介護保険の市町村特別給付は、国が定める介護給付・予防給付とは別に、市町村が条例で任意に行う保険給付です。紙おむつの支給や配食、移送支援などが例ですが、令和6年度に実施していたのは1,571保険者(介護保険を運営する市町村など)のうち147(9.4%)で、約1割にとどまります。法律上の位置づけ、横出しと上乗せの違い、財源、似た制度との違い、確認先を公的資料で整理します。
制度や条例は改定されることがあります。実際に使えるかは、お住まいの市区町村の最新の案内で確認してください。
市町村特別給付とは
定義と根拠条文
介護保険法第18条は、保険給付を次の3つに分けています。
- 介護給付
- 予防給付
- 前二号に掲げるもののほか、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資する保険給付として条例で定めるもの(これが市町村特別給付)
実施の根拠は第62条です。
市町村は、要介護被保険者又は居宅要支援被保険者に対し、前二節の保険給付のほか、条例で定めるところにより、市町村特別給付を行うことができる。
「行うことができる」という書き方のとおり、実施は義務ではなく、各市町村の判断に任されています。
よくある誤解
- 誤解:国が全国一律で用意している特別なサービスだ。
実際は:市町村が条例で任意に行うもので、実施していない市町村が多数です。対象は条文上、要介護被保険者と居宅要支援被保険者です。 - 誤解:自治体の高齢者向けサービスはすべて特別給付だ。
実際は:保健福祉事業や地域支援事業、自治体の一般施策として行われているものもあり、名称だけでは区別できません。違いは似た制度との違いで整理します。
介護保険の給付3種類の中での位置づけ
介護給付・予防給付・市町村特別給付
介護給付は要介護1〜5の人、予防給付は要支援1・2の人が受ける給付で、サービスの種類や基準は法律などで全国共通に定められています。市町村特別給付は、この2つに「加えて」市町村が条例で定める第3の給付です。
条例で定めるという意味
特別給付は条例で定められるため、サービスの内容、対象者、自己負担、事業者への支払い単価などが市町村ごとに異なります。同じ名前のサービスでも、隣の市では実施していない、条件が違うということが起こります。全国共通の制度説明だけで判断せず、お住まいの市区町村の条例や介護保険事業計画を見る必要があります。
横出しと上乗せの違い
横出し:法定給付にないサービスを追加する
仙台市の資料では、横出しは介護給付・予防給付以外のサービスを市町村が独自に加えるものと説明されています。
上乗せ:支給限度額を引き上げる
上乗せは、介護保険法第43条第3項にもとづく仕組みです。市町村は条例で、国が定める区分支給限度基準額(介護度ごとに保険で使えるサービス量の上限額)に代えて、それを超える額を市町村の限度基準額として定められます。サービスの種類を増やすのが横出し、保険で使える上限額を引き上げるのが上乗せです。
厚生労働省の事務調査では、上乗せは「居宅サービス区分」「福祉用具購入費」「住宅改修費」に分けて集計されています。限度基準額の仕組みは区分支給限度基準額を解説した記事で説明しています。限度額内は原則として自己負担割合に応じた負担、超過分は全額自己負担になります。自己負担の割合は、市区町村の案内で確認してください。
種類支給限度基準額の上乗せ
区分支給限度基準額のほかに、サービスの種類ごとの支給限度基準額(第43条第5項関係)があります。この上乗せを実施している保険者は、令和5年度・令和6年度の調査とも0でした。
財源と保険料への影響
自治体資料では第1号保険料で賄われると説明
多摩市の資料(令和5年11月22日)には、特別給付の財源はすべて第1号被保険者(65歳以上)の保険料、つまり第1号保険料で賄われ、実施すると第1号保険料に影響する、と説明されています。仙台市の資料も同じ趣旨で、法定給付は公費50%・第1号保険料20%・第2号保険料30%(資料作成当時)、横出しなどは第1号保険料100%とされています。
国や都道府県の負担の有無を直接定めた公式資料は、今回確認できませんでした。また、資料が説明するのは第1号保険料(65歳以上)が財源という点です。第2号保険料(40〜64歳)への影響は、今回確認した資料には記載がありません。
仙台市の試算例
仙台市は、平成22年度の実績をもとに、特別給付を実施した場合の第1号保険料(1人あたり年額)の増加を試算しています。10年以上前の試算で現在の金額ではありませんが、サービスによって影響の大きさが大きく違うことがわかります。
| サービス | 保険料年額の増加(1人あたり) |
|---|---|
| 寝具洗濯 | 3円 |
| 訪問理美容 | 9円 |
| 緊急ショートステイ | 40円 |
住民意識の例
同じ仙台市の実態調査(古い時点のもの)では、次の回答がありました。
- 現状のままでよい:44.4%
- 保険料が上がっても独自サービスを充実してほしい:9.8%
保険料負担とサービスの充実をどう考えるかは、住民の間でも分かれるテーマです。
どんなサービスがあるか
平成22年度調査の内訳(時点に注意)
全国の内訳は、仙台市の資料に転載された平成22年度の厚生労働省調査があります。実施は141保険者で、サービス別(重複あり)の上位は、紙おむつ支給68、配食42、移送29でした。
図は平成22年度時点の過去のデータです。令和6年度の事務調査には同様の内訳表がなく、現在の内訳は今回の資料では確認できません。サービス名は過去の例として受け止めてください。
多摩市の移送支援(階段昇降の介助)
多摩市の資料によると、移送支援は平成25年10月に開始されました。内容は次のとおりです。
- 対象:要介護2以上で、車椅子または歩行が著しく困難な方。玄関先から最寄りの車道まで5m以上の段差がある場合(中層住宅の3階以上が目安)
- 利用者負担:一律1割
- 報酬単価:片道1回2,050円に従事者数を掛けた額
- 要件:通所介護・通所リハビリテーション利用時の移送では、納期限を過ぎた保険料を完納していること
利用実人数は第8期の間で月5人前後ですが、第9期(令和6〜8年度)も継続し、単価を改定する方向と資料に示されています。
品川区の要支援者夜間対応
品川区の資料では、要介護から要支援に変わっても夜間対応型訪問介護を引き続き受けられる「要支援者夜間対応」が特別給付として示されています。介護度が変わってもこれまでの夜間の見守りや訪問を続けたい人向けの給付です。ただし、これらは各自治体の一例で、他の市区町村で同じサービスが受けられるとは限りません。
全国の実施状況
令和6年度の実施状況
厚生労働省の介護保険事務調査(各年4月1日現在、全1,571保険者)によると、令和6年度に市町村特別給付を実施していたのは147保険者(9.4%)でした。上乗せは20保険者(1.3%)で、内訳は居宅サービス区分7、福祉用具購入費2、住宅改修費12です(内訳は重複を含む場合があり、合計が20と一致しないことがあります)。保健福祉事業は361保険者(23.0%)で、令和7年12月23日に公表されています。
令和3年度・5年度との比較
| 年度 | 特別給付 | 上乗せ | 保健福祉事業 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 本記事では未確認 | 本記事では未確認 | 258(16.4%) |
| 令和5年度 | 137(8.7%) | 19(1.2%) | 314(20.0%) |
| 令和6年度 | 147(9.4%) | 20(1.3%) | 361(23.0%) |
数字の読み方
特別給付を実施している保険者は約1割で、9割ほどは実施していません。「お住まいの市区町村にあるはず」とは考えず、確認が必要です。また、これは保険者数の割合であり、人口の割合ではありません。
令和5年度の調査では、地域支援事業以外で行う栄養改善を目的とした配食・見守り事業が311保険者(19.8%)、福祉用具・住宅改修支援事業が843保険者と報告されています。これらは特別給付とは別枠の事業として集計されたものです。
似た制度との違い
保健福祉事業との違い
保健福祉事業は特別給付とは別枠の制度です。実施保険者は特別給付より多く、令和6年度は361(23.0%)でした。財源や事業内容は、今回確認した資料では説明がないため、本記事では扱いません。
地域支援事業(総合事業・任意事業)との違い
地域支援事業は、市町村が介護保険の枠組みで行う事業です。厚生労働省の概要資料によると、総合事業では、予防給付の訪問介護・通所介護が地域支援事業へ移行しています(平成29年度末までに完了)。この移行分の財源構成は給付と同じ構成と説明されています。サービス例には配食に見守り・安否確認を組み合わせたものがあります。任意事業の財源は今回の資料で確認していません。
| 制度 | 位置づけ | 財源 | 令和6年度実施数 |
|---|---|---|---|
| 特別給付 | 条例で行う保険給付(法第18条第3号・第62条) | 自治体資料では第1号保険料 | 147(9.4%) |
| 保健福祉事業 | 特別給付とは別枠の制度 | 本記事では未確認 | 361(23.0%) |
| 地域支援事業(総合事業) | 市町村が介護保険の枠組みで行う事業 | 給付と同じ財源構成(厚労省資料) | 本記事では未確認 |
| 地域支援事業(任意事業) | 市町村が行う事業 | 本記事では未確認 | 本記事では未確認 |
同じ「配食」でも、特別給付か総合事業か任意事業かで、財源も対象者も変わりえます。詳しくは総合事業の解説や地域支援事業の解説を参照してください。仙台市の資料では、特別給付を実施しない理由として、多くのサービスが介護保険外の施策や地域支援事業ですでに行われていることが挙げられています。
自治体の一般施策との違い
配食や紙おむつの支給は、自治体が一般施策(介護保険の外の高齢者福祉)として行っていることもあります。埼玉県の資料には、市町村が独自にサービス内容(紙おむつ支給など)を定めて提供している場合があり、それが市町村特別給付である、と説明されています。紙おむつ支給のすべてが特別給付というわけではありません。
利用するには
自己負担は自治体ごとに決まる
自己負担は条例などで決まり、自治体によって異なります。多摩市の移送支援は一律1割ですが、これは多摩市の例です。
確認先:市区町村窓口・地域包括支援センター・ケアマネジャー
- 市区町村の介護保険担当窓口:最初の確認先です
- 担当のケアマネジャー:目安として、要介護認定を受けている方の相談先です
- 地域包括支援センター:目安として、認定前の方や相談先に迷う方の窓口です。要支援の方のケアプランも担当します
「特別給付はありますか」に加え、「介護保険の独自サービスや、保険外の高齢者向け福祉サービスはありますか」と幅広く尋ねると、一般施策や総合事業も含めて案内を受けやすくなります。
利用の流れの目安
まず窓口か地域包括支援センターに連絡し、独自サービスの有無と対象・負担の条件を聞きます。使えそうなサービスがあれば、内容を担当のケアマネジャーに共有し、ケアプランへの反映を相談します。特別給付とケアプランや限度額との関係は、今回確認した公式資料に記載がなく、自治体ごとに異なる可能性があるため、窓口で確認してください。
住まいの自治体の条例で確認する
特別給付は条例で定められます。実施の有無や内容は、市区町村のウェブサイトで条例や介護保険事業計画を確認できる場合があります。
注意点・よくある失敗
確認は、次の順番で進めると行き違いを防げます。
他の自治体の情報をそのまま当てはめる
ネット上の体験談や他の市の例を見て「自分の市でも使える」と思い込むのは典型的な失敗です。実施は約1割の保険者のみで、条件も自治体ごとに違います。引っ越した場合も、同じサービスが引き継がれるとは限りません。
古い情報を現在のものと誤解する
平成22年度の内訳や仙台市の試算は10年以上前のもので、サービス内容・単価・財源の割合は変わりえます。最新の情報は自治体の資料で確認してください。
要件・手続きを確認せずに申し込む
多摩市の例では、通所介護・通所リハビリテーション利用時の移送で保険料の完納が要件とされていました。対象の要介護度や住居の状況など、細かな条件が付くことがあります。申し込み前に、対象者・負担額・手続きを窓口で確かめましょう。
まとめ
- 市町村特別給付は、介護保険法第18条第3号・第62条にもとづき、市町村が条例で任意に行う保険給付です。
- 横出しは法定にないサービスの追加、上乗せは法第43条第3項にもとづく支給限度額の引き上げで、別の仕組みです。
- 自治体資料では、財源は第1号保険料で、実施すると第1号保険料に影響すると説明されています。
- 令和6年度の実施は147保険者(9.4%)、上乗せは20保険者(1.3%)で、多くの市区町村は実施していません。
- 保健福祉事業、地域支援事業、一般施策と混同しやすいため、窓口で確かめましょう。
確認の順番は、(1)市区町村の窓口か地域包括支援センターで独自サービスの有無を聞く、(2)条例や介護保険事業計画で内容を見る、(3)対象・負担などの要件を確認する、です。制度は改定されることがあるため、最新情報は市区町村の公表資料で確認してください。編集方針はこのサイトの立ち位置をご覧ください。