特別養護老人ホーム(特養)は、要介護3以上の方を対象とした公的な介護施設です。民間の有料老人ホームに比べて月額費用が低く抑えられる一方、原則として要介護度が高い方でなければ申し込めないという条件があります。この記事では、入所条件、費用の目安、申し込みから入所までの流れを、厚生労働省が公表する制度情報と統計データにもとづいて解説します。
特別養護老人ホーム(特養)とは何か
特別養護老人ホームとは、介護保険法にもとづく「介護老人福祉施設」の通称です。常時介護が必要で、自宅での生活が困難な高齢者が入所し、食事・入浴・排せつなどの日常生活上の介護や機能訓練、健康管理を受けながら生活する施設です。老人福祉法上の「特別養護老人ホーム」としての位置づけと、介護保険法上の「介護老人福祉施設」としての位置づけが重なり合った施設であり、介護保険サービスを提供する施設の中でも中核的な存在といえます。
特養の目的と運営主体
特養は、社会福祉法人や地方公共団体が運営する公的な性格の強い施設です。入所者の生活の場としての役割を担うため、終身利用(看取りまで)を前提としている点が、リハビリを目的として一定期間だけ入所する介護老人保健施設(老健)と大きく異なります。運営には介護保険の給付(公費)が充てられているため、月額費用が民間の有料老人ホームと比べて低く設定されているのが特徴です。営利を目的とする株式会社等は原則として特養を運営できず、非営利の社会福祉法人が中心となって運営している点も、公的施設としての性格を強めています。
「特養」「介護老人福祉施設」という呼び方の違い
制度上の正式名称は「介護老人福祉施設」で、老人福祉法上の呼び方が「特別養護老人ホーム」です。どちらも同じ施設を指しており、日常会話や施設案内では「特養」という略称が広く使われています。この記事でも以下「特養」と表記します。ケアマネジャーや自治体窓口とやり取りする際は、どちらの呼び方をされても同じ施設のことだと理解しておくと混乱がありません。
全国の施設数と定員の規模
厚生労働省の介護サービス施設・事業所調査によると、2024年(令和6年)時点で全国の特養(介護老人福祉施設)は8,621施設、定員は合計604,469人にのぼります。1施設あたりの定員は平均70.4人、実際の在所者数は66.5人で、利用率は94.5%と高い水準で推移しています。開設主体の95.7%は社会福祉法人が占めており、地域に根ざした非営利の運営が特養の大きな特徴になっています。これだけの規模の施設が全国にある一方で、後述するように依然として希望してもすぐに入所できない地域が少なくありません。
入所条件は原則要介護3以上
特養の入所条件は、2015年(平成27年)4月の制度改正により、原則として要介護3以上の認定を受けていることが必要になりました。それ以前は要介護1から申し込みが可能でしたが、在宅生活が困難な中重度の要介護者を優先的に受け入れる施設として位置づけが明確化されたことによる変更です。
2015年の制度改正で何が変わったか
この改正の背景には、特養の入所希望者が全国的に増加し、比較的介護度の低い方も申し込んでいたことで、真に施設介護を必要とする中重度者の入所が難しくなっていたという課題がありました。改正後は、新規入所者を要介護3以上の方に限定することで、在宅生活の継続が困難な方を優先的に受け入れる仕組みに切り替えられています。すでに要介護1・2で入所していた方が退所を求められることはありません。この改正の効果もあり、後述するとおり全国の入所申込者数はピーク時から大きく減少する傾向にあります。
40〜64歳でも入所できる特定疾病のケース
介護保険の第2号被保険者にあたる40歳から64歳までの方でも、末期がんや関節リウマチ、初老期における認知症など介護保険が定める16種類の特定疾病が原因で要介護3以上の認定を受けている場合は、特養に入所できます。年齢だけで対象外になるわけではない点に注意してください。特定疾病に該当するかどうかは主治医意見書等で判断されるため、まずは要介護認定の申請を行うことが出発点になります。認定の仕組み全体については要介護認定とはどんな制度かを解説した記事で詳しく説明しています。
要介護1・2でも入所できる「特例入所」
要介護3以上が原則ですが、やむを得ない事情がある場合に限り、要介護1・2の方でも入所が認められる「特例入所」という仕組みがあります。在宅生活の継続が著しく困難と市区町村が判断した場合に適用されるもので、一律に入所できないわけではありません。
特例入所が認められる要件
特例入所の判断要素としては、認知症により日常生活に支障をきたす症状・行動が頻繁に見られること、知的障害・精神障害等を伴い日常生活に支障をきたす症状・行動が頻繁に見られること、家族等による深刻な虐待が疑われるなどにより心身の安全・安心の確保が困難な状況にあること、単身世帯である、同居家族が高齢・病弱である等の理由により家族等による支援が期待できず、かつ、在宅サービスの利用だけでは生活が困難であることなどが挙げられます。市区町村や施設の入所検討委員会が個別に総合的に判断するため、要件を機械的に満たせば必ず入所できるというものではなく、あくまで総合判断であることを理解しておく必要があります。
特例入所の申請から判定までの流れ
特例入所を希望する場合も、通常の入所申し込みと同じく、まず施設に直接申し込みを行います。施設側は、都道府県が定める指針にもとづき、市区町村の意見も踏まえながら特例入所の該当性を判断します。該当しないと判断された場合は、要介護1・2のままでは入所できません。ケアマネジャーに相談しながら、他の在宅サービスや介護老人保健施設なども含めて検討することが望ましいでしょう。特例入所の審査には一定の時間がかかることも多いため、在宅での生活が限界に近づいている場合は早めに相談を始めることが望ましいでしょう。
特養の費用の目安
特養の費用は、施設サービス費・居住費・食費・日常生活費の合計で構成されます。所得や部屋のタイプ(多床室・従来型個室・ユニット型個室等)によって差がありますが、月額の目安はおおむね5万円台から15万円程度です。
施設サービス費(自己負担1割の場合)
施設サービス費は要介護度と居室タイプに応じて介護報酬が定められており、自己負担割合が1割の方の場合、月額でおおむね2万円台から3万円台が目安となります。要介護度が高いほど、また個室の方が多床室よりもこの部分の費用はやや高くなる傾向があります。自己負担割合は所得に応じて1〜3割に分かれており、詳しくは介護保険の自己負担割合の記事で解説しています。施設タイプ別の費用の違いは老人ホームの費用相場の記事でも比較しています。
居住費・食費と負担限度額認定証
居住費と食費は原則として全額自己負担ですが、多床室であれば居住費を低く抑えられます。また、住民税非課税世帯など一定の所得・資産要件を満たす方は「介護保険負担限度額認定証」の交付を受けることで、居住費・食費の自己負担額に上限が設けられる負担軽減制度があります。この制度を利用できるかどうかで、月々の実質的な負担額が数万円単位で変わることも珍しくないため、所得が高くない場合は必ず市区町村の介護保険担当窓口で申請の要否を確認しておきましょう。
多床室とユニット型個室の費用差
特養の居室タイプには、複数人で一部屋を共有する「多床室(従来型)」と、個室で少人数単位のケアを受ける「ユニット型個室」があります。ユニット型個室はプライバシーが確保しやすい一方、居住費が多床室より高く設定されており、月額で1万円台〜数万円程度の差が出ることがあります。費用を抑えたい場合は多床室を中心に検討し、プライバシーや個別ケアを重視する場合はユニット型個室を検討するなど、本人の希望と家計のバランスで選ぶことになります。
ユニット型個室と従来型多床室の違い
特養の居室タイプは大きく「ユニット型個室」と「従来型(多床室・個室)」に分かれます。費用の目安は前述のとおりですが、ここでは居室面積や人員配置など、費用の差を生んでいる制度上の基準を具体的に見ていきます。
居室面積とユニットの定員基準
厚生労働省が定める「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年3月31日厚生省令第39号)では、ユニット型個室の1居室あたりの床面積を1人当たり10.65平方メートル以上(2人部屋の場合は21.3平方メートル以上)と定めています。従来型の多床室についても、入所者1人当たりの床面積は10.65平方メートル以上とされており、面積の最低基準自体は同水準です。両者の違いは面積そのものよりも、複数人で居室を共有するか個室かという点と、後述する人員配置・ケアの単位にあります。同基準では1ユニットあたりの入居定員を「原則としておおむね10人以下とし、15人を超えないもの」と定めており、少人数の生活単位で日常生活を営めるようにする点がユニット型の特徴です。
人員配置とケアの単位の違い
法律上の人員基準では、介護職員及び看護職員の総数は「入所者の数が3又はその端数を増すごとに1以上」と定められており、この基準自体はユニット型・従来型で共通です。ただし、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会に提出された資料によれば、実際の配置は入所者2人に対して職員1人程度となっており、法定基準(3対1)よりも手厚く配置している施設が多いのが実態です。特にユニット型施設では、ユニットケアを実践するための研修を修了した「ユニットリーダー」を専従で配置することが求められるなど、従来型(多床室型)よりも多くの人員配置を要する運用になっています。
個室ユニット化率の推移と政策目標
厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」にもとづく資料によると、介護老人福祉施設全体に占める個室ユニット化率(定員数ベース)は次のように推移してきました。
| 年度 | 個室ユニット化率(定員数ベース) |
|---|---|
| 平成18年 | 14.8% |
| 平成20年 | 21.2% |
| 平成22年 | 25.4% |
| 平成24年 | 32.3% |
| 平成26年 | 37.3% |
| 平成28年 | 41.7% |
| 平成29年 | 43.6% |
国は「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(平成30年3月13日厚生労働省告示第57号)において、都道府県に対し、2025年度までに指定介護老人福祉施設等の入所定員に占めるユニット型施設の割合を70%以上とすることを目標として定めるよう努めるものとしています。平成29年時点の実績(43.6%)はこの目標値を下回る水準にとどまっており、地域によってユニット型の整備状況には差があります。
特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)の仕組み
費用の目安のところで触れた「介護保険負担限度額認定証」について、対象となる要件と実際の軽減額をより具体的に確認します。この制度は、所得や資産が一定基準以下の方について、居住費・食費の自己負担に上限を設けるものです。特養に限らず、介護老人保健施設・介護医療院への入所や、短期入所生活介護(ショートステイ)の利用でも同様の仕組みが適用されます。
対象となる所得・資産の要件(第1〜第4段階)
厚生労働省の介護保険最新情報(令和8年5月29日付Vol.1506)によると、利用者負担段階は所得と預貯金等の資産の両方の基準で区分されています。
| 利用者負担段階 | 主な対象者 | 預貯金等の要件(単身/夫婦) |
|---|---|---|
| 第1段階 | 生活保護受給者等、世帯全員が市町村民税非課税の老齢福祉年金受給者 | 1,000万円以下/2,000万円以下 |
| 第2段階 | 世帯全員が市町村民税非課税で、年金収入額+合計所得金額が82.65万円以下 | 650万円以下/1,650万円以下 |
| 第3段階① | 世帯全員が市町村民税非課税で、年金収入額+合計所得金額が82.65万円超〜120万円以下 | 550万円以下/1,550万円以下 |
| 第3段階② | 世帯全員が市町村民税非課税で、年金収入額+合計所得金額が120万円超 | 500万円以下/1,500万円以下 |
| 第4段階 | 市区町村民税課税世帯 | 制度の対象外 |
第4段階(市区町村民税課税世帯)はこの制度の対象外となり、居住費・食費は基準費用額どおりの全額自己負担になります。所得だけでなく預貯金等の資産要件も設けられている点が、この制度の特徴です。
食費・居住費の負担限度額(居室タイプ別)
令和8年8月からの基準額にもとづくと、特養(介護老人福祉施設)における食費・居住費の1日あたりの負担限度額はおおむね次のとおりです。
| 区分 | 基準費用額(目安) | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② |
|---|---|---|---|---|---|
| 食費 | 1,545円 | 300円 | 390円 | 680円 | 1,420円 |
| 居住費(多床室) | 915円 | 0円 | 430円 | 430円 | 530円 |
| 居住費(従来型個室) | 1,231円 | 380円 | 480円 | 880円 | 980円 |
| 居住費(ユニット型個室) | 2,066円 | 880円 | 880円 | 1,370円 | 1,470円 |
基準費用額と負担限度額の差額は、介護保険から「特定入所者介護サービス費」として給付される仕組みです。なお、令和8年8月からは第3段階①・②に該当する方について食費が日額30〜60円、一部の方を除き居住費が日額100円引き上げられており、基準額は年金額改定などにあわせて見直されることがあります。
申請方法と低所得者が占める割合
この認定を受けるには、住民票のある市区町村の介護保険担当窓口に「介護保険負担限度額認定申請書」を提出し、「介護保険負担限度額認定証」の交付を受ける必要があります。認定の可否は毎年8月1日時点の所得・資産状況にもとづいて判定される仕組みになっており、状況が変わった場合は改めて申請が必要です。厚生労働省の資料によれば、介護老人福祉施設の入所者のうち低所得者(第1〜第3段階、市町村民税非課税世帯)が全体の約70%を占めており、多くの入所者にとってこの軽減制度が実質的な負担額を左右する重要な仕組みになっています。
特養に入所するまでの流れ
特養は原則として先着順ではなく、必要性の高い方から優先的に入所する仕組みが取られています。そのため、申し込みをしてもすぐに入所できるとは限りません。
申し込み先と必要書類
入所を希望する特養に直接申し込みます。複数の施設に同時に申し込むことも可能です。申し込みには、入所申込書のほか、介護保険被保険者証の写し、主治医の意見書、健康診断書などが必要になるのが一般的です。詳細は各施設や市区町村の介護保険担当窓口に確認してください。まず要介護認定を受けていることが前提になるため、認定を受けていない場合は先に申請が必要です。
入所の優先順位はどう決まるか
多くの施設では、要介護度の高さ、在宅介護の困難さ(介護者の有無、住環境等)、申し込みからの経過期間などを点数化し、入所検討委員会で優先順位を決定しています。申し込み順に入所できるわけではないため、「早く申し込んだのに順番が来ない」という状況が起こり得ます。複数の候補地域・施設を検討しておくことが現実的な対策になります。厚生労働省の調査では、要介護3以上の入所申込者数は令和4年度で約25.3万人となっており、前回の平成31年4月調査時点の約29.2万人から13.5%減少しています。2013年度の調査でピーク(約52.4万人)を記録して以降、2015年の入所条件厳格化などを背景に申込者数は減少傾向にありますが、地域によっては依然として一定の待機が生じています。
入所の優先順位を判定する仕組み(重点化基準)
特養は先着順ではなく、必要性の高い方を優先する仕組みが取られていることは前述のとおりです。ここでは、その判定の根拠となる国の指針の具体的な内容を確認します。
点数化される具体的な要素
厚生労働省の通知「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について」(平成26年12月12日老高発第1212001号)では、入所の必要性を判断する際、要介護度を勘案することに加え、「家族の状況」として単身世帯か否か、同居家族が高齢又は病弱か否かなどを勘案することが考えられるとしています。特例入所の該当性についても、認知症により日常生活に支障を来す症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られること、知的障害・精神障害等を伴い同様の症状が頻繁に見られること、家族等による深刻な虐待が疑われることなどにより心身の安全・安心の確保が困難であること、単身世帯であるなど家族等による支援が期待できず地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分であることの4つの事情が具体的に示されています。この通知は厚生労働省から都道府県を通じて示されたものであり、具体的な点数配分や優先順位の基準は、都道府県ごとの運用方針を踏まえて施設ごとに定められています。そのため、同じ要介護度・同じ家庭状況であっても、施設や地域によって優先順位の付き方が異なることがあります。
入所検討委員会の設置と市町村への報告
同指針では、施設に入所の検討を行うための委員会を設け、入所の決定はその合議によるものとすることが定められています。委員会は施設長のほか、生活相談員、介護職員、看護職員、介護支援専門員など各職種で構成されます。また、施設が特例入所の要件に該当すると判断した場合は、保険者である市町村に対して報告を行うとともに、必要に応じて意見を求める仕組みになっています。優先順位の判定が施設だけの判断に委ねられないよう、複数の職種による合議と行政への報告という手続きが組み込まれている点が特徴です。
市区町村が把握する空き状況の実態
厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会(第105回、令和4年12月19日)に示された調査結果(令和4年度老人保健健康増進等事業、39都道府県の速報値)によれば、広域型の特養について、市町村の44.8%が「施設によっては空きがある」、26.5%が「基本的に全ての施設で満員」、11.6%が「時期によっては空きがある」、2.0%が「常に空きがある」と回答しています。地域密着型の特養についても、24.2%が「基本的に全ての施設で満員」、47.0%が「施設によっては空きがある」、12.7%が「時期によっては空きがある」、2.1%が「常に空きがある」と回答しており、広域型とほぼ同様の傾向がみられます。また、特例入所の運用状況については87.4%の市町村が「運用されている」と回答しており、指針が定められていても実質的に運用されていないと回答した市町村も一定数存在します。全国一律に満員というわけではなく、地域や施設によって空き状況にはばらつきがあることがうかがえます。
特養と他の介護施設との違い
特養以外にも公的・民間の介護施設にはいくつかの種類があります。目的や費用感が異なるため、違いを理解しておくと施設選びの判断がしやすくなります。
介護老人保健施設(老健)との違い
介護老人保健施設(老健)は、在宅復帰を目指すリハビリテーションを主目的とした施設で、入所期間は原則3か月ごとの見直しを伴う一時的な利用が前提です。一方、特養は終身利用を前提とした生活の場という位置づけの違いがあります。要介護度の条件も、老健は要介護1から利用できる点が特養と異なります。医師や理学療法士等のリハビリ専門職の配置が手厚いことも老健の特徴で、退院直後にリハビリを集中的に行いたい場合には老健、長期的な生活の場を求める場合には特養、という使い分けがされることが一般的です。
有料老人ホームとの違い
有料老人ホームは民間事業者が運営し、要介護度にかかわらず入居しやすく、居室や設備のグレードも幅広い一方、月額費用は特養より高くなる傾向があります。入居一時金が必要な施設も多くあります。入所条件を満たさない、あるいは特養の空きを待つ間の選択肢として検討されることもあります。施設選び全般のポイントは老人ホームの選び方を解説した記事にまとめています。
看取り対応の実施状況と体制
特養は生活の場として終身利用を前提としているため、多くの入所者が施設で最期を迎える「終の棲家」としての役割も担っています。ここでは、看取りに関する加算の仕組みと、実際の実施状況を確認します。
看取り介護加算の算定要件
介護報酬上、看取りへの対応を評価する「看取り介護加算」が設けられています。加算(Ⅰ)の算定には、常勤の看護師を1名以上配置し、施設の看護職員又は医療機関・訪問看護ステーションの看護職員との連携により24時間連絡できる体制を確保していること、看取りに関する指針を定め入所時に本人・家族へ説明し同意を得ていること、看取りに関する職員研修を行っていること、看取りの際に個室又は静養室を利用できるよう配慮していることなどが要件になります。単位数は死亡日以前30日から4日までが1日144単位、死亡日前々日・前日が1日680単位、死亡日が1日1,280単位です。さらに配置医師との24時間対応体制など上乗せの要件を満たす場合は、より手厚い看取り介護加算(Ⅱ)(死亡日1,580単位など)が算定されます。
特養における看取り実施の実態データ
厚生労働省の調査研究事業(令和元年度老人保健健康増進等事業「介護老人福祉施設における看取りのあり方に関する調査研究事業」、回答施設数488)によると、2019年1月から6月までの累計で、看取り介護加算の算定を行っている特養は約63%でした。一方、加算の届出をしていない、又は算定件数が0件だった施設にその理由を尋ねたところ、「加算を算定する要件を満たすことが困難であった」と回答した施設が約46%で最も多くなっています。また、厚生労働省の「介護給付費実態統計」(令和元年10月分)にもとづく広域型施設の加算算定率をみると、看取り介護加算(Ⅰ)は15.96%〜17.06%、配置医師との連携などより手厚い要件を満たす加算(Ⅱ)は4.99%〜5.38%にとどまっており、加算を算定している施設の中でも取得している区分にはばらつきがあります。全ての特養が同じ水準の看取り体制を整えているわけではなく、施設によって実施状況に差があることがうかがえます。
看取り対応を確認する際に見ておきたい点
看取りへの対応状況は、看護職員の配置時間(日中のみか24時間体制か)、協力医療機関や配置医師との連携体制、看取りに関する指針の有無、個室や静養室を利用できる環境が整っているかといった点で施設ごとに差があります。将来的に施設での看取りを希望する場合は、申し込みの段階でこれらの体制について確認しておくと、入所後の見通しを立てやすくなります。医療的ケアへの対応範囲については、次の「対応できる医療的ケアには範囲がある」の項目もあわせて確認してください。
入所前に確認しておきたい注意点
特養への入所を検討する際に見落としがちな点を整理します。
待機期間が発生する可能性がある
都市部を中心に、申し込みをしてから実際に入所できるまで数か月から年単位の待機が発生する地域があります。在宅介護や訪問介護サービスを併用しながら待機するケースも珍しくありません。前述のとおり全国の申込者数自体は減少傾向にありますが、これは地域差が大きいため、住んでいる地域の実際の待機状況はケアマネジャーや施設に直接確認するのが確実です。早めの情報収集と複数施設への申し込みが重要になります。
対応できる医療的ケアには範囲がある
特養は医療機関ではないため、配置されている看護職員による対応が可能な範囲(服薬管理、経管栄養、喀痰吸引など)を超える高度な医療的ケアが常時必要な場合は、入所が難しいことがあります。持病の状況によっては、事前に施設の医療体制(看護職員の配置時間、協力医療機関の有無等)を確認しておく必要があります。近年は喀痰吸引等の研修を修了した介護職員が対応できる範囲も広がっているため、気になる場合は個別に施設へ確認するとよいでしょう。
まとめ
- 特養(介護老人福祉施設)は原則要介護3以上が入所条件。2015年の制度改正で要介護1・2からは原則入所できなくなった
- 全国に8,621施設・定員約60万人(2024年時点)と規模は大きいが、利用率は94.5%と高く、地域によっては待機が発生する
- やむを得ない事情がある場合は要介護1・2でも「特例入所」が認められることがある
- 費用は施設サービス費・居住費・食費の合計で、月額の目安はおおむね5万円台〜15万円程度。所得が低い方は負担限度額認定証で軽減できる
- 入所は先着順ではなく必要性の高さで優先順位が決まる仕組みのため、複数施設への申し込みが現実的な対策になる