介護施設での身体拘束は、介護保険の運営基準(厚生労働省令)によって原則禁止されています。例外として認められるのは、切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす「緊急やむを得ない場合」に限られ、家族が同意書にサインしても、それ自体が拘束を認める根拠にはなりません。この記事では、禁止の根拠と例外の3要件、該当する11の行為を整理したうえで、同意書を渡されたときや見学時に家族が何を確認し、どこに相談できるかを一次資料に基づいて解説します。
介護施設の身体拘束とは
「本人の行動の自由を制限すること」という定義
厚生労働省老健局が令和7年(2025年)3月に公表した「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(以下「新手引き」)は、身体拘束を「本人の行動の自由を制限すること」と定義しています。ここで重要なのは、ひもやベルトといった道具を使うかどうかではなく、本人が自分の意思で動く自由を奪っているかどうかが判断の軸になっている点です。ベッドを柵で囲んで自分で降りられなくすること、自分の意思で開けられない居室に隔離することなど、直接身体を縛らない行為も、行動の自由を制限していれば身体拘束に当たります。
新手引きは、平成13年(2001年)3月に「身体拘束ゼロ作戦推進会議」がまとめた「身体拘束ゼロへの手引き」を約24年ぶりに刷新したもので、施設の職員だけでなく在宅の介護事業所や家族介護者も読み手として想定されています。
介護保険の運営基準で原則禁止されている根拠
身体拘束を原則禁止する直接の根拠は、介護保険サービスごとに定められた運営基準(厚生労働省令)です。特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)の場合、「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)第11条第4項が次のように定めています。
指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。
続く第5項は、身体的拘束等を行う場合には「その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない」と定め、第6項は適正化のための措置として、委員会の開催(3か月に1回以上)と結果の職員への周知、指針の整備、研修の定期的な実施を義務づけています。ユニット型(少人数の生活単位で運営する形態)の施設についても、同じ省令の第42条に同趣旨の規定があります。
この規定は2000年(平成12年)4月の介護保険法施行と同時に設けられました。介護保険制度が始まった当初から身体拘束は原則禁止であり、「昔からの慣行」や「安全のための配慮」で正当化できる余地は制度上もともとありません。
特養以外の老健(介護老人保健施設)・介護医療院・特定施設(介護付き有料老人ホーム等)・グループホームなどの施設系・居住系サービスにも、条番号は異なりますが同趣旨の規定があります。さらに2024年度(令和6年度)からは、訪問介護や通所介護を含む介護保険のすべてのサービスに原則禁止と記録の義務が拡大されました。サービスごとの根拠は禁止規定が適用される施設・サービスの範囲で整理しています。
よくある誤解
家族が施設と話すときに、次のような誤解に基づいて判断を迫られることがあります。いずれも新手引きや省令の記述と照らすと正確ではありません。
- 「家族が同意すれば拘束できる」:新手引きは「家族の同意は、身体拘束を認める根拠にはならない」と明記しています。3要件を満たす緊急やむを得ない場合であるかどうかが唯一の判断基準で、同意書は要件を満たすかどうかとは無関係です。
- 「ベッド柵やミトンは拘束ではない」:新手引きが挙げる身体拘束の具体例には、「自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む」ことと「手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける」ことが、いずれも含まれています。
- 「転倒防止のためなら仕方ない」:転倒の危険があるだけでは3要件のうち「切迫性」と「非代替性」を満たすとは言えません。新手引きは、拘束を行う以外に代替する方法がないことを組織として確認する手続きを求めており、「危ないから」という理由だけで拘束を続けることは認められていません。
- 「認知症だから拘束は避けられない」:2001年の手引きは「まず身体拘束を必要としない状態の実現をめざす」ことを方針に掲げ、一人歩きや不穏などの行動の原因を探って取り除くケアを求めています。認知症であること自体は拘束を認める理由にはなりません。
同意書を渡されたときの3つの確認
- 書面の性質は「説明を受けたことの確認」か:家族の同意は拘束を認める根拠にならないため、「拘束を許可する書面」ではなく「説明を受けたことの確認」であるかを確かめます。
- どんな状況で、誰が判断し、いつ解除する見通しか:3要件(切迫性・非代替性・一時性)をどう確認したか、施設全体で検討したか、解除の目安はいつかを聞きます。
- 記録と指針は閲覧できるか:拘束の記録と身体拘束適正化の指針を見せてもらえるかを確認します。
入所時にまとめて説明する書面であっても、実際に拘束を行う時点で改めて個別の説明が必要です(→施設全体で判断する4つの手続き)。詳しくは家族への「説明」は「同意」ではないを参照してください。
認知症の親の施設を検討している方は、拘束の考え方と合わせて、認知症の方の施設選びを整理した記事も参考にしてください。
身体拘束に該当する11の行為
厚生労働省の手引きが示す11の具体例
厚生労働省の新手引きは、身体拘束に該当する行為として次の11項目を挙げています。2001年の手引きで示された内容とほぼ同じですが、第1項の「徘徊」という表現が新手引きでは「一人歩き」に改められています。
- 一人歩きしないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
- 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
- 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
- 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
- 脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッド等に体幹や四肢をひも等で縛る。
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
- 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
ひもで縛るという分かりやすい行為だけでなく、ベッド柵、ミトン、車いすテーブル、つなぎ服、薬の過剰投与、居室の施錠といった、一見「介護用品」や「安全対策」に見えるものが多く含まれています。
11項目は例示にすぎない
新手引きは、「11項目はあくまでも例示であり、他にも身体拘束に該当する行為がある」とし、判断のポイントは「本人の行動の自由を制限しているかどうか」であると説明しています。したがって、11項目のどれにも当てはまらない行為であっても、本人の行動の自由を奪っていれば身体拘束に該当します。
その代表例が「スピーチロック」と呼ばれる言葉による抑制です。「動かないで」「そこに座っていて」「まだ立たないで」といった言葉で行動を制止することは、道具を使わないため11項目には明示されていませんが、新手引きは、スピーチロックを組織として身体拘束の一つとして扱い、廃止に取り組んでいる事業所の実践例を掲載しています。家族が施設を見学する際にも、職員が利用者にかける言葉に注意を向けると、その施設の身体拘束に対する姿勢の一端が見えてきます。
家族が迷いやすいベッド柵・ミトン・車いすテーブルの考え方
家族が最も迷いやすいのが、ベッド柵、ミトン、車いすテーブルの3つです。いずれも11項目に含まれていますが、「使えば必ず拘束」というわけではなく、使い方が本人の行動の自由を制限しているかどうかで判断されます。
| 用具 | 拘束に該当する使い方(手引きの例示) | 拘束に該当しない使い方の目安 |
|---|---|---|
| ベッド柵 | 自分で降りられないように、ベッドを柵で囲む(いわゆる4点柵) | 起き上がるときに手をかける補助として一部に柵を付け、本人が自力で降りられる状態を保つ |
| ミトン | チューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限する目的で付ける | 本人が自分で外せる状態で、手指の機能を制限しない使い方(かゆみやチューブの違和感など原因への対応を優先する) |
| 車いすテーブル | ずり落ちたり、立ち上がったりしないように付ける | 食事など目的が限られ、本人が自分で外せる状態で使う |
施設から「柵を付けます」「ミトンを使います」と説明があったときは、次の4点を確認すると、その使い方が拘束に該当するかどうかを施設と一緒に整理できます。
- その用具を使う目的は何か
- 本人が自分で外したり降りたりできる状態か
- 代わりの方法を検討したか
- いつまで続けるのか(解除の見通し)
判断に迷う場合は、新手引きが示す「行動の自由を制限しているか」という基準に立ち戻って考えるのが原則です。
例外が認められる「緊急やむを得ない場合」の3要件
切迫性・非代替性・一時性の意味
運営基準が例外として認める「緊急やむを得ない場合」とは、次の3要件をすべて満たす場合をいいます。新手引きと、厚生労働省が令和7年(2025年)1月20日に発出した「介護保険最新情報Vol.1345」のQ&Aは、同じ内容で3要件を説明しています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 切迫性 | 本人または他の入所者(利用者)等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと |
| 非代替性 | 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと |
| 一時性 | 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること |
3つは「いずれか」ではなく「すべて」を満たす必要があります。たとえば転倒のおそれがある(切迫性の可能性)としても、見守りの強化やベッドの高さの調整、離床センサーの活用など他の方法を試していなければ非代替性を満たしませんし、期限を定めず漫然と続けていれば一時性を満たしません。「拘束するしかない」と結論づける前に、3つの要件を一つずつ確認することが求められます。
施設全体で判断する4つの手続き
3要件を満たすかどうかの判断は、担当職員が一人で行うものではありません。新手引きは、次の4つの手続きを経ることを求めています。
- 関係者全員での検討:本人、家族、関係者、関係機関が加わり、担当職員個人ではなく事業所全体として判断します。身体的拘束等適正化検討委員会などで、あらかじめ判断のルールを決めておくことが前提です。
- 3要件に照らした慎重な検討:切迫性・非代替性・一時性を一つずつ確認します。新手引きは、身体拘束は「本人の意思によるものではない」ことを踏まえ、要件の確認を慎重に行うよう求めています。
- 本人・家族への詳細な説明:拘束の内容、目的、理由、時間、時間帯、期間を具体的に説明します。事前に包括的な説明をしていたとしても、実際に拘束を行う時点で必ず個別に説明することが求められます。
- 再検討と即時解除:拘束を開始した後も定期的に3要件を満たしているかを再検討し、要件に該当しなくなった場合は直ちに解除します。
このように、「緊急やむを得ない場合」の例外は、要件だけでなく手続きも含めて厳格に運用されることが前提です。手続きを省いた拘束は、たとえ職員が善意で行ったものであっても、例外として認められる拘束にはなりません。
家族への「説明」は「同意」ではない
手続きの3番目にある「本人・家族への説明」について、新手引きは次のように明記しています。
家族への説明の確認は、同意ではないことに留意する。家族の同意は、身体拘束を認める根拠にはならない。
施設が家族に説明し、家族がその説明を受けたことを書面で確認する場面はありますが、これは施設が説明責任を果たしたことの記録であって、家族が拘束を許可したという意味ではありません。
この点は家族にとって二重の意味を持ちます。一つは、家族が同意書にサインしたからといって、3要件を満たさない拘束が正当化されることはない、ということです。もう一つは、家族が「拘束してほしい」と申し出たとしても、施設は3要件と手続きを満たさなければ拘束を行えない、ということです。身体拘束の可否を決めるのは家族の意向ではなく、本人の生命・身体の危険の程度と、他に方法がないかどうかの組織的な検討です。
禁止規定が適用される施設・サービスの範囲
結論から言うと、介護保険の施設系・居住系サービスではどこでも同じ3段構成(原則禁止・記録・適正化措置)です。訪問・通所系は原則禁止と記録の2点、住宅型有料老人ホーム・サ高住は都道府県の指導指針という違いがあります。ここでは、家族が「うちの親の施設にも当てはまるのか」を確認できるよう、施設の種類ごとの根拠を整理します。
特養・老健・介護医療院・特定施設など施設系
身体拘束の原則禁止・記録義務・適正化措置の3点セットは、特別養護老人ホームだけでなく、介護保険の施設系・居住系サービスに共通して定められています。東京都福祉局が平成31年(2019年)3月1日に発出した通知「身体的拘束等の適正化の推進について」の別紙で整理されている主な条項は次の通りです。
| 施設の種類 | 根拠となる基準の条項 |
|---|---|
| 特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設) | 指定介護老人福祉施設基準 第11条第4〜6項(ユニット型は第42条第6〜8項) |
| 介護老人保健施設 | 介護老人保健施設基準 第13条第4〜6項 |
| 介護医療院 | 介護医療院基準 第16条第4〜6項 |
| 特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム等) | 指定居宅サービス等基準 第183条第4〜6項 |
| 介護予防特定施設入居者生活介護 | 指定介護予防サービス等基準 第239条第1〜3項 |
| 軽費老人ホーム | 軽費老人ホーム基準 第17条第3〜5項 |
| 養護老人ホーム | 養護老人ホーム基準 第16条第4〜6項 |
表中の基準名は略称です(例:「指定介護老人福祉施設基準」の正式名称は「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」)。各基準の正式名称は出典欄の東京都通知の別紙で確認できます。いずれも「緊急やむを得ない場合を除き行ってはならない」「行う場合は態様・時間・心身の状況・理由を記録する」「委員会・指針・研修の措置を講じる」の3段構成になっています。
グループホーム・小規模多機能・短期入所など
新手引きは、上記のほか短期入所生活介護、短期入所療養介護、小規模多機能型居宅介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、看護小規模多機能型居宅介護についても、特養と「同様の内容」の規定が置かれていると説明しています。グループホーム(認知症対応型共同生活介護)も地域密着型サービス(市区町村が指定する、その地域の住民向けのサービス)の運営基準で同様に身体的拘束等が原則禁止されており、2018年度(平成30年度)改定からは身体拘束廃止未実施減算の対象にもなっています。
グループホームやショートステイだから規制が緩い、ということはなく、どの種類の施設・事業所であっても、身体拘束を行うには同じ3要件と手続きが求められます。
2024年度改定で訪問・通所系を含む全サービスへ拡大
2024年度(令和6年度)の介護報酬改定にともなう運営基準の見直しでは、それまで規定のなかった訪問介護などの訪問系サービス、通所介護などの通所系サービス、福祉用具貸与、特定福祉用具販売、居宅介護支援(ケアマネジメント)にも、身体拘束の原則禁止と記録の義務が追加されました。これにより、身体拘束の原則禁止は介護保険のすべてのサービスに共通するルールとなりました。
在宅で介護サービスを利用している家庭でも、たとえばデイサービスの利用中に立ち上がりを防ぐ目的でベルトを使う行為は、施設と同じ基準で判断されます。ただし、訪問系・通所系については禁止規定と記録義務が課された一方で、後述する身体拘束廃止未実施減算の対象にはなっておらず、違反があった場合は行政による指導の対象となります。
住宅型有料老人ホーム・サ高住の位置づけ
介護付き有料老人ホームは「特定施設入居者生活介護」として介護保険の運営基準の対象になりますが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のうち特定施設の指定を受けていないものは、施設そのものが介護保険の運営基準の直接の対象ではありません。この場合、有料老人ホームについては厚生労働省が示す「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」およびこれを受けた都道府県の指導指針を守ることが求められ、東京都の通知では「東京都有料老人ホーム設置運営指導指針」の9(14)〜(16)が身体拘束に関する規定として挙げられています。
サ高住については、有料老人ホームに該当するものは同指針の対象です。それ以外の場合も、入居者が利用する訪問介護・通所介護などの介護サービス事業所には、2024年度(令和6年度)改定で追加された原則禁止と記録義務が適用されます。指導指針は自治体ごとに定められているため、具体的な内容は入居を検討している施設の所在地の都道府県の資料で確認する必要があります。
身体拘束がもたらす3つの弊害
厚生労働省の手引きは、身体拘束が本人にもたらす弊害を身体的・精神的・社会的の3つに整理しています。「安全のため」に行った拘束が、かえって本人の心身を弱らせ、事故の危険を高めるという構図を押さえておくと、施設の説明を聞くときの視点が変わります。
| 弊害の種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 身体的弊害 |
|
| 精神的弊害 |
|
| 社会的弊害 |
|
身体的弊害
身体的弊害は、拘縮や褥瘡(じょくそう)のように外から見える弊害と、食欲や心肺機能の低下のように内側で進む弊害の両面があり、動かない状態が続くほど本人の体は弱っていきます。さらに手引きは、拘束から逃れようとする過程で大事故につながる危険も指摘しており、転倒を防ぐために行った拘束がかえって重大な事故を招くことがあります。
精神的弊害
精神的弊害の中心は、本人の尊厳が侵害されることです。自分がなぜ動けないのか理解できない状況は大きな苦痛であり、不穏や混乱をさらに強め、認知症の進行やせん妄(一時的な意識の混乱)につながります。また、拘束されている親や配偶者の姿を見た家族の側にも苦痛や罪悪感が生じることが指摘されており、身体拘束は本人と家族の双方に関わる問題です。
社会的弊害と「拘束が拘束を生む悪循環」
社会的弊害は、本人だけでなく職員の士気や施設への信頼にも及び、心身機能の低下が新たな医療的処置や経済的な負担を生む点が指摘されています。
手引きが特に警告しているのが「拘束が拘束を生む悪循環」です。一時的なつもりで始めた拘束が常時の拘束になり、動かないことで身体機能が低下し、さらに転倒などの危険が高まったとしてより強い拘束が必要と判断される、という循環が生じます。手引きは、この悪循環が死期を早める結果にもつながりかねないと述べています。
施設に課されている4つの義務
施設に課されている義務は、記録・委員会・指針・研修の4つです。このうち家族が見学の場で確認できるのは、主に指針(閲覧を求められる)と委員会(開催実績を聞ける)です。確認の仕方だけ知りたい方は家族が施設を選ぶときの確認方法へ進んでください。
記録すべき事項と2年間の保存
施設が身体拘束を行った場合、運営基準(特養の場合は第11条第5項)により、「その態様及び時間」「その際の入所者の心身の状況」「緊急やむを得ない理由」を記録することが義務づけられています。どのような方法で、いつからいつまで、本人の状態がどうであったか、なぜ他に方法がなかったのかを、個別に書き残さなければなりません。
さらに2024年(令和6年)4月からは、3要件をどのように確認したかというプロセスまで記録することが求められています。解釈通知(厚生労働省が省令の運用の仕方を示した通知。自治体向けの「介護保険最新情報」として公表される)である介護保険最新情報Vol.1235(令和6年3月29日)に、切迫性・非代替性・一時性の「3つの要件を満たすことについて、組織等としてこれらの要件の確認等の手続きを極めて慎重に行うこととし、その具体的な内容について記録しておくことが必要」という記述が追記されたためです。
これらの記録は、運営基準(特養の場合は第37条第2項)により、完結の日から2年間保存しなければなりません。委員会の議事録にも、3要件の確認と判断理由、検討した代替案、拘束の開始日と解除予定日などを記載して保存することが求められています(新手引き)。記録がなければ、施設は拘束の正当性を後から説明できません。
3か月に1回以上の委員会と職員への周知
運営基準は、身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3か月に1回以上開催し、その結果を介護職員その他の従業者に周知徹底することを求めています。委員会はテレビ電話装置などを活用して開催することも認められています。
委員会は施設長・医師・看護職員・介護職員・生活相談員などの多職種で構成し、専任の担当者を置くこととされています(厚生労働省が運営基準の運用上の留意点を示した通知。東京都の通知に転記されている)。役割は、身体拘束の発生ごとに記録・報告を集めて分析し、適正性を検討して結果を職員に周知し、対策の効果を評価することです。同じ留意事項は、委員会が「決して従業者の懲罰を目的としたものではない」ことも明記しており、職員を罰する場ではなく、組織として拘束を減らす仕組みと位置づけられています。家族が確認できるのは「いつ、どの職種が参加して開いたか」という開催実績です。
指針に盛り込む7項目と「入所者等への閲覧」
施設は、身体的拘束等の適正化のための指針を整備しなければなりません。同じ留意事項では、指針に次の7項目を盛り込むこととされています。
- 身体的拘束等の適正化に関する基本的考え方
- 身体的拘束適正化検討委員会その他施設内の組織に関する事項
- 身体的拘束等の適正化のための職員研修に関する基本方針
- 施設内で発生した身体的拘束等の報告方法等の方策
- 身体的拘束等発生時の対応に関する基本方針
- 入所者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
- その他身体的拘束等の適正化の推進のために必要な基本方針
家族にとって重要なのは6番目の「入所者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針」です。施設の身体拘束に関する基本方針は、施設の内部文書ではなく、入所者や家族が見られることを前提に作られているものです。見学や契約の場面で「身体拘束の指針を見せてください」と求めることは、制度が想定している行動といえます。
定期的な研修
4つ目の義務は、介護職員その他の従業者に対する身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施することです。施設系・居住系サービスの研修は年2回以上の定期的な実施に加え、新規採用時にも行うこととされています(同じ留意事項)。介護保険最新情報Vol.1345のQ&Aも、高齢者虐待防止に関する研修の回数について、施設・居住系は「年2回以上」、訪問系・通所系・短期入所系・多機能系・居宅介護支援などは「年1回以上」と整理しています。
研修の内容は指針に基づいたもので、身体拘束の弊害や3要件、代替的なケアの方法などを職員が共通して理解することが目的です。後述する令和6年度の虐待調査で、施設従事者による虐待の発生要因の最多が「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」(75.9%)だったことからも、研修の実施状況は施設の姿勢を測る一つの目安になります。
身体拘束廃止未実施減算の仕組みと改定の経緯
介護報酬は、施設が介護保険から受け取る収入で、サービスごとに「単位」で定められています。身体拘束廃止未実施減算は、拘束をしたこと自体ではなく、「拘束を防ぐ体制(委員会・指針・研修・記録)がないこと」に対して介護報酬を減らす仕組みです。減算の有無は施設の収入に直接関わるため、体制が整っているかどうかを家族が確認することには意味があります。
2018年度改定で1日5単位から10%減算へ
2018年度(平成30年度)の介護報酬改定前、施設系サービスにおけるこの減算は1日につき5単位を減じるものでしたが、厚生労働省の「平成30年度介護報酬改定の主な事項について」によると、同改定で「所定単位数の10%を1日につき減算」へと大幅に強化されました。同時に、それまで対象でなかった特定施設入居者生活介護や認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などの居住系サービスにも減算が新設されました。また、この改定で運営基準に委員会の開催・指針の整備・研修の実施が義務として追加され、これらが減算の要件にもなりました。
減算の対象となるのは、前章で見た4つの義務(拘束時の記録、3か月に1回以上の委員会と結果の周知、指針の整備、定期的な研修)のいずれかを満たしていない場合です。
地域密着型特養、グループホーム、地域密着型特定施設については、運営推進会議(地域密着型サービスに設置が義務づけられた、地域住民等を交えた会議)を委員会として活用することも認められています。減算は施設の全利用者について適用され、期間は事実が生じた月の翌月から改善が認められた月まで(最低3か月間)です(東京都の通知)。
2024年度改定の対象拡大と2025年4月の経過措置終了
2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では、短期入所生活介護・短期入所療養介護の短期入所系サービスと、小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護の多機能系サービスにも身体拘束廃止未実施減算が新設されました。減算率は施設系・居住系の10%とは異なり、所定単位数の100分の1(1%)です。新設時には経過措置(新ルールの適用を一定期間猶予する仕組み)が設けられ、介護保険最新情報Vol.1345によると、短期入所系・多機能系サービスの経過措置は2025年(令和7年)4月に終了し、減算が本格的に適用されています。
同Q&Aの内容のうち、家族が知っておくとよい点は次の4つです。
- 拘束をしていなくても、体制がなければ減算:身体拘束を実際には行っていない事業所であっても、委員会の開催、指針の整備、研修の実施などの措置を行っていなければ減算の対象になります。
- 3要件の記録がなければ減算:身体拘束を行った場合に、3要件を満たすことの記録が確認できなければ減算の対象になります。
- 遡っての適用はない:減算が過去に遡って適用されることはありません。
- 訪問系・通所系は減算ではなく指導の対象:訪問系・通所系サービスには減算はありませんが、禁止規定や記録義務に違反すれば行政による指導の対象となります。
高齢者虐待防止措置未実施減算との違い
2024年度(令和6年度)改定では、身体拘束廃止未実施減算とは別に「高齢者虐待防止措置未実施減算」も新設されました(厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」)。2つの減算の違いは次の通りです。
| 比較項目 | 身体拘束廃止未実施減算 | 高齢者虐待防止措置未実施減算 |
|---|---|---|
| 対象となる措置 | 身体拘束の記録、3か月に1回以上の委員会、指針の整備、研修の実施 | 虐待防止委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者の配置 |
| 対象サービス | 施設系・居住系、短期入所系・多機能系(訪問系・通所系は対象外) | 居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除く全サービス(福祉用具貸与は3年間の経過措置) |
| 減算率 | 施設系・居住系は所定単位数の10%、短期入所系・多機能系は1% | 一律で所定単位数の1% |
| 導入・強化時期 | 2018年度に施設系を1日5単位から10%へ強化し居住系に新設、2024年度に短期入所系・多機能系へ拡大 | 2024年度に新設(虐待防止措置そのものは2021年度改定で全サービスに義務化) |
身体拘束は、適正な手続きを経なければ高齢者虐待防止法上の虐待に該当しうる行為です。2つの減算は別々の仕組みですが、いずれも「利用者の尊厳を守る体制が整っているか」を施設に問うものといえます。
2000年(平成12年)から2025年(令和7年)までの推移です。原則禁止から始まり、2018年度(平成30年度)の減算強化、2024年(令和6年)の全サービスへの拡大、2025年(令和7年)の新手引き公表へと、身体拘束の規制は段階的に広がってきました。オレンジは直近2年の改定を示します。
出典:厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)、「平成30年度介護報酬改定の主な事項について」、「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」ほか
高齢者虐待防止法との関係と最新の統計
手続きを経ない身体拘束は、運営基準違反であるだけでなく、高齢者虐待防止法上の虐待として扱われうる行為です。ここでは法律上の位置づけと通報のルール、そして最新の全国統計を見ていきます。
手続きを経ない身体拘束は原則として虐待に該当する
身体拘束は、介護保険の運営基準だけでなく、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法、平成17年法律第124号、2006年〔平成18年〕4月1日施行)とも密接に関わります。同法第2条第5項第1号イは、養介護施設従事者等(特養や有料老人ホームなどの施設・事業所の職員のこと)による身体的虐待を「高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」と定義しています。
身体拘束は、この身体的虐待の一つとして位置づけられています。この関係について新手引きは、「『緊急やむを得ない場合』の適正な手続きを経ていない身体的拘束等は、原則として養護者及び養介護施設従事者等による高齢者虐待に該当する行為とされており、本人の居住地自治体に相談・通報が必要」と述べています。施設側の「虐待のつもりはなかった」という認識は、手続きを経ていない拘束を虐待の範囲から外す理由にはなりません。
施設職員と一般市民の通報義務
高齢者虐待防止法第21条は、施設従事者による虐待について通報のルールを定めています。誰にどの程度の義務があるかを整理すると次の通りです。
| 誰が | どんな場合 | 義務の強さ |
|---|---|---|
| 施設・事業所の職員(養介護施設従事者等) | 自分が業務に従事している施設・事業所で、虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき | 速やかに市町村へ通報する義務(第1項) |
| 発見した人すべて(家族・一般市民を含む) | 施設従事者等による虐待を受けたと思われる高齢者を発見し、その高齢者の生命または身体に重大な危険が生じているとき | 速やかに市町村へ通報する義務(第2項) |
| 職員以外の人 | 上記以外で、施設従事者等による虐待を受けたと思われる高齢者を発見したとき | 通報するよう努める義務(第3項) |
家族が施設で親の身体拘束を目にし、それが手続きを経たものでないと考えられる場合、市区町村への相談・通報は法律が想定している行動の一つです。なお、同法第25条は都道府県知事に対して毎年度、虐待への対応状況などを公表することを求めています。これとは別に、厚生労働省は全国の対応状況を毎年度調査して公表しており、次に見る統計はその結果です。
令和6年度調査:施設従事者による虐待は相談・通報3,633件、判断1,220件
厚生労働省が令和7年(2025年)12月25日に公表(令和8年2月20日に一部訂正)した「令和6年度 高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果」によると、養介護施設従事者等による高齢者虐待の件数は次の通りです。
| 項目 | 令和6年度 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 相談・通報件数 | 3,633件 | 192件増(5.6%増) |
| 虐待判断件数 | 1,220件 | 97件増(8.6%増) |
| 死亡に至った事例 | 5件 | — |
相談・通報件数、虐待判断件数はいずれも4年連続で過去最多を更新しました。参考までに、家族などの養護者による虐待は相談・通報41,814件、虐待判断17,133件で、施設従事者による虐待を件数では大きく上回っています。
虐待と判断された事例の種別(1件で複数該当あり)は、身体的虐待が51.1%で最も多く、心理的虐待27.7%、介護等放棄25.7%、経済的虐待10.3%、性的虐待3.4%と続きます。施設種別では、特別養護老人ホームが28.9%、有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅を含む)が28.4%、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が14.8%となっています。この割合は虐待と判断された事例の内訳であり、種別ごとの施設数・入所者数の違いも影響するため、発生率や安全性を比較するものではありません。
施設従事者等による虐待では身体的虐待が51.1%と半数を超えています。1件の事例が複数の種別に重複してカウントされるため、各割合を足しても100%にはなりません。
出典:厚生労働省「令和6年度 高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果」(令和7年12月25日)
発生要因の最多が「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」(75.9%)である点は、身体拘束の理解不足が虐待の背景として広く認識されていることを示しています。件数の増加については、虐待そのものの増加のほか、通報義務の周知が進んだことによる発見の増加も考えられるため、数字だけで施設全体の状況を断定することはできません。
家族が施設を選ぶときの確認方法
見学・契約時に聞くべき質問
身体拘束に関する施設の姿勢は、パンフレットだけでは分かりません。見学や契約の場面で、次のような点を具体的に確認すると、施設の取り組みの実態が見えてきます。
- 身体拘束適正化の指針を見せてもらう:指針には「入所者等に対する閲覧」の方針を定めることが求められているため、閲覧を求めることは自然な行動です。指針が用意されていない、または見せることを渋る場合は、体制が整っていない可能性があります。
- 委員会の開催実績を聞く:3か月に1回以上の開催が求められています。直近の開催時期や、どのような職種が参加しているかを聞いてみましょう。
- 現在、身体拘束を行っている入所者がいるか、いる場合は何人か:ゼロと答える施設もあれば、3要件を満たして手続きを経たうえで一時的に行っている入所者がいると説明する施設もあります。後者の場合、その理由と解除の見通しをどう説明するかが重要です。
- 拘束せずに済ませた工夫の事例を聞く:一人歩きの多い人、ベッドから降りようとする人、チューブを抜こうとする人に、どのような代替的なケアで対応してきたかを聞くと、非代替性の検討を実際に行っているかが分かります。
- 夜間の見守り体制を聞く:夜間は職員が少なくなるため、拘束の誘因になりやすい時間帯です。夜勤の人数、離床センサーなどの機器の活用、巡回の頻度を確認します。
- 研修の実施状況を聞く:年に何回、どのような内容の研修を行っているかを確認します。
- 職員の声かけを観察する:見学中に職員が利用者にかける言葉に耳を傾けると、スピーチロックに対する意識の一端が見えます。
これらの質問に対して、施設側が具体的に答えられるかどうか、説明の中で「家族の同意があれば」といった誤った理解が見られないかどうかも、判断の材料になります。
介護サービス情報公表システムの新項目(2024年10月追加)
見学に行く前に手元で確認できる情報源として、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」があります。介護保険法第115条の35以下に基づき2006年(平成18年)4月に始まった制度で、都道府県が事業所から報告を受けた運営情報を公表しています。令和6年(2024年)10月には、公表項目に「身体的拘束その他入居者の行動を制限する行為等の適正化のための取組の状況」と「利用者等の人権の擁護、虐待の防止等のための取組の状況」が追加されました。
これにより、候補となる施設について、身体拘束の適正化に関する取り組みの有無をシステム上で確認できるようになっています。ただし、公表されている情報は事業所からの報告に基づくものであり、報告時点の内容である点には注意が必要です。システムの見方や掲載項目の全体像は介護サービス情報公表システムの解説記事で詳しく説明しています。
公的調査から見える整備状況
先に結論を示すと、大阪府の調査では約9割の施設が身体拘束を行っておらず、施設系では指針・委員会の整備率も9割を超えています。一方、全国調査では当時、訪問系・通所系の体制整備は途上でした。なお、「日本の介護施設のうち、どれくらいが身体拘束を行っているのか」という全国規模の政府統計は、現時点では見当たりません。参考になるのは、自治体が独自に行っている調査と、厚生労働省の補助事業として実施された調査研究です。いずれも施設種別の優劣を比較する目的の調査ではありません。
大阪府は所管する高齢者施設を対象に「身体拘束等廃止状況調査」を実施しており、令和6年度・令和7年度の結果が公表されています。令和6年度調査(調査時期は令和7年1〜2月、対象616件、回答382件、回答率62%)では、身体拘束を行っていない施設の割合は総計90.6%(特別養護老人ホーム88.3%、介護老人保健施設88.6%、有料老人ホーム91.2%、サービス付き高齢者向け住宅90.6%)でした。令和7年度調査(調査時期は令和7年12月〜令和8年1月、対象628件、回答382件、回答率60.8%)では総計91.4%(特養89.5%、老健90.7%、有料老人ホーム93.5%、サ高住92.9%)と、いずれの種別でも上昇しています。
「身体拘束を行っていない」と回答した割合は、令和6年度から令和7年度にかけていずれの種別でも上昇し、総計で90.6%→91.4%となりました(大阪府所管施設のみの調査)。
※縦軸は80〜100%の範囲を拡大表示。「適切な手続きを行っているものを含む」数値で、大阪府所管施設のみ、回答率約6割。
出典:大阪府「身体拘束等廃止状況調査」令和6年度結果・令和7年度結果
同調査では拘束の行為別の人数も公表されています。
| 行為 | 令和6年度 | 令和7年度 |
|---|---|---|
| ベッド柵 | 19人 | 33人 |
| ミトン | 16人 | 27人 |
| Y字帯等 | 10人 | 23人 |
| つなぎ服 | 27人 | 27人 |
回答施設は年度ごとに異なり、人数は回答施設内の実数のため、割合の推移と単純には比較できません。また、令和6年度調査では指針を作成している施設が96.3%、委員会を設置している施設が95.5%でした。
この調査は「適切な手続きを行っているものを含む」数値であり、全国の状況をそのまま示すものではありません。さらに、施設種別ごとに入所者の要介護度や医療的ケアの必要度、施設数が異なるうえ、大阪府所管施設のみ・回答率約6割の調査であるため、数ポイントの差を種別の安全性の差として読むことはできません。
全国規模の参考資料としては、令和5年度の老人保健健康増進等事業「介護施設・事業所等における身体拘束廃止・防止の取組推進に向けた調査研究事業」報告書(日本総合研究所、全国44,370事業所の回答)があります。施設系では9割前後が委員会・指針を整備済みでしたが、サービス種別で大きな差がありました。
| 体制 | 全体 | 長期入所・入居系 | 訪問系 | 通所系 |
|---|---|---|---|---|
| 委員会を設置し3か月に1回以上開催 | 48.2% | 89.9% | 24.3% | 27.0% |
| 指針を策定 | 63.1% | 92.7% | 47.9% | — |
報告書は2024年(令和6年)3月にまとめられたもので、訪問系・通所系に禁止規定が拡大される前の状況を示しています。当時は施設系で体制整備が進む一方、在宅系サービスでは整備が途上であったことを示す資料として参照してください(表中の「—」は本記事で引用していない項目)。
拘束に不安や疑問があるときの相談先
まず施設に記録に基づく説明を求める
親が施設で拘束されているのではないかと感じたとき、最初の一歩は施設に直接説明を求めることです。運営基準は、施設が身体拘束を行う場合に態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由を記録することを義務づけており、新手引きは実際に拘束を行う時点で本人・家族に個別に説明することを求めています。したがって家族は、「どのような拘束を、いつからいつまで、どのような理由で行っているのか」「3要件をどのように確認したのか」「代替となる方法を検討したか」「いつ解除する見通しか」を説明するよう求めることができます。個別の記録の開示については施設の手続きに従うことになりますが、記録に基づく説明を求めること自体は制度の想定に沿った行動です。
3要件と手続きを踏んで拘束を行っている施設であれば、記録に基づいた具体的な説明ができるはずです。逆に、説明が「安全のために」「他の利用者に迷惑がかかるので」といった抽象的なものにとどまり、記録や委員会での検討の有無について答えられない場合は、次の段階として外部の窓口に相談することを検討します。
市区町村・地域包括支援センター・国保連・運営適正化委員会
施設との話し合いで解決しない場合や、虐待に当たるのではないかと考えられる場合は、外部の窓口に相談できます。主な窓口は次の通りです。
- 市区町村の高齢者福祉・介護保険担当課:高齢者虐待防止法上の通報先は市町村です。手続きを経ていない身体拘束は原則として虐待に該当しうるため、本人の居住地の市区町村に相談・通報します。
- 地域包括支援センター:市区町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。高齢者虐待防止法は、市町村が虐待に関する相談・通報の受付などの事務を「高齢者虐待対応協力者」に委託できると定めており(第17条)、地域包括支援センターは市区町村の担当課と並ぶ相談先として案内されるのが一般的です。
- 国民健康保険団体連合会(国保連):介護保険法第176条第1項第3号に基づき、介護サービスに関する苦情を受け付け、事業所への調査・指導・助言を行います。
- 運営適正化委員会:社会福祉法第83条に基づき都道府県社会福祉協議会に設置されている機関で、福祉サービスに関する利用者の苦情を解決するための相談・あっせんを行います。
どの窓口を選ぶかは、「虐待の疑いとして通報したい」のか、「サービスの質に関する苦情として扱ってほしい」のかによって変わります。虐待の疑いであれば市区町村、サービスの質や契約に関する苦情であれば国保連や運営適正化委員会が主な受け手です。各窓口の役割の違いと使い分けは介護サービスの苦情相談窓口を整理した記事で詳しく解説しています。
注意点とよくある失敗
同意書にサインしたからと諦めない
よくあるのが、「入所時に身体拘束の同意書にサインしてしまったから、もう何も言えない」と考えてしまうケースです。前述のとおり、家族の同意は身体拘束を認める根拠にならず、サインの有無にかかわらず施設には3要件・手続き・記録が求められます。
ここでの失敗は、サインしたこと自体ではなく、「もう言えない」と諦めてしまうことです。書面は施設が説明したことの確認であって、家族が拘束を許可したものではないため、サイン後も記録に基づく説明を求めることができます。具体的な聞き方はまず施設に記録に基づく説明を求めるを参照してください。「同意したのだから」と説明を断られた場合は、外部の相談窓口に相談することを検討してください。
制度改定が続く分野であること
介護保険制度は3年ごとに介護報酬と運営基準の改定が行われており、身体拘束に関するルールもこの記事で見てきたように、2018年度(平成30年度)、2021年度(令和3年度)、2024年度(令和6年度)と改定のたびに変化してきました。2025年(令和7年)3月には約24年ぶりに手引きが刷新され、同年4月には短期入所系・多機能系サービスの減算の経過措置が終了しています。
この記事の内容は執筆時点の一次資料に基づいていますが、今後の改定で減算率や対象サービス、記録や研修の要件が変わる可能性があります。3年周期に従えば次回の介護報酬改定は2027年度(令和9年度)となる見込みで、身体拘束や虐待防止に関する要件がさらに見直されることも考えられます。実際に施設と話す際や手続きを行う際は、厚生労働省や自治体の最新の資料を確認してください。
拘束の有無だけで施設の良し悪しを断定しない
「身体拘束ゼロ」と掲げている施設であれば安心、と単純に考えることにも注意が必要です。たとえば、拘束をしない代わりに事故が多く起きている、あるいは事故を防ぐために本人の活動を過度に制限している(居室から出ないよう声かけで抑制しているなど)場合、それは新手引きが警戒するスピーチロックや、実質的な行動制限に当たる可能性があります。
逆に、3要件を満たし手続きを経たうえで一時的な拘束を行っている入所者がいると正直に説明する施設が、拘束を減らすための工夫を重ねている場合もあります。家族が見るべきなのは、拘束の有無という結果だけでなく、拘束を必要としない状態を目指したケアや環境整備、事故が起きたときの分析と対策、家族への説明の具体性といった、施設全体の姿勢です。身体拘束は施設を選ぶ際の観点の一つであり、人員体制、医療連携、費用、立地などと合わせて総合的に検討する必要があります。当サイトは特定の施設を評価したり順位づけしたりせず、制度の一次資料に基づく情報を並列に扱う方針をとっています。詳しくはこのサイトの立ち位置をご覧ください。
まとめ
- 介護施設の身体拘束は、介護保険の運営基準(省令)で原則禁止されており、2024年度(令和6年度)改定で訪問・通所系を含む全サービスに禁止規定と記録義務が拡大されました。
- 厚生労働省の手引きは身体拘束を「本人の行動の自由を制限すること」と定義し、ベッド柵で囲む・ミトンを付ける・車いすテーブルを付けるなど11の行為を例示しています。11項目は例示であり、スピーチロックなども判断対象になります。
- 例外は切迫性・非代替性・一時性の3要件をすべて満たす「緊急やむを得ない場合」のみで、施設全体での検討、本人・家族への個別の説明、再検討と即時解除という手続きが必要です。家族の同意は拘束を認める根拠になりません。
- 施設には記録(2年間保存)、3か月に1回以上の委員会、7項目を含む指針の整備、定期的な研修が義務づけられ、未実施の場合は施設系・居住系で所定単位数の10%、短期入所系・多機能系で1%の減算があります(短期入所系・多機能系サービスの経過措置は2025年(令和7年)4月に終了)。手続きを経ない拘束は高齢者虐待防止法上の虐待に該当しうる行為です。
- 家族は見学時に指針の閲覧や委員会の開催実績、拘束せずに済ませた工夫を確認し、介護サービス情報公表システムの身体拘束に関する項目も参照できます。疑問があればまず施設に記録に基づく説明を求め、解決しなければ市区町村や地域包括支援センター、国保連、運営適正化委員会に相談できます。