介護施設の感染症対策は、特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院などの運営基準で、感染症対策検討委員会の開催、指針の整備、従業者への研修、訓練(シミュレーション)の実施が定められています。施設系では委員会をおおむね3月に1回以上開く決まりで、訓練の実施は令和6年(2024年)4月から義務になりました。この記事では、義務の内容、令和6年度介護報酬改定、感染経路ごとの考え方、報告基準、面会との関係、BCPとの違いを公的資料にもとづいて整理します。ご家族が見学で聞くべき点は、最後の節にまとめています。
なお、この記事でいう「施設系」は、特養・老健・介護医療院を指します。有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)やグループホームは、委員会の頻度など確認できていない部分があるため、入居先や自治体に確認してください。
介護施設の感染症対策に関する義務の全体像
感染症対策が運営基準に位置づけられている
介護施設で暮らす高齢者は、同じ建物で食事や入浴を共にします。そのため感染症対策は、サービスを提供するための「運営基準」(事業者が守る人員・設備・運営のルール)に定められた事項として扱われています。
特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)は「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第39号)第27条第2項、介護老人保健施設は同じく厚生省令第40号第29条第2項、介護医療院は厚生労働省令第5号第33条第2項で、感染症の予防とまん延防止のための措置を定めています(e-Gov法令検索)。
家族の見方:感染症対策は施設ごとの任意の取り組みではなく、基準にもとづく決まりごとです。
対象になるサービスと頻度の違い
感染症対策の措置は、訪問介護・通所介護・福祉用具貸与などを定める「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成11年厚生省令第37号)にも置かれています。施設系の委員会は「おおむね三月に一回以上」、訪問介護・通所介護・福祉用具貸与は「おおむね六月に一回以上」です。
特定施設入居者生活介護やグループホーム(認知症対応型共同生活介護)の委員会の頻度や、通所系・訪問系の研修の回数は、今回確認できた範囲では断定できません。各サービスの基準や解釈通知(基準の読み方を示す国の通知)を、自治体の介護保険担当窓口か事業所に確認してください。
施設の種類別の義務の早見表
| サービス | 委員会 | 指針・研修・訓練 |
|---|---|---|
| 特養・老健・介護医療院 | おおむね3月に1回以上 | 指針の整備、研修(感染症・食中毒)、訓練(感染症)を定期的に実施 |
| 訪問介護・通所介護・福祉用具貸与 | おおむね6月に1回以上 | 指針の整備、研修、訓練を定期的に実施 |
| 特定施設・グループホーム | 頻度などは各基準・自治体に確認(今回は確認できていません) | |
家族の見方:入居を考えている施設の種類が表のどれに当たるかを先に確認すると、聞く内容を絞れます。
令和3年度改定での義務化と経過措置
感染症対策の強化は、令和3年度(2021年度)の介護報酬改定で、介護サービス全体に義務づける形で位置づけられました。「経過措置」(新しい義務をすぐ課さず、猶予する期間)が3年間設けられ、期限は令和6年(2024年)3月31日、令和6年4月1日から義務になっています(介護保険最新情報Vol.1174)。
何が新しく義務になったかはサービスによって違います。施設系は、委員会・指針・研修がそれ以前から義務で、令和6年4月に義務になったのは主に「訓練」です。それ以外のサービスは、委員会・指針・研修・訓練のすべてが対象でした。
委員会・指針・研修・訓練の4本柱
感染症対策検討委員会
施設系の基準では、感染症対策検討委員会をおおむね3月に1回以上開催し、結果を従業者に周知徹底することが求められています。テレビ電話装置などを使った開催も認められています。解釈通知(老企第43号の新旧対照表)では、定期の開催に加えて、流行時などには随時開催することが示されています。
感染症の予防とまん延防止のための指針
委員会で決めた方針を文書にしたものが「指針」です。平常時の対策と、感染症が発生したときの対応を整えておくことが、解釈通知で示されています。
従業者への研修
研修は、感染症および食中毒の予防とまん延防止の内容を、従業者に定期的に行うものです。解釈通知では、年2回以上と新規採用時に行うこと、実施内容を記録することが示されています。
訓練(シミュレーション)
訓練は、感染症が発生した場合を想定して、発生時の対応を職員が実際に確認する取り組みです。解釈通知では、年2回以上実施し、机上と実地を組み合わせる考え方が示されています。
机上だけでなく、実地で動きを確かめる点が基準で求められています。
家族の見方:委員会・研修・訓練が、いつ、どの頻度で行われているかを尋ねることができます。
疑いが出たときの手順に沿った対応
基準では、厚生労働大臣が定める感染症または食中毒が疑われる場合の対応手順に沿って、施設が対応することも求められています。国への報告の目安は、別に国の通知で示されています(後述)。
令和6年度介護報酬改定で変わった点
高齢者施設等感染対策向上加算
令和6年度の介護報酬改定で、「高齢者施設等感染対策向上加算」が設けられました。「加算」は、基本の報酬に上乗せされる施設への報酬で、利用者負担に影響する場合があります。金額は「単位」(介護報酬の計算に使う単位)で表されます。具体的な負担額は施設や自治体に確認してください。
対象は、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院です。改定時の単位数は(Ⅰ)が月10単位、(Ⅱ)が月5単位でした(令和6年度介護報酬改定の主な事項について)。最新の単位数は厚生労働省で確認してください。
算定のための主な要件
(Ⅰ)は、第二種協定指定医療機関(新興感染症の発生時の対応にかかわる、感染症法上の医療機関の区分)と、新興感染症の発生時の対応を取り決めること、協力医療機関などと感染症発生時の対応を取り決めて連携すること、医療機関や医師会が行う院内感染対策の研修または訓練に年1回以上参加することが要件です。(Ⅱ)は、感染対策向上加算の届出を行っている医療機関から、3年に1回以上、施設内で感染が発生した場合の感染制御について実地指導を受けることが要件です。
家族の見方:加算の届出の有無は、外部の医療機関との連携を知る手がかりの一つです。届け出ていないことが対策の不足を意味するとは限りません。
新興感染症等施設療養費
新興感染症等施設療養費は、1日240単位で、月1回、連続する5日が限度です。対象となる感染症は、厚生労働大臣が指定します。新型コロナウイルス感染症や季節性インフルエンザで施設内療養を行った場合は、算定できません(令和6年度介護報酬改定に関するQ&A Vol.12)。同Q&A(令和7年1月)の時点では、令和6年4月以降に指定された感染症はありませんでした。最新の指定状況は厚生労働省で確認してください。
協力医療機関との連携
協力医療機関に求められる3つの要件
令和6年度改定では、介護保険施設(特養・老健・介護医療院)が、次の3要件を満たす協力医療機関を定めることが位置づけられました。(1)入所者の病状が急変した場合などに、医師または看護職員が相談対応する体制を常時確保していること、(2)診療の求めがあった場合に診療を行う体制を常時確保していること、(3)入院が必要な入所者を原則として受け入れる体制を確保していること(病院に限る)です。
3要件は、複数の医療機関で分担して満たしても構いません。年1回以上、急変時の対応を確認し、協力医療機関の名称などを自治体に届け出ることになっています(審議報告)。
経過措置と、サービスごとの扱い
特別養護老人ホームの基準の附則では、令和9年(2027年)3月31日までは努力義務で、令和9年4月1日から完全な義務になります。老健・介護医療院の経過措置は、今回確認できていないため、それぞれの基準の附則や自治体で確認してください。特定施設入居者生活介護とグループホームは、努力義務とされています。
制度の詳細は、介護施設の協力医療機関の仕組みを解説した記事で整理しています。
新興感染症の発生時の対応の協議
協力医療機関が第二種協定指定医療機関であれば、新興感染症の発生時の対応についても、あらかじめ協議しておくことが想定されています。
家族の見方:協力医療機関の名称と、急変時や感染症発生時にどう連携するかを尋ねることができます。
標準予防策と感染経路別予防策
標準予防策の考え方
厚生労働省老健局の「介護現場における感染対策の手引き 第3版」(令和5年9月)は、標準予防策を感染対策の基本に置いています。感染症の有無にかかわらず、血液、体液(汗を除く)、分泌物、排泄物、粘膜、傷のある皮膚は感染性があるものとして扱う考え方です。
これらに触れるおそれのあるときは手袋を使い、必要に応じてマスクやゴーグルも着け、手袋を外した後に手を洗います。咳エチケットも含まれます。
感染経路別の予防策
標準予防策に加えて、経路に応じた対策を重ねます。次の表は、手引きの整理です。
| 感染経路 | 主な感染症 | 対策の基本 |
|---|---|---|
| 空気感染 | 結核、麻しん、水痘 | N95などのマスクを使う |
| 飛沫感染 | インフルエンザ、風しん、ムンプス、新型コロナウイルス | 飛沫が届く1〜2m以内への注意、マスクと個室対応が基本 |
| 接触感染 | ノロウイルス、疥癬、MRSA、新型コロナウイルス | 手袋・ガウン、利用者ごとに物品を分ける |
新型コロナウイルスは、飛沫と接触の両方の欄に入っています。飛沫やエアロゾル、接触で感染するとされるためです。
手洗いと換気
手洗いはどの経路でも基本です。換気については、新型コロナウイルス感染症への対策として、機械換気の活用や、二酸化炭素濃度の確認が示されています。
家族の見方:面会や見学のときに、手指消毒や換気がどのように行われているかを見ておくことができます。
主な感染症の要点と嘔吐物処理
ノロウイルス
ノロウイルスは、100個以下でも感染するとされ、潜伏期間は12〜48時間です。アルコール消毒は効果が弱いとされています。水様便や嘔吐のある人が2人以上出たときは、集団感染を考えて対応します。
嘔吐物の処理
職員は、換気し、周囲の利用者を移動したうえで、マスク・使い捨てエプロン・手袋を着けて、外側から内側へ拭き取ります。0.02%の次亜塩素酸ナトリウム液で浸すように拭いてから水拭きし、噴霧はしません。周囲2m程度は汚染されていると考えます。
インフルエンザ
流行は12月頃から3月頃で、潜伏期間は平均2日(1〜4日)です。国内の研究として、65歳以上の入所者で発病阻止効果が34〜55%、死亡阻止効果が82%と記されています。疑いのある入所者は、原則として個室で対応します。接種の判断は、かかりつけ医など医療の専門家に相談してください。
結核
結核は空気感染する感染症で、咳が2週間以上続く場合は注意が必要とされています。手引きでは、感染症法第53条の2により、特養・養護老人ホーム・軽費老人ホームの65歳以上の入所者は、毎年定期健康診断を受けるとされています。詳しくは自治体や施設に確認してください。
レジオネラ症・疥癬・新型コロナウイルス
レジオネラ症は人から人への感染はなく、循環式浴槽の消毒や浴槽水の検査が示されています。疥癬は、疑いがあるとき皮膚科の専門医に相談し、入所前に治療を済ませるのが原則です。新型コロナウイルス感染症は、令和5年5月から5類で、潜伏期間は2〜7日です。
家族の見方:消毒液の濃度や温度などの細部は職員の実務です。家族は、感染症が出たときの手順が決まっているかを尋ねるとよいでしょう。
感染症が発生したときの報告基準
市町村などに報告する3つの場合
感染症や食中毒が発生した場合の報告は、平成17年2月22日の厚生労働省の通知(令和5年4月28日一部改正)にもとづきます。施設長は、次の場合に市町村等の主管部局へ迅速に報告し、保健所にも報告して指示を求めます。
- ア 同一の感染症や食中毒(疑いを含む)による死亡者または重篤な患者が、1週間以内に2名以上発生した場合
- イ 患者(疑いを含む)が10名以上、または全利用者の半数以上発生した場合
- ウ ア・イに該当しなくても、通常の発生動向を上回る発生が疑われ、施設長が必要と認めた場合
報告内容は、人数、症状、対応状況です(長野県松本保健福祉事務所の案内)。
報告の注意点
この報告は、医師が感染症法にもとづいて行う届出とは別です。自治体によって窓口や様式が異なる場合があります。事故全般の報告は、介護施設の事故報告の記事でも整理しています。
家族の見方:報告の仕組みがあることと、家族への連絡は別の話です。家族への連絡方法は、施設に確認します。
面会・入居時の確認・予防接種
面会と感染対策
厚生労働省の事務連絡(令和5年4月18日)は、面会について、感染経路の遮断と、制限が利用者の心身に与える影響の両面を考え、地域の発生状況も踏まえ、可能な限り安全に実施できる方法を検討するとしています。手引きでは、流行時や発生時には必要に応じて制限を検討し、入退館の記録やオンライン面会を活用するとされています。最新の通知は厚生労働省のページで確認してください。面会ルールの実際は、介護施設の面会ルールの記事で整理しています。
入居時の健康状態の把握
入居時は、サービス担当者会議、入所時健康診断、主治医の診断書などで健康状態を把握します。結核の既往歴や薬剤耐性菌の保菌などを理由に、サービスの提供を拒否することはできないとされています。
予防接種
高齢者のインフルエンザと肺炎球菌感染症は、予防接種法の定期接種の対象です。施設は副反応を説明し、同意を得て接種の機会を提供します。新型コロナウイルスワクチンの定期接種は、65歳以上と、60〜64歳で一定の障害のある方が対象で、原則有料です(厚生労働省)。
家族の見方:接種は同意が前提です。接種の案内や同意の取り方を、事前に尋ねられます。
感染症のBCPとの関係
感染対策の指針とBCPの違い
感染症のBCP(業務継続計画)は、感染症が流行しても必要なサービスを続けるための計画です。BCPは体制整備、連絡先、優先業務、職員の確保に重点があり、感染対策の指針・マニュアルは予防策やケア方法に重点があります。
研修・訓練は一体的に実施してもよい
感染症BCPの研修・訓練は年2回以上で、感染症の予防とまん延防止の研修・訓練と、一体的に実施してもよいとされています(業務継続ガイドライン)。BCPは介護施設のBCPの記事で整理しています。BCPを策定していない場合の減算は、施設・居住系で3%、その他で1%です。
家族の見方:感染対策の指針とBCPは別の書類なので、それぞれの有無を尋ねられます。
見学時に家族が確認できる点
確認できる事項
- 感染症対策検討委員会を開いているか、その頻度
- 感染症の予防とまん延防止の指針があるか
- 直近の研修と訓練を、いつ、どのような内容で行ったか
- 感染症のBCPを策定しているか
- 高齢者施設等感染対策向上加算を届け出ているか
- 協力医療機関の名称と、発生時の連携
発生時に家族へどう知らされるか、面会や外出はどうなるか
感染症が出たときの家族への連絡や、面会・外出の扱いは、施設ごとに違います。重要事項説明書や指針に書かれているかを尋ねるのが、確かな行動です。流行時に面会が制限される場合の条件や、オンライン面会の有無も確認できます。
確認するときの考え方
答えが「ない」「まだ」でも、それだけで施設の良し悪しは判断できません。施設の種類や規模、経過措置などで状況は異なります。説明が具体的か、記録があるかが手がかりです。当サイトは特定の施設を評価・推薦しません。疑問は自治体の介護保険担当窓口にも相談できます。
まとめ
- 特養・老健・介護医療院では、感染症対策検討委員会(おおむね3月に1回以上)、指針、研修、訓練が運営基準で定められており、訓練は令和6年4月から義務になった。
- 解釈通知では、研修は年2回以上と新規採用時、訓練は年2回以上(机上と実地の組合せ)が示されている。
- 令和6年度改定で、高齢者施設等感染対策向上加算と、介護保険施設の協力医療機関の定めが位置づけられた。
- 死亡者・重篤患者が1週間以内に2名以上、患者が10名以上または半数以上などの場合は、市町村等と保健所への報告が求められる。
- 見学時は、最低限、次の3つを優先して聞くとよい。(1)直近の研修・訓練をいつ、どう行ったか、(2)協力医療機関はどこで、感染症が出たときどう連携するか、(3)家族への連絡と、面会・外出の扱いが書面に書かれているか。
介護保険制度は3年ごとに改定が行われるため、感染症対策に関する要件や単位数も今後見直される可能性があります。本記事は執筆時点(2026年10月)の公的情報にもとづくもので、最新の内容は厚生労働省や自治体の公表情報をあわせてご確認ください。このサイトの記事は特定の事業者を評価・推薦するものではなく、公的情報を並列に整理する立場で作成しています(詳しくはこのサイトの立ち位置をご覧ください)。