特養に申込みをしても「実際にいつ入れるのか分からない」という不安を抱える方は少なくありません。特別養護老人ホーム(特養)の入所申込者数は、令和7年度(2025年4月1日時点)の厚生労働省調査で全国22.5万人。前回の令和4年度調査から4.7万人(18.4%)減少していますが、都道府県によって申込者の多さには差があり、待機期間も点数制度による優先順位で決まるため一律ではありません。実は、全国一律の「平均待機期間」を示す公式統計は存在しません。待機期間は施設ごとの空床状況や点数制度の運用によって個別に決まる性質のものだからです。そこで本記事では、申込者数の内訳と地域差、優先順位が決まる仕組みを厚労省データにもとづき整理し、自分の状況に近い目安をつかむための考え方を解説します。
特別養護老人ホームの入所待機者数とは
「待機者数」ではなく「入所申込者数」という調査
厚生労働省が公表しているのは、正確には「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」という調査結果です。これは全国の特養に対し、ある基準日時点で入所を申し込んでいる人の人数を集計したもので、いわゆる「待機者数」として報道等で使われている数値の元データにあたります。令和7年度調査は2025年4月1日を基準日として実施され、2025年12月25日に公表されました。同様の調査は過去にも複数回実施されており、令和4年度(2022年4月1日基準日)の調査結果と比較することで、直近3年間の推移を確認できます。この調査は都道府県を通じて市区町村・特養の運営法人から報告を集計する形で行われており、全国規模で申込者数を把握できる数少ない公的統計です。
数字をそのまま「困っている人の数」と読まない注意点
厚労省はこの調査結果について、「入所申込者数には長期間にわたり名簿に登載されている人も含まれ、入所を希望する時期・条件・生活環境の変化等により、必ずしも現に入所を必要としている場合に限らない」という留保を明記しています。
22.5万人という数字には、複数の施設に重複して申し込んだまま名簿に残っている人が含まれます。また、当面は在宅で様子を見たいと考えている人の申込みも含まれています。そのため、この数字は「今すぐ入所できずに困っている人の実数」とは異なる、延べ的な集計である点に注意が必要です。なお、厚労省の調査では同一人物による複数施設への重複申込みを除き、実数に近づける集計方法がとられています。こうした調査の性質を理解した上で数値を読むことが、地域の状況を正しく把握する第一歩になります。
最新データ:令和7年度の待機者数22.5万人の内訳
要介護度別の内訳
令和7年度調査における入所申込者数の内訳は、要介護1が0.7万人(2.9%)、要介護2が1.2万人(5.2%)、要介護3が8.7万人(38.7%)、要介護4が7.6万人(34.0%)、要介護5が4.3万人(19.2%)で、合計22.5万人です。特養は原則として要介護3以上が入所対象のため、要介護3〜5の合計20.6万人が申込者の大半(約91.7%)を占めています。要介護1・2の1.8万人は、後述する「特例入所」の対象として申し込んでいる人です。要介護度が重いほど申込者数も多くなる傾向があり、要介護3が最も多い8.7万人、次いで要介護4が7.6万人となっています。要介護5は4.3万人とやや少なめですが、これは要介護5の認定者自体がすでに施設サービスや看取り対応の体制がある場所で生活しているケースが多いことも影響していると考えられます。
在宅で待つ人と施設等にいる人の内訳
申込者22.5万人のうち、在宅で申込みをしている人は9.5万人(42.2%)です。残りの約6割は、老人保健施設や病院など特養以外の場所で生活しながら申込みをしている人にあたります。在宅で入所を待つ人の生活支援については、要介護度に応じた特別養護老人ホームの入所条件を踏まえた上で、訪問系サービスや家族の支援を組み合わせて対応しているケースが多いとみられます。残る約6割にあたる人たちは、老人保健施設や病院、他の高齢者施設などに入所・入院しながら、より長期的な生活の場として特養への入所を申し込んでいると考えられます。在宅か施設等かという生活場所の違いは、待機期間中の負担の大きさにも直結するため、点数制度の中でも重視される要素の一つになっています。
令和4年度からの推移と過去の傾向
令和4年度と比べて4.7万人減少
要介護3以上の入所申込者数は、令和4年度調査の25.3万人(うち在宅10.6万人)から、令和7年度調査では20.6万人(うち在宅8.6万人)へと、4.7万人(18.4%)減少しました。在宅の申込者も10.6万人から8.6万人へ2.0万人(18.5%)減っています。要介護1・2(特例入所対象)も2.2万人から1.8万人へ0.4万人(17.9%)減少しており、全体として申込者数は減少傾向にあります。在宅・在宅以外を問わず、要介護3以上・要介護1・2のいずれの区分でも同程度の割合(17〜19%前後)で減少している点も特徴で、特定の要介護度だけが突出して減っているわけではなく、全体的に申込みの動きが落ち着いてきていることがうかがえます。
近年は減少傾向が続いている
特養の入所申込者数は、平成27年度に新規入所が原則要介護3以上に限定されて以降、それ以前の水準と比べて近年は減少傾向が続いてきたと厚労省資料等で示されています。要介護3以上への対象限定という制度変更が定着し、以前のように「とりあえず申し込んでおく」形での軽度者の申込みが減ったことに加え、施設整備の進展や高齢者人口の動向なども背景にあると考えられます。ただし、この減少がそのまま「どこでもすぐ入所できる」ことを意味するわけではなく、次章のとおり地域差が大きい点には注意が必要です。
都道府県別に見る待機者数と地域差
申込者数が多い都道府県
令和7年度調査による要介護3以上の入所申込者数(都道府県別、全国計206,479人)は、人口が多い都市部ほど実数も多くなる傾向があり、東京都18,776人、神奈川県12,723人が上位を占めています。上位の都府県の詳しい内訳は下図を参照してください。一方で、人口規模が小さい県では実数自体は少なくても、後述するように要介護認定者に占める割合で見ると高い水準になることがあり、実数の大小だけで地域の状況を判断するのは適切ではありません。
「要介護認定者に占める割合」で見ると地域差はさらに大きい
実数だけでなく、要介護3以上の認定者数に対して入所申込者がどれだけの割合を占めるかを見ると、地域差はより明確になります。全国合計はこの割合が令和4年度の10.6%から令和7年度は8.6%へ低下しましたが、都道府県別では山梨県が21.3%(前回26.7%から低下)と最も高い水準にある一方、大阪府5.0%、愛知県4.4%など低い水準の県もあり、同じ要介護度でも地域によって申込みの状況は大きく異なります。施設の整備状況や在宅サービスの充実度、地域の人口構成などが背景にあるとみられます。全国全体では令和4年度から令和7年度にかけてこの割合が2.1ポイント低下しており、多くの地域で申込みの圧力が緩和する方向に動いていますが、山梨県のように依然として2割を超える水準にある地域も残っており、全国一律の傾向として語ることはできません。実際に施設探しを検討する際は、全国データだけでなく、居住する都道府県・市区町村の状況を個別に確認することが欠かせません。
待機期間が地域や条件で異なる理由
申込み順ではなく点数制度で優先順位が決まる
特養は先着順で入所が決まる施設ではありません。多くの自治体・施設では、要介護度や在宅介護の困難さ、家族の状況などを点数化し、点数の高い人から優先的に入所を案内する「点数制度(優先入所制度)」を採用しています。例えば新宿区では、要介護認定の有効期間開始日から基準日までの期間等に基づいて点数化する仕組みを公表しています。三鷹市のように、自治体が独自の「優先入所指針」を定めているケースもあります。このため、申込みが早い人から順番に入所できるとは限らず、待機期間は「申込み順」では説明できません。同じ要介護度であっても、在宅で介護者が高齢である、あるいは介護者が体調を崩しているといった事情がある場合には点数が高くなり、結果として先に申し込んでいた人よりも早く入所案内を受けることがあります。逆に、比較的余裕のある環境で在宅生活を続けられている場合は、点数が伸びにくく待機期間が長引くこともあり得ます。自分が住む自治体の基準を調べるには、「市区町村名+特別養護老人ホーム+優先入所(または入所指針)」で検索するか、地域包括支援センターに問い合わせるとよいでしょう。
評価は定期的に更新される
大田区の例では、優先度評価は年3回(7月・11月・翌年3月)実施され、評価の有効期間は評価実施月の翌月から1年間とされています。つまり状況が変わって在宅介護がより困難になった場合など、点数は定期的に見直される仕組みになっています。こうした点数制度の詳細な考え方は、特別養護老人ホームの入所申込み方法・点数制度で詳しく解説しています。評価が定期的に見直される仕組みは、申込み時点では点数が低くても、その後に在宅介護の状況が悪化した場合には点数が引き上げられ、優先順位が変わる可能性があることを意味します。逆に言えば、一度申し込んだまま状況を更新しないと、実際の介護の負担が増えているにもかかわらず点数が低いままになっている場合もあるため、状況が変わった際には自治体や施設へ再度の相談・申告を行うことが大切です。
要介護1・2でも入所できる「特例入所」とは
原則は要介護3以上だが例外もある
平成27年4月から、特養の新規入所は原則として要介護3以上に限定されています。ただし一定の要件を満たす場合は、要介護1・2の人でも「特例入所」として申込みが認められます。令和7年度調査でも、要介護1・2の申込者は1.8万人(うち在宅0.9万人)存在しており、こうした特例入所の枠での申込みにあたります。特例入所は、あくまで「要介護1・2であっても、在宅生活の継続が著しく困難であると認められる特別な事情がある場合」に限って認められる仕組みであり、要介護1・2であれば誰でも自由に申込みができるわけではない点に注意が必要です。
特例入所が認められうるケース
厚生労働省老健局高齢者支援課は令和5年4月7日付の通知(介護保険最新情報Vol.1141)で特例入所の指針の一部を改正し、以下のようなケースを特例入所の対象になりうるものとして示しています。
- 認知症により日常生活に支障をきたす症状・行動が頻繁に見られる場合
- 知的障害・精神障害等により同様の症状がある場合
- 家族等による深刻な虐待が疑われる場合
また、申込者本人から特例入所要件に該当する旨の申立てがある場合、施設側がそれを理由に入所申込みを受け付けない対応は認められない、ともされています。個別の該当可否は市区町村や施設への確認が必要です。この通知が出された背景には、特例入所の要件を満たす可能性がある人が、施設側の窓口対応によって申込み自体を断られてしまうケースが各地で見られたことがあるとみられます。申込む側から見ると、要介護1・2の状態で特養への入所を考える場合は、まずケアマネジャーや地域包括支援センターに相談し、特例入所の要件に該当する可能性があるかどうかを確認した上で、申込み先の施設や自治体の窓口に相談する流れが現実的です。
複数施設への同時申込みと注意点
特養への入所申込みは、1つの施設に限らず複数の施設に同時に申し込むことができます。大田区の案内でもこの点が明記されており、待機期間や施設ごとの状況が分からない中で、選択肢を広げる手段として一般的な方法です。ただし、運用上の注意点もあるため、できることと注意すべきことを整理しておきましょう。
- できること:通える範囲にある複数の特養に幅広く申込みをして、1つの施設に絞ることで長期間動きがなくなるリスクを避けられる
- 注意すること:いずれかの施設で入所可能となり本人がそれを辞退すると、他に申し込んでいた施設への申込みも無効になる運用がある(大田区の案内による)。運用の詳細は自治体・施設によって異なるため、申込み時に確認が必要
例えば、家庭の事情でその時点では入所を見送りたい場合でも、辞退の仕方によっては他の施設への申込みまで無効になってしまうことがあるため、辞退を検討する際は事前に自治体や施設の窓口に相談し、他の申込先への影響がないかを確認してから判断することが望ましいといえます。
待機期間中に検討できる選択肢
地域密着型特養という選択肢
特養には、都道府県内どこからでも申込みができる定員30人以上の一般的な「広域型」のほかに、定員29人以下の小規模な「地域密着型特養」があります。厚生労働省の介護サービス情報公表システムによると、地域密着型特養(地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護)は入所定員30人未満の施設で、常に介護が必要な人を対象に日常生活上の支援等を提供するものとされています。原則としてその市区町村の住民のみが対象ですが、広域型特養とは別枠で申込みができる制度があり、自宅から通いやすい地域内の小規模施設として探せる選択肢になります。地域によっては空床の状況が異なる場合もあるため、選択肢の一つとして把握しておく価値があります。地域密着型特養は、住み慣れた地域で生活を継続しやすいという特徴がある一方、対象がその市区町村の住民に限られるため、広域型特養に比べて申込みできる施設の選択肢自体は限定されます。広域型・地域密着型のいずれに申し込むかは、生活圏や家族の通いやすさなども踏まえて検討するとよいでしょう。
他の施設種別との違いを踏まえた検討
特養は終身利用(看取りまで)を前提とした施設である一方、介護老人保健施設(老健)は在宅復帰を目的とし、原則として概ね3か月ごとに入退所を判定する短期利用が想定される施設です。制度上の目的が異なるため、待機期間中の生活の場をどう確保するかを考える際は、この違いを踏まえて検討する必要があります。費用面を含めた比較は特別養護老人ホームと有料老人ホームの違いで解説しています。老健は本来、リハビリを通じて在宅復帰を目指す施設であるため、待機期間中の「つなぎ」として一時的に利用する目的で検討されることもありますが、あくまで在宅復帰を前提とした施設である点は理解しておく必要があります。特養での終身利用を希望する場合と、老健で在宅復帰を目指す場合とでは、そもそもの利用目的が異なることを踏まえて選択することが大切です。
地域の空床状況は変化することもある
相模原市の公表資料では、令和7年4月1日時点で「1年以内に入所を希望する在宅の要介護1〜5の人」235人に対し、空床数281床という自治体独自の集計例が示されています。このように、全国的には申込者数が多い状況でも、地域や時期によっては需給のバランスが異なる場合があり、一律に「どこも長期間待つ」とは言い切れない点は留意が必要です。空床の状況は、施設の新規開設や既存入所者の退所(施設内での看取りを含む)の状況によって時期ごとに変動するため、「以前確認したときは待機者が多かったが、今は状況が変わっている」ということも起こり得ます。定期的に自治体や施設に最新の状況を確認することが、実情に合った判断につながります。
老人ホーム探しで確認しておきたいポイント
申込み前に整理しておきたいこと
特養への申込みを検討する際は、要介護度・要介護認定の有効期間・在宅介護の状況・家族構成など、点数制度で考慮される可能性のある事項をあらかじめ整理しておくと、自治体や施設への相談がスムーズになります。特に、要介護認定の更新時期が近い場合は、認定結果によって要介護度が変わることもあるため、更新のタイミングと入所申込みのタイミングをあわせて把握しておくと、その後の相談がしやすくなります。
自治体・施設への相談を重ねる
点数制度の内容や複数施設申込みの運用は自治体・施設ごとに異なります。制度の詳細は変更されることもあるため、実際に申込みを検討する際は、居住する市区町村の窓口や、申込み予定の施設に最新の運用を確認することが確実です。また、介護保険制度自体が3年ごとに見直されており、特養の入所要件や特例入所の取り扱いも今後の制度改正で変わる可能性があります。今回取り上げた数値・仕組みは調査時点・通知時点のものであることを踏まえ、実際の申込みにあたっては常に最新の情報を確認するようにしてください。
まとめ
- 特養の入所申込者数は令和7年度で全国22.5万人。前回の令和4年度から4.7万人(18.4%)減少している
- 要介護3〜5が申込者全体の91.7%を占め、要介護1・2は特例入所枠として1.8万人が申し込んでいる
- 都道府県によって申込者数・要介護認定者に占める割合には大きな差があり、地域の状況を確認する必要がある
- 待機期間は申込み順ではなく、要介護度や在宅介護の困難さなどを点数化した優先入所制度で決まる
- 複数施設への同時申込みは可能だが、辞退時の扱いなど運用は自治体・施設ごとに異なるため事前確認が重要
- まずは地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、自分の状況が点数制度上どう評価されるかを確認することから始めるとよい
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