「退院はできたけれど、医療的なケアと日常の介護を同じ場所にまとめて任せられるサービスはないだろうか」——そんな悩みに応えるのが看護小規模多機能型居宅介護(看多機)です。これは「訪問看護」と「小規模多機能型居宅介護」を組み合わせた介護保険サービスで、1つの事業所が「通い」「泊まり」「訪問(看護・介護)」を利用者の状態に応じて柔軟に提供し、退院直後や病状が不安定な時期、在宅での看取り期など、医療ニーズの高い中重度の要介護者の在宅療養を支えます。この記事では、対象者・サービス内容・登録定員などの基準・費用の目安・小規模多機能型居宅介護との違いを、厚生労働省の資料にもとづき解説します。
看護小規模多機能型居宅介護とは何か
看護小規模多機能型居宅介護は、介護保険法上の地域密着型サービス(事業所がある市区町村の住民を中心に提供する仕組みの介護保険サービス)の1つで、正式名称は「複合型サービス」といいます。厚生労働省は、主治医との密接な連携のもとで「通い」「泊まり」「訪問(看護・介護)」を利用者の状態に応じて柔軟に提供するサービスであり、退院直後や看取り期をはじめとした医療ニーズの高い中重度の要介護者が在宅での療養生活を続けられるよう支えるサービスと位置づけています。
訪問看護と小規模多機能を組み合わせた複合型サービス
看多機は、既存の「小規模多機能型居宅介護」(通い・泊まり・訪問介護の3機能)に「訪問看護」を加えたサービスです。1つの事業所と1つの契約で、通い・泊まり・訪問看護・訪問介護のすべてを利用でき、日によって「今日は通い」「体調が悪いので訪問看護だけ」のように、状態に応じて組み合わせを変えられる点が特徴です。
2012年度に創設され、その後「看護小規模多機能型居宅介護」に
このサービスは平成24(2012)年度の介護報酬改定にあわせて「複合型サービス」として創設されました。厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会の資料では、複合型サービスの効果検証が平成24年度介護報酬改定の枠組みの中で扱われています。その後、名称が見直され、現在は「看護小規模多機能型居宅介護」と呼ばれています。
小規模多機能型居宅介護に「訪問看護」を加えたもの
よく似た名前のサービスに小規模多機能型居宅介護がありますが、こちらには訪問看護が含まれません。看多機との違いの詳細は、後述の「似ているサービスとの違い」でまとめて比較します。小規模多機能型居宅介護そのものの詳しい内容は、小規模多機能型居宅介護とは|「通い・訪問・泊まり」の内容と定員・費用を解説で解説しています。
対象者と利用できる条件
「自分の親は対象になるのだろうか」という疑問に答えるために、対象者の条件を見ていきましょう。
要介護1〜5が対象、要支援の人は利用できない
看多機の対象者は要介護1〜5の認定を受けた人です。小規模多機能型居宅介護には要支援1・2向けの「介護予防小規模多機能型居宅介護」がありますが、看多機に介護予防版は用意されていません。要支援の人が医療的なケアを必要とする場合は、訪問看護や介護予防訪問看護など別のサービスを組み合わせて利用することになります。
退院直後・病状不安定期・看取り期など医療ニーズの高い場面で選ばれやすい
厚生労働省の資料では、看多機が支援する場面の例として、退院直後で在宅生活への移行が不安定な時期、がん末期など状態が変化しやすい看取り期、家族の介護負担が大きく休息(レスパイト)が必要な場合などが挙げられています。実際、社会保障審議会介護給付費分科会の資料によれば、看多機利用者の平均要介護度は3.2で、小規模多機能型居宅介護利用者の平均要介護度2.4より高く、より重度・医療依存度の高い層に利用されている実態がうかがえます。
事業所が所在する市区町村に住んでいることが原則
地域密着型サービスに分類されるため、原則として事業所が所在する市区町村の被保険者だけが利用できます。ただし、他市町村の被保険者が利用したいという需要がある場合、市町村同士が同意すれば「区域外指定」という形で広域利用が認められることもあります。厚生労働省は令和5年度の事業として、この広域利用を進めるための手引きを公表しています。
「通い」「泊まり」「訪問」のサービス内容
看多機の中身は大きく4つの機能に分かれます。
通いサービス:日中に事業所で過ごす
利用者が日中に事業所へ通い、入浴・排せつ・食事などの介護や機能訓練を受けます。通いサービスの利用定員は登録定員の2分の1から15人までとされ、居間・食堂の面積要件を満たす一部の事業所では18人まで拡大できます。
泊まりサービス:短期間の宿泊
家族の急な用事や体調管理のため、事業所に宿泊できるサービスです。泊まりサービスの利用定員は、通いサービス利用定員の3分の1から9人までと定められています。個室の場合は床面積7.43平方メートル以上(病院・診療所の場合は6.4平方メートル以上、定員1人に限る)を確保することが基準です。
訪問看護・訪問介護:自宅に来てもらう
看護師などが自宅を訪問し、医師の指示にもとづく医療的なケア(服薬管理、点滴、褥瘡(床ずれ)の処置、痰の吸引など)を行う訪問看護と、入浴・排せつ・食事などの介護を行う訪問介護を、必要に応じて組み合わせて利用します。訪問看護そのものの詳しい制度は訪問看護とは|介護保険と医療保険の違いと利用料金をわかりやすく解説で解説しています。
24時間365日の連絡体制
多くの看多機事業所は、利用者や家族からの連絡に24時間対応できる体制を整えています。令和6年度の介護報酬改定では、この体制を評価する加算の名称が「緊急時訪問看護加算」から「緊急時対応加算」に変更され、単位数(介護報酬を計算するための単位。1単位はおおむね10円前後で、地域や人件費水準により変わります)も574単位/月から774単位/月に引き上げられました。あわせて、緊急時の訪問だけでなく、緊急時の宿泊サービスを提供できる体制も評価対象に加わっています。
登録定員と人員基準
1事業所あたりの規模が小さく、顔なじみの職員が対応しやすい体制を前提に基準が定められています。
登録定員は29人以下
厚生労働省老健局の資料によると、看多機の登録定員は29人以下と定められています。通い・泊まりそれぞれの利用定員は前述のとおりで、登録定員29人という枠の中で、通いと泊まりの定員配分が決まる仕組みです。
看護職員は常勤換算2.5人以上
看多機に特徴的な基準として、従業者のうち1人以上は常勤の保健師または看護師であること、保健師・看護師・准看護師を「常勤換算方法」で2.5人以上配置することが求められています。常勤換算とは、パートタイムの職員も勤務時間を合算して人数に置き換える考え方で、常勤職員が2.5人いるとは限りません。日中・夜間の配置基準は、次のとおりです。
| 時間帯・サービス | 配置基準 |
|---|---|
| 日中の通いサービス | 利用者3人に対し1人以上(うち1人以上は保健師・看護師・准看護師) |
| 日中の訪問サービス | 2人以上(うち1人以上は保健師・看護師・准看護師) |
| 夜間・深夜(泊まり+訪問) | 2人以上(うち1人は宿直勤務でも可) |
このように日中・夜間を通じて看護職員を配置することで、医療的なケアが必要な利用者の体調が急変した場合にも、事業所内で気づいて対応しやすい体制になっています。なお、訪問看護ステーションの指定を併せて受け、同一事業所で一体的に運営している場合は、訪問看護ステーションの人員基準(看護職員2.5人以上)を満たすことで、看多機の看護職員基準も満たしたとみなされます。
介護支援専門員・管理者の要件
看多機には、居宅サービス計画および看護小規模多機能型居宅介護計画の作成を担当する介護支援専門員(ケアマネジャー)を配置する必要があります。管理者は原則として常勤専従で、特別養護老人ホームや老人デイサービスセンターなどで3年以上認知症の人の介護に従事した経験があり厚生労働大臣が定める研修を修了した者、または保健師・看護師であることが求められます。
図:看護小規模多機能型居宅介護の事業所数の推移(各年4月審査分、介護給付費等実態統計)。平成25年の38事業所から令和5年には952事業所まで増加しています。出典:厚生労働省「看護小規模多機能型居宅介護の広域利用に関する手引き」
利用料金の仕組み(月額包括報酬)
看多機の費用がどのように決まるのかを見ていきます。
要介護度別の基本利用料は月額定額制
介護保険サービス費は、通い・泊まり・訪問の利用回数にかかわらず、要介護度に応じた月額の定額(包括報酬)です。令和6年度介護報酬改定後の基本報酬(同一建物に居住する者以外の場合、1月につき)は、要介護1の12,447単位から要介護5の31,408単位まで、要介護度が上がるほど段階的に高くなります(下の表を参照)。同じ建物内に住む利用者に提供する場合はやや低い単価(要介護1で11,214単位など)が設定されています。なお、算定月の提供回数が週平均1回に満たない場合、または登録者1人あたりの平均回数が週4回に満たない場合は、所定単位数の70%に相当する単位数を算定する減算ルールがあります。事業所に登録する前などに一時的に利用する「短期利用」の場合は、1月定額ではなく1日につき要介護1で570単位、要介護5で838単位という単価になります。
図:看護小規模多機能型居宅介護費の要介護度別基本報酬(1月あたりの単位数、同一建物に居住する者以外の場合)。出典:厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
| 要介護度 | 基本報酬(1月につき) |
|---|---|
| 要介護1 | 12,447単位 |
| 要介護2 | 17,415単位 |
| 要介護3 | 24,481単位 |
| 要介護4 | 27,766単位 |
| 要介護5 | 31,408単位 |
食費・宿泊費などの実費
包括報酬には食費・宿泊費・おむつ代・日用品費などは含まれず、これらは全額自己負担です。厚生労働省の介護サービス情報公表システムに掲載されている事業所の例では、朝食300〜400円、昼食600円、夕食500〜600円、宿泊費2,000〜2,300円程度という金額が示されています。ただしこれは一部事業所の例であり、金額は事業所ごとに設定するため、契約前に重要事項説明書で確認する必要があります。
自己負担割合1〜3割による違い
介護保険サービス費の自己負担割合は所得に応じて1〜3割です。1単位あたりの単価は地域区分や人件費水準に応じて10円00銭前後から11円台まで幅がありますが、仮に1単位10円で計算すると、要介護1(12,447単位)の月額サービス費は約12万4,470円、1割負担なら自己負担は約1万2,447円になります。要介護5(31,408単位)では月額サービス費が約31万4,080円、1割負担で約3万1,408円です。ここに食費・宿泊費などの実費が加わります。実際の単価や自己負担額は事業所の所在地域や本人の所得区分によって異なるため、詳細はケアマネジャーや事業所に確認してください。
令和6年度介護報酬改定でのポイント
直近の制度改定(令和6年度・2024年度)で看多機に関わる主な変更点を整理します。介護保険制度は3年ごとに見直されるため、今後さらに基準や単位数が変わる可能性があります。
基本報酬のわずかな引き上げ
看護小規模多機能型居宅介護費の基本報酬は、令和6年度改定でわずかに引き上げられました。たとえば要介護1の場合、改定前の12,438単位から12,447単位への変更です。1単位10円で計算すると差額は月90円程度にとどまり、自己負担額(1〜3割)への影響はごくわずかです。
緊急時対応加算の見直し
従来の「緊急時訪問看護加算」(574単位/月)は、令和6年度改定で「緊急時対応加算」(774単位/月)に再編されました。24時間の連絡体制のもとで緊急時の訪問看護を行う体制に加え、緊急時の宿泊サービスを必要に応じて提供できる体制も評価対象になった点が変更点です。
柔軟な利用を促す見直し
厚生労働省は、看多機について利用者ごとの利用頻度に幅があり、利用料や「通い・泊まり・訪問」の利用ニーズの有無を理由に新規利用に至らないケースがあることを踏まえ、利用者が柔軟に利用しやすくなるよう基準を見直しました。あわせて、提供回数が過少な場合に基本報酬を減算する仕組みの適用条件(週平均1回未満、または登録者1人あたり週4回未満)が明確化されています。
全国の事業所数の推移と今後の見込み
制度創設から着実に事業所数を増やしていますが、まだすべての市区町村にあるわけではありません。
平成25年の38事業所から令和6年に1,074事業所へ
介護給付費等実態統計(各年4月審査分)でみると、看多機の事業所数は平成25年度の38事業所から年々増加し、令和5年度には952事業所となりました。別の調査である厚生労働省「令和6年介護サービス施設・事業所調査」(10月1日時点)では、令和6年に1,074事業所(前年の994事業所から80事業所増、8.0%増)と報告されています。調査の基準日や集計方法が異なるため数値は完全には一致しませんが、いずれの統計でも増加傾向が続いていることが分かります。
令和8年度・令和22年度の利用者数見込み
厚生労働省が社会保障審議会介護給付費分科会(第257回)に示した第9期介護保険事業計画の見込みによれば、看多機の利用者数は令和5年度実績の約2.1万人から、令和8(2026)年度には約3.1万人(49%増)、令和22(2040)年度には約3.6万人(76%増)まで増加すると推計されています。前述のとおり医療ニーズの高い利用者が多いサービスであることを踏まえると、今後さらに役割が大きくなることが見込まれています。
すべての市区町村にあるわけではない
全国の市区町村数(特別区を含め1,741)に対して、看多機の事業所数はまだ少なく、近隣に事業所がない地域も少なくありません。前述のとおり看多機は地域密着型サービスのため原則として所在市区町村の住民しか利用できませんが、この課題に対応するため、厚生労働省は隣接市町村を含めた広域利用の仕組みづくりを進める手引きを公表しています。
似ているサービスとの違い
名前や内容が似ているため、混同されやすいサービスとの違いを比べてみます。
訪問看護だけとの違い:「泊まり」機能の有無
訪問看護は自宅を訪問してケアを提供するサービスですが、宿泊や日中の通いの機能はありません。看多機は訪問看護の機能に加えて、通いと泊まりを同じ事業所・同じ職員で一体的に利用できる点が異なります。家族が数日不在にする、夜間だけ心配といった場合に、訪問看護だけでは対応しきれない部分を補えます。
小規模多機能型居宅介護との違い:看護職員の配置と対象者
小規模多機能型居宅介護には要支援1・2向けの介護予防給付があり、看護職員の配置基準もありませんが、看多機は要介護1〜5のみが対象で、常勤の保健師または看護師を含む看護職員を常勤換算2.5人以上配置することが基準です。医療的なケアの必要性が高い場合は看多機、通い・泊まり・訪問の柔軟な組み合わせだけで足りる場合は小規模多機能型居宅介護、という選び方の目安になります。
メリットと注意点
利用を検討する際に押さえておきたいポイントです。
顔なじみの職員による柔軟な対応というメリット
同じ事業所の顔なじみの看護師・介護職員が、通い・泊まり・訪問のすべての場面に関わるため、利用者の状態変化に気づきやすく、体調に応じてサービスの組み合わせを柔軟に変更できます。医療機関との連携もとりやすく、退院直後の不安定な時期や、状態が変化しやすい看取り期に適したサービスとされています。
ケアマネジャーの変更が必要になる場合がある
看多機を利用する場合、居宅サービス計画(ケアプラン)と看護小規模多機能型居宅介護計画の作成は、その事業所に所属する介護支援専門員が担当します。そのため、それまで別の居宅介護支援事業所のケアマネジャーに依頼していた場合は、看多機の事業所のケアマネジャーに変更することが必要になります。担当者が変わることに不安がある場合は、事前に事業所へ相談し、引き継ぎの進め方を確認しておくと安心です。
訪問介護・デイサービスなどと原則併用できない
看多機を利用している間は、登録前に使っていた訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護などのサービスは、原則として併用できません。福祉用具貸与など一部のサービスは条件付きで併用できる場合がありますが、詳細は担当のケアマネジャーに確認する必要があります。
利用開始までの流れと探し方
実際に利用を検討する場合、どのような順番で手続きを進めればよいのでしょうか。
要介護認定とケアプラン作成の流れ
看多機を利用するには、まず市区町村の窓口で要介護認定を申請し、要介護1〜5の認定を受ける必要があります。認定後、看多機の利用を希望する場合は、その事業所の介護支援専門員が訪問調査等を踏まえてケアプランと看護小規模多機能型居宅介護計画を作成します。要介護認定の申請方法や認定調査の流れは要介護認定とは|申請方法・認定調査・区分ごとの目安をわかりやすく解説で詳しく説明しています。
介護サービス情報公表システムでの探し方
全国の看多機事業所は、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」で検索できます。事業所ごとの人員体制や運営状況、重要事項説明書の内容などが公表されているため、複数の事業所の情報を比較検討する際の参考になります。
見学・相談で確認しておきたいポイント
契約前には、看護職員の配置人数や夜間の対応体制、緊急時の連絡方法、食費・宿泊費などの実費、送迎の有無、併用できないサービスの範囲などを確認しておくと、契約後のミスマッチを防ぎやすくなります。地域包括支援センターや現在のケアマネジャーに相談しながら検討を進めることもできます。
まとめ
- 看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は、訪問看護と小規模多機能型居宅介護を組み合わせた地域密着型サービスで、要介護1〜5の人が対象です
- 「通い」「泊まり」「訪問(看護・介護)」を1つの事業所で柔軟に組み合わせて利用でき、登録定員は29人以下、看護職員は常勤換算2.5人以上の配置が基準です
- 費用は要介護度別の月額定額(包括報酬)で、令和6年度改定後は要介護1で12,447単位、要介護5で31,408単位です。ここに食費・宿泊費などの実費が加わります
- 事業所数は平成25年度の38事業所から令和6年に1,074事業所へ増加していますが、地域密着型サービスのため事業所が所在する市区町村の住民が対象になります
- 利用にはケアマネジャーの変更や他サービスとの併用制限があるため、契約前に事業所へ確認することが大切です
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