「介護療養型医療施設」という言葉が、家族の入所記録やネットの古い記事に残っていて、今その施設がどうなっているのか気になっている方もいるでしょう。結論から言うと、介護療養型医療施設は2024年3月31日をもって制度上完全に廃止されました。この記事では、廃止に至った経緯、移行先である「介護医療院」の仕組みや費用の目安、既存の入所者がどう扱われたかを、厚生労働省の公表資料にもとづいて解説します。
介護療養型医療施設とは何か
まず、介護療養型医療施設がどのような制度だったのかを確認していきます。すでに廃止された制度ですが、家族の入所歴を理解するうえで前提となる知識です。
制度の定義と法的根拠
厚労省が公表している介護療養病床・介護医療院の制度沿革によると、介護療養型医療施設は、介護保険法上、療養病床を有する病院・診療所を対象とする介護保険施設として位置づけられていたことが分かります。特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)・介護老人保健施設と並ぶ介護保険施設の一つであり、比較的重い医療的ケアと介護を同時に必要とする高齢者を受け入れる役割を担っていました。
医療保険の療養病床との違い
「療養病床」という言葉には、医療保険が適用されるものと介護保険が適用されるものがあり、混同されることがあります。介護療養型医療施設(介護療養病床)は、このうち介護保険が適用される施設でした。医療保険が適用される療養病床との詳細な制度上の違いについては情報が限られるため、ここでは「介護保険が適用される療養病床だった」という点を押さえておけば十分です。
対象者・入所要件
この施設が対象としていたのは、どのような人だったのかを見ていきます。
想定される利用者像
介護療養型医療施設は、日常的な医学的管理や看護、痰の吸引・経管栄養といった医療的ケアを継続的に必要としながら、同時に長期的な介護も必要とする高齢者を主な対象としていました。特別養護老人ホームなど生活支援を中心とする施設では対応が難しい、医療必要度の高い方の受け皿という位置づけです。
要介護度と医療必要度
入所にあたっては要介護認定を受けていることが前提であり、実際の利用者は比較的重度の要介護者が中心でした。単に要介護度が高いだけでなく、医師や看護職員による日常的な医学的管理が必要とされる状態であること(医療必要度の高さ。日常的にどれだけ医学的な処置・管理が必要かの度合いを指します)が、他の介護保険施設との違いとして重視されていました。この性質は、後述する移行先の介護医療院にもI型・II型という形で引き継がれています。
なぜ廃止されたのか
介護療養型医療施設が廃止された背景には、医療制度全体の見直しがありました。
2006年の医療制度改革と社会的入院の是正
廃止の方針が決定したのは、2006年(平成18年)の健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)による医療制度改革です。この改革の背景には、医学的には入院治療の必要性が低いにもかかわらず、生活の場としての受け皿がないために入院が長期化する「社会的入院」の是正という課題がありました。介護療養病床は医療と介護の機能が明確に分かれておらず、費用構造の面でも見直しの対象とされ、介護保険サービスとしての介護療養型医療施設は将来的に廃止し、機能を他の施設に整理する方針が打ち出されました。当初の廃止予定は2011年度末(平成23年度末)でした。
廃止期限が2度延長された理由
しかし、当初の期限までに受け皿となる転換先施設の整備が十分に進まなかったことから、廃止期限は延期されることになりました。医療的ケアが必要な高齢者の受け皿を急に失うと利用者・家族が行き場を失いかねないため、国は経過措置を設けながら転換を促す方針をとりました。この経緯から、廃止期限は当初の2011年度末から2017年度末へ、さらにその後2023年度末(実質的には2024年3月末)へと、合計2度延長されています。
廃止までのスケジュールの変遷
廃止までの具体的な年表を確認します。制度の変遷を把握しておくと、家族の入所記録に残る施設名の時期を理解しやすくなります。
2011年度末→2017年度末→2023年度末への延長
介護療養型医療施設の廃止期限は、当初の2011年度末から2017年度末、最終的に2023年度末(2024年3月31日)へと2度にわたり延長されました。最終的な完全廃止時期を示す3本目のバーのみ色を変えて強調しています。
このように、廃止方針の決定から実際の完全廃止までは約18年の歳月を要しました。転換先である介護医療院の整備状況を見ながら、段階的に期限が見直されてきたことが分かります。
2024年3月31日に完全廃止
健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)附則第130条の2第1項の規定にもとづく経過措置期限は、2024年(令和6年)3月31日をもって到来し、介護療養型医療施設はこの日をもって制度上完全に廃止されました。厚生労働省は同年3月29日付の事務連絡「『介護療養型医療施設』の廃止に伴う基準生活費の算定における留意点について」でもこの廃止を前提とした取り扱いを示しています。それ以降、新たに介護療養型医療施設として指定を受けることはできず、既存の施設はすべて介護医療院や介護老人保健施設などへの転換、または医療療養病床への移行を終えています。
移行先「介護医療院」とは
介護療養型医療施設の受け皿として新設されたのが「介護医療院」です。この章では介護医療院の成り立ちと類型を整理します。より詳しい入所条件や費用については介護医療院とは|入所条件・費用の目安とI型II型の違いを厚労省データで解説もあわせてご覧ください。
2018年4月創設の経緯
介護医療院は、介護療養型医療施設の廃止に伴う受け皿として、2018年(平成30年)4月に介護保険法上の新しい介護保険施設として創設されました。特別養護老人ホーム・介護老人保健施設に次ぐ、いわば第4の介護保険施設という位置づけで、「日常的な医学管理」と「看取り・ターミナルケア」といった医療機能に加えて、「生活施設」としての機能もあわせ持つことを目指して設計されています。
I型・II型の違い
介護医療院にはI型とII型の2つの類型があり(両方の機能をあわせ持つ混合型を設置する施設もあります)、それぞれ想定する利用者の医療必要度が異なります。人員配置基準(医師・看護職員・介護職員の配置数)から見ると、I型はII型より医療必要度の高い利用者を想定した類型とされています。II型は、I型と比べて配置基準がやや緩やかで、介護老人保健施設に近い機能を持つ類型とされています。どちらの類型を選ぶかによって、後述する人員配置基準や利用料の目安も変わってきます。
人員配置基準の比較
介護医療院のI型・II型では、医療・介護の専門職の配置基準が異なります。ここでは厚生労働省令「介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(平成30年厚生労働省令第5号)にもとづく基準を確認していきます。
医師・看護職員・介護職員の基準
表の数値は「入所者数を割る数」を示しており、数字が小さいほど、入所者1人あたりに配置される専門職が多い=手厚い体制であることを意味します。
| 職種 | I型 | II型 |
|---|---|---|
| 医師 | 入所者数を48で除した数 | 入所者数を100で除した数 |
| 看護職員 | 型区分なし。全入所者数を6で除した数以上 | |
| 介護職員 | 入所者数を5で除した数 | 入所者数を6で除した数 |
| 薬剤師 | 入所者数を150で除した数 | 入所者数を300で除した数 |
医師は、常勤換算で入所者数をI型は48で除した数、II型は100で除した数を加えて得た数以上を配置することとされ、合計が3未満の場合は3以上とする必要があります。宿直医師を置かない場合は、全入所者数を100で除した数以上とする扱いもあります。看護職員は型区分にかかわらず、全入所者数を6で除した数以上とされています。介護職員は、I型が入所者数を5で除した数、II型が入所者数を6で除した数以上とされており、I型の方がより手厚い配置基準となっています。これらはいずれも常勤換算方法(前年度の平均値)で算定されます。
薬剤師・リハビリ専門職等
薬剤師についても、入所者数をI型は150で除した数、II型は300で除した数を加えて得た数以上を配置することとされています。このほか、入所定員が100人以上の施設では栄養士を1人以上配置することとされ、介護支援専門員は1人以上(入所者100人ごとに1人が標準とされています)配置することとされています。医療必要度の高い利用者を多く受け入れるI型は、医師・薬剤師・介護職員のいずれについてもII型より手厚い配置基準が求められている点が特徴です。
費用の目安
介護医療院の利用にかかる費用は、要介護度や施設の型区分、居室の種類によって幅があります。以下は複数の情報源にもとづくおおまかな目安であり、正確な金額は各施設や自治体、厚生労働省の介護報酬告示で確認する必要があります。
介護医療院の月額費用の内訳
介護医療院の利用料は、介護保険から給付される介護サービス費(1割〜3割の自己負担)に、食費・居住費・日常生活費などが自己負担として上乗せされる仕組みです。この費用構造は他の介護保険施設と共通していますが、実際の金額は型区分(I型・II型)、要介護度、居室タイプ、所得段階による負担軽減の有無によって大きく異なります。具体的な金額は一律に示せるものではないため、正確な金額は厚生労働省の介護報酬告示、または入所を検討する施設・自治体の窓口に確認してください。
要介護度別の1日あたり単位数
介護サービス費は要介護度と型区分によって1日あたりの単位数が異なる仕組みになっており、要介護度が高いほど、また医療必要度の高いI型を利用するほど、この部分の負担は大きくなる傾向があります。単位数は年度ごとの介護報酬改定によって見直されるため、正確な単位数・金額は厚生労働省が公表する介護報酬の告示、または入所を検討する施設に直接確認してください。
既存入所者はどうなったか
制度が廃止されるにあたり、すでに入所していた利用者がどのように扱われたかは、家族にとって特に気になる点でしょう。
みなし指定による経過措置
廃止が決定してから完全廃止に至るまでの間、既存の介護療養型医療施設の指定は自動更新される「みなし指定」の扱いとされ、突然サービスが打ち切られることはありませんでした。この経過措置期間中、国は施設整備補助などの転換支援策を講じ、各施設が介護医療院や介護老人保健施設、医療療養病床などへ計画的に転換できるよう促してきました。結果として、入所していた利用者は転換後も原則として同じ場所で継続的にケアを受けられる形が基本とされていました。
実際の転換状況(施設数の推移)
厚生労働省の令和6年(2024年)「介護サービス施設・事業所調査」によれば、介護医療院の施設数は917施設となり、前年から126施設、率にして15.9%増加しています。介護療養型医療施設からの転換が進んだ結果、受け皿となる介護医療院の整備が着実に進んできたことがうかがえます。
施設選びで注意したい点
制度が廃止された今、実際に施設を探すうえで押さえておきたい点を挙げます。
「介護療養型医療施設」表記が残る古い情報への注意
インターネット上や紙媒体には、廃止前に作成された「介護療養型医療施設」という表記の情報が今も残っていることがあります。すでにこの類型は制度上存在しないため、こうした情報を見かけた場合は、掲載時期が古い可能性を念頭に置き、現在は介護医療院や介護老人保健施設に転換されているかどうかを、施設や自治体の窓口に確認することが大切です。
医療的ケアが必要な場合の施設選びのポイント
痰の吸引や経管栄養など、日常的な医療的ケアが必要な場合は、介護医療院のI型・II型の別や、配置されている医師・看護職員の体制を事前に確認することが重要です。施設によって受け入れ可能な医療的ケアの範囲は異なるため、個別の状態に応じて施設側と十分に相談する必要があります。医療的ケアが必要な方の施設選びについては医療的ケアが必要な人の施設選びでも詳しく取り上げています。
なお、介護保険制度は3年ごとに見直しが行われており、施設の類型や人員配置基準、費用の算定方法は今後も変更される可能性があります。本記事の内容は執筆時点の公表情報にもとづくものであり、実際の利用にあたっては最新の情報を厚生労働省や自治体、各施設に確認してください。また、当サイトは特定の施設を評価・推奨するものではなく、公的情報を並列に整理してお伝えする立場であることを付記します(詳しくは当サイトの立ち位置をご覧ください)。
まとめ
- 介護療養型医療施設は、医療と介護の両方を必要とする高齢者向けの介護保険施設だったが、2024年3月31日をもって完全廃止された。
- 廃止方針は2006年の医療制度改革で決定し、当初2011年度末の予定が2017年度末、2023年度末(2024年3月末)へと2度延長された。
- 受け皿として2018年4月に「介護医療院」が創設され、医療必要度に応じてI型・II型の類型が設けられている。
- 既存の入所者は「みなし指定」による経過措置のもとで、施設の転換にあわせて継続的にケアを受けられる形が基本とされてきた。
- 費用や人員配置は施設の型区分によって幅があるため、正確な内容は厚生労働省の公表資料や各施設・自治体への確認が必要である。