介護施設の面会は、法律上「家族との交流機会を確保するよう努めなければならない」という努力義務が施設側に課されている一方、具体的な時間・回数・方法は施設ごとの裁量に委ねられています。新型コロナウイルスの流行を経て、厚生労働省は面会制限から対面面会の再開・推進へと通知の方針を転換してきました。本記事では運営基準上の位置づけ、厚労省通知の変遷、施設種別ごとの違い、見学・契約時に確認すべきポイントまでを一次情報にもとづき解説します。
介護施設の面会ルールとは|法律上の位置づけ
介護施設の面会について、まず押さえておきたいのは「面会を実施する義務」の法的な強さです。面会は禁止も強制もされておらず、施設運営の基準の中に「交流機会の確保」という努力義務として位置づけられています。
運営基準における「家族との交流機会確保」の努力義務
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省)第16条第3項では、施設は「入所者とその家族との交流等の機会を確保するよう努めなければならない」と定められています。ユニット型施設についても第45条第3項に同様の規定があります。ここでいう「努めなければならない」は努力義務であり、面会の実施そのものは求められていますが、罰則を伴う強制規定ではありません。この規定が、特別養護老人ホームをはじめとする介護保険施設の面会に関する基本的な法的根拠になっています。
面会の具体的な時間・回数は施設の裁量
運営基準が定めているのは「交流機会を確保する努力義務」までで、面会の曜日・時間帯・1回あたりの人数・予約の要否といった運用の詳細は各施設が独自に定めています。そのため同じ特別養護老人ホームであっても、面会時間が平日の日中に限られる施設もあれば、事前予約制で土日も対応する施設もあります。この裁量の範囲は、施設の重要事項説明書や運営規程に明記されているのが一般的です。入居・入所を検討する段階で、この書面をもとに確認することが欠かせません。
新型コロナ流行期に何が変わったのか|厚労省通知の変遷
新型コロナウイルスの感染拡大期には、感染対策のために面会が大幅に制限される時期がありました。その後、厚生労働省の通知は段階的に「対面面会の再開・推進」へと方向転換しています。
令和3年11月24日事務連絡「面会等の実施にあたっての留意点」
令和3年11月24日付の厚生労働省事務連絡「社会福祉施設等における面会等の実施にあたっての留意点について」では、地域における発生状況や、利用者・面会者の体調・ワクチン接種歴・検査結果等も考慮したうえで、対面での面会を含めた対応を検討するという趣旨の方針が示されました。一律の面会中止・オンライン限定といった対応から、地域の感染状況や個々の事情を踏まえて対面面会を検討する方向へと、考え方が転換された通知として位置づけられます。
令和5年1月31日「面会の再開・推進」通知
令和5年1月31日には「高齢者施設等における面会の再開・推進にかかる高齢者施設等の職員向け動画及びリーフレットについて」という通知が発出されました。この通知では対面面会の再開・推進が明確に打ち出され、基本的な感染防止対策を講じた上で面会を実施することが求められています。コロナ禍で長く制限されてきた対面面会を、感染対策と両立させながら通常の運用に戻していく方向性を示した通知といえます。
現在の基本姿勢(対面面会の再開・推進)
現在は上記の通知の流れを踏まえ、感染防止対策を講じた上での対面面会が基本姿勢とされています。ただし、これはあくまで国が示す基本的な考え方であり、実際の運用は各施設の判断に委ねられている点は変わりません。地域の感染状況によって一時的に制限が強化される場合もあるため、通知の考え方と施設ごとの運用の両方を理解しておくことが大切です。
施設種別ごとの面会ルールの違い
面会に関する運営基準上の努力義務は施設の種類によって根拠条文が異なり、また面会の運用実態も施設種別ごとに傾向が異なります。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホームは、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準第16条第3項(ユニット型は第45条第3項)で「入所者とその家族との交流等の機会を確保するよう努めなければならない」と定められている施設です。入所者の多くが要介護度の高い高齢者であり、家族との交流機会確保は入所者の生活の質に直結する要素として位置づけられています。面会時間や回数の具体的な運用は施設の重要事項説明書に記載されており、施設ごとに異なります。
有料老人ホーム
有料老人ホームについては、厚生労働省の「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」が運営の指針として示されています。面会は、特養のような明文の努力義務規定とは別に、施設ごとの重要事項説明書・運営規程での記載事項として位置づけられているのが一般的な整理です。入居前に重要事項説明書で面会に関する記載を確認することが重要です。
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は、少人数の家庭的な環境での共同生活を特徴とする施設です。入居者は認知症のある高齢者が中心であり、家族との面会は本人の情緒の安定や環境への適応にも関わるとされています。面会の具体的な運用は各事業所の運営規程に委ねられており、他の施設種別と同様に、事前の書面確認が必要です。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サービス付き高齢者向け住宅は、住宅としての性質を持つため、特養や有料老人ホームと比べて面会の自由度が高い傾向があるとされます。ただし介護サービスを併設している住宅では、感染対策や入居者の安全確保の観点から一定のルールが設けられている場合があります。入居契約時に、住宅部分の利用規約と介護サービス部分の運営規程の双方を確認しておく必要があります。
オンライン面会の広がりと補助制度の実情
対面での面会が制限された期間、多くの介護施設でタブレット端末などを使ったオンライン面会が導入されました。ここではオンライン面会の普及の経緯と、補助制度の現状を整理します。
コロナ禍で普及したオンライン面会
新型コロナウイルスの流行により対面面会が難しくなった時期、家族との交流機会を維持する手段としてオンライン面会の実施が呼びかけられ、多くの施設で導入が進みました。ビデオ通話アプリやタブレット端末を用いて、入所者と家族が画面越しに顔を見て会話できる仕組みが各地の施設に広がった経緯があります。現在も対面面会と並行してオンライン面会を継続している施設があります。
恒久的な補助金制度は現時点で確認されていない
オンライン面会に必要なタブレット端末等の導入費用について、地域医療介護総合確保基金など既存の公的な財源の枠組みが活用された時期はありますが、オンライン面会に特化した恒久的な補助メニューが継続して設けられているかどうかは、本記事の執筆時点で公的な発表からは確認できませんでした。補助制度の有無や内容は年度・地域によって変わりうるため、導入を検討する施設や、家族としてオンライン面会の利用を希望する場合は、施設や自治体の窓口に最新の状況を直接確認することをおすすめします。
感染症流行時に面会が制限される場合の考え方
季節性インフルエンザや新型コロナウイルスなど、感染症が地域で流行している時期には、施設が独自の判断で面会を一時的に制限することがあります。ここではその考え方を整理します。
感染対策と入所者のQOLのバランス
介護施設の入所者は高齢で基礎疾患を持つ方が多く、感染症が重症化しやすい傾向があります。厚生労働省は平成25年3月に「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」を公表しており(公表当時の資料であり、その後の改定状況は施設や自治体に確認してください)、施設内での感染拡大防止の重要性を示してきました。一方で、面会は入所者の心理的な安定や生活の質(QOL)を保つ上で重要な役割を持ちます。感染対策と面会機会の確保は、どちらか一方を優先すればよいものではなく、両立を図ることが求められる課題です。
施設が判断する際の基準
面会の可否や制限の程度は、地域における感染症の発生状況、入所者・面会者の体調、ワクチン接種歴や検査結果といった複数の要素を踏まえて、各施設が総合的に判断します。令和3年11月の厚労省事務連絡が示した、対面での面会を含めた対応を検討するという考え方は、現在も施設が判断する際の基本的な視点として引き継がれています。制限を行う場合も、一律の禁止ではなく、オンライン面会や窓越し面会など代替手段を組み合わせる施設が多く見られます。
面会制限が入所者の権利に与える影響
面会は入所者にとって外部社会とのつながりを保つ重要な機会です。制限が長期化した場合の影響についても理解しておく必要があります。
身体拘束・虐待防止の観点との関係
介護施設における身体拘束や虐待の防止には、第三者の目が入ることが抑止力として機能するという側面があります。家族による定期的な面会は、施設の対応状況を家族が確認できる機会でもあります。介護保険制度では身体拘束の適正化が重要な課題として位置づけられており、面会機会の確保は、施設の運営の透明性を保つ観点からも位置づけられる要素の一つといえます。
面会が社会的孤立を防ぐ役割
長期間にわたって面会が制限されると、入所者が家族や地域社会とのつながりを失い、社会的孤立や心身機能の低下につながるおそれが指摘されています。運営基準が「家族との交流等の機会を確保するよう努めなければならない」と定めている背景には、こうした孤立を防ぐという趣旨も含まれていると考えられます。面会制限を検討する際には、感染対策の必要性と、孤立を防ぐという面会の役割の両方を踏まえた判断が求められます。
施設見学・契約時に確認すべき面会ルールのチェックポイント
面会の運用は施設ごとに異なるため、入所・入居を検討する段階で具体的に確認しておくことが重要です。見学や契約時のチェックポイントを整理します。
重要事項説明書・運営規程での記載を確認する
面会の曜日・時間帯・1回あたりの人数・予約の要否といった具体的なルールは、施設の重要事項説明書や運営規程に記載されています。見学時にはこれらの書面を実際に確認し、口頭での説明と食い違いがないかを照らし合わせることが大切です。有料老人ホームの重要事項説明書に記載される内容や確認方法について詳しくは、有料老人ホームの重要事項説明書とはで解説しています。
感染症流行時の対応方針を確認する
感染症が流行した際にどのような基準で面会制限を判断するのか、制限時の代替手段(オンライン面会・窓越し面会等)が用意されているかを事前に確認しておくと、実際に制限が生じた際の見通しが立てやすくなります。過去の対応実績(コロナ禍でどのような運用をしていたか)を聞いてみるのも一つの方法です。
オンライン面会の設備・実施体制を確認する
オンライン面会に対応しているか、対応している場合はどの程度の頻度で利用できるか、職員のサポート体制はどうなっているかも確認しておきたいポイントです。対面での面会が難しい遠方の家族にとっては、オンライン面会の有無が施設選びの実務上の判断材料になる場合があります。
面会に関するトラブル・苦情の相談窓口
面会をめぐって施設との間で認識の食い違いやトラブルが生じた場合、相談できる公的な窓口があります。
運営適正化委員会
社会福祉法第83条にもとづき、都道府県社会福祉協議会に設置されている運営適正化委員会は、福祉サービスに関する苦情解決を担う機関です。厚生労働省の通知「運営適正化委員会における福祉サービスに関する苦情解決事業について」に基づき、助言・相談・調査・あっせんを通じて苦情の解決を図る仕組みが整備されています。面会をめぐる施設との行き違いについても相談先の一つとなります。介護サービス全般の苦情相談窓口については、介護サービスの苦情相談窓口とはで詳しく解説しています。
地域包括支援センター・市区町村の窓口
地域包括支援センターや、施設が所在する市区町村の介護保険担当窓口も、面会に関する相談先として利用できます。特に施設側との直接のやり取りで解決が難しい場合は、こうした公的な窓口を介して状況を整理することが有効です。地域包括支援センターの役割について詳しくは、地域包括支援センターとはをご覧ください。また、身体拘束など入所者の権利に関わる問題が疑われる場合は、介護施設の身体拘束とはもあわせて確認してください。
まとめ
- 介護施設の面会は、運営基準上「家族との交流機会を確保する努力義務」があるが、具体的な時間・回数・方法は施設ごとの裁量である
- 厚生労働省の通知は、令和3年11月の留意点通知、令和5年1月の再開・推進通知を経て、対面面会の再開・推進を基本姿勢としている
- 施設種別(特養・有料老人ホーム・グループホーム・サ高住)によって面会の根拠条文や運用実態は異なる
- オンライン面会はコロナ禍で普及したが、恒久的な補助制度の有無は現時点で公的に確認できていない
- 入所・入居前には重要事項説明書・運営規程で面会ルールを確認し、トラブル時は運営適正化委員会や地域包括支援センターに相談できる
本記事の内容は執筆時点の制度・通知にもとづくものです。介護保険制度は3年ごとに改定が行われるほか、感染症の流行状況によって面会運用が変わる場合があるため、最新の情報は施設や自治体に直接確認してください。当サイトの記事の扱い方についてはこのサイトの立ち位置もご参照ください。