要介護認定の結果通知に「非該当(自立)」と書かれていると、介護保険サービスがまったく使えなくなるのではないかと不安になる方は少なくありません。結論から言うと、非該当は介護保険の給付対象外という判定ですが、市区町村が実施する介護予防の仕組みや地域包括支援センターへの相談は引き続き利用できます。この記事では、非該当の位置づけ、判定の仕組み、非該当でも使える制度、判定結果に納得できない場合の対応方法までを公的情報にもとづいて解説します。
要介護認定の「非該当(自立)」とは何か
認定区分における非該当の位置づけ
要介護認定の結果は、非該当(自立)・要支援1・要支援2・要介護1〜5の8区分に分かれます。このうち非該当(自立)は、介護保険の保険給付(介護サービスの費用を保険から給付する仕組み)の対象とならない区分です[1][2]。大まかにいえば、要支援は日常生活の支援が中心的に必要な状態、要介護は介護そのものの必要度が高い状態を指す区分で、数字が大きいほど必要とされる支援・介護の程度が高いとされています[6]。以下は8区分の位置づけを図示したものです。
要介護認定の仕組み全体については、要介護認定とはどのような制度かを解説した記事でも詳しく説明しています。
非該当と判定される基準
非該当は、食事・排せつ・入浴・移動といった基本的な動作や、買い物・掃除などの手段的日常生活動作を、大きな支障なく自力で行えると判定された状態を指します。介護保険の判定は、後述する「要介護認定等基準時間」という全国一律の基準によって行われ、この基準時間が一定水準に達しない場合に非該当となります[2][6]。なお、非該当という判定名から誤解されがちですが、心身にまったく不調がないことを意味するものではなく、あくまで介護保険の給付対象となる基準に達していないという行政上の判定区分です。
要介護認定はどのように判定されるのか
認定調査の項目内容
要介護認定は、市区町村の認定調査員による認定調査と、主治医が作成する主治医意見書をもとに行われます。認定調査は、次の5つの領域に関する基本調査と、対象者の状況を記録する概況調査・特記事項で構成されます[2][6]。
- 身体機能・起居動作:寝返りができるか、歩行が自力でできるかなど
- 生活機能:買い物や調理を自分で行えるかなど
- 認知機能:意思の伝達ができるか、短期記憶が保たれているかなど
- 精神・行動障害:日常生活に支障をきたす行動の有無など
- 社会生活への適応:金銭管理や集団への参加状況など
調査員は対象者本人への聞き取りと動作の確認を行いながら、各項目を全国共通の判定基準に沿って記録していきます。
主治医意見書の役割
主治医意見書は、対象者のかかりつけ医が心身の状態や疾患の状況を医学的な観点から記載するもので、一次判定のコンピュータ判定と、二次判定の介護認定審査会での審査の両方に用いられます[2]。認定調査の結果だけでは見えにくい病状の変動や治療の見通しを補う役割を持ちます。主治医意見書には、疾患の状況や治療内容に加えて、日常生活の自立度に関する医学的な所見や、今後の生活機能の見通しについての記載欄も設けられています。認定調査の結果と主治医意見書の内容に食い違いがある場合は、介護認定審査会での審査の際にその点が確認・検討されます。
一次判定・二次判定の流れ
判定は二段階で行われます。まず一次判定では、認定調査の基本調査結果と主治医意見書の一部項目をもとに、コンピュータが要介護認定等基準時間を算出します。要介護認定等基準時間は、実際にかかる介護時間そのものではなく、心身の状態に応じてどの程度の介護の手間が必要になるかを全国共通のものさしで数値化した指標です。次に二次判定では、保健・医療・福祉の学識経験者で構成される介護認定審査会が、一次判定の結果に主治医意見書や特記事項の内容を加味して総合的に審査判定を行います[2][6]。二次判定で一次判定の結果が変更されることもあり、機械的な数値だけで結論が決まるわけではありません。介護認定審査会は複数の委員による合議制で審査を行うため、認定調査の結果だけでは表れにくい生活上の困りごとについても、主治医意見書の記載や特記事項をもとに議論が行われます。認定調査票の項目そのものについては認定調査票とは何かを解説した記事で詳しく取り上げています。
非該当と判定される人はどれくらいいるのか
公的統計で確認できること・できないこと
ここは誤解が生じやすい部分なので正確に書きます。厚生労働省が公表している「介護保険事業状況報告」では、要支援1・2、要介護1〜5の認定者数や認定率は集計項目として確認できますが、非該当(自立)と判定された人数や、申請者全体に占める非該当の割合については、公表資料の中に明示的な集計項目として含まれていません[8][9][10]。そのため「非該当は全体の何パーセント」といった全国規模の数値は、少なくとも厚生労働省の公表統計からは確認できないのが実情です。介護保険事業状況報告は、市区町村から都道府県を経由して国に報告される集計データをもとに作成されていますが、この報告様式自体が要支援・要介護の認定者数を中心に整理されており、非該当という結果になった申請の件数を独立した項目として集計する設計にはなっていません。ネット上に具体的な割合の数値が出回っていたとしても、公的な一次情報で裏付けられない数値は本記事では扱いません。数値の根拠を確認したい場合は、必ず厚生労働省やe-Statの公表資料そのものに当たることをおすすめします。
全国の認定者数・認定率の推移
一方で、要支援・要介護の認定者数そのものは、厚生労働省の介護保険事業状況報告やe-Statの政府統計で毎年度公表されており、全国の第1号被保険者数に対する認定率の推移を年ごとに確認できます[8][9][10]。非該当の人数を直接知ることはできませんが、認定を受けた人の総数や区分ごとの内訳の推移から、要介護認定制度全体の利用状況を把握することは可能です。これらの統計は毎年度公表され、都道府県別・年齢階級別の内訳も確認できるため、地域ごとの傾向を大まかにつかむ材料にはなります。ただし、統計はあくまで申請・認定の結果を集計したものであり、非該当となった人がその後どのような生活を送っているか、あるいは基本チェックリストを通じて事業対象者となった人がどの程度いるかといった情報までは把握できません。詳細な最新数値を確認したい場合は、厚生労働省の介護保険事業状況報告のページを直接参照することをおすすめします。
非該当と判定されたら使えないサービス
介護保険の給付対象サービスとの違い
非該当と判定された場合、訪問介護・通所介護(デイサービス)・福祉用具貸与・施設サービスなど、介護保険の保険給付として提供される介護サービスは原則として利用できません[1][2]。これらのサービスは要支援1以上の認定を受けた人が対象で、非該当はこの給付の枠組みの外に位置づけられるためです。具体的には、要介護度に応じて利用限度額(区分支給限度基準額)が設定されている居宅サービス(訪問介護・訪問看護・通所リハビリテーションなど)や、特別養護老人ホームをはじめとする介護保険施設への入所は、原則として要介護・要支援の認定を受けていることが利用の前提になります。
「保険給付が使えない」の意味
ただし、これは「介護保険の保険給付」が使えないという意味であり、市区町村が独自に実施する介護予防関連の事業まで一律に使えなくなるわけではありません。全額自己負担であれば、介護保険外の民間サービスや自治体の生活支援サービスを利用できる場合もあります。介護保険の保険給付とは別枠で用意されている仕組みについては、次の見出しで説明します。
非該当でも利用できる制度・サービス
一般介護予防事業とは
市区町村が実施する「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」は、要支援者・事業対象者向けの「介護予防・生活支援サービス事業」と、65歳以上の第1号被保険者全員を対象とする「一般介護予防事業」の二本立てで構成されています[7][11]。非該当と判定された人であっても、65歳以上であれば一般介護予防事業の対象になります。一般介護予防事業は、次の4つの柱で構成されています[7][11]。
- 介護予防普及啓発事業:介護予防に関するパンフレットの配布や講演会の開催など
- 地域介護予防活動支援事業:住民が主体となって運営する体操教室やサロン活動への支援
- 地域リハビリテーション活動支援事業:専門職による助言や技術支援
- 介護予防把握事業:支援を必要とする高齢者の把握
これらは要介護認定の区分にかかわらず、65歳以上であれば参加できる点が、介護保険の保険給付とは異なる特徴です。総合事業全体の仕組みについては介護予防・日常生活支援総合事業とは何かを解説した記事で詳しく説明しています。
基本チェックリストと事業対象者
非該当と判定された後や、要介護認定を申請する前の段階でも、市区町村が実施する基本チェックリスト(全25項目)に該当した場合は、要介護認定の手続きを経ずに「事業対象者」として、介護予防・生活支援サービス事業(総合事業の中の訪問型・通所型サービス等)を利用できる仕組みがあります[7][11]。基本チェックリストは、次の7つの領域にまたがる項目で構成されています[7][11]。
- 手段的日常生活動作(IADL)
- 運動機能
- 栄養状態
- 口腔機能
- 閉じこもり傾向
- 認知機能
- うつ傾向
要介護認定の結果が非該当であっても、この基本チェックリストの基準に該当すれば、総合事業の一部サービスを利用できる可能性があるということです。
地域包括支援センターへの相談
非該当という結果を受け取った後にどう対応すればよいか迷う場合は、まず地域包括支援センターに相談することが選択肢になります。地域包括支援センターは、介護予防に関する相談や、基本チェックリストの実施、一般介護予防事業を含む地域の介護予防サービスの案内などを行う公的な窓口です。相談は本人だけでなく家族が行うことも可能で、日常生活で気になっている点を伝えることで、地域の通いの場や介護予防教室など、非該当でも参加できる活動につながることがあります。制度や利用できる事業の詳細は自治体によって運用が異なる部分もあるため、居住地の窓口に確認することが実務上の近道になります。
判定結果に納得できない場合の対応方法
区分変更申請という選択肢
判定を受けた後に心身の状態が変化した、あるいは判定結果が実際の状態と合っていないと感じる場合には、認定の有効期間内であっても区分変更申請という手続きを行うことができます[1]。区分変更申請は、現在の認定結果を前提に、状態の変化を反映した再判定を求める仕組みです。審査請求のような申請期限は設けられておらず、状態の変化が生じて必要になった時点で申請できます[1]。ただし、申請したからといって必ず区分が変わるとは限らず、審査の結果、変更が認められず申請が却下されることもあります[1]。区分変更申請の詳しい手続きは要介護度の区分変更申請とはを解説した記事にまとめています。
介護保険審査会への審査請求
要介護・要支援認定を含む保険給付に関する市区町村の処分に不服がある場合は、都道府県に設置される介護保険審査会に審査請求を行うことができます[3][4][5]。審査請求の期限は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内と定められており、原則として書面で行います。また、処分があった日の翌日から1年を経過すると、原則として審査請求はできなくなります[3][4][5]。手続きの流れは、審査請求書の提出、内容に不備があった場合の補正、処分庁(市区町村)からの弁明書の提出、請求人による反論書の提出、必要に応じた口頭意見陳述の申立てを経て、最終的に裁決が示されるという段階を踏みます[3][4][5]。審査請求書には、審査請求人の氏名や住所、不服とする処分の内容、審査請求の趣旨や理由などを記載する必要があり、記載に不備がある場合は都道府県の担当窓口から補正を求められることがあります。裁決までの期間は案件によって異なりますが、弁明書・反論書のやり取りや必要に応じた意見陳述の手続きを経るため、一定の期間を要することが一般的です。この期限を図にすると以下のようになります。
介護保険審査会そのものの仕組みは介護保険審査会とはを解説した記事で詳しく説明しています。
審査請求と区分変更申請の使い分け
審査請求は、市区町村が行った処分の手続きや判断そのものの適否を争う手続きであるのに対し、区分変更申請は現在の心身状態を前提に改めて判定を求める手続きです。実務上は、非該当という結果自体に納得がいかない場合でも、審査請求より区分変更申請で対応するケースが多いとされています[1][3]。2つの手続きの違いを整理すると、以下のようになります。
| 区分変更申請 | 審査請求 | |
|---|---|---|
| 何を争うか | 現在の心身状態にもとづく再判定を求める | 市区町村が行った処分の手続き・判断の適否を争う |
| 申請期限 | 認定の有効期間内であればいつでも可能[1] | 処分を知った日の翌日から原則3か月以内[3][4][5] |
| 手続きの重さ | 通常の認定申請と同様の流れ(認定調査・主治医意見書の取得を経て再判定) | 審査請求書の提出、弁明書・反論書のやり取りなどを経て裁決に至るため一定の期間を要する[3][4][5] |
| 向いているケース | 転倒・入院・持病の悪化などで状態が変化した、または変化しつつある場合 | 状態は変わっていないが、認定調査や審査の手続き自体に疑義がある場合 |
迷ったときの目安は、「心身の状態は変わっていないが判定結果に納得できない」場合は審査請求を、「心身の状態が変化した、あるいは変化しつつある」場合は区分変更申請を検討する、という考え方です。どちらを選ぶべきか判断が難しい場合は、期限のある審査請求を念頭に置きつつ、早めに市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターに相談することが実務的な進め方になります。
再度認定調査を受けるには
再申請のタイミングと注意点
非該当の認定を受けた後、心身の状態に変化があった場合は、区分変更申請という形で再度認定調査を受けることができます[1]。転倒や入院、持病の悪化などをきっかけに日常生活の動作に支障が出てきた場合は、変化が生じた時点で早めに申請を検討することが望ましいとされています。認定の有効期間内であっても申請自体は可能なため、「前回の認定からまだ期間が短いから」という理由だけで申請を控える必要はありません。ただし、区分変更申請をしても、調査の結果として再び非該当となる可能性や、申請が却下される可能性もある点は理解しておく必要があります[1]。申請から結果が出るまでには、新規申請と同様に認定調査や主治医意見書の取得、審査判定といった一連の手続きが必要になるため、一定の日数がかかることも見込んでおく必要があります。
心身状態の変化を伝えるための準備
再申請にあたっては、いつ頃からどのような支障が生じているかを具体的に記録しておくことが重要です。たとえば「以前はできていた入浴の準備が一人でできなくなった」「外出時に転倒することが増えた」など、日付や頻度を含めた具体的な事実をメモにまとめておくと、認定調査や主治医意見書の作成の際に状況が伝わりやすくなります。かかりつけ医にも、日常生活での変化を事前に伝えておくと、主治医意見書に反映されやすくなります。また、区分変更申請を行う際は、前回の認定調査からどれだけの期間が経過しているか、変化のきっかけとなった出来事(入院・転倒・持病の進行など)があるかどうかも、あわせて整理しておくと、申請窓口や調査員に状況を説明しやすくなります。日々の生活の様子を家族が記録した簡単な介護日誌のようなものを用意しておくと、調査当日に慌てずに具体的なエピソードを伝えられます。
非該当と判定されないために準備できること
認定調査当日に伝えるべきこと
認定調査は、調査員が対象者の心身の状態を直接確認しながら行われます。調査当日は、普段の生活の中でできること・できないことをありのまま伝えることが基本です。体調のよい日にたまたま調査が行われると、実際の生活での困りごとが十分に伝わらないことがあるため、日によって状態に波がある場合はその旨も具体的に伝えることが大切です。たとえば、朝は一人で身支度ができても夕方以降に動作が不安定になる、季節や天候によって外出の可否が変わるといった変動がある場合は、平均的な状態ではなく、状態が悪いときの様子も含めて伝えることが実態を反映した判定につながります。なお、事実と異なる内容を意図的に伝えることは、正確な判定を妨げることにつながるため避けるべきです。
家族が同席する際の注意点
認定調査に家族が同席する場合、本人が話しにくい内容を補足する役割を果たせますが、本人の発言をさえぎって家族だけが説明を続けてしまうと、本人の意思や実際の様子が調査員に伝わりにくくなることがあります。本人の話を尊重しつつ、必要な場面で具体的な事実(頻度・時期・きっかけなど)を補足する形で同席することが望ましいとされています。特に、本人が実際よりもできることを多く申告してしまう、あるいは逆に不安から実態以上に困難さを強調してしまうといったケースもあるため、家族が日頃の様子を客観的な事実として補足することには意味があります。日常の困りごとを事前にメモにまとめておき、調査当日に調査員へ渡せるようにしておくと、限られた調査時間の中でも状況を正確に伝えやすくなります。同居していない家族が同席する場合は、事前に同居家族や本人から普段の生活状況を聞き取っておくと、調査当日により具体的な補足ができます。
まとめ
非該当という結果を受け取ったときの初動としては、①まず地域包括支援センターに相談する、②相談内容や心身の状態を踏まえて、区分変更申請と審査請求のどちらが状況に合うかを選ぶ、という順序で考えると進めやすくなります。
- 非該当(自立)は、要介護認定の8区分のうち介護保険の給付対象外となる判定であり、心身にまったく不調がないという意味ではない
- 判定は、認定調査と主治医意見書にもとづく一次判定(コンピュータ判定)と、介護認定審査会による二次判定の二段階で行われる
- 非該当者数・割合は厚生労働省の公表統計に明示的な集計項目として含まれておらず、全国規模の数値は確認できない
- 非該当でも、65歳以上であれば一般介護予防事業を利用でき、基本チェックリストに該当すれば事業対象者として総合事業の一部サービスを利用できる場合がある
- 判定結果に納得できない場合は、区分変更申請(期限なし、状態変化への対応)と審査請求(処分を知った日の翌日から3か月以内)という2つの手続きがあり、使い分けが必要
- 認定調査では、体調のよい日の様子だけでなく、日によって変動する状態も含めて普段の生活をありのまま具体的に伝えることが、結果を左右する重要なポイントになる
介護保険制度は3年ごとに見直しが行われており、判定基準や手続きの詳細が変更される可能性があります。最新の内容は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口や厚生労働省の公表資料で確認してください。当サイトの記事作成の方針についてはこのサイトの立ち位置をご覧ください。