基準該当サービスは、指定基準を一部満たさない事業者のサービスを、市町村が給付対象にできる仕組みです。たとえば、近くに指定事業所が少ない地域で、基準を一部満たさない事業者のサービスが給付対象になることがあります。実施するかどうかは市町村しだいで、給付は原則として、いったん全額を支払い後から払い戻しを受ける償還払いです。この記事では、指定サービスとの違い、費用と手続き、確認先を、厚生労働省や自治体の公開資料にもとづいて整理します。
基準該当サービスとは何か(結論と3行まとめ)
3行でわかる基準該当サービス
- 指定基準を一部満たさない事業者のサービスを、市町村が条例で定めた基準にもとづいて保険給付の対象にできる仕組みです。
- 給付の根拠は介護保険法第42条の「特例居宅介護サービス費」で、費用の100分の90を基準に市町村が定め、原則は償還払いです。
- 実施している保険者(介護保険を運営する市町村など)は一部にとどまるため、住んでいる市町村が実施しているかの確認が必要です。
定義と、制度が必要とされる背景
介護保険のサービスは、都道府県などから「指定」を受けた事業者が提供するのが基本です。しかし、離島や中山間地域など事業者の確保が難しい地域では、法人格・人員基準・設備運営基準のすべてを満たすのが難しい場合があります。そこで、一部の基準を満たさなくても一定水準のサービスを提供している事業者のサービスを、市町村が「基準該当サービス」として保険給付の対象にできるようにした、という考え方です。厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会(第222回、令和5年8月30日)の資料でも、この趣旨で説明されています。
「基準該当サービス」は事業者に与えられる資格ではなく、市町村が保険給付の対象とするサービスのことです。指定とは別の仕組みで、事業者は市町村に登録して提供を始めます。
よくある誤解
まず多いのが、「どこの市町村でも使える制度」という誤解です。実施は全保険者の約1割(2021年度時点)にとどまり、多くの自治体では実施されていません。次に、「指定サービスと同じ自己負担で使える」という誤解があります。基準該当サービスは特例の給付のため、原則は償還払いで、給付割合も自治体の定めによります(詳しくは後述)。さらに、離島等相当サービスや共生型サービスと名前が似ているため混同されがちですが、制度の目的も根拠も異なります。
指定サービスとの違い(法的根拠・登録・基準・給付)
比較表で見る違い
厚生労働省の資料にもとづき、指定サービスと基準該当サービスの主な違いを整理します。指定サービスは現物給付(サービスを受け、自己負担分だけを支払う方式)、基準該当サービスは原則として償還払いです。図で全体像をつかんだうえで、表で根拠条文などを確認してください。
| 項目 | 指定サービス | 基準該当サービス |
|---|---|---|
| 満たすべき基準の根拠 | 全国共通の指定基準にもとづく | 都道府県の条例を踏まえ、市町村が定める |
| 根拠条文 | 介護保険法第41条第1項 | 介護保険法第42条第1項第2号 |
| 支給の判断 | 指定事業者のサービスとして給付 | 市町村が「必要があると認めるとき」に支給 |
法的根拠は介護保険法第42条
指定居宅サービスの費用は、介護保険法第41条第1項の居宅介護サービス費として給付されます。一方、基準該当居宅サービスは第42条第1項第2号の「特例居宅介護サービス費」として、市町村が「必要があると認めるとき」に支給します。基準該当サービスは、都道府県の条例で定める基準を満たすサービスです。支給は市町村の判断によるため、実施するか、どのサービスを対象にするかは市町村ごとに異なります。要支援の方向けには、同じ構造の特例介護予防サービス費が第54条に定められています。
基準の緩和はどの程度か(短期入所生活介護の例)
緩和の内容はサービスごとに市町村が決めます。厚生労働省の資料では、短期入所生活介護の例として、医師の配置が不要であること、介護職員・看護職員の常勤要件がないこと、廊下幅や居室面積の基準が緩和されることなどが挙げられています。これは一例で、すべての自治体・サービスで同じ緩和が行われるわけではありません。具体的な基準は、住んでいる市町村の条例・規則でご確認ください。
登録の更新の扱いは自治体で異なる
基準該当には「指定」の概念がないため、厚生労働省のQ&A(平成18年4月改定関係Vol.6。全老健のサイトに掲載されたもの)では、指定の更新は不要とされています。一方、金沢市の規則のように6年ごとの登録更新を定めている自治体もあり、事業者側の手続きは自治体により異なります。指定サービス側の仕組みは、指定居宅サービス事業者の指定基準を解説した記事で確認できます。
対象サービスの種類と自治体による差
対象になりうるサービス
基準該当サービスの対象として自治体の資料で確認できるのは、次のようなサービスです。
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 通所介護(デイサービス)
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 福祉用具貸与
- 居宅介護支援(ケアプランの作成)
- 上記に対応する介護予防サービス
飛騨市、沖縄県介護保険広域連合、金沢市の資料では、これらのサービスが対象として示されています。どれが対象になるかは自治体が決めます。
自治体で対象が異なる例
| 自治体等 | 対象サービスの範囲 |
|---|---|
| 高知市(規則) | 訪問介護と短期入所生活介護(予防を含む)の3種のみ |
| 邑智郡総合事務組合 | 5種 |
| 飛騨市・沖縄県介護保険広域連合・金沢市 | 訪問介護、訪問入浴介護、通所介護、短期入所生活介護、福祉用具貸与、居宅介護支援、同種の介護予防サービス(自治体の資料の記載にもとづく) |
「基準該当サービスをやっている」と聞いても、利用したいサービスが対象かどうかは別の問題です。同じ県内でも市町村ごとに異なるため、必ず担当窓口で確認してください。
実施している自治体はどのくらいか
実施保険者は190、全体の12.1%(2021年度時点)
厚生労働省の資料(令和2年度調査・令和3年度介護保険事務調査にもとづく、2021年度時点)によると、基準該当サービスを実施している保険者は38都道府県の190保険者で、全保険者の12.1%です。約9割の保険者では実施されていません。その後の最新の状況は、各市町村にご確認ください。
サービス別の実施保険者数
| サービス(2021年度時点) | 実施保険者数 |
|---|---|
| 短期入所生活介護 | 101 |
| 訪問介護 | 89 |
| 居宅介護支援 | 41 |
| 通所介護 | 37 |
| 訪問入浴介護 | 29 |
| 福祉用具貸与 | 13 |
| 介護予防短期入所生活介護 | 64 |
| 介護予防支援 | 21 |
| 介護予防福祉用具貸与 | 11 |
| 介護予防訪問入浴介護 | 8 |
短期入所生活介護と訪問介護を実施する保険者が多く、ショートステイや訪問介護を中心に導入されている傾向がうかがえます。実施する保険者は年によって変わりうる点に注意してください。基準該当サービスの事業所数については、本稿では最新の公的な数値を確認できなかったため記載しません。
自分の市町村の調べ方
- 「市町村名 基準該当サービス」で検索し、市町村の介護保険のページを確認する
- 市町村の役所の介護保険ページで、事業者向けの案内や条例・規則を探す
- 見つからなければ、介護保険の担当窓口または地域包括支援センターに問い合わせる
事業所が登録される流れと拒否要件
市町村への登録の基本的な流れ
利用者にとっては、登録された事業所でなければ給付対象にならない点が重要です。事業所は「指定」ではなく市町村への「登録」によって、基準該当サービスの提供事業所になります。厚生労働省の資料にもとづく開始までの流れは、次の図のとおりです。
自治体の規則の例(一般化できない点に注意)
登録の運用は自治体の規則で決まり、書類や更新、届出の扱いも自治体で異なります。たとえば高知市は、登録申請書の提出と審査を経て登録決定通知書を交付し、市長が公示します(規則第14条)。金沢市は6年ごとの更新があり、邑智郡総合事務組合は事前相談が必要で、提供区域は登録した市町村内とされています。
登録が拒否される場合と、地域の需要
高知市の規則では、人員や知識・技能が足りない場合、適正な運営ができない場合、過去に不正行為があった場合などが、登録の拒否要件として定められています。また、邑智郡総合事務組合や沖縄県介護保険広域連合では、地域の需要がすでに満たされている場合は登録されないことがあるとされています。「基準を満たせば必ず登録できる」わけではありません。
登録状況は、市町村の介護保険担当課で確認できます。
費用と給付の仕組み
給付は100分の90が基準
介護保険法第42条第3項では、特例居宅介護サービス費の額は、厚生労働大臣が定める基準で算定した費用額の100分の90を基準として市町村が定める、とされています。費用額の9割が目安となり、残りは利用者の負担です。要支援の方の特例介護予防サービス費も同じ構造です。
計算例(一般化した例)として、費用額が1万円のサービスを利用し、給付割合が90%の自治体であれば、いったん1万円を全額支払い、あとから9,000円が払い戻され、実質の負担は1,000円が目安です。割合は自治体により異なり、所得による2〜3割負担との関係は、お住まいの市町村にご確認ください。
自治体による給付割合の違いには、次のような例があります。
- 西条市:要綱で「実費と基準額の少ない方の90%」
- 新川地域介護保険事業組合:100分の90。保険料の滞納による給付制限があるときは80%または70%
- 金沢市:規則で原則90%。要介護度などに応じて70〜100%となる場合がある
指定サービスのように「所得に応じて1〜3割」と単純に決まるものではありません。
区分支給限度基準額の中で合算される
第43条第1項により、居宅介護サービス費と特例居宅介護サービス費の合計が、区分支給限度基準額の範囲内で一体的に管理されます。基準該当サービスを使うと、その分も他の居宅サービスと同じ上限の枠を使い、超えた分は全額が自己負担です。上限額は改定されることがあるため、最新の金額は区分支給限度基準額を解説した記事や市町村の資料でご確認ください。
報酬の算定と加算の扱い
基準該当サービスの費用額は、指定サービスの費用算定基準(厚生省告示第19号)で算定した額が基礎になります。特別地域加算などの加算が基準該当サービスに適用されるかは、告示や自治体の要綱によって異なるため、ここでは断定しません。実際の金額は、市町村の窓口やケアマネジャーに確認してください。
保険料の滞納がある場合
保険料を滞納していると、給付が制限され、給付割合が下がる場合があります。新川地域介護保険事業組合の例では、80%または70%となる場合があるとされています。保険料の支払いが難しいときは、早めに市町村の窓口へ相談してください。
償還払いの手続きの流れ(長野市・八王子市の例)
一般的な流れ
償還払いでは、利用者がいったん費用の全額(10割)を事業者に支払い、後日、市町村へ請求して払い戻しを受けます。長野市や八王子市の案内でも、この流れが示されています。
必要書類の例(長野市)
長野市の案内では、必要書類として領収証、サービス提供証明書(居宅介護支援の場合は提供証明書)、被保険者証、振込先の通帳が挙げられています。他の自治体では書類が異なる場合があります。
申請期限と、代理受領の扱い
償還払いには申請期限(時効)があります。一般的な償還払いの時効は2年とされており、くわしくは介護保険の償還払いを解説した記事をご覧ください。基準該当サービスの期限は、住んでいる市町村に確認してください。また、飛騨市のように、償還払いのほかに代理受領(事業者が給付分を市町村から受け取る方法)の扱いも説明している自治体があります。扱いや負担割合は自治体に確認が必要です。
離島等相当サービス・共生型サービスとの違い
離島等相当サービスとは
離島等相当サービスは、第42条第1項第3号にもとづく仕組みで、指定サービスも基準該当サービスも確保が著しく困難な離島等の地域で、人員・設備・運営の基準を定めずに、一定の質を備えたサービスを市町村が給付の対象にできるものです。実施しているのは15道県・25保険者(1.6%)とされています。
対象となる地域は厚生省告示第99号に定められており、主に次のような地域です。
- 離島振興対策実施地域、奄美群島、小笠原諸島、沖縄の離島
- 振興山村
- 豪雪地帯・辺地・過疎地域のうち厚生労働大臣が別に定める地域
地域要件の混同に注意
基準該当サービス自体には、地域要件はありません。地域が限定されているのは離島等相当サービスのほうです。条文のうえでは、基準該当サービスを実施するかどうかは市町村の判断で、「離島や山間部だけの制度」ではありません。導入の背景として離島・中山間地域などでの事業者確保が想定されている点は、前述のとおりです。
| 項目 | 基準該当サービス | 離島等相当サービス |
|---|---|---|
| 条文 | 第42条第1項第2号 | 第42条第1項第3号 |
| 地域の定め | 地域要件なし(実施は市町村の判断) | 厚生省告示第99号で定める離島等 |
共生型サービスとの違い
共生型サービスは、2018年に創設された制度です。介護保険と障害福祉の両制度で、ホームヘルプ・デイサービス・ショートステイを提供しやすくするための指定手続きの特例で、従来の人員・設備基準で運営でき、指定手続きが簡素化されます。これに対し基準該当サービスは、指定の要件の一部を満たさない事業者のサービスを、市町村が給付の対象にする仕組みです。共生型は「指定」、基準該当は「登録」である点が異なります。
利用するときの注意点とチェックリスト
押さえておきたい注意点
- 償還払いになりやすく、一時的に全額の支払いが必要になる場合があります。
- 給付割合は自治体によって異なります(90%とは限りません)。
- 他の居宅サービスと合わせて、区分支給限度基準額の中で管理されます。
- 提供が、登録した市町村内に限られる場合があります。
- 実施していない市町村が多数を占めます。
ケアマネジャーへの伝え方
基準該当サービスの事業者を使いたい場合は、ケアプランを作成する前に、ケアマネジャーにその旨を伝えておきましょう。基準該当の居宅介護支援を実施している自治体は41保険者(2021年度時点)にとどまります。担当のケアマネジャーが基準該当サービスの扱いに慣れていない場合もあるため、市町村の介護保険担当課にも併せて確認すると安心です。
確認先と確認したいことのチェックリスト
登録状況は、市町村の介護保険担当課や地域包括支援センターで確認できます。たとえば飛騨市では地域包括ケア課、沖縄県介護保険広域連合では計画推進課が窓口です。
- □ 自分の市町村は、基準該当サービスを実施しているか
- □ 利用したいサービスは、対象に含まれているか
- □ 登録されている事業所はどこか
- □ 給付割合は何%か(90%か、それ以外か)
- □ 償還払いか、代理受領が使えるか
- □ 償還払いの申請期限と必要書類は何か
- □ 区分支給限度基準額の残りは足りているか
指定事業者のサービスと基準該当サービスのどちらを選ぶかは、利用者や家族が、地域の状況や費用を比べて決めることです。当サイトでは特定の事業者や方法を推奨しません。
令和8年の法改正で加わる「特定地域サービス」
当面、基準該当サービスの利用に影響があるとは確認できていません。新設されるのは別の類型です。
公布済み。施行は原則令和9年4月1日
「社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)」が、令和8年6月25日に公布されました。中山間・人口減少地域向けに、新しい給付の類型として「特定地域サービス」を創設する内容が含まれています。月ごとの定額で包括的に評価すること、人員配置基準を弾力化すること、市町村への登録を行うことなどが示されています。また、市町村が事業費を委託して実施する「特定地域居宅サービス等事業」も創設されます。施行日は原則として令和9年4月1日で、項目によって異なります。
細目は未確定。当面は現行制度で
令和8年6月29日の介護保険部会の資料では、改正後の第42条第1項第3号に、都道府県が定める「特定地域」を位置づける条文案が示されています。特定地域は、特別地域加算や離島等相当サービスの対象地域を基本とする考え方で、該当する市町村数は次のとおりとされています。
- 特別地域加算:894市町村
- 離島等相当サービス:883市町村
基準の細目は素案の段階で、確定していません。本稿は現行の制度を前提に説明しています。基準該当サービスが今後どう位置づけられるかは、公表される政令・省令・自治体の条例をご確認ください。制度は改定されることがあります。
よくある質問
まず確認したい点をQ&Aで整理します。
まとめと相談先
この記事のまとめ
- 基準該当サービスは、指定基準を一部満たさない事業者のサービスを、市町村が条例にもとづき保険給付の対象とする仕組みです(介護保険法第42条第1項第2号)。
- 事業者は指定ではなく市町村への登録で提供し、給付は原則償還払い、費用の100分の90が基準ですが、割合は自治体で変わります。
- 実施は190保険者(2021年度時点)にとどまり、対象サービスも自治体ごとに異なります。
- 離島等相当サービス(地域要件あり)や共生型サービス(指定の特例)とは別の制度です。
- 令和8年の法改正で特定地域サービスが加わる予定ですが、細目は未確定です。
相談先
まず、お住まいの市町村の介護保険担当課、または地域包括支援センター、担当のケアマネジャーに相談してください。制度は改定される可能性があるため、必ず最新の情報を窓口で確認してください。当サイトの編集方針はこのサイトの立ち位置をご覧ください。