特別養護老人ホームへの入所は、市区町村ではなく施設に直接申し込むのが基本です。誰が優先的に入所できるかは「申込み順」ではなく、要介護度や家族の介護力などを点数化した「点数制度」で決まります。この記事では、入所申込みの流れと必要書類、点数制度・優先順位の仕組み、待機者数の実態までを厚生労働省や自治体の公式資料にもとづいて解説します。
特別養護老人ホームの入所申込みとは
介護保険制度が始まる前、特養への入所は市町村による「措置」として入所先が決められていました。現在は利用者自身が施設を選び、施設と直接契約を結ぶ仕組みに変わっています。ただし、申込み後の優先順位の調整には市区町村が一定の関与をする仕組みが多くの自治体で採られており、施設だけの判断で全てが決まるわけではありません(仕組みの詳細は後述します)。
申込みは施設に直接行うのが基本
入所を希望する特養が決まったら、その施設に電話や窓口で連絡し、入所申込書一式を受け取ります。どの施設に申し込めばよいか分からない場合は、担当のケアマネジャーや、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談すると、地域の空き状況や申込み方法について案内を受けられます。ただし横浜市のように、複数の施設分の申込みを市内共通の「入所申込受付センター」が一括で受け付ける自治体もあります(詳しくは後述します)。
複数の施設に同時に申込みができる
特養の入所申込みは、1つの施設に絞る必要はなく、複数の施設に同時に申し込むことができます。東京都荒川区の案内では、複数施設への同時申込みが可能な一方、単独の施設のみを希望する場合に加点する運用が採られています。入所までの期間を短くするためにも、通える範囲の複数施設に申し込んでおくのが実務上一般的な進め方です。
対象は原則要介護3以上
2015年(平成27年)4月の制度改正により、特養の新規入所の対象は原則として要介護3以上に限定されています(根拠は厚生労働省老健局長通知。後述します)。要介護1・2の方は原則として対象外ですが、やむを得ない事情がある場合に限り「特例入所」という形で入所が認められることがあります。特例入所の要件は後の見出しで詳しく説明します。
入所申込みから入所までの流れ
特養の入所は、申し込んですぐに決まるものではありません。申込みから実際の入所まで、大まかに次のような流れをたどります。
まずはケアマネジャーや地域包括支援センターに相談する
すでに要介護認定を受けてケアマネジャーがついている場合は、まずケアマネジャーに相談すると、地域の特養の空き状況や申込み方法について具体的な助言を受けられます。ケアマネジャーがまだいない場合や、そもそもどこに相談すればよいか分からない場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターが無料の相談窓口になります。
施設に申込書一式を提出する
申込む施設を決めたら、施設から入所申込書・状況調査票などの書類一式を受け取り、必要事項を記入して提出します(必要書類の詳細は次の見出しで説明します)。郵送での受付を行っている自治体もあれば、横浜市のように「入所申込受付センター」が窓口となって一括で受け付ける仕組みを採る自治体もあります。
一次評価と二次評価で入所順位が決まる
多くの自治体では、要介護度や家族の状況などを点数化する「点数制度」にもとづいて、まず市区町村や広域の入所調整の仕組みが「一次評価」を行います(点数制度の詳しい仕組みは後述します)。そのうえで、各施設が独自の基準を加味して選考する「二次評価」を行う、という二段階の仕組みが採られています。点数の高い人から順に、空きが出たタイミングで施設側から連絡が入るのが一般的な流れです。
入所が決まったら契約・準備を行う
入所の内諾を受けたら、施設と正式な利用契約を結び、入所前の面談や健康診断書の提出、持ち物の準備などを進めます。入所日は施設の空き状況や本人・家族の準備状況にあわせて調整されます。
入所申込みに必要な書類
必要書類は自治体・施設によって多少異なりますが、多くの場合、共通して次のような書類の提出が求められます。
入所申込書と状況調査票
入所を希望する本人の基本情報を記入する「入所申込書」に加え、本人の心身の状態や家族の介護状況を記入する「状況調査票」(自治体によって「入所申込者状況票」等の名称)を提出します。東京都杉並区の案内では、入所申込書・入所申込者状況票・介護保険被保険者証の写しが基本の提出書類として案内されています。
介護保険被保険者証の写し
要介護認定の結果が記載された介護保険被保険者証の写しも必須です。横浜市の案内では、認定の有効期間内のものを提出するよう求めており、要介護認定の更新にあわせて再提出が必要になる場合もあります。
要介護1・2の場合に追加で必要な書類
要介護1・2の方が特例入所を希望する場合は、通常の書類に加えて、在宅生活が困難であることを具体的に説明する書類(「特例入所調査票」や「特養以外での生活が困難な理由書」など、自治体によって名称は異なります)の提出を求められます(特例入所の詳しい要件は後述します)。東京都荒川区・杉並区の案内でも、要介護1・2の申込者には追加書類の提出が明記されています。
「点数制度」とは何か|申込み順ではない理由
特養の入所は、以前は「先着順」「申込み順」で決まると誤解されることがありますが、実際には多くの自治体で、要介護度や家族の介護力などを点数化し、点数の高い人から優先的に入所調整を行う「点数制度(入所指針)」が採用されています。
なぜ申込み順ではなく点数で決めるのか
特養は要介護度の高い方や、在宅での介護が困難な方を優先的に支える施設としての役割が求められています。単純な申込み順で決めてしまうと、緊急性の低い人が先に入所し、より困っている人が後回しになるおそれがあるため、必要度に応じて優先順位を判断する仕組みが導入されています。千葉県の入所指針でも、従来の「申込み順」による選考を改め、必要性の高い順に優先入所させる方針が明記されています。
厚生労働省通知が示す考え方
この仕組みの根拠となっているのが、厚生労働省老健局高齢者支援課長通知「指定介護老人福祉施設等の入所に関する指針について」(平成26年12月12日、令和5年4月7日一部改正)です。この通知は、入所決定過程の透明性・公平性を確保しつつ、必要性の高い方が優先的に入所できるよう、都道府県・市区町村が入所に関する指針を定めることを求めています。
点数の仕組みは自治体ごとに異なる
厚生労働省の通知は考え方の大枠を示すものであり、実際の評価項目や配点は、都道府県または市区町村が独自に定める「入所指針」「優先入所指針」によって決まります。そのため、同じ要介護度・同じ家族構成であっても、住んでいる自治体や申し込む施設によって点数の算出方法が異なる点に注意が必要です。次の見出しで、実際に確認できた自治体の点数制度を具体的に紹介します。
優先順位を決める評価項目の具体例
自治体ごとに配点の仕組みは異なりますが、多くの入所指針に共通して見られる評価の視点があります。実際にどの自治体がどのような配点にしているかは、次の見出しで具体例を紹介します。
要介護度・認知症の状態
要介護度が高いほど、また認知症による日常生活への支障が大きいほど、高い点数がつけられる傾向があります。要介護度は多くの自治体で評価の基礎点として使われており、そこに認知症による問題行動の有無などの加算が組み合わされる仕組みが一般的です。
同居家族の有無・介護者の状況
同居する家族がいるか、家族に介護を担う余力があるかも重要な評価項目です。同居者・介護者がいない場合や、家族による深刻な虐待が疑われるなど在宅生活の継続が困難な事情がある場合に、高い点数が加算される仕組みが多くの自治体で採られています。
在宅サービスの利用状況・地域性
在宅サービスをどの程度利用しているか(利用率)や、申込者が施設と同じ地域に住んでいるかどうかも、優先度を左右する評価項目の一つです。すでに在宅サービスを限度まで利用していてもなお在宅生活の継続が難しい場合、優先度が高く評価されやすくなります。
自治体別に見る点数制度の具体例
実際にどのような配点が行われているのか、公開されている入所指針から3つの自治体の例を紹介します。あくまで一例であり、お住まいの自治体の実際の点数制度は、各自治体の公式ページで必ず確認してください。
東京都三鷹市の例
三鷹市特別養護老人ホーム優先入所指針(令和6年9月1日施行)では、本人の心身の状況・同居者や介護者の状況・住宅の状況の3つを点数化し、合算して一次評価を行います。本人の心身の状況は要介護度に応じた点数に認知症による問題行動がある場合の加算を加え、同居者・介護者の状況は同居者・介護者がいない場合に高い点数が加算されます。この一次評価をもとに、各施設が独自の基準で二次評価を行う二段階方式です。
大阪市の例
大阪市指定介護老人福祉施設等入所選考指針(令和5年12月改定)では、要介護度と世帯状況(単身・高齢者のみ世帯・介護者はいるが困難・その他)を掛け合わせた基礎点(10点から60点)を算出します。これに、在宅サービスの利用率に応じた加算(15点から35点)と、施設と同じ地域に住んでいるかどうかで加点する「地域性加算」(大阪市内在住であれば5点、隣接する市であれば3点)を組み合わせて評価する仕組みです。
長野県伊那市の例
伊那市の特別養護老人ホーム優先入所基準では、7つの項目を積み上げて評価する仕組みが採られています。具体的には、本人の要介護度(要介護5で30点から要介護1で5点)、居宅介護サービスの利用率(最大15点)、介護者の状況(単身世帯かつ介護可能な家族がいない場合に最大30点)、虐待・介護放棄などの状況(最大15点)、要介護2以上の認定を受けてからの経過期間(認定を受けてからの期間が長いほど加点、最大10点)、認知症高齢者の日常生活自立度(最大10点)、養護老人ホームへの入所状況(最大5点)の7項目です。
| 自治体 | 評価方式 | 基礎点の範囲 | 主な加算要素 |
|---|---|---|---|
| 東京都三鷹市 | 一次評価(自治体)→二次評価(施設)の二段階 | 要介護度に応じた点数 | 認知症の問題行動、同居者・介護者の不在、住宅の状況 |
| 大阪市 | 要介護度×世帯状況の基礎点+加算方式 | 10点〜60点 | 在宅サービス利用率(15〜35点)、地域性加算(市内5点・隣接3点) |
| 長野県伊那市 | 7項目の積み上げ方式 | 要介護度で5点〜30点 | サービス利用率、介護者の状況、虐待等の状況、経過期間、認知症自立度、養護老人ホーム入所状況 |
自分の自治体の基準を確認するには
自分が住む自治体や申し込む施設の実際の配点基準を知りたい場合は、担当のケアマネジャー、地域包括支援センター、または市区町村の高齢福祉担当窓口に問い合わせると確認できます。多くの自治体が「(自治体名) 特別養護老人ホーム 入所指針」といった名称で指針をホームページに公開しています。
要介護1・2でも入所できる「特例入所」
特養の入所は原則要介護3以上ですが、要介護1・2の方でも、やむを得ない事情がある場合には「特例入所」として入所が認められることがあります。
特例入所が認められる4つの要件
厚生労働省の通知では、特例入所が認められうる事情として、次の4つの類型が示されています。いずれか1つに該当すれば対象になり得ます。
- 認知症により日常生活に支障を来すような症状・行動や、意思疎通の困難さが頻繁に見られる
- 知的障がい・精神障がい等を伴い、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる
- 家族等による深刻な虐待が疑われるなど、心身の安全・安心の確保が困難な状態にある
- 単身世帯である、家族等が高齢または病弱であるなどにより家族等による支援が期待できず、かつ地域における介護サービス等の供給が不十分な状態にある
福井県のリーフレット(厚生労働省作成)でも、これら4つの要件がQ&A形式で分かりやすく説明されています。
特例入所の判定の流れ
特例入所の判定は、入所を希望する施設が設置する検討の場で行われますが、市区町村が意見を述べるなど一定の関与をすることが求められています。厚生労働省の令和4年度調査では、特例入所の仕組みが「運用されている」と回答した市町村は87.4%にのぼり、全国的に広く運用されていることが分かります。特例入所を希望する場合は、通常の申込書に加えて、在宅生活が困難であることを具体的に示す書類の提出が必要です(前述の「要介護1・2の場合に追加で必要な書類」を参照)。
入所までの待機期間と待機者数の実態
点数制度があるとはいえ、実際にどれくらいの人が入所を待っているのか、どれくらいの期間待つことになるのかは気になるところです。厚生労働省の調査結果から実態を見てみます。
全国の入所申込者数の推移
厚生労働省が令和7年12月に公表した調査結果(令和7年4月1日時点)によると、要介護3以上の入所申込者数は全国で約20.6万人でした。これは前回の令和4年度調査(約25.3万人)と比べて約4.7万人(18.4%)の減少です。要介護1・2の特例入所対象者を含めた全体の申込者数(合計約22.5万人)も、近年は減少傾向にあります。
減少の背景には、介護保険施設全体の整備が進んだことに加え、在宅サービスの充実や、そもそもの高齢者人口の伸びの鈍化などが影響していると考えられます。とはいえ、令和7年度調査でも要介護3以上の在宅の申込者だけで約8.6万人が入所を待っている状況であり、依然として多くの人が入所の順番を待っていることに変わりはありません。
要介護度別の内訳
令和7年度調査における入所申込者(合計約22.5万人)を要介護度別に見ると、要介護3が最も多く約8.7万人(38.7%)、次いで要介護4が約7.6万人(34.0%)、要介護5が約4.3万人(19.2%)となっており、要介護3から5の合計で9割を超えます。特例入所の対象となる要介護1・2は、要介護1が約0.7万人(2.9%)、要介護2が約1.2万人(5.2%)です。
待機期間は地域や施設によって差がある
待機期間の長さは、地域の高齢化の状況や施設の整備状況によって大きく異なります。厚生労働省の令和7年度調査による都道府県別の入所申込者数(要介護3以上)を見ると、東京都18,776人、神奈川県12,723人、大阪府9,993人など、地域によって大きな差があることが分かります。全国一律の待機期間の目安を示すことはできないため、お住まいの地域の実際の待機状況は、申込みを検討している施設や自治体の窓口に直接確認するのが確実です。
申込み後に状況が変わったときの対応
申込み後、時間が経つ間に本人や家族の状況が変わることは珍しくありません。状況の変化は、点数の見直しに直結する重要な情報です。
要介護度が変わった場合
要介護度の更新認定を受けて区分が変わった場合、多くの自治体で介護保険被保険者証の写しの再提出が必要になります。要介護度は点数制度における評価項目の中心的な要素であるため、区分が変わったにもかかわらず届出をしないままだと、実際の状態を反映しない点数のまま評価され続けてしまう可能性があります。
家族の状況が変わった場合の再申請
同居していた家族と別居することになった、主に介護を担っていた家族が病気になった、といった介護者の状況の変化も、点数の見直しに関わる重要な情報です。横浜市の案内でも、状況に変化があった場合は書類の再提出が必要である旨が明記されています。状況が変わったときは、自己判断で放置せず、申込み先の施設や自治体の窓口に速やかに連絡することが大切です。
入所申込みでよくある注意点
最後に、入所申込みの実務で見落とされやすい注意点を3つ紹介します。
申込み内容には有効期限がある
多くの自治体で、申込書の有効期間は要介護認定の有効期間に連動する仕組みが採られています。三鷹市の指針でも、要介護認定の有効期間が切れると申込みの効力も失われるため、更新のたびに書類を出し直す必要があると案内されています。「一度申し込んだから安心」と放置せず、定期的に申込み状況を確認することが大切です。
一つの施設だけに絞らない
前述のとおり、特養は複数の施設に同時に申し込むことができます。一つの施設だけに絞ってしまうと、その施設の空き状況や点数の分布によっては、長期間待つことになる可能性があります。通える範囲にある複数の施設の情報を、介護サービス情報公表システムやWAM NETなどで確認しながら、複数の施設に申込みをしておくと、入所までの期間を短くしやすくなります。
点数が高くても即入所とは限らない
点数制度によって優先順位は決まりますが、実際に入所できるかどうかは、その時点でその施設に空きが出るかどうかにも左右されます。点数が高くても、希望する施設の定員に空きが出なければ、入所までにさらに時間がかかることがあります。逆に、点数がそれほど高くなくても、他の施設で早く空きが出れば、そちらから先に入所できる場合もあります。
まとめ|点数制度を理解して早めに複数施設へ申し込む
- 特養の入所申込みは施設に直接行うのが基本で、複数の施設に同時に申し込むことができる
- 入所の優先順位は「申込み順」ではなく、要介護度や家族の介護状況などを点数化する「点数制度(入所指針)」で決まる
- 点数の評価項目・配点は自治体によって異なるため、お住まいの自治体の入所指針を必ず確認する
- 対象は原則要介護3以上だが、認知症の症状や介護者の不在など一定の要件を満たせば要介護1・2でも「特例入所」の対象になる
- 令和7年度調査では要介護3以上の入所申込者数は全国で約20.6万人。減少傾向にあるとはいえ、在宅で約8.6万人が入所を待っている状況にある
特養の入所に関する制度は、介護保険制度の見直しにあわせて今後も変更される可能性があります。最新の入所指針や必要書類は、お住まいの市区町村の高齢福祉担当窓口、または申込みを検討している施設に直接確認してください。なお、このサイトでは特定の施設の評価・ランキングは行っていません。編集方針の詳細はこのサイトについてをご覧ください。