「地域包括ケアシステム」は、施設や窓口の名前ではなく、住まい・医療・介護・介護予防・生活支援を地域の中で一体的に確保していく「体制」のことです。厚生労働省・内閣府・自治体の公的資料にもとづいて、基本を整理します。
この記事で分かること
- 法律上の定義と、5つの構成要素・植木鉢の図
- 自助・互助・共助・公助の考え方
- 身近な相談先である地域包括支援センターの使い方
- 2040年に向けた動きと地域差
先に押さえたい要点:介護の相談は、まず親(本人)の住所地を担当する地域包括支援センターへ。要介護認定を受ける前でも相談できるかどうかは、自治体で確認してください。相談が無料かどうかも、自治体の案内で確認します(名古屋市は無料と明記)。センターの役割や探し方は地域包括支援センターとはで詳しく解説しています。
地域包括ケアシステムとは何か
まず、言葉の意味を法律と厚生労働省の説明から確認します。「システム」とついていますが、パソコンの仕組みのようなものではなく、地域ごとにつくり上げていく支え合いの体制を指します。
法律上の定義
地域包括ケアシステムは、「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」(医療介護総合確保法)の第2条に定義があります。内容を要約すると、「地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防(要介護状態等となることの予防や悪化の防止を含む)、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」とされています。
ここで押さえたいのは、定義の中に「地域の実情に応じて」という言葉が入っている点です。全国一律の型があるのではなく、人口規模や高齢化の進み方、医療機関や介護事業所の数が地域ごとに違うことを前提にした体制だということです。また、介護保険法の第5条にも、国と地方公共団体が、被保険者が住み慣れた地域で自立した日常生活を送れるよう、保険給付・予防・自立支援の施策を、医療や居住に関する施策と有機的に連携させながら包括的に推進するよう努める旨が定められています。条番号は法改正で変わることがあるため、この記事では条までを記し、項は省略しています。
厚生労働省が示す目的と時期
厚生労働省は、地域包括ケアシステムを、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制として説明しています。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に構築を推進するとされ、その実現は市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性にもとづき、地域の特性に応じてつくり上げていくものと位置づけられています。
つまり、国が全国共通の完成品を配るのではなく、各市区町村が自分の地域の高齢者の状況を見ながら、医療・介護・生活支援の組み合わせを整えていく形です。そのため、同じ名前の仕組みでも、お住まいの地域によって窓口の名称や使えるサービスの顔ぶれが違うことがあります。
よくある誤解:施設や特定のサービスの名前ではない
よくある誤解の一つが、「地域包括ケアシステムという施設に入る」「そういう名前のサービスを契約する」というイメージです。実際には、地域包括ケアシステムは申し込む対象ではなく、地域にある複数の資源(医療機関、介護事業所、地域包括支援センター、行政、住民の支え合い活動など)がつながって機能している状態そのものを指します。
もう一つの誤解は、「介護保険のサービスだけで完結する」という見方です。定義にあるとおり、医療、予防、住まい、生活支援まで含みます。たとえば日々のゴミ出しや見守りのような、介護保険の給付に入らない支えも、この体制の大事な要素です。介護が必要になってからの話に限らず、元気なうちの介護予防や、通いの場への参加も含まれます。
なぜ地域包括ケアシステムが必要とされるのか
この体制が必要とされる背景には、高齢者の増加と暮らし方の変化があります。公的統計で現状と見通しを確認します。数字は調査時点が異なるため、時点を併記します。
高齢者人口の現状
内閣府の令和8年版高齢社会白書によると、令和7年10月1日現在、65歳以上は3,622万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.4%です。75歳以上は2,127万人(17.3%)、85歳以上は768万人(6.2%)で、そのうち95歳以上も76万人います。
医療や介護の必要性は、75歳以上、とりわけ85歳以上で高まる傾向があります。つまり、医療・介護を必要としやすい年代の人が多い社会になっており、これが体制づくりを急ぐ理由の一つです。
今後の見通し
令和5年の将来推計では、65歳以上の人口は2043年に3,953万人でピークを迎えるとされています。その後も高齢化率は上がり続け、2070年には高齢化率が38.7%、75歳以上が人口の25.1%になる見通しです。また、65歳以上1人を支える15〜64歳の人数は、令和7年の2.0人から2070年には1.3人へと減っていくと推計されています。
支える側の人口が減るということは、介護の担い手や地域の支え手も限られてくることを意味します。専門職だけに頼るのではなく、地域の多様な主体が役割を分け合う考え方が重視される背景には、こうした人口の見通しがあります。なお、将来推計は前提条件によって変わるため、最新の数字は内閣府の高齢社会白書などで確認してください。
認知症の人の増加
厚生労働省研究班の推計(令和6年5月公表)では、認知症の人は2022年の443.2万人から、2040年には584.2万人になると見込まれています。軽度認知障害(MCI、認知症の一歩手前とされる状態)の人も、2022年に558.5万人と推計されています。
図のとおり、認知症の人は一貫して増える見通しです。年ごとの数字と、高齢者に占める割合を表にまとめます。
| 年 | 認知症の人(高齢者に占める割合) | MCIの人(同) |
|---|---|---|
| 2022年 | 443.2万人(12.3%) | 558.5万人(15.5%) |
| 2025年(推計) | 471.6万人(12.9%) | - |
| 2040年(推計) | 584.2万人(14.9%) | 612.8万人(15.6%) |
2025年・2040年は将来推計で、2022年の有病率が将来も一定という仮定にもとづきます。2025年のMCIの推計値は、この記事では取り上げていません。
だから何が必要かというと、認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けるには、医療・介護だけでなく、金銭管理、見守り、権利擁護(高齢者の権利や財産を守る支援)、近隣の理解といった多方面の支えが必要になるということです。1つの事業所や1人の家族で抱えきれないことが多く、地域全体での連携が求められる理由になっています。
世帯構造の変化
令和6年国民生活基礎調査によると、65歳以上の人のいる世帯は2,760万4千世帯で、全世帯の50.3%です。その内訳を、5つの区分で見ると次のとおりです。
| 世帯の区分 | 世帯数 | 割合 |
|---|---|---|
| 単独世帯 | 903万1千世帯 | 32.7% |
| 夫婦のみの世帯 | 878万6千世帯 | 31.8% |
| 親と未婚の子のみの世帯 | 561万9千世帯 | 20.4% |
| 三世代世帯 | 175万1千世帯 | 6.3% |
| その他の世帯 | 241万6千世帯 | 8.8% |
単独(32.7%)と夫婦のみ(31.8%)を合わせると、65歳以上の人のいる世帯の6割超になります。日常的に介護や見守りを担える同居の家族が少ない世帯が多い、ということです。
さらに、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の一人暮らしの割合は次のように上がると見込まれています。
| 65歳以上の一人暮らしの割合 | 令和2年 | 令和32年(推計) |
|---|---|---|
| 男性 | 15.0% | 26.1% |
| 女性 | 22.1% | 29.3% |
家族だけで支える前提が成り立ちにくくなっていることが、地域の支え合いを制度として整える必要性につながっています。
5つの構成要素と「植木鉢」の図
厚生労働省の説明では、地域包括ケアシステムは、住まい・医療・介護・予防・生活支援の5つの構成要素が一体的に提供される体制です。このうちどれか一つが欠けても、在宅での暮らしは続けにくくなります。この5つの関係を絵にしたものが、「植木鉢」の図です。
植木鉢の図の見方
植木鉢の図は、厚生労働省の資料にも掲載されている地域包括ケア研究会(平成25年3月)の報告書で使われたもので、5つの構成要素を補足して説明するための絵です。植木鉢の中の「葉」「土」「鉢」と、鉢を受ける「受け皿」で、要素の関係を表します。
図のとおり、専門的なサービス(葉)は、生活支援(土)と住まい(鉢)という基盤の上にあって初めて機能し、本人・家族の意思(受け皿)が全体を支えます。各部位の意味と、家族にとっての例を表に整理します。
| 部位 | 意味 | 家族にとっての例 |
|---|---|---|
| 葉 | 医療・看護、介護・リハビリテーション、保健・予防 | 通院、介護保険の通所・訪問サービス、介護予防の取り組み |
| 土 | 生活支援・福祉サービス | 買い物や掃除の手伝い、見守り、話し相手 |
| 鉢 | すまいとすまい方 | 自宅での暮らし、高齢者向けの住まいも含めた暮らし方の選択 |
| 受け皿 | 本人・家族の選択と心構え | どう暮らしたいかを、本人と家族で話し合っておくこと |
葉:医療・介護・予防の専門的サービス
葉の部分は、医療・看護、介護・リハビリテーション、保健・予防という専門職が関わるサービスです。病気やけがの治療、介護保険のサービス、要介護状態になることを防ぐための取り組みが並びます。ここは介護保険や医療保険の制度と直接つながっており、利用者が最も具体的にイメージしやすい部分です。
土と鉢:生活支援と住まい
土にあたるのは、生活支援・福祉サービスです。専門的なサービスがあっても、買い物、掃除、見守り、話し相手といった日常の支えがなければ、在宅の暮らしは続けにくくなります。植木鉢の絵では、土がやせていると葉が育たないという形で、生活支援の大切さを示しています。
鉢にあたるのは「すまいとすまい方」です。高齢期の暮らしは、まず安心して住み続けられる住まいがあることが前提で、その上で、どのように暮らすか(独居か、家族と同居か、高齢者向けの住まいか等)という「すまい方」も含めて考える、という意味合いです。
受け皿:本人・家族の選択と心構え
受け皿の「本人・家族の選択と心構え」は、制度やサービスが整っていても、どんな暮らしを望むのかを本人と家族が考え、選ぶことが土台になるという考え方です。この図の注記では、都市部では意識的に互助を強化していかなければ、強い互助は期待できないという趣旨が示されています。地域のつながりが自然に残っている地域と、そうでない地域とでは、同じ体制でも出発点が違うということです。
家族にとっての実践的な意味は、「サービスを探す前に、本人がどう暮らしたいかを話し合っておく」ことです。希望がはっきりしているほど、ケアマネジャーや相談員も、必要な組み合わせを提案しやすくなると考えられます。
自助・互助・共助・公助の考え方
地域包括ケアシステムの資料には、必ずと言っていいほど「自助・互助・共助・公助」の4つの言葉が出てきます。誰が何を担うかを整理する枠組みです。
自助と互助
自助は、自分自身や家族による対応のほか、市場サービスの購入、介護保険の自己負担分などを含みます。健康維持のための日々の取り組みや、必要に応じた民間のサービスの購入も自助に含まれます。
互助は、費用負担が制度的に保障されていない、ボランティアや地域住民の取り組みなどを指します。近所の見守り、住民主体の集まり、助け合い活動が代表例です。制度の給付ではないので、地域の人の自発的な参加が前提になります。
共助と公助
共助は、介護保険や医療保険など、被保険者があらかじめ保険料を負担し合うことで成り立つ給付です。介護保険のサービスを自己負担を除く部分が給付される形で使えるのは、この共助の仕組みによります。
公助は、税金(公費)で賄われる自治体のサービスや支援です。生活に困窮している場合の支援や、高齢者の権利を守るための施策などが含まれます。
4つの組み合わせで考える
この4つは、どれか一つで足りるものではなく、組み合わせて暮らしを支えるものです。場面ごとに担い手が違います。
図のとおり、4つの「助」はそれぞれ担う範囲が異なります。具体的な場面に当てはめると、次のようになります。
| 場面 | 担い手 | 区分 |
|---|---|---|
| 通院 | 医療機関(医療保険) | 共助(自己負担分は自助) |
| 日中の通所 | 介護保険の通所サービス | 共助(自己負担分は自助) |
| ゴミ出し・見守り | 近所の助け合い・住民の活動 | 互助 |
| 権利擁護の相談 | 自治体の窓口 | 公助 |
家族が介護の方針を考えるときも、「全部を家族で」か「全部を制度で」かの二択にせず、4つの視点で何がどこから支えられるかを一覧にしてみると、過不足が見えます。互助の部分は、地域によって差が大きい領域ですので、地域包括支援センターで地域にどんな集まりや支え合いがあるかを聞いてみるとよいでしょう。
身近な総合相談窓口:地域包括支援センター
地域包括ケアシステムの中で、家族が最初に出会うことが多い機関が、地域包括支援センターです。
設置主体と配置される専門職
地域包括支援センターは、市町村が設置する機関です。介護保険法第115条の46にもとづき、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)などの専門職が配置され、地域の高齢者の暮らしを支える中核的な機関として位置づけられています。介護保険の申請をする前でも、介護のことで困りはじめた段階で相談できるとされています。ただし、対応は自治体によって異なる場合があるため、認定前の相談については、お住まいの自治体で確認してください。
ここでは、地域包括ケアシステム全体の中での位置づけに絞って説明します。センターそのものの役割や探し方は、冒頭で挙げた専用の解説記事にまとめています。
4つの主な業務
センターの主な業務は、次の4つです。
- 総合相談支援:高齢者や家族からの、介護・福祉・医療・生活全般の相談を受け付け、必要な機関やサービスにつなぐ
- 権利擁護:成年後見制度の活用促進や、高齢者虐待への対応など、高齢者の権利や財産を守る支援
- 包括的・継続的ケアマネジメント支援:地域のケアマネジャーへの助言や支援、関係機関との連携づくり
- 介護予防ケアマネジメント:要支援の方や介護予防が必要な方に向けた、予防のためのケアプランづくり
相談の入り口が一つであることは、家族にとって大きな意味があります。介護、医療、お金、住まい、権利に関することが混ざった悩みでも、まず1か所に話せば、必要な窓口や制度を案内してもらえる仕組みが想定されています。
全国の設置数と運営形態
厚生労働省の資料(令和7年4月末現在)によると、全国の地域包括支援センターの数は、どこまでを数えるかによって次のように変わります。
| 集計の範囲 | か所数 |
|---|---|
| センター(総数) | 5,487か所 |
| うち、担当圏域があるセンターのみを集計した場合 | 5,362か所 |
| ブランチ・サブセンターを含む場合 | 7,374か所 |
ブランチ(1,567か所)は住民の身近な相談窓口、サブセンター(320か所)はセンターを補う拠点で、これらを含めると7,374か所になります。資料によって数字が違って見えても、誤りではなく集計の仕方の違いです。
運営形態は、市町村が直接運営する直営が約19〜20%、社会福祉法人などへの委託が約80%です。委託されているセンターの委託先の内訳は、社会福祉法人が54%、医療法人等が18%、社会福祉協議会が17%、その他が11%となっています。
名称は自治体で異なる・相談の費用は自治体で確認
センターの名称は、自治体によって異なります。たとえば名古屋市では「いきいき支援センター」、東京都世田谷区では「あんしんすこやかセンター」という呼び名が使われています。お住まいの地域で「地域包括支援センター」という名前が見当たらなくても、同じ役割の機関が別の名前で設置されていることがあります。
費用については、名古屋市が「相談は無料です」と明記しています。他の自治体については、各自治体の案内で確認してください。
担当地区は住所で決まる
センターの担当地区は、原則として住所で決まります。親が離れて暮らしている場合は、相談する家族の住所ではなく、介護が必要な本人が住んでいる地域の担当センターに連絡する必要があります。どのセンターが担当か分からないときは、本人の住所のある市区町村の高齢者担当窓口や、市区町村のウェブサイトで確認できます。
地域包括ケアを支える主な取り組み
地域包括ケアシステムは、センターだけで成り立つものではありません。市町村の事業として、次のような取り組みが組み合わされています。ここでは主なものを概観します。
地域ケア会議
地域ケア会議は、高齢者個人への支援の充実と、それを支える社会基盤の整備を同時に進めていくための会議です。厚生労働省の資料では、5つの機能が示されています。
- 個別課題の解決
- 地域包括支援ネットワークの構築
- 地域課題の発見
- 地域づくり・資源開発
- 政策の形成
構成員は、自治体職員、ケアマネジャー、介護事業者、民生委員、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、理学療法士・作業療法士などの専門職です。個別のケースの検討を重ねる中で見えてきた地域全体の課題は、市町村の介護保険事業計画などに反映されていく仕組みになっています。利用者や家族が直接参加する場面は限られますが、自分の相談が地域の仕組みづくりにつながっていくという流れを知っておくと、体制の全体像が理解しやすくなります。
在宅医療・介護連携
医療と介護の両方が必要な高齢者が、住み慣れた地域で暮らし続けるには、医師・看護師などの医療職と、ケアマネジャー・介護職などの介護職が、情報を共有して連携することが欠かせません。在宅医療・介護連携は、そのための取り組みとして、市町村が地域の医療・介護の関係者と進めるものです。家族にとっては、通院や入退院の前後でも、医療と介護の間で情報が行き来しやすくなることにつながります。具体的な内容や相談窓口は市区町村によって異なるため、お住まいの自治体の案内で確認してください。
生活支援体制整備と総合事業
厚生労働省の資料によると、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)では、ボランティア、NPO、民間企業、協同組合など、多様な主体が生活支援や介護予防を担うことが目指されています。そのための役割として、生活支援コーディネーター(地域支え合い推進員。地域の支え合いの担い手や資源をつなぐ役)が、地域支援事業(市町村が行う介護予防や生活支援の事業)に位置づけられています。
また、平成27年には、予防給付(要支援1・2の人向けの介護保険給付)のうち訪問介護と通所介護が、市町村が実施する地域支援事業に移行しました。要支援の方向けのこれらのサービスは、市町村ごとにサービスの内容や単価、基準を決められる仕組みになっています。総合事業の対象者やサービスの詳細は、介護予防・日常生活支援総合事業の解説記事で扱っています。
認知症施策との関係
認知症の人が増えると推計される中、認知症施策は地域包括ケアシステムの重要な柱の一つです。医療・介護の専門的な対応に加えて、家族への支援や、地域で本人を見守る取り組みが、市町村ごとに進められています。家族にとっては、物忘れが気になり始めた段階から、どの窓口や集まりが使えるかを知っておく手がかりになります。どのような窓口や集まりがあるかは自治体により異なりますので、地域包括支援センターで案内してもらえます。
日常生活圏域と行政の役割
地域包括ケアシステムを理解するうえで、「どの範囲を単位に考えるか」という視点も大切です。
日常生活圏域とは
厚生労働省の資料では、地域包括ケアシステムは、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏域(具体的には中学校区等)を単位として想定するとされています。移動に30分以内ということは、高齢者が歩いたり、短時間の送迎で行き来できたりする範囲を念頭に置いた考え方です。
もっとも、圏域の具体的な設定は市町村に委ねられています。国の基本指針(令和6年厚生労働省告示第18号)でも、「例えば中学校区単位等」と例示されているにとどまります。人口が少なく広い地域では、中学校区が広大になる場合もあり、地域の実情に合わせた設定がされています。
市町村と都道府県の役割
厚生労働省の説明では、地域包括ケアシステムは、市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性にもとづいてつくり上げていくものです。主な運営の担い手は市町村で、地域包括支援センターの設置や地域支援事業の実施を行います。都道府県は、市町村を広域的な視点から支援する役割を持ちます。
利用者や家族にとって、この役割分担が意味するのは、困ったときの窓口が基本的に市区町村であるということです。都道府県の窓口に直接相談するのではなく、まず市区町村や担当の地域包括支援センターに連絡すると、必要な制度につながりやすくなります。
介護保険事業計画は3年を1期として見直される
市町村は、介護保険事業計画を定め、サービスの量や保険料の見込みなどを計画的に決めていきます。介護保険事業計画は原則として3年を1期とし、第9期(令和6〜8年度)が現在の期にあたります。次の第10期は2027年度から始まり、厚生労働省は第10期計画の作成準備についても資料を示しています。
この3年ごとの見直しは、地域包括ケアの内容にも影響します。地域ケア会議などで見えてきた地域の課題が、次の期の計画に反映されることがあるためです。介護保険の制度は3年ごとに改定があり得るため、サービスの内容や自己負担、事業所の基準などは、その都度変わる可能性があります。最新の情報は、お住まいの市区町村や厚生労働省の公表資料で確認してください。
利用者・家族はどう使えばよいか
ここまでの仕組みを、実際に家族が動く場面に落とし込みます。地域包括ケアシステムは、利用者が自ら申し込む制度ではないため、「入り口」を知っておくことが実用上のポイントです。
相談の基本的な流れ
一般的な流れは、次のとおりです。これは公的資料にもとづく一般的な整理で、実際の手順は自治体により異なります。
図の流れのうち、介護保険のサービスを使う場合には、要介護・要支援の認定申請が必要になります。認定の申請をする前の段階でも相談できるかどうかは自治体によって対応が異なる可能性があるため、最初の連絡の際に確認しておくと安心です。各ステップは次のとおりです。
- 本人の住所の担当の地域包括支援センター(名称は自治体により異なる)か、市区町村の高齢者担当窓口に連絡する
- 困りごと(体調、生活、介護、お金、認知症の心配など)を伝え、状況を聞き取ってもらう
- 必要に応じて、介護保険の申請(要介護認定)、総合事業、地域の支え合い活動、医療機関などの案内を受ける
- 介護保険を使う場合は、ケアマネジャーとともにケアプランをつくり、サービスを組み合わせる
ケアプランとの関係
地域包括ケアシステムが「地域全体の体制」であるのに対して、ケアプランは「本人一人ひとりの暮らしの計画」です。要介護の認定を受けた方は居宅介護支援事業所のケアマネジャーが、要支援の方や介護予防の必要な方は、原則として地域包括支援センターが中心となり、それぞれの状況に合わせたプランをつくります。ただし、実際の担当の分け方は自治体によって異なることがあります。
ケアプランでは、介護保険のサービスだけでなく、地域の通いの場や見守りなど、インフォーマルな支え(互助)を組み込むこともあります。ケアプランの作成の流れや費用は、ケアプランの解説記事で詳しく扱っています。地域包括ケアシステムは、こうした個別の計画が実際に機能するための土台と言えます。
相談前に整理しておくとよいこと
相談の際は、次のような点をメモしておくと、話が早く進みます。
- 本人の年齢、住所、現在の体調や通院している医療機関
- 困っている場面(食事、入浴、買い物、服薬、金銭管理、物忘れなど)
- 家族の状況(同居か別居か、誰がどれくらい関われるか)
- 本人の希望(自宅で暮らしたい、通いの場に行きたい、など)
- すでに利用しているサービスや介護保険の認定状況
すべてがそろっていなくても相談できます。まとまっていなくても、話すことで、必要な情報が整理されやすくなる場合があります。
2040年に向けた動きと地域差
ここまでは現在の体制と使い方を見てきました。ここからは前半と視点を変え、2040年に向けて、地域ごとにサービスの提供体制をどう保つかという課題を取り上げます。
2040年に想定される状況
厚生労働省の資料では、2040年に向けて、85歳以上の人で医療・介護のニーズを抱える人、認知症の高齢者、一人暮らしの高齢者が増えると想定されています。また、介護サービスの需要には、地域によって大きな差が出るとされています。人口が減っていく地域では、サービスを維持すること自体が課題になる一方、都市部では高齢者が急増し、サービスの確保が課題になります。
3つの地域類型での検討
厚生労働省の「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」検討会は、令和7年1月に第1回が開かれ、4月に中間とりまとめが示されました。この検討会では、地域を、中山間・人口減少地域、都市部、一般市等の3つの類型に分けて、それぞれに適した体制のあり方が検討されています。最終的な内容は今後の検討次第で変わりうるため、この記事では「検討が進められている」という範囲にとどめます。最新の状況は、厚生労働省のウェブサイトで確認してください。
図のように、地域のタイプによって課題が異なります。親の暮らす地域がどのタイプにあたるかによって、支えの状況や必要な備えが異なりうる、という点を頭に置いておくと、情報を集めるときに役立ちます。
地域差が意味すること
地域差が大きいということは、「隣の市で使えたサービスが自分の地域にはない」「親の住む地域と自分の住む地域でできることが違う」ということが起こり得るということです。離れて暮らす親の介護を考える場合には、親の暮らす地域の特徴(高齢化の状況、事業所の数、住民の支え合い活動の有無)を、地域包括支援センターなどで聞いておくことが、現実的な備えになります。
注意点とよくある失敗
最後に、地域包括ケアシステムに関して、家族が実際に迷いやすい点を整理します。
遠方の親の場合は「親の住所」のセンターに連絡する
よくある失敗は、相談する家族が自分の住んでいる市区町村の窓口に連絡してしまうことです。担当は、介護が必要な本人の住所で決まります。まずは親の住所のある市区町村の高齢者担当窓口に、どのセンターが担当か確認してください。家族が別の地域に住んでいる場合に、どこまで電話等で相談できるかは、自治体に確認するのが確実です。
認定前でも相談できるか、最初に確認する
介護が必要になってから、あるいは家族が倒れてから初めて相談するケースは少なくありません。センターは、介護保険の申請前でも相談できるとされていますが、対応は自治体で異なる場合があります。「少し心配」という段階で、認定前でも相談できるかを確認しておくと、予防のための取り組みや地域の集まりなども含めて、早めに検討しやすくなる可能性があります。
家族だけで抱え込まない
地域包括ケアシステムは、家族だけで介護を担わないための体制でもあります。65歳以上の人のいる世帯の6割超が単独か夫婦のみの世帯である現状では、介護を担う人も高齢になっていることがあります。無理をして共倒れになる前に、地域の窓口に相談してください。
まとめ
- 地域包括ケアシステムは、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に確保する地域の体制であり、施設や特定のサービスの名前ではない
- 最初の窓口は、親(本人)の住所地を担当する地域包括支援センター。名称は自治体で異なり、相談の費用や認定前の相談の可否は自治体で確認する
- 困りごとが小さいうちから相談しておくと、予防や地域の支え合いも含めて検討しやすくなる可能性がある
- 地域によってサービスや支え合いの状況は異なる。制度は3年ごとの介護保険事業計画などで見直される
制度は3年ごとの介護保険事業計画の見直しなどで変わることがあります。数値や取り組みの最新の内容は、この記事末の出典や、お住まいの市区町村で確認してください。このサイトは特定の事業所やサービスを評価・推奨するものではありません。編集方針についてはこのサイトの立ち位置もご覧ください。