特養に入ると、配置医師が診察するたびに診察料がかかるのか、これまでの好きな医師に診てもらえるのか、と不安に思う方は多いでしょう。この記事では、配置医師の役割、介護報酬の加算、外部の医師にかかれる場面、協力医療機関、費用と医療費控除、入所前に家族が確認したい点を、省令・厚生労働省・自治体・国税庁の資料にもとづいて整理します。
先に結論を3点にまとめます。
- 日常の診察は配置医師が担います。
- 専門医など外部の医師の診療は、緊急や配置医師の専門外などの場合を除き、制限があります。
- 配置医師の診察では、初診料・再診料のような個別の診察料は請求されません。
ここでの「算定」とは、医療機関が診療報酬として請求することを指します。
特養の配置医師とは
定義と法令上の根拠
配置医師とは、特養が入所者の健康管理や療養上の指導のために配置している医師のことです。根拠は「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第46号)第12条第1項第2号で、医師の数は「入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数」と定められています(出典:省令および厚生労働省の資料)。病院のように医師が常に院内にいる前提ではなく、入所者の生活の場である施設で、必要な健康管理を行う立場にあります。
病院・診療所の医師との違い
病院や診療所の外来で診察を受ける場合は、診療ごとに診療報酬が算定されます。これに対し、特養の配置医師が入所者に行う健康管理・療養上の指導は、施設に支払われる介護報酬の中で評価されています。厚生労働省の資料でも、この評価の仕組みのため、配置医師の診療について初診料・再診料などの診療報酬は算定できないと整理されています。
併設医療機関の医師の扱い
特養に併設された医療機関の医師についても、配置医師と同様に扱うとされています。つまり、併設の病院の医師だからといって、外来と同じ診療報酬の扱いになるわけではありません。
人員基準と配置医師の役割
医師の人数は「必要な数」
基準上、医師の数は「必要な数」とされており、「何人」「週何回」といった全国一律の基準はなく、施設ごとの契約で決まります。確認先は、施設の運営規程・重要事項説明書や、施設への直接の質問です。なお、介護職員・看護職員については、厚生労働省の資料に入所者3人に対して1人などの基準が示されています。
契約内容は都道府県が把握している
配置医師の契約内容(常勤か非常勤か、月に何日、週の何曜日の何時から何時までか)は、別紙の様式により都道府県が把握する取扱いとされています。診察の頻度や時間帯は施設ごとに異なるため、入所を検討する際は「配置医師が何曜日の何時ごろに来るのか」を施設に直接確認するのが確実です。
日常の役割
配置医師の役割は、入所者の健康管理及び療養上の指導です。具体的な内容や範囲は、施設ごとの契約で異なります。詳しくは、特養そのものの仕組みを解説した特別養護老人ホームとはもあわせてご覧ください。
介護報酬での位置づけと各加算の単位数
配置医師の体制に関わる加算の主なものを、令和6年度改定後の単位数で整理します。単位数と算定状況は、厚生労働省の社会保障審議会・介護給付費分科会(第260回、令和8年7月9日)の資料に示されたもので、算定状況は令和7年11月審査分・事業所ベースの割合です。
常勤医師配置加算・精神科医療養指導加算
- 常勤医師配置加算:1日につき25単位(算定している事業所は2.1%)
- 精神科医療養指導加算:1日につき5単位(同30.5%)
常勤医師配置加算を算定している事業所は2.1%です(令和7年11月審査分、事業所ベース)。
配置医師緊急時対応加算
配置医師緊急時対応加算は、施設の求めに応じて、通常の勤務時間外に配置医師が訪問して診療した場合に算定する加算です。令和6年度改定で、日中の「通常の勤務時間外」の区分が新設されました。
- 早朝・夜間(早朝は6時〜8時、夜間は18時〜22時):1回につき650単位
- 深夜(22時〜6時):1回につき1,300単位
- 通常の勤務時間外(日中):1回につき325単位(令和6年度改定で新設)
算定している事業所は8.7%です。主な要件は、施設の求めに応じて早朝・夜間・深夜などに訪問して診療すること、診療した理由を記録すること、配置医師と施設の間で情報共有や連絡方法の取り決めがあること、複数の配置医師を置くか協力医療機関と連携して24時間対応できる体制を整えることなどです。要件の細部は留意事項通知で定められているため、個別の施設の算定状況は施設に確認してください。
看取り介護加算・協力医療機関連携加算など
看取り介護加算(Ⅰ)は、死亡日以前の期間に応じて、31〜45日前が1日72単位、4〜30日前が1日144単位、死亡の前日・前々日が1日680単位、死亡日が1,280単位です(算定割合は区分により約13.9〜24.9%)。加算(Ⅱ)はこれより高い単位数が設定されています。協力医療機関連携加算は、(1)が月50単位(算定42.3%)、(2)が月5単位(同2.4%)です。詳しい仕組みは看取り介護加算の関連記事でも解説しています。
加算は施設への報酬であり、診察のたびに診察料を請求される仕組みではありません。
日常の診察・往診の流れ
定期的な回診と健康管理
配置医師が訪問する曜日・時間帯は、契約内容として都道府県が把握する事項です。診察頻度に全国一律の基準はなく、「週に何回」という点は施設ごとに異なります。
体調変化があったとき
入所者の体調が変わったときの連絡の流れは、施設ごとに異なります。前の項目で触れた配置医師緊急時対応加算は、施設の求めに応じて配置医師が訪問し診療した場合に算定される加算で、配置医師と施設の間で連絡方法を取り決めておくことが要件のひとつです。入所前に、施設の連絡の流れを確認しておくと安心です。
日常の診察で家族が確認できること
- 診察の曜日・時間帯、家族が同席できるか
- 受診結果や服薬の変更を家族へどのように連絡するか
- 薬の処方の仕組み(施設が受け取る方法)や費用負担
これらは制度で一律に決まっているものではなく、施設の運営規程や運用で異なります。入所前の見学や面談の際に、遠慮なく尋ねて構いません。
配置医師以外の受診と医療保険の算定制限
特養の入所者が配置医師以外の医師の診療を受ける場合の医療保険上の扱いは、厚生労働省保険局の通知(保医発0330第9号、平成24年3月30日)に定められています。令和8年3月27日付の通知(保発0327第5号)で一部が改正されたと、埼玉県・愛知県が案内しています。通知は改正されることがあるため、最新の内容は所管の窓口や医療機関で確認してください。
配置医師の診療で算定できないもの
配置医師が入所者に行う診療(特別の必要があって行う診療を除く)は介護報酬で評価済みであるため、初診料・再診料(外来診療料を含む)、往診料、小児科外来診療料は算定できません。特定疾患療養管理料、生活習慣病管理料、各種の在宅指導管理料なども算定できないとされています。
配置医師でない医師が診療できる場面
配置医師でない医師は、緊急の場合、または傷病が配置医師の専門外で特に診療が必要な場合を除き、入所者をみだりに診療してはならないとされています。
医療保険で評価される4つの場面
厚生労働省の整理では、外部の医師の診療が医療保険で評価される場面は次の4つです。
- 緊急の場合
- 配置医師の専門外で、特に診療が必要な場合
- 末期の悪性腫瘍の場合
- 看取り介護加算の施設基準に適合する特養で看取った場合(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院・協力医療機関の医師が、死亡日から遡って30日間に行った診療に限る)
在宅医療の報酬との関係
特養の入所者は、在宅患者訪問診療料、在宅時医学総合管理料、在宅患者訪問看護・指導料、退院時共同指導料などの算定対象外です。ただし、上記の例外(末期の悪性腫瘍、看取り介護加算の施設基準に適合する特養での看取り)に当てはまる場合は別です。また、看取り介護加算を算定する場合は、在宅ターミナルケア加算・看取り加算は算定できません。特養の職員(看護師・理学療法士など)が行う医療行為も診療報酬の算定対象にはならず、診療報酬明細書の欄外には「施」と表示される扱いです。
緊急時対応と協力医療機関の3要件
令和6年度改定で定められた3要件
協力医療機関は、入院が必要になったときの受け入れ先の病院などにあたる医療機関です。令和6年度の改定で、特養は協力医療機関を定めるにあたって次の3つの要件を満たすことが求められるようになりました(静岡県・福島県の案内にもとづく)。
- 病状の急変時に、医師または看護職員が相談対応できる体制を常時確保していること
- 診療の求めがあった場合に診療できる体制を常時確保していること(往診の体制を常時確保することまでは求められていません)
- 入院が必要と認められた入所者を、原則として受け入れる体制を確保していること(医療法上の病院に限り、診療所は含みません。施設専用の病床を常時確保する必要もありません)
3つの要件は、複数の医療機関で分担して満たしてもよいとされています。協力医療機関の仕組みの詳細は協力医療機関とはで整理しています。
経過措置と届出
3要件については、令和9年3月31日までの経過措置があります。満たせない施設は、確保のための計画を届け出ることとされています。また施設は、年1回以上、協力医療機関と急変時の対応を確認し、名称等を指定権者に届け出ます。届出の時期は自治体ごとに異なります。
入院後の再入所
入院した入所者の再入所について、解釈通知では「速やかに入所させることができるよう努めなければならない」とされています。これは退院を見込んでベッドを常に空けておくという意味ではありません。入院が長期化した場合の取扱いは、施設の運営規程や契約書で確認が必要です。
夜間・休日の連絡体制
夜間・休日の連絡体制(職員が配置医師や協力医療機関にどのように連絡するか)は、各施設の取決めによります。入所前に「夜間に体調が急変した場合、誰がどのように判断するか」を尋ねておくと安心です。
関連する加算
協力医療機関連携加算の単位数は前の節に示したとおりです。感染症対応に関する高齢者施設等感染対策向上加算は(Ⅰ)が月10単位、(Ⅱ)が月5単位で、いずれも施設への加算であり、個人の診察料とは別の位置づけです。
看取りと医療
看取り介護加算の位置づけ
看取り介護加算は施設への加算です。令和3年度改定では、ガイドラインに準拠した対応、生活相談員の参加の明記、「死亡日以前45日」の区分の新設が行われました。単位数は前述のとおり、死亡日に近づくほど高くなります。
看取り期の医療保険の扱い
看取り期に外部の医師の診療が医療保険で評価される条件は、前の「医療保険で評価される4つの場面」と「在宅医療の報酬との関係」で示したとおりです。
家族が確認したいこと
- 施設が看取り介護加算の施設基準に適合しているか
- 看取りの方針と、医師・看護職員・介護職員の関わり方
- 最期が近づいたときの連絡方法と、家族の付き添いの扱い
看取りを行うかどうかは施設によって異なります。入所前に方針を確認し、運営規程や重要事項説明書の記載を読んでおくことが大切です。
費用・自己負担と医療費控除
診察にかかる自己負担の考え方
配置医師の健康管理は介護報酬で評価されているため、日常の健康管理に診察料を別途請求される仕組みではありません。ただし、介護保険施設としての自己負担(所得等に応じた1〜3割負担、食費、居住費など)や、医療保険を使う受診の自己負担割合(年齢・所得で異なる)の具体的な金額は、保険証の区分や負担割合証、施設の重要事項説明書で確認してください。
特養の施設サービス費の医療費控除
国税庁のタックスアンサーNo.1125によると、特養の施設サービスは、介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1が医療費控除の対象になります。理美容代などの日常生活費や、特別なサービスの費用は対象外です。高額介護サービス費の払戻しがある場合は、その2分の1を差し引きます。制度の詳細は介護費用の医療費控除とはで解説しています。
通院交通費の考え方
国税庁のタックスアンサーNo.1122では、電車・バスの通院交通費は医療費控除の対象とされています。タクシー代は原則として対象外ですが、公共交通機関が使えない場合は対象になります。自家用車のガソリン代や駐車料金は対象外で、家族・親類への付添料も対象外です。
通院の付き添いは誰が担うか
外部の医療機関へ通院する際の付き添いは、施設が行う場合と、家族に依頼される場合があり、施設により異なります。費用の扱いも含め、運営規程・重要事項説明書で確認してください。入所前に聞いておきたいのは、誰が付き添うのか、どのくらいの頻度か、有料の場合の料金はいくらか、の3点です。
入所前に家族が確認する点
確認項目の一覧
- 配置医師の契約内容:常勤か非常勤か、訪問の曜日・時間帯
- 配置医師緊急時対応加算の算定有無と、24時間対応の体制
- 看取り介護加算の施設基準に適合しているか
- 協力医療機関の名称と、3要件を満たしているか(経過措置中かどうか)
- 外部の医療機関へ通院する場合の付き添いと費用の扱い
- 診察結果や薬の変更の連絡方法
どこで確認するか
運営規程・重要事項説明書、見学時の説明が基本です。地域の制度の取扱いは、市区町村の介護保険担当窓口や、地域包括支援センター、担当のケアマネジャーにも相談できます。個別の可否は施設ごとに異なるため、気になる点は書面で確認しておくと安心です。
質問の仕方のコツ
「診察は週に何回ですか」だけでなく、「夜間に熱が出たらどうなりますか」「入院が必要になったとき、どこの病院になりますか」のように、具体的な場面を想定して尋ねると、体制の実態が分かりやすくなります。
よくある誤解
「配置医師が診察すれば、毎回診察料がかかる」
配置医師が入所者に行う健康管理・療養上の指導は介護報酬で評価されており、外来の初診料・再診料は算定できません。
「いつでも好きな専門医に往診してもらえる」
配置医師でない医師は、緊急または配置医師の専門外で特に必要な場合などを除き、みだりに診療できません。
「24時間いつでも医師が常駐している」
配置医師が24時間常駐することを求める基準は示されていません。夜間・休日の連絡体制は施設ごとの取決めなので、入所前に確認しましょう。
「協力医療機関が決まっていれば、いつでも入院できる」
3要件では入院が必要と認められた入所者を「原則受け入れる」体制の確保が求められますが、施設専用病床を常時確保する必要はありません。
制度改定と情報の確認について
介護保険は3年ごとに制度が見直されます。令和6年度改定で日中区分(325単位)が新設され、協力医療機関の要件化がなされました。令和8年7月9日の第260回社会保障審議会・介護給付費分科会では介護老人福祉施設が議題になっています。単位数・要件・通知の内容は変わる可能性があるため、最新の情報は厚生労働省や都道府県・市区町村の公表資料、各施設で確認してください。
かいごの窓は、特定の施設やサービスを評価・順位づけせず、公的な情報にもとづいて並列に情報を整理しています。詳しくはこのサイトの立ち位置をご覧ください。
まとめ
- 配置医師は、特養の入所者の健康管理・療養上の指導を担う医師で、人数は基準上「必要な数」。診察頻度や契約内容は施設ごとに異なる。
- 配置医師の診療は介護報酬で評価され、初診料・再診料などの診療報酬は算定できない。外部医師の診療が医療保険で評価されるのは、緊急、専門外、末期悪性腫瘍、看取りの4場面。
- 緊急時は配置医師緊急時対応加算(650/1,300/325単位)などの体制があり、協力医療機関は令和6年度改定で3要件が求められている(経過措置は令和9年3月31日まで)。
- 医療費控除は、特養の施設サービスは自己負担の2分の1が対象で、通院は電車・バス代などが対象。タクシー代等は条件がある。
- 入所前に確認する3つの質問:配置医師はいつ来て、緊急時の連絡はどう流れるか。入院が必要になったとき、協力医療機関はどこか。通院の付き添いは誰が行い、有料なら料金はいくらか。
制度や取扱いは改定されることがあります。最新の内容は、施設、市区町村の窓口、地域包括支援センター、担当のケアマネジャーにご確認ください。編集方針はこのサイトの立ち位置に記載しています。