そのものが含まれる
- 財源は総合事業が国25%・都道府県12.5%・市町村12.5%・第1号保険料23%・第2号保険料27%、包括的支援事業・任意事業が国38.5%・都道府県19.25%・市町村19.25%・第1号保険料23%と、負担割合が異なる(標準的な割合であり、実際の交付は自治体により決定される)
- 地域包括支援センターへの相談は、要介護認定の有無を問わず無料で利用できる
- 実施要綱は令和6年度・令和7年度にも改正されており、介護保険は3年ごとの見直しに加えて細かな運用更新も続くため、最新情報は自治体や地域包括支援センターで確認する必要がある
地域支援事業は制度としてやや複雑に見えますが、住民の側から見れば「まず地域包括支援センターに相談する」という行動につながる枠組みです。制度の詳細が分からない段階でも相談自体は無料で行えるため、不安を感じた段階で早めに相談することができます。なお、当サイトでは特定の施設やサービスの評価・推奨は行っておらず、公的データにもとづく中立的な情報提供に努めています。運営方針の詳細はこのサイトについてをご覧ください。