親や配偶者の退院後の療養先を考えるとき、「介護老人保健施設(老健)」と「介護医療院」のどちらが合うのか迷う家族は少なくありません。両者はどちらも介護保険施設ですが、目的・人員配置・費用の考え方が異なります。この記事では、厚生労働省の公表資料にもとづき、老健と介護医療院の違いを目的・人員配置・入所条件・費用・施設数の推移という切り口で整理します。
介護老人保健施設(老健)とは何か
介護老人保健施設(老健)は、病状が安定している要介護者に対して、医療・看護・リハビリテーションを提供し、在宅復帰を支援することを目的とした介護保険施設です。
目的と法的位置づけ
独立行政法人福祉医療機構(WAM NET)は、老健の役割を次のように説明しています(出典:WAM NET「介護老人保健施設」)。
病状が安定期にあり、入院治療をする必要はないが、リハビリテーションや看護・介護を必要とする要介護者に対し、看護・医学的管理のもとで介護や機能訓練その他必要な医療を行い、日常生活の自立を助け、家庭への復帰を目指す施設
介護サービス情報公表システム(厚生労働省)でも同様に、在宅復帰を目指すリハビリ中心の施設として位置づけられています。特別養護老人ホームのように長期の生活の場を前提とする施設とは、この「在宅復帰を目指す」という目的の点で性格が異なります。
対象者と入所条件
老健の入所対象は、要介護1以上の認定を受け、病状が安定していてリハビリや医療的管理を必要とする人です。入院を要するほどの急性期の医療は想定されておらず、あくまで在宅復帰に向けたリハビリと生活支援が中心になります。入所期間について「何日まで」という一律の法律上の上限は設けられていませんが、施設ごとに在宅復帰に向けた計画に沿って利用期間を検討する運用がとられています。平均的な入所期間は施設によって差があるため、実際の見通しは入所を検討している施設やケアマネジャーに直接確認するとよいでしょう。
介護医療院とは何か
介護医療院は、「長期療養のための医療」と「日常生活上の世話(介護)」を一体的に提供する施設として、2018年(平成30年)4月に創設された比較的新しい介護保険施設です(出典:厚生労働省「介護医療院について」)。
創設の経緯と介護療養型医療施設からの転換
介護医療院は、それまで長期療養の受け皿となっていた「介護療養型医療施設」等からの転換先として制度化されました。厚生労働省の資料によると、介護医療院は医療の必要な要介護者の長期療養・生活施設として、医療と生活支援の両方を担う位置づけです(出典:厚生労働省 介護医療院ポータル)。介護療養型医療施設は2024年(令和6年)3月末をもって経過措置が終了し完全に廃止されており、既存の利用者や施設は介護医療院等へ転換が進められました(出典:厚生労働省「介護療養病床・介護医療院のこれまでの経緯」)。
I型とII型の違い
介護医療院にはI型とII型の2種類があります。I型は、旧・介護療養型医療施設の療養病床相当にあたり、医療の必要度がより高い利用者を主な対象とします。II型は、老健相当以上の人員配置基準が求められる類型で、I型に比べると医療的な体制の基準はやや緩やかです。この目的の違いは、次に見る老健と介護医療院それぞれの役割の違いにもつながっています。
老健と介護医療院の目的の違い
老健と介護医療院は、どちらも「自宅にすぐ戻るのが難しい」状態の要介護者を支える施設ですが、目指すゴールが異なります。
在宅復帰を目指す老健
老健の最大の特徴は、介護医療院のような長期の生活の場ではなく、あくまで在宅復帰を前提とした「通過型」の施設として設計されている点です。リハビリ専門職(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等)が中心となって機能回復・日常生活動作の維持改善に取り組み、退所後の在宅生活を見据えた支援計画が作られます。介護医療院がケアの継続そのものを目的とするのに対し、老健は「一定期間で自宅に戻る」ことをゴールに据えている点が対比のポイントです。
長期療養・生活の場としての介護医療院
一方、介護医療院は、医療的なケアを必要としながらも長期にわたって療養を続ける必要がある人のための「生活の場」としての性格を持ちます。厚生労働省は介護医療院について、医療と日常生活上の世話を一体的に提供する施設と説明しており、在宅復帰を前提としない長期療養の受け皿として位置づけられています(出典:厚生労働省「介護医療院について」)。看取りへの対応を含め、長期的な療養生活を支える施設という点で老健とは目的が異なります。
人員配置基準の違い
老健と介護医療院(I型・II型)では、法令で定められた医師・看護職員・介護職員の配置基準が異なります。以下に代表的な基準を整理します。
バーが長いほど、利用者数に対して手厚い医師配置基準であることを示す(=バーが長い=1人の医師が担当する利用者数が少なく、医療体制が手厚いという意味。数値は厚生労働省令に定める配置基準)
老健の医師・看護師・介護職員の配置
老健の人員配置基準は、医師が常勤換算で入所者100人あたり1人以上、看護職員と介護職員を合わせて入所者3人に1人以上(看護・介護の合計での基準)で、そのうち看護職員はおおむね7分の2程度とされています(出典:厚生労働省老健局令老企第44号)。
介護医療院I型・II型の医師・看護師配置
介護医療院I型は、医療の必要度が高い利用者を想定しているため、老健よりも手厚い人員配置基準が定められています(出典:厚生労働省令第5号)。一方、介護医療院II型は「老健相当以上の基準」とされており、医師の配置基準(100人に1人以上)は老健と同水準です。区分ごとの基準を整理すると次のとおりです(数値は厚生労働省令に定める配置基準にもとづきますが、厳密な最新の基準は入所を検討する施設や自治体に確認することをおすすめします)。
| 区分 | 医師 | 看護職員 | 介護職員 |
|---|---|---|---|
| 老健 | 常勤換算で入所者100人に1人以上 | 看護・介護職員合計で入所者3人に1人以上(うち看護職員はおおむね7分の2程度) | 同左(看護・介護合計基準) |
| 介護医療院I型 | 入所者48人に1人以上(施設全体で3人以上) | 入所者6人に1人以上 | 入所者5人に1人以上 |
| 介護医療院II型 | 入所者100人に1人以上(施設全体で1人以上) | 老健相当以上の基準 | 老健相当以上の基準 |
入所条件・対象者の違い
目的や人員配置の違いは、そのまま入所条件・対象者の違いにも反映されます。
医療的ケアの必要度による違い
老健は、病状が比較的安定していてリハビリを中心とした支援で在宅復帰を目指せる人を主な対象とします。これに対し介護医療院、特にI型は、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを継続的に必要とし、長期にわたって療養を続ける必要がある人を主な対象とする点が特徴です。II型は老健に近い水準の医療対応を想定しています。どの程度の医療的ケアが必要かによって、選択肢となる施設の種類が変わってくるといえます。
申込方法とケアマネジャーの役割
老健・介護医療院とも、入所を希望する場合はまず施設に直接相談・申し込みを行うのが基本です。その際、担当のケアマネジャー(介護支援専門員)が本人の要介護度や医療的ケアの必要度、家族の希望をふまえて、どの施設が状態に合っているかを一緒に検討してくれます。入院中であれば病院の医療ソーシャルワーカーが窓口になることも多く、退院前のタイミングで早めに相談を始めることが望ましいとされています。
費用の違い
老健と介護医療院の利用料は、介護報酬の基本部分に加えて、居住費・食費が別途かかる仕組みは共通しています。費用の負担軽減の仕組みも、施設の種類そのものではなく、世帯の所得状況によって決まる点がポイントです。
居住費・食費の負担限度額
所得の低い世帯には、居住費・食費の自己負担額に上限を設ける「介護保険負担限度額認定」の制度があります。自治体の公表資料(松戸市)によると、負担限度額は所得段階(第1段階〜第3段階②等)に応じて日額の上限が定められており、段階が低いほど自己負担の上限額も低く設定されています(出典:松戸市「介護保険負担限度額」)。この仕組みは老健・介護医療院のどちらに入所する場合でも共通して適用されるものです。具体的な自分の段階や金額は、お住まいの自治体の窓口や「介護保険負担限度額認定証」の交付申請を通じて確認できます。
高額介護サービス費による負担軽減
介護サービスの1割〜3割の自己負担額(居住費・食費を除く)が一定の上限を超えた場合には、「高額介護サービス費」として超過分が払い戻される仕組みがあります。江東区の公表資料によれば、月額の上限額は所得区分によって次のように定められています(出典:江東区「高額介護サービス費」)。
- 非課税世帯等(一定の低所得区分):個人15,000円
- 非課税世帯のその他の区分:世帯24,600円
- 課税所得380万円未満の世帯:44,400円
- 課税所得380万円〜690万円未満の世帯:93,000円
- 課税所得690万円以上の世帯:140,100円
この上限額も施設の種類ではなく世帯の所得区分によって決まるため、「老健と介護医療院のどちらが安いか」という比較よりも、自分の世帯がどの所得区分に該当するかを確認することが費用面での重要なポイントになります。
全国の施設数の推移
制度としての位置づけの違いは、全国の施設数の推移にも表れています。
出典:厚生労働省「令和6年介護サービス施設・事業所調査」。棒の高さは施設数のスケールを模式的に示したもの(正確な縮尺ではありません)
老健と介護医療院それぞれの施設数
厚生労働省「令和6年介護サービス施設・事業所調査」によると、介護老人保健施設は全国に4,214施設あり、前年から0.8%減少しました。一方、介護医療院は917施設で、前年から126施設・15.9%増加しています(出典:厚生労働省「令和6年介護サービス施設・事業所調査」)。老健の施設数がわずかに減少する一方、介護医療院は新設・転換が進み増加傾向にあります。次章では、この2つの施設のどちらが自分の家族の状況に合うかを判断するポイントを紹介します。
介護療養型医療施設廃止後の移行状況
介護医療院の施設数増加の背景には、2024年3月末で完全廃止された介護療養型医療施設からの転換があります(出典:厚生労働省「介護療養病床・介護医療院のこれまでの経緯」)。廃止された施設・利用者の多くが介護医療院や医療療養病床等へ移行しており、介護医療院は今後も長期療養の受け皿としての役割を担っていくと見込まれます。
どちらを選ぶべきか判断のポイント
老健と介護医療院のどちらが合うかは、本人の医療的ケアの必要度と、今後の生活の見通しによって変わってきます。
在宅復帰を目指すか長期療養の場を探すか
退院後、リハビリを重ねて自宅での生活に戻ることを目標にできる状態であれば、在宅復帰支援を目的とする老健が選択肢になります。一方、たんの吸引や経管栄養など日常的な医療的ケアが必要で、長期にわたって療養を続ける見通しが立っている場合は、医療と介護を一体的に提供する介護医療院(特にI型)が選択肢として検討されます。どちらも「今の状態」だけでなく「今後どうなっていきそうか」という見通しをふまえて考えることが重要です。
迷ったときの相談窓口
本人や家族だけで判断が難しい場合は、担当のケアマネジャーや、入院中であれば病院の医療ソーシャルワーカー、退院支援担当者に相談するのが基本的な流れです。お住まいの市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターでも、施設の種類や制度についての一般的な情報を得ることができます。老健についてより詳しく知りたい場合はこちらの記事、介護医療院の詳細はこちらの記事もあわせてご確認ください。
注意点・よくある誤解
老健・介護医療院を検討する際に、よくある誤解や注意点を整理しておきます。
特別養護老人ホームとの違いとの混同に注意
「介護施設」とひとくくりに考えてしまい、特別養護老人ホーム(特養)と老健・介護医療院を混同するケースがあります。特養は、一般的に要介護3以上の認定を受けた人を対象とする長期の生活の場とされており、老健や介護医療院のように医師の常勤配置や医療的ケアを前提とした人員配置基準は定められていません。老健は在宅復帰を前提としたリハビリ中心の施設、介護医療院は医療と介護を一体的に提供する長期療養施設という違いがあり、特養を含めた3つの施設は目的も人員配置の考え方も異なります。施設種別ごとの目的の違いを理解したうえで検討することが大切です(特養と有料老人ホームの違いについてはこちらの記事で解説しています)。
制度は今後も見直される可能性がある
介護保険制度は、これまでも数年おきに報酬改定や制度の見直しが行われてきています。人員配置基準や費用負担の仕組みも、今後の改定で変更される可能性があります。本記事の内容は執筆時点の公的資料にもとづくものであり、実際に施設を検討する際は、最新の情報を施設や自治体、ケアマネジャーに確認することをおすすめします。
まとめ
- 老健は在宅復帰を目指すリハビリ中心の施設、介護医療院は医療と介護を一体的に提供する長期療養の施設という目的の違いがある
- 人員配置基準は、介護医療院I型が医師48人に1人以上と最も手厚く、老健と介護医療院II型はいずれも医師100人に1人以上が基準
- 費用の負担限度額や高額介護サービス費の上限額は、施設の種類ではなく世帯の所得区分によって決まる
- 令和6年時点で老健は4,214施設(前年比0.8%減)、介護医療院は917施設(前年比15.9%増)と対照的な推移をたどっている
- 介護療養型医療施設は2024年3月末で完全廃止されており、現在申込できるのは老健・介護医療院・特養などの現行施設のみ
本記事は、特定の施設を推奨するものではありません。介護に関する情報は制度改定により変わることがあるため、当サイトの立ち位置や情報の取り扱い方針についてはこちらのページをご確認ください。