有料老人ホームの入居一時金とは|支払い方式3種類と0円プランの違いを解説

入居一時金(前払金)の意味と3つの支払い方式、前払金0円が過半という実態、償却・返還・保全の仕組みを公的資料で整理しました。

目次

入居一時金は、必ず払うお金ではありません。公的調査では前払金が0円のホームが過半で、老人福祉法上は家賃等の前払い(前払金)にあたります。比較するときは、一時金の有無だけでなく、月額と居住期間をあわせて試算することが大切です。

この記事で分かることは次のとおりです。

  • 入居一時金の定義と、3つの支払い方式の実態
  • 金額の決まり方、償却、返還金、保全措置の概要
  • 0円プランの見方と、契約前の確認事項・相談窓口

入居一時金とは何か|法律上は「前払金」

入居一時金の意味と、法律上どう位置づけられているかを最初に整理します。

入居一時金は通称で、法律上の用語は前払金

有料老人ホームの入居契約で最初に目にする費用が「入居一時金」です。ただし、この言葉は法律上の用語ではなく通称です。老人福祉法が使っている言葉は「前払金」で、神奈川県は、前払金について次のように説明しています。

家賃相当額、介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を前払金として支払うものです。

入居一時金とは、入居者が将来にわたって支払うはずの家賃やサービス費用の一部または全部を、入居時にまとめて前払いする仕組みのことです。

厚生労働省の標準指導指針では、前払い方式を「終身にわたって受領すべき家賃又はサービス費用の全部又は一部を前払金として一括して受領する方式」と定めています。資料によって呼び方が異なる場合があります。中身を確認するときは、何の対価を、どの期間分、前払いしているのかという視点で読むと整理しやすくなります。

有料老人ホームとは何を指すか

有料老人ホームは、老人福祉法第29条第1項が定める施設です。入浴・排せつ・食事の介護、食事の提供、洗濯・掃除等の家事、健康管理のうち、いずれかを行う高齢者向けの住まいが対象で、設置にあたっては都道府県知事等への届出が必要です。介護付き・住宅型といった類型の違いは有料老人ホームの種類を解説した記事で詳しく扱っていますので、本記事では「お金の払い方」に絞って整理します。

厚生労働省の検討会資料(令和6年6月30日時点)では、有料老人ホームは16,543棟・定員645,845名で、このうち住宅型が12,061棟(定員369,888名)、介護付きが4,464棟(定員275,413名)とされています。また届出件数は、令和7年6月30日時点で17,883件です(厚生労働省の報道発表、令和8年9月25日)。これだけ多くのホームが存在し、費用の仕組みも一様ではないため、入居一時金の仕組みを知っておくことが契約前の比較の土台になります。

よくある誤解|一時金は「払えば安心」でも「必ず高額」でもない

入居一時金には、「払えば毎月の負担がなくなる」といった受け止め方がされることがあります。ここで押さえておきたいのは、公的な調査では前払金が0円のホームが過半を占めるという点です(後述)。また標準指導指針は、「多額の前払金を払えば毎月の支払は一切なく生涯生活を保証する終身保証契約」は原則として好ましくないとしています。一時金の有無だけで、費用の全体像や契約の内容を判断することはできません。

老人福祉法が定める前払金のルール

前払金の受け取り方には、老人福祉法が設けているルールがあります。ここでは条文の趣旨を押さえます。

権利金などの受領は禁止されている

老人福祉法第29条第8項は、家賃・敷金・介護等日常生活上必要な便宜の供与の対価を除き、有料老人ホームの設置者が「権利金その他の金品を受領してはならない」と定めています。入居一時金は、あくまで家賃やサービス費用の前払いという性格のものであり、「入居する権利を得るための対価」を名目にしたお金を受け取ることは認められていません。契約書や重要事項説明書で、一時金が何の対価として位置づけられているかを確認することが大切です。

算定の根拠を書面で明示する義務

同法第29条第9項は、終身にわたって受領すべき家賃等を前払金として一括で受け取る設置者に対し、その算定の基礎を書面で明示することと、返還債務に備えた保全措置を講じることを求めています。「この金額はどのように計算されたのか」を入居希望者が書面で確認できることが、法律上の前提になっています。算定の考え方は後の章で整理します。

返還に関する契約を結ぶ義務

同法第29条第10項は、前払金を受領する場合、一定期間内に契約が解除された場合や入居者が死亡した場合に、所定の方法で算定した額を控除したうえで返還する契約を結ぶことを求めています。ここで言う「一定期間」が、一般に「90日ルール」と呼ばれる短期解約特例につながります(後述)。

なお、情報開示については同法第29条第7項が定めています。法令の条項番号は改正で移動することがあるため、実際の確認では最新の条文(e-Gov法令検索)をご覧ください。

支払い方式は3種類|全額前払い・一部前払い・全額月払い

費用の払い方は大きく3つに分かれます。公的な調査で、それぞれがどのくらい使われているかを見ます。

3つの方式の基本

標準指導指針は、有料老人ホームの費用の支払い方について「月払い方式、前払い方式又はこれらを組み合わせた方式等多様な方法」があるとしています。整理すると次の3つです。

  • 全額前払い方式:終身にわたる家賃やサービス費用の全部を入居時に前払いする方式
  • 一部前払い+月払い方式:一部を前払いし、残りを毎月支払う組み合わせ方式
  • 全額月払い方式:入居時の前払金がなく、毎月支払う方式

なお、当月分の家賃を前月に支払うような場合は、前払金ではなく月払いとして扱われます。

令和6年度報告書で見る方式別の割合

実際にどの方式が使われているかは、厚生労働省 令和6年度老人保健健康増進等事業の報告書(「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究事業」、令和7年3月)が施設票で調べています。回答は複数回答で、対象は特定施設(いわゆる介護付き)1,202施設、住宅型963施設、サービス付き高齢者向け住宅(特定施設以外)1,053施設です。

方式特定施設住宅型サ高住(非特定)
全額前払い21.0%9.4%10.4%
一部前払い+月払い27.5%8.4%8.4%
全額月払い80.2%77.8%79.2%

報告書は、いずれの施設類型でも全額月払いが最も多く約8割としています。複数回答のため合計は100%になりません。

支払い方式別の割合(令和6年度報告書)特定施設は全額前払い21.0%、一部前払い27.5%、全額月払い80.2%。住宅型は9.4%、8.4%、77.8%。サ高住(非特定)は10.4%、8.4%、79.2%。支払い方式別の割合(複数回答)特定施設全額前払い21.0%一部前払い27.5%全額月払い80.2%住宅型全額前払い9.4%一部前払い8.4%全額月払い77.8%サ高住(非特定)全額前払い10.4%一部前払い8.4%全額月払い79.2%
どの類型でも全額月払いが約8割で最多です(複数回答のため合計は100%になりません)。

古い調査との違い|構成は変わっている

古い資料には、一時金を徴収するホームが大多数という数字が載っていることがあります。しかし令和6年度の報告書では全額月払いが約8割で、構成は異なります。古い数字は現状と違う場合があるため、本記事では現状の説明に令和6年度報告書を使い、古い調査を引くときは年次を明記します。

一時金方式の「選択型」という考え方

前払い方式と月払い方式を入居者が選べるホームもあります。過去の調査には、こうしたホームを「選択型」とする区分がありました。検討中のホームに選択肢があるかどうかは、重要事項説明書や入居契約書で確認してください。

金額の実態|0円が過半、平均額はどれくらいか

一時金の金額は、ホームによって大きく異なります。ここでは令和6年度報告書の数値を表で確認します。

前払金0円のホームの割合

令和6年度の報告書によると、前払金が0円の施設の割合は、特定施設52.9%、住宅型65.5%、サービス付き高齢者向け住宅(非特定)66.9%でした。いずれも過半です。前払金を徴収する特定施設は31.0%です。「入居一時金は必ずかかるもの」という前提は、現状の調査結果とは合いません。

前払金0円の施設の割合前払金0円の施設は特定施設52.9%、住宅型65.5%、サ高住(非特定)66.9%で、いずれも過半。前払金が0円の施設の割合特定施設52.9%住宅型65.5%サ高住(非特定)66.9%50%
令和6年度報告書では、どの類型でも前払金0円の施設が半数を超えています。

前払金の平均額(0円を含む場合・除く場合)

同報告書の前払金実額の平均(上下5%を除く中位90%の平均)は次のとおりです。0円の施設を含めるかどうかで、数字の意味が大きく変わります。

類型0円を含む平均0円を除く平均
特定施設2,039,743円7,965,207円
住宅型4,884円3,452,757円
サ高住(非特定)0円1,646,440円

一時金を徴収する特定施設に限れば、平均は約800万円(7,965,207円)という水準です。住宅型の4,884円やサ高住の0円は、0円の施設が多いため平均がほぼ0になっているという意味で、実際の金額ではありません。令和6年度報告書が示しているのは平均額のみで、個別のホームの金額は大きく異なる可能性があります。

月額換算と総額費用の目安

同報告書は、前払金を月額に換算した金額と、月額換算した総額費用の平均も示しています。月額換算した前払金は、特定施設33,773円、住宅型3円、サ高住0円です。月額換算した総額費用の平均は、特定施設261,510円、住宅型118,020円、サ高住(非特定)153,962円です。

費用全体の相場感は老人ホームの費用相場を比較した記事でも整理しています。

敷金・保証金の状況

前払金とは別に、敷金や保証金を設けているホームもあります。令和6年度報告書で、敷金・保証金が0円の施設の割合は次のとおりです。

類型敷金・保証金が0円の施設
特定施設46.3%
住宅型49.9%
サ高住(非特定)24.5%

特定施設の敷金等の平均は155,153円です。標準指導指針では、敷金は家賃の6か月分を超えないこと、退去時には原状回復費用を除いて全額を返還することが求められています。

前払金の金額はどう決まるか|算定の考え方

金額がどのような考え方で決まるのかを、標準指導指針にもとづいて整理します。

家賃の合理的な算定

標準指導指針は、家賃について「整備に要した費用、修繕費、管理事務費、地代に相当する額等を基礎として合理的に算定し、近傍同種の住宅の家賃から算定される額を大幅に上回るものでないこと」としています。前払金は家賃等の前払いですから、その金額の土台はこの家賃の算定にあります。

想定居住期間とは

終身にわたって居住する契約では、前払金を計算するために「想定居住期間」が使われます。標準指導指針では「入居者の終身にわたる居住が平均的な余命等を勘案して想定される期間」とされています。あくまで計算上の仮定であり、実際の居住期間とは一致しません。

算定式の基本形と上乗せ額

指針に示された算定の基本は次のとおりです。

  • 期間の定めのある契約:(1か月分の家賃等)×(契約期間の月数)
  • 終身契約:(1か月分の家賃等)×(想定居住期間の月数)+(想定居住期間を超えて契約が継続する場合に備えて受領する額)

後半の「上乗せ額」は、具体的な根拠により算出された額であることが求められています。仮に、月額の家賃相当額が10万円、想定居住期間が60か月の場合、基本部分は600万円という計算になります(数値は考え方を示すための仮の例で、実在のホームの金額ではありません)。ここに上乗せ額が加わるため、重要事項説明書や契約書で上乗せ額の根拠を確認することが重要です。

終身契約の前払金の算定式1か月分の家賃等×想定居住期間の月数+上乗せ額。月額10万円・60か月の仮の例では基本部分は600万円。終身契約の前払金の算定1か月分の家賃等例:10万円(仮の数値)×想定居住期間の月数例:60か月(仮の数値)+上乗せ額具体的な根拠で算出された額前払金基本部分は例で600万円
想定居住期間は計算上の仮定です。上乗せ額の根拠は書面で確認します(数値は仮の例)。

内金は前払金の20%以内

契約時に内金を受け取る場合、標準指導指針では前払金の20%以内とされ、残金は引渡し日前の合理的な期日以降に受領することになっています。また、入居開始可能日前に契約を解除した場合は、すでに受け取った金額は全額返還されます。契約日に全額の支払いを求められた場合は、この点を確認するとよいでしょう。

介護保険の利用者負担分は前払金にしない

指針は、介護保険の利用者負担分を前払金で受け取ることを「利用者負担分が不明確となるので不適当」としています。前払金は家賃やサービス費用の一部に充てるもので、介護保険の利用者負担分とは区別されることが前提です。

初期償却と償却期間の概説

前払金は入居後に少しずつ家賃等に充てられます。その仕組みを実態とあわせて概説します。

償却とは何か

前払金は、入居したあとに時間をかけて家賃等に充てられていきます。この「充てられる」ことを償却と呼びます。入居時点で一定割合が償却される「初期償却」と、残額が月ごとに償却される「償却期間」の2つの考え方があり、詳しい仕組みは入居一時金の償却を解説した記事にまとめています。ここでは実態の概要をまとめます。

仮の数値で考えてみます。一時金600万円、初期償却率30%と仮定すると、入居直後に約180万円(600万円×30%)が償却されます。残りの約420万円が、償却期間にわたって月ごとに償却されていく計算です。この数値は考え方を示す仮のもので、実在のホームの条件ではありません。

令和6年度報告書の初期償却率・償却期間

前払金のある特定施設(566施設)では、初期償却率は「30〜40%未満」が37.5%で最多、平均は24.2%でした。償却期間は「60〜72か月未満」が49.3%で最多、平均は65.4か月です。住宅型では初期償却率の平均が39.9%、償却期間の平均が48.1か月ですが、前払金を徴収する施設が少なく、無回答も多いため参考値として読むのが適切です。

東京都の消費生活総合センター(東京くらしねっと2021年9・10月号)は、償却期間が5〜20年程度と幅があると説明しています。

確認したい点

同じ一時金の金額でも、初期償却率と償却期間が違えば、早期に退去した場合に戻る金額は変わります。確認の際は、①初期償却率、②償却期間、③償却の起算日、④返還金の計算方法の4点を、契約書と重要事項説明書で照らし合わせるとよいでしょう。

返還金・短期解約特例(3月)と保全措置

早期に退去した場合に戻るお金と、ホームの経営に問題が生じた場合への備えを見ていきます。

「90日ルール」は通称、法令上は「3月」

入居後すぐに契約を解除した場合の特例は、一般に「90日ルール」と呼ばれます。ただし現行の老人福祉法施行規則第21条第1項第1号は、次のように定めています。

入居後、三月が経過するまでの間に契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合

法令上は「3月」で、死亡による終了も含まれます。平成18年4月から法令の枠組みとなっており、東京都は「入居後3カ月以内であれば、短期解約特例により、前払金のうち入居期間分の日割家賃などを除いた額が返還されます」と説明しています。

返還額の計算の考え方

短期解約特例では、家賃等の月額を30で割った日額に、入居日から契約終了日までの日数を掛けた額などを、前払金から控除して返還するという計算になります(要約)。すでに過ごした日数分は日割りで負担し、それ以外は戻る仕組みです。初期償却の扱いは、契約書・重要事項説明書で確認してください。

短期解約特例の時系列と保全額の上限入居後3月以内の解除や死亡では日割の家賃等を控除して返還。保全額は未償却残高と500万円のいずれか低い方。短期解約特例と保全措置入居入居後3月以内の解除・死亡日割の家賃等を控除して返還(短期解約特例。通称90日ルール)3月経過後契約で定めた計算方法で返還金保全措置で守られる額未償却残高と500万円のいずれか低い方例:残高1,500万円→保全は500万円
3月以内は短期解約特例で返還されます。保全措置には上限があり、全額が戻るとは限りません。

現行の法令は死亡による終了も含んでいます。解約手続きの流れは有料老人ホームの解約方法を解説した記事で詳しく説明しています。

標準指導指針は、解約申出から解除までの予告期間を設けて返還債務の義務づけ期間を事実上短縮してはならないとしています。返還額は入居契約書等に明示し、十分に説明することも求められています。

保全措置の方法と保全額

老人福祉法にもとづく保全措置の具体的な内容は、平成18年厚生労働省告示第266号で定められています。方法は、銀行等の連帯保証、保証保険、信託、高齢者福祉目的の法人との保全契約(知事認定)です。保全額には上限があります(後述)。平成18年3月31日以前に届出された施設も、令和3年4月1日以降の新規入居者については義務の対象です。詳細は保全措置を解説した記事で確認できます。

未実施の割合は1.0%

厚生労働省のフォローアップ調査による、前払金を徴収する有料老人ホームの保全措置未実施の状況は次のとおりです。

時点前払金徴収件数未実施
令和6年6月30日2,317件23件(1.0%、前年度は2.3%・52件)
令和7年6月30日2,384件25件(1.0%)

未実施は法令違反にあたります。厚生労働省の令和8年の通知では、検査拒否や改善命令違反について罰則の適用も視野に入れた対応が示されています。

保全されるのは上限までという点

保全額には上限があるため、一時金の全額が戻るとは限りません。保全額は未償却残高と500万円のいずれか低い方です。たとえば未償却残高が1,500万円残っている場合でも、保全額は500万円が上限になります。一時金の金額が大きいほど、保全の対象外の部分も大きくなることを理解しておくとよいでしょう。

0円プランの見方|月額と居住期間で比べる

前払金0円は珍しくありません。0円プランを検討するときの考え方を、仮の数値で示します。

「0円=総額が安い」とは言えない

前払金0円のホームが過半という実態から、「0円プランなら安く済む」と受け取る人もいます。しかし令和6年度の報告書には、前払金0円と月額の高さの因果関係を示す記述はありません。公的資料から「一時金0円だから総額が安い」と言うことはできず、比較するには、月額費用と居住期間を使った試算が必要です。

試算の考え方(仮の数値による例)

以下は考え方を示すための仮の数値です(実在のホームの金額ではありません)。返還金・初期償却を考慮しない単純計算では、次のようになります。

居住期間A:一時金600万円+月額15万円B:一時金0円+月額25万円
36か月(3年)1,140万円900万円
60か月(5年)1,500万円1,500万円

この単純計算では、60か月で総額が並びます。ただし実際には、途中で退去した場合の返還金、初期償却、介護費用の変動などで差が出ます。どちらが合うかは居住期間の見通しと契約内容によって変わるため、この数字だけで前払いと月払いの優劣を判断することはできません。

前払いありと0円プランの総額比較(仮の数値)Aは一時金600万円・月額15万円、Bは0円・月額25万円。36か月でA1,140万円・B900万円、60か月で両方1,500万円。居住期間と総額(仮の数値)0か月36か月60か月1,140万円900万円1,500万円で並ぶA:一時金600万円+月額15万円B:一時金0円+月額25万円
考え方を示す仮の数値です。60か月で並び、それより長いとAが少なくなります。

敷金と、その他の費用も加える

0円プランでも、敷金・保証金がかかることがあります。試算には、敷金のほか、食費、管理費、介護保険の自己負担分、医療費、日用品費も含めて検討します。

契約前に確認したいポイントと注意点

契約前に確認したい書類と項目、そして比較のときの注意点をまとめます。

重要事項説明書で確認する

老人福祉法第29条第7項にもとづき、有料老人ホームは情報を開示する義務があります。標準指導指針は、別紙様式の重要事項説明書を作成し、入居相談時や求めに応じて交付すること、契約締結前に十分な時間的余裕をもって重要事項説明書と入居契約書を説明し、説明した者と受けた者が署名することを求めています。記載事項の読み方は重要事項説明書を解説した記事に詳しくまとめています。

入居一時金に関する確認事項

契約書に「前払金の返還金の有無、返還金の算定方式及びその支払時期等」が明示されているかは、指針が求める重要な点です。次の項目をチェックの目安にしてください。

  • 一時金の金額と、算定の根拠(家賃相当額、想定居住期間、上乗せ額)
  • 初期償却率と償却期間
  • 3月以内の短期解約特例と、死亡時の取り扱い
  • 3月を超えた後の返還金の計算方法と支払時期
  • 保全措置の有無と方法
  • 敷金・保証金の額と返還条件
  • 月払いと前払いの選択肢の有無

前払金を受領しない場合も、費用負担額や返還金の有無などの明示は求められています。

体験入居と家族での確認

指針は体験入居の機会を確保することも求めています。契約前に実際の暮らしを確認し、重要事項説明書と契約書は家族とともに読むことが、トラブルを避ける助けになります。わからない点は、その場で書面に書いてもらうなど、記録を残すと安心です。

一時金の扱いは、契約形態(利用権方式や建物賃貸借方式)によって異なる場合があります。契約書で確認してください。仕組みの違いは利用権方式を解説した記事を参照してください。

制度は変わる可能性がある

令和8年(2026年)には社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号、6月25日公布)により老人福祉法が改正され、中重度の要介護者を入居対象とするホームに登録制が導入されることになりました(厚生労働省の報道発表、令和8年9月25日)。施行日は確認できていません。このほかにも、法令・指針・報酬などの制度は改正されることがありますので、契約前には最新の情報を、厚生労働省や都道府県の公式サイトで確認してください。

比較するときの視点

本記事は、特定の施設や支払い方式を評価・推奨するものではありません。一時金の有無は、ご本人の資金計画、居住の見通し、家族の考えによって、合う合わないが変わるためです。公的な調査の平均値は、個別のホームに当てはまるとは限りません。必ず検討中のホームの重要事項説明書で確認してください。

税の扱い|医療費控除と消費税

一時金やその周辺の費用が、税金の上でどう扱われるかを国税庁の資料で確認します。

医療費控除との関係

国税庁タックスアンサーNo.1127によると、特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム等)は医療費控除の対象外の居宅サービス等とされ、喀痰吸引等の部分のみ、対価の10分の1が対象になるとされています。No.1125の施設サービス(特養・老健・介護医療院)に有料老人ホームの記載はありません。入居一時金そのものが控除対象になるかどうかは、これらのページに明示がありません。

医療費控除の額は、No.1120によれば、支払った医療費から補填される金額を引き、さらに10万円(総所得金額等が200万円未満の人は5%)を差し引いた額で、最高200万円です。

消費税の扱い

国税庁No.6226では、住宅の貸付けは非課税とされ、まかない等のサービス部分は課税、部屋代部分は非課税です。入居一時金そのものの扱いは明記されていません。

個別の判断は税務署へ

税の扱いは、契約の内容や個別の事情によって異なる可能性があります。本記事では断定せず、所轄の税務署や税理士などに確認してください。税制は改正されることがあります。

トラブル事例と相談窓口

一時金をめぐる相談やトラブルの傾向と、困ったときの窓口を整理します。

相談件数の推移と内訳(平成22年調査)

消費者委員会の平成22年12月の調査(PIO-NETの相談を分析)では、有料老人ホームの相談は契約・解約に関するものが多く、解約に関する相談では返還金額(原状回復を含む)が最も多いと報告されています。これは古い年次のデータで、現在の件数を示すものではありませんが、返還金に関する相談が多い傾向がうかがえます。

退去時の修繕費請求

国民生活センターの見守り新鮮情報第531号(2025年12月18日)では、退去時の修繕費請求の事例が取り上げられています。同センターは、次のように述べています。

原則として一般的な賃貸住宅と同様に、年月の経過による損耗や通常の使い方をしていても発生する汚れやキズなどの修繕費用については、入居者が費用を負担する必要はないと考えられます

特約の合意があれば特約に従うため、契約書と重要事項説明書を家族で確認し、入居時に事業者立会いで室内状況を確認しておくよう助言しています。

「老人ホーム入居権」をめぐる詐欺

国民生活センターは、2022年12月7日付で、「老人ホームの入居権を持っている」「権利を譲ってほしい」「名義を貸してほしい」といった勧誘を行う劇場型の詐欺について注意喚起しています。2022年度は685件(10月31日までの登録分)の相談があったとしており、こうした話を持ちかけられたら詐欺であり、お金は払わないよう呼びかけています。

相談できる窓口

契約や解約でトラブルが起きた場合は、消費者ホットライン「188」から最寄りの消費生活センター等へつながります。東京都消費生活総合センターなど、自治体の窓口もあります。ホームの設置運営については、設置地の都道府県・指定都市・中核市の高齢福祉担当部署が担当します。法的な整理が必要な場合は法テラスも選択肢です。

まとめ

  • 入居一時金は法律上「前払金」で、家賃やサービス費用の前払いです。
  • 令和6年度報告書では、いずれの類型でも全額月払いが約8割で、前払金0円の施設は特定施設52.9%、住宅型65.5%、サ高住66.9%です。
  • 前払金は想定居住期間などから算定され、償却や返還金の計算方法は契約書で確認します。入居後3月以内の解約・死亡には短期解約特例があります。
  • 保全措置には保全額の上限があり、一時金の全額が戻るとは限りません。
  • 0円プランが総額で安いとは言えないため、月額と居住期間で試算してください。
  • 契約前は重要事項説明書で確認し、困ったときは消費者ホットライン188に相談できます。

制度や金額は今後変更される可能性があります。契約前には最新の公式情報を確認してください。編集方針はこのサイトの立ち位置をご覧ください。

よくある質問

入居一時金の相場はいくらですか?

令和6年度報告書では、前払金を徴収する特定施設の平均は7,965,207円(0円を除く)でした。ただし前払金0円の施設が特定施設で52.9%、住宅型で65.5%あり、金額はホームによって大きく異なります。平均額は目安にとどまるため、検討中のホームの重要事項説明書で確認してください。

入居一時金0円のホームは、総額も安くなりますか?

公的な資料から、一時金0円だから総額が安いとは言えません。報告書には、前払金0円と月額の高さの因果関係を示す記述がないためです。月額に居住期間を掛けた総額に、敷金・保証金などを加えて試算し、途中退去時の返還金の扱いも契約書で確認することが必要です。

途中で退去した場合、入居一時金は戻りますか?

入居後3月が経過するまでに契約を解除した場合は、短期解約特例により、入居期間分の日割家賃などを除いた額が返還されます。3月を超えた後の返還金は、契約書に明示された算定方式によります。初期償却率や償却期間によって金額が変わるため、契約前に確認してください。

入居者が亡くなった場合、入居一時金はどうなりますか?

老人福祉法施行規則では、入居後3月が経過するまでの間に入居者の死亡により契約が終了した場合も、短期解約特例の対象です。それ以降の返還金の有無や計算方法は入居契約書に明示される事項のため、契約書と重要事項説明書で確認してください。

月払いと前払いは、どう考えて選べばよいですか?

どちらが良いかは、居住期間の見通しや資金計画によって変わります。月額と一時金から居住期間別の総額を試算し、途中退去時の返還金、初期償却、保全措置の有無も比べます。本記事は特定の方式を推奨するものではなく、重要事項説明書の確認を前提にしています。

契約や返還金でトラブルになったときの相談先は?

消費者ホットライン188から、最寄りの消費生活センター等につながります。ホームの設置運営については、設置地の都道府県・指定都市・中核市の高齢福祉担当部署も窓口です。契約書や重要事項説明書、やり取りの記録を手元に整理してから相談すると、状況を伝えやすくなります。

参考・出典

  1. 老人福祉法 (デジタル庁 e-Gov法令検索)
  2. 老人福祉法施行規則 (デジタル庁 e-Gov法令検索)
  3. 有料老人ホーム設置運営標準指導指針(検討会参考資料) (厚生労働省)
  4. 有料老人ホーム設置運営標準指導指針について (厚生労働省)
  5. 厚生労働大臣が定める有料老人ホームの設置者等が講ずべき措置(平成18年厚生労働省告示第266号) (厚生労働省)
  6. 有料老人ホームを対象とした指導状況等のフォローアップ調査結果(令和6年度) (厚生労働省)
  7. 有料老人ホームを対象とした指導状況等のフォローアップ調査結果(令和7年度) (厚生労働省)
  8. 有料老人ホームに対する指導強化について(老高発0703第1号) (厚生労働省)
  9. 有料老人ホームの現状と課題・論点 (厚生労働省)
  10. 有料老人ホームを巡る諸問題に関する実態調査報告 (消費者委員会)
  11. 高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究事業 報告書(令和6年度老人保健健康増進等事業) (厚生労働省 令和6年度老人保健健康増進等事業(掲載:PwCコンサルティング合同会社))
  12. 有料老人ホームのトラブルについて (東京都消費生活総合センター)
  13. 東京くらしねっと 2021年9・10月号 (東京都消費生活総合センター)
  14. 有料老人ホームについて (神奈川県)
  15. 見守り新鮮情報 第531号 (国民生活センター)
  16. 「老人ホーム入居権」に関する注意喚起 (国民生活センター)
  17. No.1127 医療費控除の対象となる介護保険等対価の取扱い (国税庁)
  18. No.1125 医療費控除の対象となる介護保険施設サービスの自己負担額 (国税庁)
  19. No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除) (国税庁)
  20. No.6226 住宅の貸付け (国税庁)