訪問介護の特定事業所加算とは、研修や情報共有の体制、人材の構成、重度の方への対応といった要件を満たした訪問介護事業所が、基本の介護報酬に上乗せして算定できる加算です。
令和6年度(2024年度)の改定後は区分I〜Vの5つがあり、加算率は20%・10%・10%・3%・3%です。
利用者の自己負担は原則として費用の1割なので、身体介護30分以上1時間未満(387単位)なら、加算Iで1回あたり約77円の増加が目安になります。この記事では、区分ごとの違い、要件の中身、負担額の計算例、事業所の確認方法を、厚生労働省や自治体の資料にもとづいて整理します。
介護保険の報酬や要件は3年ごとの改定などで変わることがあります。ここに書いた内容は執筆時点で確認できた資料にもとづくものです。実際に利用する際は、最新の情報を事業所、担当のケアマネジャー、お住まいの自治体で確認してください。
特定事業所加算とは何か
まず、加算が設けられている目的と、基本報酬との関係を確認します。
加算が設けられている目的
特定事業所加算は、質の高い訪問介護を提供できる体制を整えている事業所を、報酬の面で評価する仕組みです。令和6年度の改定では、重度の方(看取り期の方を含む)への対応や、中山間地域などでサービスを継続して提供する取り組みを評価する方向で要件が見直されました(山梨県が公開している改定説明資料、厚労省 社会保障審議会介護給付費分科会の資料)。
この加算は「ヘルパー個人の腕前」を直接評価するものではなく、事業所としての体制、人材の構成、対応実績といった項目を要件にしています。要件を満たして届出をした事業所だけが算定できます。
基本報酬との関係
加算は、基本報酬(サービスの提供時間などで決まる単位数)に対して、一定の割合を上乗せする形で計算されます。令和6年度改定後の基本報酬は次のとおりです。
| 区分 | 時間 | 単位数 |
|---|---|---|
| 身体介護 | 20分未満 | 163単位 |
| 身体介護 | 20分以上30分未満 | 244単位 |
| 身体介護 | 30分以上1時間未満 | 387単位 |
| 身体介護 | 1時間以上1時間30分未満 | 567単位(以降30分ごとに+82単位) |
| 生活援助 | 20分以上45分未満 | 179単位 |
| 生活援助 | 45分以上 | 220単位 |
たとえば加算I(20%)の事業所で身体介護30分以上1時間未満を使うと、387単位に20%を乗じた分が上乗せされます。サービスの内容や時間が変わるわけではなく、同じサービスに対する報酬の計算が変わる、と考えると分かりやすいでしょう。訪問介護の基本的な仕組みは、訪問介護とはで解説しています。
よくある誤解
- 「加算がある事業所に頼むと、サービスの量が増える」わけではありません。同じ内容のサービスに対する報酬計算が変わるだけです。
- 「加算の区分が大きいほど質が高い」と単純に比べることはできません。この点は確認方法の章で触れます。
- 「利用者が申請する」ものではありません。事業所が指定権者に届出をして算定する加算です。
区分I〜Vの加算率一覧
区分ごとの加算率と、令和6年度改定での変更点、併算定のルールを整理します。
5つの区分と加算率
令和6年度改定後の特定事業所加算は、次の5区分です。加算率は、基本報酬(その月のサービスごとの単位数)に対する割合です。
| 区分 | 加算率 | 求められる要件の柱 |
|---|---|---|
| 加算I | 20% | 体制・人材・重度者対応の3本柱 |
| 加算II | 10% | 体制・人材(重度者対応は求められない) |
| 加算III | 10% | 体制・人材・重度者対応の3本柱 |
| 加算IV | 3% | 体制・人材(重度者対応は求められない) |
| 加算V | 3% | I〜IVとは別枠の要件 |
柱の中身は、次の章以降で順に見ていきます。
令和6年度改定での変化
令和6年度の改定で、区分の構成が変わりました。従来の加算IV(5%)は廃止され、従来の加算Vが新しい加算IV(3%)になり、新たに加算V(3%)が設けられました(山梨県の改定説明資料、厚労省の分科会資料)。インターネット上には改定前の情報も残っているため、「加算IVは5%」といった古い記述を見かけたら、改定前のものの可能性があります。
併算定のルール
- 同一区分を重複して算定することはできません。
- 加算Vは、他の区分と併せて算定できる場合があります。ただし、特別地域加算や中山間地域等の加算とは併せて算定できません。
各区分の要件の骨子
各区分の要件は、大きく3つの柱に分けて考えると理解しやすくなります。
要件は「体制」「人材」「重度者対応」の3本柱
- 体制要件:研修、会議、文書での指示と報告、健康診断、緊急時対応、看取り期の対応方針など、事業所の運営の仕組みに関する要件
- 人材要件:介護福祉士などの資格を持つ職員の割合や、勤続年数の長い職員の割合に関する要件
- 重度者対応要件:要介護度や認知症の程度が重い方、医療的なケアが必要な方への対応、または看取り期の方への対応実績に関する要件
区分ごとにどの柱を求められるか
加算IとIIIは、体制・人材・重度者対応の3本柱を求められます。加算IIとIVは重度者対応要件を求められず、体制と人材の要件が中心です。加算Vは、I〜IVとは別枠の要件で定められています。どの基準がどの区分に対応するかといった細かな組み合わせは、国の通知や自治体の資料で確認してください。
加算Vの位置づけ
加算Vには、中山間地域等での実績に関する扱いがあります。厚労省のQ&A(令和6年度介護報酬改定に関するQ&A Vol.1)では、中山間地域等の実績は、前3か月(または前年度)の平均で1人以上いれば満たすとされています。また、加算Vの対象になるのは、その方が当該地域に居住している期間のサービス分のみです。
加算Vの計画の見直しについても、サービス提供責任者を中心とした多職種の協働で行えばよく、そのためだけに新しい会議を設ける必要はないと示されています。
体制要件の中身
体制要件は、事業所の運営の仕組みに関する要件です。ここでは東京都が公開している「特定事業所加算の要件に関する留意事項」の説明をもとに、主な項目を整理します。細かな扱いは自治体で異なることがあるため、実際の運用は届出先の自治体の案内を確認してください。
主な項目と求められること
| 項目 | 求められること |
|---|---|
| 研修計画 | ヘルパーごとに、目標・内容・期間・時期を定めた研修計画を作り、これにもとづいて実施する |
| 定期的な会議 | サービス提供責任者が主宰し、登録ヘルパーを含む全員が参加する会議をおおむね月1回以上開き、記録を残す(テレビ電話の利用も可) |
| 文書による指示・報告 | 利用者の状況や留意点を文書で伝え、サービス提供後は文書で報告を受ける(FAXやメールも可) |
| 健康診断 | 少なくとも1年以内ごとに1回、事業主の負担で実施する |
| 緊急時の対応 | 対応方法を利用者に文書で交付する(重要事項説明書への明記でも足りる) |
| 看取り期の対応方針 | 管理者を中心に協議して方針を定め、定期的に見直す |
これらは、区分によって求められる項目が異なります。
24時間の連絡体制
24時間の連絡体制については、厚労省のQ&Aで、事業所内に常に人がいなくてもよいとされています。たとえば、夜間は訪問看護ステーションなどに連絡し、必要なときに職員が出勤する体制でも差し支えない、という考え方です。
看取り期の方針と実績は別の確認項目
看取り期の対応方針を定めて見直していることと、実際に看取り期の方への対応実績があることは、別の確認項目です。気になる場合は、事業所にどちらの状況かを聞いてみるとよいでしょう。
人材要件と重度者対応要件
人材と重度者対応の要件は、割合や実績で確認されます。東京都の留意事項の説明をもとに整理します。
介護福祉士の割合
人材要件の一つは、介護福祉士の配置割合です。次のいずれかを満たすことが示されています。
- 介護福祉士が常勤換算で30%以上
- 介護福祉士、実務者研修修了者などが50%以上(生活援助従事者研修の修了者は0.5を乗じて数える)
勤続7年以上の職員の割合
もう一つの人材要件は勤続年数で、勤続7年以上の職員が30%以上であることが示されています。同一法人内での勤続年数は通算できます。どの区分がどの基準を求めるかは、国の通知などで確認してください。
重度者対応要件
重度の方への対応は、次のいずれかで満たします。
- 要介護4・5の方、認知症高齢者の日常生活自立度がIII・IV・Mの方、たんの吸引などが必要な方の合計が、利用者の20%以上
- 看取り期の利用者への対応実績が1人以上
令和6年度改定で、看取り期の対応を選べる形になった点が特徴です。
割合の計算期間
これらの割合は、前年度(3月を除く)の平均、または届出の前3か月の平均で計算します。実績が基準を下回れば、事業所は届出の見直しが必要になります。
利用者負担はいくら変わるか
加算による利用者負担の増加は、1回あたり数円から数十円規模の目安です。計算の仕組みを順に見ていきます。
自己負担の基本
介護サービスの利用者負担は、費用の1割が原則で、一定以上の所得がある方は2割または3割です(介護サービス情報公表システムの解説)。どの割合になるかは所得に応じて決まります。詳しい判定の考え方は、介護保険の自己負担割合とはで解説しています。
費用は「単位数×1単位の単価」で計算します。訪問介護の1単位の単価は地域区分(級地)によって異なり、平成27年厚生労働省告示第93号で次のように定められています。お住まいが何級地かは、お住まいの自治体や担当のケアマネジャーに確認できます。
| 地域区分 | 1単位の単価 |
|---|---|
| 1級地 | 11.40円 |
| 2級地 | 11.12円 |
| 3級地 | 11.05円 |
| 4級地 | 10.84円 |
| 5級地 | 10.70円 |
| 6級地 | 10.42円 |
| 7級地 | 10.21円 |
| その他 | 10.00円 |
計算例(身体介護30分以上1時間未満・1割負担)
身体介護30分以上1時間未満(387単位)を1回利用し、自己負担が1割の場合の、加算分の目安です。端数の処理は事業所ごとに差が出ることがあるため、あくまで目安として見てください。
| 加算の区分 | 加算率 | その他地域(10円) | 1級地(11.40円) |
|---|---|---|---|
| 加算I | 20% | 約77円 | 約88円 |
| 加算II・III | 10% | 約39円 | 約44円 |
| 加算IV・V | 3% | 約12円 | 約13円 |
月に20回利用すると、その他地域で加算Iの場合、1回あたり約77円の増加が積み重なって、月に約1,550円増える計算です(387単位×20%×20回×10円×1割)。生活援助220単位の場合、加算Iで上乗せされるのは44単位です。
計算するときの注意
- 原則として加算の分だけ費用が上がりますが、実際の額は、事業所の体制、他の加算、地域区分、ケアプランの内容で変わります。
- 区分支給限度額は、要介護度ごとに決まっている1か月あたりの利用上限です。毎月の利用がその枠内に収まるかどうかは、ケアプラン全体で決まります。この記事の数字だけで判断せず、ケアマネジャーに確認してください。
- 2割・3割の方は、同じ単位数でも負担が2倍・3倍になります。
加算がある事業所の確認方法
算定している加算は、公的な情報や書類で確認できます。あわせて、加算の見方の注意点も押さえておきましょう。
確認できる場所
- 介護サービス情報公表システム:事業所の基本情報と運営情報が公表されています(介護サービス情報公表システムとはで使い方を解説しています)。
- 重要事項説明書:契約前に交付される書類で、算定している加算が記載されます。
- 担当のケアマネジャー:事業所の体制を日頃から把握していることが多いため、相談できます。
事業所を変えると、算定している区分も変わることがあります。変更を検討する場合は、ケアマネジャーに相談し、重要事項説明書で加算の内容を確認してください。
加算があること=質の保証ではない
特定事業所加算は、体制や職員の構成、対応実績といった外形的な要件を満たしているかを見るものです。サービスの相性や、実際の対応の丁寧さを保証するものではありません。逆に、加算を算定していない事業所にも、小規模で届出の負担が大きい、要件の一部を満たすのが難しい、などの事情があります。
かいごの窓は、事業所を評価したり順位をつけたりせず、情報を並列に扱う立場です。加算の有無は、確認項目の一つとして使い、ほかの条件(対応できる曜日・時間帯、担当者との相性など)とあわせて検討してください。
事業所に聞いてみたい質問
- どの区分の加算を算定していますか。
- 研修や会議はどのくらいの頻度で行っていますか。
- 夜間や緊急時の連絡はどうなりますか。
- 看取り期の対応について、方針はありますか。
事業所の届出と算定開始時期
加算は事業所の届出によって算定されます。ここでは、利用者に関わる部分に絞って説明します。
届出先と算定が始まる時期
届出先は、指定権者である都道府県または市区町村です。算定開始時期は自治体で異なり、たとえば札幌市では毎月15日以前の届出で翌月から、16日以後の届出は翌々月から算定できるとされています。
利用者への影響
要件を満たさなくなった事業所は、取下げの届出が必要で、満たさなくなった月から算定できません。そのため、加算がつく月が変わり、請求額が月によって変わる可能性があります。
算定状況と今後の見直し
厚労省の分科会資料にある算定状況と、今後の見直しの見通しを短くまとめます。
算定状況(事業所ベース)
| 区分 | 令和7年3月提供分 | 令和7年10月提供分 |
|---|---|---|
| 加算I | 11.1% | 10.6% |
| 加算II | 34.6% | 33.9% |
| 加算III | 0.4% | 0.4% |
| 加算IV | 0.3% | 0.3% |
| 加算V | 0.3% | 0.2% |
| 事業所数 | 35,376事業所 | 35,586事業所 |
加算I〜IVのいずれも算定していない事業所は、令和7年10月提供分で54.8%と資料に示されています。半数強の事業所はI〜IVを算定していないことになりますが、加算がないことは、その事業所を避ける理由にはなりません。
今後の見直し
次の報酬改定は令和9年度(2027年度)に想定されています。国の審議会では、区分が増えて要件が複雑になっていることなどが論点に挙がり、簡素化が検討されています。見直しの内容は現時点で決まっておらず、今後見直しがありうるため、最新の情報は厚生労働省や自治体の公表資料で確認してください。
まとめ
- 特定事業所加算は、体制・人材・重度者対応の要件を満たした訪問介護事業所が、基本報酬に上乗せして算定する加算で、区分はI〜Vの5つです。
- 加算率はI=20%、II・III=10%、IV・V=3%です。令和6年度改定で旧IVは廃止され、旧Vが新IV、新Vが設けられました。
- 利用者負担は1割の場合、身体介護30分以上1時間未満で加算Iなら約77円(その他地域)の増加が目安です。
- 担当のケアマネジャーに、事業所が算定している区分を聞き、重要事項説明書でも確認しましょう。加算の有無は質の保証ではありません。
- 次の報酬改定(令和9年度想定)に向けて見直しがありうるため、最新情報を確認してください。
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