訪問介護や訪問看護などの利用者が、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームなど同じ建物にまとまって住んでいる場合、介護報酬から10〜15%程度が差し引かれる「同一建物減算」という仕組みがあります。これは移動時間・移動距離が短くなる分の報酬を適正化するためのルールで、令和6年度介護報酬改定では訪問介護に新たな12%減算も加わりました。本記事では対象サービス・減算率・建物の定義・利用者の自己負担への影響を、厚生労働省や自治体の公的資料にもとづき解説します。
同一建物減算とは何か
同一建物減算とは、訪問介護・訪問看護・訪問入浴介護・居宅療養管理指導などの訪問系サービスにおいて、事業所と同一の建物や同一敷地内の建物に住む利用者へサービスを提供する場合に、通常の単位数から一定割合を減算する仕組みです。
制度の趣旨(移動時間・移動距離の実態を踏まえた適正化)
厚生労働省老健局の資料では、同一建物等居住者へのサービス提供割合が多くなるにつれて、訪問件数は増加し、移動時間・移動距離は短くなっている実態を踏まえて報酬が適正化されている、と説明されています。同資料には移動時間別の収支差率のデータも示されており、例えば訪問介護の移動時間が5分未満の事業所の収支差率は8.7%、15〜30分未満では9.4%となっています。また同一建物減算の算定有無別に見ると、10%減算を算定している事業所の収支差率は11.5%、12%減算を算定している事業所は7.7%、減算を算定していない事業所は10.0%というデータも公表されています(出典:厚生労働省老健局「令和7年度介護事業経営概況調査 参考資料」社会保障審議会介護給付費分科会第249回・2025年12月3日に提出された審議会向けの参考資料であり、今後の議論により内容が変わる可能性があります)。
つまり、同じ建物やその近隣に複数の利用者が住んでいる事業所は、訪問先の移動にかかる時間・コストが少なく済むため、その分を反映した単位数になっているというのが制度の基本的な考え方です。
よくある誤解(サービスの質が下がるわけではない)
「減算」という言葉から、サービスの質や提供時間が短くなるのではないかと誤解されることがありますが、同一建物減算はあくまで事業所が受け取る介護報酬(単位数)を移動効率の実態に合わせて調整する仕組みであり、提供されるケアの内容やサービス時間そのものを減らす規定ではありません。訪問介護の基本的なサービス内容については、訪問介護とは何かを解説した記事で詳しく説明しています。
対象となるサービスの種類
同一建物減算(またはこれに相当する減算)は、訪問系の複数のサービス類型に設けられています。
訪問介護
訪問介護には、建物の種別や居住者数に応じて複数段階の減算区分があります(詳細は次章)。
訪問看護・訪問リハビリテーション
訪問看護および訪問リハビリテーションについても、同一建物に居住する利用者や、建物以外でも月20人以上に提供する場合に単位数を90/100(10%減算相当)に、同一建物で月50人以上の場合は85/100(15%減算相当)にする仕組みが設けられています(出典:厚生労働省の算定構造に関する資料等)。
訪問入浴介護
訪問入浴介護についても同一建物減算があり、同一建物に居住する利用者へサービスを提供する場合は10%減算となります(出典:茨城県資料)。
居宅療養管理指導
居宅療養管理指導は、医師・歯科医師・薬剤師・看護職員等が居宅を訪問して療養上の管理・指導を行うサービスです。同一建物減算という名称ではなく「単一建物居住者数」という区分で単位数が3段階(1人/2〜9人/10人以上)に分かれており、例えば医師が行う場合は1人514単位・2〜9人486単位・10人以上445単位となっています(出典:仙台市資料、厚生労働省算定構造資料)。
具体的な減算率
減算率は、サービスの種類・建物の種別・居住者数によって細かく分かれています。
図解の通り、上から「同一敷地内建物等(10%減算)」「同一敷地内建物等かつ利用者50人以上(15%減算)」「建物以外でも月20人以上利用(10%減算)」の3区分に加え、令和6年度改定で「正当な理由なく同一敷地内建物等居住者への提供割合が90%以上(12%減算、50人以上の区分を除く)」が新設されました。
訪問介護の4つの減算区分
整理すると、訪問介護の減算区分は次の4つです(出典:東京都福祉局事務連絡2024年9月13日、茨城県資料、厚生労働省算定構造資料)。
- 同一敷地内建物等に居住する利用者へのサービス提供:10%減算
- 同一敷地内建物等に居住する利用者が50人以上:15%減算
- ①以外の建物であっても、同一建物に居住する利用者が月20人以上:10%減算
- 正当な理由なく、前6月において同一敷地内建物等居住者への提供割合が90%以上(②を除く):12%減算(令和6年度改定で新設)
訪問看護・訪問リハビリテーションの減算区分
訪問看護・訪問リハビリテーションについては、厚生労働省の資料によれば、同一建物または月20人以上の利用者へ提供する場合は単位数の90/100(10%減算相当)、同一建物に居住する利用者が月50人以上の場合は85/100(15%減算相当)とされています。訪問介護で新設された12%減算のような区分は、これらのサービスには設けられていません。
「同一建物等」の定義
減算の対象となる「同一建物等」がどこまでの範囲を指すのかは、利用者や家族にとって分かりにくいポイントです。
同一敷地内の建物・隣接する建物
東京都の事務連絡によれば、「同一敷地内建物等」は次の3つを指します。
- 事業所と同一の建物
- 事業所と同一敷地内にある別の建物
- 事業所の敷地と隣接する敷地内にある建物
サ高住や有料老人ホームに介護事業所が併設・隣接しているケースは、この定義に当てはまることが多くなります。サ高住そのものの基本的な仕組みはサービス付き高齢者向け住宅とはという記事で解説しています。
建物以外でも対象になるケース(月20人以上利用)
上記の「同一敷地内建物等」に該当しない場合でも、同一の建物に居住する利用者が月あたり延べ20人以上いる場合は、10%減算の対象になります。つまり、事業所と直接の位置関係が無い建物であっても、その建物の中に多数の利用者が集中していれば、移動効率が高いという実態を踏まえて減算されるということです。
2024年度(令和6年度)介護報酬改定での見直し
2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では、訪問介護の同一建物減算に関するルールが見直されました。
12%減算の新設と適用条件
令和6年度改定で新設された12%減算は、「正当な理由なく、前6か月間において同一敷地内建物等に居住する利用者へのサービス提供割合が90%以上である事業所」に適用されます(同一敷地内建物等居住者が50人以上の15%減算の対象となる事業所は除きます)。訪問看護・訪問リハビリテーションについては、この改定でも10%・15%の減算区分に変更はありませんでした。
見直しの背景にある実態(移動時間・訪問件数のデータ)
この見直しの背景には、前述の厚生労働省資料が示す「同一建物等居住者へのサービス提供割合が高い事業所ほど、訪問件数が多く移動時間・移動距離が短い」という実態があります。同一建物等居住者へのサービス提供割合が極端に高い事業所は、移動効率の面で通常の訪問介護事業所とは異なる経営構造になっているため、報酬の適正化がより細かく行われるようになったといえます。
減算されない例外規定
同一敷地内建物等居住者への提供割合が高くても、一定の事情がある場合は12%減算の対象から除外されます。
特別地域訪問介護加算の事業所
東京都の事務連絡によれば、特別地域訪問介護加算の対象となる事業所(中山間地域等に所在する事業所)は、正当な理由がある事業所として12%減算の対象から除かれます。なお、厚生労働省の別の資料には中山間地域の事業所を対象とした特定事業所加算Ⅴの新設についての記載もありますが、これは同一建物減算の例外規定そのものとは異なる別の加算の話であり、両者を混同しないよう注意が必要です。
小規模事業所(月延べ訪問回数200回以下)の例外
同事務連絡では、月の延べ訪問回数が200回以下の小規模な事業所も、正当な理由がある事業所として12%減算の対象から除外されると示されています。それ以外にも、都道府県知事等が個別に正当な理由があると認める事業所については、対象から除外される場合があります。
利用者の自己負担額への影響
同一建物減算によって事業所が受け取る単位数が下がると、利用者側の負担にはどのような影響があるのでしょうか。
区分支給限度基準額との関係
介護保険では要介護度ごとに1か月あたり利用できる単位数の上限(区分支給限度基準額)が定められています。例えば東京都目黒区の例では、要介護1が16,765単位、要介護2が19,705単位、要介護3が27,048単位、要介護4が30,938単位、要介護5が36,217単位です(自治体によって設定が異なる場合があります)。同一建物減算により1回あたりの単位数が下がれば、限度額の範囲内でより多くの回数のサービスを利用できる余地が生まれる、という関係になります。
実際の自己負担がどう変わるか
介護サービスの利用者負担は、原則としてサービスにかかった単位数の1〜3割です。同一建物減算によって1回あたりの単位数が下がれば、その分自己負担額も比例して下がる構造になっています。ただし、自治体や利用者の負担割合、利用しているサービスの組み合わせによって具体的な金額は個々に異なるため、正確な自己負担額はケアマネジャーや事業所に確認するのが確実です。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)との関係
同一建物減算が話題になる背景には、サ高住や有料老人ホームに介護事業所が併設されているケースが多いという実態があります。
サ高住併設事業所の実態
厚生労働省の資料(社会保障審議会介護給付費分科会第102回、2014年6月11日「高齢者向け住まいについて」)によれば、サ高住には介護事業所が併設されている施設の割合が82.0%に達しており、サ高住の入居者は訪問介護や居宅介護支援の利用率が特に高いという傾向が示されています。
事業所を選ぶときに確認したいポイント
サ高住や有料老人ホームへの入居を検討する際は、併設事業所が同一建物減算の対象になっているかどうか、その事業所がどのようなサービスを提供しているかを、契約前にケアマネジャーや事業所に確認しておくと安心です。同一建物減算は制度上の報酬調整であり、事業所を選ぶ・選ばないの判断基準になるものではありませんが、費用や単位数の内訳を理解する材料として把握しておく価値があります。
注意点・よくある失敗
同一建物減算について誤解しやすい点や、確認を怠りやすい点を整理します。
「減算=サービスが手薄」という誤解への注意
繰り返しになりますが、同一建物減算は移動時間・移動距離の実態にもとづく報酬の適正化であり、サービスの提供時間や内容が短縮・簡略化されるわけではありません。「減算されている事業所だから手厚いケアが受けられないのでは」という思い込みで判断するのは適切ではありません。
契約前・入居前に確認すべきこと
サ高住や有料老人ホームへの入居、あるいは訪問介護事業所との契約前には、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 利用予定の事業所が同一建物減算の対象になっているか(居住する建物と事業所の位置関係)
- 区分支給限度基準額の範囲内で、どの程度のサービスを組み合わせて利用できるか
- 同一建物減算の有無にかかわらず、サービス内容や提供時間に変更がないか
不明な点は、契約前にケアマネジャーまたは市区町村の介護保険課、地域包括支援センターに相談することをおすすめします。
まとめ
- 同一建物減算は、訪問介護等の事業所が同一建物や近隣に住む利用者へサービス提供する際に、移動時間・移動距離の実態を踏まえて単位数を10〜15%程度差し引く仕組み
- 訪問介護には同一敷地内建物等(10%)、50人以上(15%)、建物外で月20人以上(10%)、令和6年度改定で新設された提供割合90%以上(12%)の4区分がある
- 訪問看護・訪問リハビリテーションにも同様の10%・15%の減算区分があり、居宅療養管理指導は単一建物居住者数に応じた単位数の設定になっている
- 同一建物減算はサービスの質を下げるものではなく、報酬の適正化措置であることを理解しておく
- サ高住や有料老人ホームへの入居・契約前には、併設事業所が同一建物減算の対象かどうかや区分支給限度基準額との関係を、ケアマネジャーや自治体の介護保険課に確認しておくと安心
介護保険制度は3年ごとに見直しが行われており、同一建物減算の要件や減算率も今後変更される可能性があります。最新の情報は厚生労働省や利用する市区町村の公式情報を確認してください。当サイトの立ち位置についてはこのサイトについてもご覧ください。