認知症高齢者等SOSネットワークとは、認知症のある人が外出先で行方が分からなくなった際、警察・消防・介護事業所・地域住民などが連携して早期発見につなげる、市区町村単位の見守り体制です。あらかじめ本人の情報を登録しておくことで、行方不明発生時に関係機関へ情報を一斉に伝え、捜索の初動を早めます。厚生労働省の資料によると、令和4年度時点で44都道府県が市町村域を超えた見守りネットワークを構築しています。この記事では仕組み・登録方法・自治体ごとの違い・実際に行方不明になった場合の対応まで、公的機関の一次情報にもとづいて解説します。まず登録を検討する場合は、お住まいの地域包括支援センターまたは市区町村の高齢福祉窓口に相談することから始めてください。
認知症高齢者等SOSネットワークとは
定義と目的
認知症高齢者等SOSネットワークは、認知症の症状により道に迷ったり、自宅の場所が分からなくなったりして行方不明になるリスクのある高齢者を対象に、市区町村が中心となって整備する地域の見守り体制です。名称や運用の細部は自治体ごとに異なりますが、共通するのは「本人の情報をあらかじめ登録しておき、いざというときに関係機関へ素早く情報を伝える」という考え方です。
対象になる人
対象は主に、認知症またはその疑いがあり、市内(区内・町内・村内)に住民登録があり在宅で生活している人です。多くの自治体では、本人または家族の同意にもとづく事前登録と、実際に行方不明になった際に迎えに行ける家族等の存在を要件としています(横浜市の例)。施設入所者や住民登録のない人は対象外となる場合があるため、詳細は居住地の窓口で確認が必要です。
よくある誤解
「登録すればGPSで居場所が分かる」と誤解されることがありますが、SOSネットワーク自体に位置情報を追跡する機能はありません。ネットワークは人的な情報共有の仕組みであり、位置情報の取得はGPS端末など別のサービスの役割です。両者の違いは後述します。もう一つのよくある誤解は「一度登録すれば市区町村内のどこにいても即座に居場所が分かる」というものです。実際には、登録情報は行方不明が発生してから関係機関へ発信されるものであり、平時から本人の動きを追跡しているわけではありません。あくまで「発生後の情報共有を速くする」仕組みであると理解しておくことが重要です。
制度が生まれた背景
高齢化の進行にともない、認知症の人が道に迷い自宅に戻れなくなるケースが各地で報告されるようになったことを背景に、市区町村単独では対応が難しい広域的な捜索の必要性が認識されてきました。厚生労働省の資料でも、市町村域を超えた広域的な見守りネットワークの構築が都道府県単位で進められてきた経緯が示されています。単一の市区町村内で発見できないまま隣接自治体に移動してしまうケースもあるため、都道府県レベルでの連携体制の有無は実効性を左右する重要な要素です。
なぜ必要か|認知症関連の行方不明者数の推移
SOSネットワークがなぜ必要とされているのか、まずは警察庁の統計から実際の行方不明者数の規模と推移を確認します。
警察庁統計にみる現状
警察庁生活安全局が公表した「令和6年における行方不明者届受理等の状況」によると、令和6年の行方不明者総数は82,563人で、このうち疾病関係が23,663人(28.7%)を占めます。そのうち認知症またはその疑いによるものは18,121人(全体の21.9%)で、前年から918人減少しました。男女別では男性10,012人(55.3%)、女性8,109人(44.7%)です。
10年間の推移
認知症関連の行方不明者数は、平成27年の12,208人から増加傾向が続き、令和5年に19,039人でピークを迎えた後、令和6年に18,121人とわずかに減少しました。以下は警察庁統計にもとづく推移です。
出典: 警察庁生活安全局「令和6年における行方不明者届受理等の状況」
高齢層ほど疾病関係の比率が高い
同資料では、80歳以上の行方不明者のうち疾病関係が77.0%を占め、そのうち認知症によるものが11,152人にのぼるとされています。年齢が上がるほど、外出先での道迷いや自宅場所の分からなさが行方不明の主要因になっていることが分かります。
所在確認までの期間
行方不明者全体でみると、届出を受理した当日中に所在が確認されたケースが12,476人と最も多く、2〜3日以内が4,156人と続きます。一方で死亡が確認されたケースも549人あり、早期の情報共有が生死に直結しうることを示しています。高齢者見守りサービスとはで日常的な見守り手段も合わせて確認しておくと安心です。
数字が示すもの
認知症関連の行方不明者数が10年間でおおむね1.5倍近くまで増えた背景には、認知症の人自体の増加に加え、在宅で生活を続ける高齢者が増えていることも関係していると考えられます。一方で、届出当日中に所在が確認されるケースが最も多いという事実は、発生から時間が経つほど発見が難しくなる可能性を示唆しており、事前の備え(SOSネットワークへの登録や情報共有の準備)が発見までの時間短縮に寄与しうることを裏付けています。
ネットワークの仕組み|構成機関と情報伝達の流れ
構成機関
厚生労働省の「見守り・SOS体制づくり 基本パッケージ・ガイド」では、SOSネットワークの構成機関として、警察・消防・社会福祉協議会・地域包括支援センター・介護事業所や施設・商店街・公共交通機関・郵便局や銀行、コンビニなどの企業・自治会・民生委員・認知症サポーターなどが挙げられています。行政だけでなく、日常的に高齢者と接する民間事業者や地域住民が捜索の担い手として組み込まれている点が特徴です。
情報伝達の流れ
大阪府の資料によれば、行方不明の連絡を受けた市町村が、登録済みの本人情報(氏名・年齢・身体的特徴・服装・立ち回り先など)を関係機関へFAXやメールで一斉送信する流れが一般的です。受信した機関は、担当エリアで該当者を見かけた場合に市町村や警察へ連絡します。地域包括支援センターが情報の取りまとめ役を担う自治体も多く、地域包括支援センターとはで窓口の役割を確認しておくと理解が深まります。
仕組みの限界
この仕組みはあくまで「情報を広く早く共有する」ことに主眼があり、居場所を自動的に特定するものではありません。実際の発見は、情報を受け取った人が現場で気づくことに依存します。そのため、後述するGPSサービスとの併用が推奨される場合があります。
日常業務に組み込まれた見守り
厚生労働省の事例集では、コンビニや金融機関、公共交通機関の従業員が業務の中で高齢者の様子に気づき、市区町村や警察に連絡した事例が紹介されています。SOSネットワークに参加する企業では、店舗や窓口に協力を呼びかけるステッカーやポスターを掲示し、従業員向けの声かけ研修を行っている例もあります。こうした「特別な捜索活動」ではなく「日常業務の延長としての気づき」を制度として支える点が、SOSネットワークの実効性を高める工夫といえます。
事前登録の方法|登録項目・必要書類・費用
申請窓口
登録窓口は自治体によって異なりますが、横浜市の例では区役所の高齢・障害支援課や地域ケアプラザが窓口です。多くの自治体では地域包括支援センターでも相談・申請を受け付けています。
登録項目と必要書類
登録時には氏名・生年月日・住所・身体的特徴・緊急連絡先などの基本情報に加え、顔写真の提出を求める自治体があります。つくば市の例では、横60mm×縦55mm程度の顔写真の添付が必須とされ、電子申請にも対応しています。同市では登録の有効期間を登録日から翌々年度末日までとし、期限が来れば更新が必要です。
費用
SOSネットワークへの事前登録自体は無料としている自治体が多く、門真市もSOSネットワーク登録を無料としています。ただし、後述するGPS端末の利用やQRコードシールなど付随サービスには別途費用がかかる場合があるため、内容ごとに確認が必要です。
登録の要件
横浜市の例では、市内在住で在宅生活をしていること、本人または家族の事前登録への同意、行方不明時に迎えに行ける家族等の存在が要件として挙げられています。施設入所者や単身で迎えに行ける家族がいない場合の扱いは自治体により異なるため、個別に窓口へ相談することが望まれます。
登録するタイミング
登録は行方不明が実際に起きてからではなく、事前に済ませておく必要がある手続きです。認知症の診断を受けた直後はまだ本人の行動範囲が安定していることも多いため、「今はまだ大丈夫」と先延ばしにされがちですが、症状の進行は予測しづらく、外出時の道迷いが急に起こり始めることもあります。地域包括支援センターへの相談時にあわせてSOSネットワークの説明を受け、早めに登録を検討しておくことが望まれます。
自治体ごとの運用の違い|複数の実例比較
登録の基本的な流れは共通していますが、要件や必要書類、有効期間などの細部は自治体ごとに設計が異なります。ここでは横浜市・つくば市・門真市の3例を比較し、確認すべき観点を整理します。
横浜市の例
横浜市は区役所の高齢・障害支援課や地域ケアプラザを窓口とし、市民・在宅生活・事前登録同意・迎えに行ける家族の存在を登録要件としています。区単位で運用されるため、隣接区との情報共有の仕組みも重要な論点です。
つくば市の例
つくば市では顔写真の提出を必須とし、有効期間を登録日から翌々年度末日までと定めています。電子申請にも対応しており、更新の手間を考慮した運用がされています。
門真市の例
門真市はSOSネットワーク登録を無料とし、あわせてQRコードシール(初回無料)や、GPS端末導入費用の助成(上限18,480円)といった関連サービスも整備しています。SOSネットワークとGPSを組み合わせた支援策の一例といえます。
運用の違いを踏まえた確認の必要性
このように、登録要件・必要書類・有効期間・付随サービスの有無は自治体ごとに異なります。引っ越しをした場合は登録が引き継がれないことが多いため、転居時には転居先の窓口で改めて手続きが必要かどうかを確認してください。
QRコードシールなど周辺サービスの例
門真市のようにQRコードシールを提供する自治体では、衣類や靴、杖などにシールを貼っておくことで、発見者がスマートフォンでQRコードを読み取り、家族や市区町村に連絡できる仕組みを整えています。GPS端末のように通信費がかからず、比較的安価に導入できる点が特徴ですが、発見者がシールに気づいて読み取る行動をとってはじめて機能するため、SOSネットワークによる周知や声かけと組み合わせて活用することが前提になります。
GPS位置情報サービスとの違いと併用
両者の役割の違い
SOSネットワークが「人的な情報共有の仕組み」であるのに対し、GPS位置情報サービスは「本人が身につけた端末の位置情報を家族や事業者が確認できる仕組み」です。行方不明になった際、SOSネットワークは周囲の目による発見を、GPSは位置情報による直接的な追跡を担う、補完的な関係にあります。
自治体によるGPS費用の違い
GPSサービスの費用は自治体の助成制度によって大きく異なります。町田市の「認知症等による行方不明高齢者探索サービス事業」は月額440円(生活保護受給者は無料)です。豊島区の「高齢者あんしん位置情報サービス」は、介護保険料の所得段階1〜5の人は月額無料(電話による位置照会は月5回まで無料、6回目以降は220円/回)、所得段階6以上は月額1,210円で、現場急行を依頼すると時間超過分に5,500〜11,000円/時間の費用が発生します。門真市はGPS端末導入時の初期費用助成として上限18,480円を設けています。
| 自治体 | 月額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 町田市 | 440円 | 生活保護受給者は無料 |
| 豊島区 | 所得段階1〜5:無料 所得段階6以上:1,210円 | ・電話による位置照会は月5回まで無料(6回目以降220円/回) ・現場急行を依頼した場合、時間超過分に5,500〜11,000円/時間 |
| 門真市 | - | 初期費用助成上限18,480円 |
上記は費用の全国共通基準ではありません。制度の有無・金額は自治体により大きく異なるため、必ずお住まいの自治体や地域包括支援センターに確認してください。
併用の考え方
SOSネットワークとGPSサービスは対立するものではなく、併用することで発見の可能性を高める関係にあります。SOSネットワークで地域の目による発見を期待しつつ、GPSで本人の位置を絞り込むという使い方が想定されます。どちらも導入には事前の準備が必要なため、認知症の診断を受けた早い段階で検討しておくことが望まれます。
GPS端末を選ぶ際の留意点
GPS端末には靴や衣類に取り付けるタイプ、携帯するタイプなど複数の形状があり、本人が身につけることを嫌がって外してしまう場合には効果が限定的になります。自治体の助成制度を利用する場合は、対象となる機種や申請手続きが定められていることが多いため、導入前に地域包括支援センターや高齢福祉の担当窓口へ確認し、本人の生活スタイルに合った機種を選ぶことが大切です。
実際に行方不明になった場合の対応フロー
まず警察に届け出る
警視庁の案内によれば、行方不明者の捜索については、行方不明になった場所を管轄する警察署、または届出者の住所地を管轄する警察署に、110番通報または相談窓口で届け出ることができます。緊急性が高い場合はためらわず110番を利用してください。
届出に必要な情報
大阪府警察の案内では、届出時に人定事項(氏名・生年月日・住所など)、身体的特徴、服装、所持品、行方不明になった日時や場所、考えられる原因や動機といった情報の提供が求められます。持参物としては本人の写真、届出者の身分証、その他関係する資料が挙げられています。事前にSOSネットワークへ登録している場合、これらの情報を市町村や警察と共有しやすくなります。
届出後の流れ
警察への届出と並行して、SOSネットワークに登録している場合は市町村の担当窓口にも連絡し、登録情報にもとづく関係機関への情報発信を依頼します。GPS端末を利用している場合は、家族自身で位置情報を確認しつつ、把握した位置情報を警察にも伝えると捜索の助けになります。
家族が事前に準備しておくこと
行方不明時にすぐ届出ができるよう、本人の最近の写真、身長や体格などの身体的特徴、よく着る服の特徴、立ち寄りそうな場所のリストを家族間で共有しておくと、いざというときの対応がスムーズになります。
複数の家族で連絡先を共有しておく
介護をしている家族が一人しかいない場合、本人と離れている間に行方不明に気づくのが遅れることがあります。同居していない兄弟姉妹や親戚とも、日頃から本人の生活状況や外出の習慣について情報を共有しておくと、いざ届出が必要になったときに複数の視点から状況を整理でき、警察への説明もより正確になります。
認知症サポーター・徘徊模擬訓練など関連制度との違い
認知症サポーターとは
厚生労働省によると、認知症サポーターは2005年に始まった「認知症を知り地域をつくる」キャンペーンにもとづく制度で、90分程度の養成講座を受講すれば誰でもなることができます。認知症サポーターはSOSネットワークの構成員の一つに位置づけられており、日常の中で認知症の人に気づき、適切に声かけできる人材を地域に増やす役割を担っています。
徘徊模擬訓練との関係
厚生労働省の事例集では、市区町村がSOSネットワークの実効性を高めるために、行方不明を想定した模擬訓練を実施している例が紹介されています。訓練を通じて、住民や関係機関が実際の連絡手順や声のかけ方を確認し、いざというときの対応力を高めることが目的です。SOSネットワークという「仕組み」と、認知症サポーターや模擬訓練という「人を育てる取り組み」は、車の両輪の関係にあるといえます。
制度の違いを整理する
SOSネットワークは登録と情報伝達の仕組み、認知症サポーターは声かけができる人材を増やす仕組み、模擬訓練はその両方を実際に機能させるための訓練、という役割の違いを理解しておくと、地域の見守り体制全体を把握しやすくなります。
家族が認知症サポーター養成講座を受けるという選択肢
認知症サポーター養成講座は家族介護者自身が受講することもできます。90分程度で受講できる手軽さから、地域包括支援センターや自治体の広報で開催情報が案内されていることが多く、本人の症状への理解を深めるとともに、地域の見守り活動への参加のきっかけにもなります。SOSネットワークの仕組みを実際に支えているのがこうした地域住民であることを踏まえると、家族自身が制度の担い手側の視点を持つことにも意味があります。
利用にあたっての注意点
個人情報の取り扱い
SOSネットワークでは本人の氏名や身体的特徴、写真などの個人情報を複数の機関に共有します。多くの自治体では事前の同意を登録要件としており、家族が本人に代わって同意する場合も、本人の意向を可能な限り尊重することが望まれます。登録情報の利用目的や共有範囲は、申込時に窓口で必ず確認してください。
家族の心構え
登録したからといって行方不明のリスクがゼロになるわけではありません。日頃から近隣や商店街など地域との関わりを持ち、認知症であることをオープンにしておくことが、いざというときの早期発見につながりやすいとされています。介護者自身が一人で抱え込まず、家族間や地域包括支援センターと役割を分担しておく体制づくりが大切です。
登録情報の更新
つくば市のように登録に有効期間を設けている自治体では、更新を忘れると情報が失効し、いざというときに活用できない可能性があります。転居・入院・施設入所などで状況が変わった場合も、速やかに窓口へ連絡することが求められます。
虐待防止の観点との関連
行方不明を過度に恐れるあまり、本人の外出を過剰に制限することは、本人の尊厳を損なう対応につながりかねません。高齢者虐待防止法とはもあわせて確認し、安全確保と本人の自由のバランスを考えることが大切です。
複数の制度を組み合わせて考える
SOSネットワーク単独で行方不明のリスクをゼロにすることはできません。GPS端末、QRコードシール、認知症サポーターによる地域の見守り、家族間の情報共有といった複数の対策を組み合わせることで、はじめて実効性のある備えになります。どの対策をどの程度取り入れるかは、本人の症状の進行度合いや生活環境によって異なるため、地域包括支援センターに相談しながら、本人と家族に合った組み合わせを検討することが望まれます。
まとめ
認知症高齢者等SOSネットワークについて、要点を整理します。
- 認知症関連の行方不明者数は令和6年に18,121人(前年比918人減)で、依然として高い水準にある
- SOSネットワークは、警察・消防・介護事業所・地域住民など多機関が連携する情報共有の仕組みで、事前登録が起点になる
- 登録項目・必要書類・有効期間・費用は自治体ごとに異なるため、居住地の窓口や地域包括支援センターへの確認が欠かせない
- GPS位置情報サービスとは役割が異なり、費用も自治体により大きく差があるため、併用を検討する場合は個別に確認する
- 実際に行方不明になった場合は、まず警察への届出を優先し、あわせてSOSネットワークの窓口にも連絡する
- 個人情報の共有を伴う制度であるため、本人の意向をできる限り尊重し、安全確保と本人の尊厳・自由とのバランスを意識することが望ましい
制度の詳細は自治体の窓口や地域包括支援センターで随時更新されるため、この記事の内容は執筆時点の公的情報にもとづくものであり、最新の運用については必ず居住地の自治体に確認してください。介護保険制度は3年ごとに見直しが行われるため、関連制度も変更される可能性があります。当サイトの記事の見方についてはこのサイトの立ち位置もご覧ください。