生活保護を受けている、または受けることを検討している家庭にとって、「医療扶助」と「介護扶助」は名前が似ていて混同しやすい制度です。結論から言うと、医療扶助は生活保護受給者が医療機関にかかるとき全般に使える扶助で、介護扶助は要介護・要支援認定を受けた受給者だけが対象になる扶助です。対象者の範囲、負担割合、申請の窓口がそれぞれ異なります。本記事では厚生労働省の運営要領や自治体の資料にもとづき、両者の違いを整理します。
医療扶助と介護扶助はどちらも「生活保護法上の扶助」の一種
生活保護法にもとづく扶助は、生活扶助・教育扶助・住宅扶助・医療扶助・介護扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助の8種類に分かれています(生活保護法第11条・第15条・第15条の2)。このうち医療扶助は同法第15条、介護扶助は同法第15条の2に規定されており、条文上も別の扶助として位置づけられています。
8種類の扶助のうち「医療」「介護」の2つに注目する理由
生活費や住居費をカバーする生活扶助・住宅扶助とは異なり、医療扶助と介護扶助はどちらも「サービスそのもの」を給付する点が特徴です。現金を支給するのではなく、医療機関や介護サービス事業者に対して費用が直接支払われる「現物給付」が原則になっています。この現物給付という共通点があるために、両者の違いが見えにくくなっている面があります。
どちらも原則「現物給付」だが窓口となる制度が異なる
医療扶助は医療機関・薬局が窓口になり、介護扶助は介護保険サービスの事業者・施設が窓口になります。どちらも福祉事務所が発行する券(医療券・介護券)にもとづいて提供される仕組みですが、券の発行単位や更新期間、対象となるサービスの範囲はそれぞれ独自のルールで運用されています(厚生労働省「生活保護法による医療扶助運営要領について」「生活保護法による介護扶助の運営要領について」)。
医療扶助とは|対象範囲と利用の流れ
医療扶助は、生活保護受給者が病気やけがで医療機関にかかる際の費用をカバーする扶助です。診察、薬剤・治療材料の支給、医学的処置・手術その他の治療、入院時の看護、通院・入院のための移送などが対象になります(生活保護法第15条)。原則として現物給付、つまり受給者は医療機関の窓口で医療費を支払う必要がなく、費用は福祉事務所を通じて医療機関に支払われます。
対象になるサービス
外来診療・入院診療のほか、薬局での調剤、歯科診療、移送費(通院のための交通費等)も医療扶助の対象です。厚生労働省の運営要領では、これらを医療扶助の給付内容として整理しています。移送費については、通院にかかる交通費全般が無条件で認められるわけではなく、通院先の医療機関の選定や移送手段の妥当性について、事前にケースワーカーへの確認が求められる運用になっています。歯科診療についても、保険診療の範囲内で必要な処置が対象となり、自由診療(保険適用外の治療)は原則対象外です。
医療券の発行と更新のサイクル
医療扶助を利用するには、福祉事務所が発行する医療券が必要です。医療券自体は暦月単位(1か月ごと)で発行されますが、その根拠となる医療要否意見書は外来が原則6か月、入院が原則3か月ごとに提出・更新される運用になっています(自治体の運用資料等を参照)。生活保護受給者が新たに医療機関を受診する際は、事前にケースワーカー(担当の福祉事務所職員)へ相談し、医療券の発行を受けてから受診するのが基本的な流れです。医療機関を自由に選べるかという点については、生活保護受給者であっても基本的には医療機関を自分で選ぶことができますが、医療券には受診する医療機関名が記載されるため、転院や複数の医療機関を並行して受診する場合は、その都度福祉事務所への連絡・調整が必要になります。急に医療機関を変更したい場合も、まずは担当のケースワーカーに相談することが基本的な手順です。
令和6年3月からのオンライン資格確認
令和6年3月から、生活保護受給者もオンライン資格確認の仕組みの対象になりました。マイナンバーカードを健康保険証として利用登録している場合、医療機関の窓口で顔認証端末等を使って即時に資格確認ができるようになっています。従来は医療券を都度発行する必要がありましたが、オンライン資格確認によって受診時の手続きが簡略化される場面が増えています。
介護扶助とは|対象範囲と利用の流れ
介護扶助は、要介護・要支援認定を受けた生活保護受給者が、居宅介護・福祉用具・住宅改修・施設介護・介護予防などの介護サービスを利用する際の費用をカバーする扶助です(生活保護法第15条の2)。医療扶助と同様に原則現物給付で、福祉事務所が毎月介護券を発行し、介護報酬の請求は国民健康保険団体連合会(国保連)を経由して行われます。介護扶助の対象範囲や手続きの詳細については、介護扶助とはという記事でさらに詳しく解説しています。
対象になる介護サービス
訪問介護・訪問看護などの居宅介護サービス、車いすや介護用ベッドなどの福祉用具の貸与・購入、段差解消などの住宅改修、特別養護老人ホーム等への施設介護、要支援者向けの介護予防サービスなどが対象です。いずれも介護保険制度上のサービス区分に対応した形で介護扶助が給付されます。
要介護・要支援認定が前提条件になる
介護扶助を利用するには、原則としてまず要介護・要支援認定を受ける必要があります。認定の申請先や審査の流れは受給者の被保険者資格によって異なり、この点は次の見出し以降で詳しく説明します。認定の仕組み自体については要介護認定とはという記事で解説しています。
福祉用具・住宅改修は事前の許可が必須
福祉用具の購入や住宅改修を介護扶助で行う場合、原則として3社からの見積もりを取得し、着工・購入前にケースワーカーへ連絡して許可を得る必要があります。福祉事務所の事前許可を得ずに住宅改修を発注したり福祉用具を購入したりした場合、介護扶助の対象として認められない可能性があるため、必ず事前に相談することが重要です(栃木県「生活保護制度における介護扶助の概要について」等)。
対象者の違い|医療扶助は受給者全般、介護扶助は要介護・要支援認定を受けた人だけ
医療扶助と介護扶助の最も大きな違いは、対象者の範囲です。医療扶助は生活保護受給者全般が対象で、保護開始後に医療が必要になった都度、その都度申請して利用します。一方、介護扶助は要介護・要支援認定(後述する「みなし2号」の場合は要介護認定または基本チェックリストによる事業対象者判定)を受けた被保護者だけが対象です。つまり、医療扶助の対象者の中の一部(要介護・要支援認定を受けた人)が、介護扶助も併せて利用するという関係になります。
平成20年度データで見る対象者数の対比(古いデータである点に留意)
厚生労働省「平成22年版厚生労働白書」に掲載された平成20年度の1か月平均データでは、被保護実人員159万2,620人のうち、医療扶助人員は128万2千人(扶助率80.5%)、介護扶助人員は19万6千人(扶助率8.5%)でした。この数値はあくまで平成20年度時点の古いデータであり、現在の実数を示すものではありませんが、医療扶助の対象範囲がほぼ全受給者に及ぶのに対し、介護扶助は要介護・要支援認定を受けた一部の受給者にとどまる、という対比の傾向を示す参考値として紹介します。最新の被保護者数の統計は、厚生労働省が実施する「被保護者調査」(e-Stat)で確認できます。
「一部が重なる」関係であることに注意
医療扶助と介護扶助は排他的な制度ではなく、要介護・要支援認定を受けた受給者は医療扶助と介護扶助の両方を同時に利用することがあります。たとえば持病の治療で医療機関にかかりながら、訪問介護サービスも利用しているようなケースでは、医療費は医療扶助、介護サービス費は介護扶助という形で、それぞれ別の扶助から給付されます。
負担割合の違い|65歳以上・40〜65歳未満(医療保険あり)・「みなし2号」で異なる
介護扶助における自己負担部分の扱いは、被保護者の年齢や医療保険加入状況によって3パターンに分かれます。この点は医療扶助には無い、介護扶助特有の複雑さです。介護保険の自己負担割合そのものの仕組みについては介護保険の自己負担割合とはという記事で解説しています。
65歳以上(第1号被保険者)の場合
65歳以上の受給者は介護保険の第1号被保険者として、介護保険から9割の給付を受けます。残りの自己負担1割分を介護扶助でカバーする形です。介護保険への加入自体は継続されるため、通常の介護保険利用者と基本的な仕組みは同じで、自己負担分だけが介護扶助で補われます。
40〜65歳未満・医療保険に加入している場合(第2号被保険者)
40歳以上65歳未満で医療保険に加入している受給者は、介護保険の第2号被保険者として扱われます。特定疾病(末期がんや初老期における認知症など介護保険法で定められた16疾病)に該当し要介護・要支援認定を受けた場合、65歳以上と同様に介護保険から9割の給付を受け、自己負担1割分を介護扶助でカバーします。
40〜65歳未満・医療保険に未加入の場合(通称「みなし2号」)
生活保護を開始すると国民健康保険の資格を失うため、40歳以上65歳未満で医療保険に未加入の受給者は、介護保険の第2号被保険者としての資格も持たないことになります。この状態を通称「みなし2号」と呼びます。みなし2号の場合、介護保険の被保険者ではないため介護保険からの給付が行われず、特定疾病要件を満たして要介護・要支援認定を受けた場合、介護費用の10割を介護扶助でカバーする仕組みになっています。
介護保険料の扱いの違い
介護保険料の負担についても、医療扶助には対応する仕組みが無いのに対し、介護扶助(正確には生活扶助の加算)で独自の取り扱いがされています。
65歳以上(第1号被保険者)は「介護保険料加算」で実費支給
65歳以上の受給者は、生活扶助の「介護保険料加算」として、介護保険料相当額が実費で支給されます。年金からの特別徴収(天引き)で保険料が納付されている場合は、年金の収入認定を行う際に保険料相当額が控除される形で処理されます。普通徴収(自分で納付書等により納付するケース)の場合は、福祉事務所が保険者(市町村)へ「代理納付」を行う運用になっています(厚生労働省「介護保険料に係る生活保護受給者の取扱いについて」)。
みなし2号は介護保険料の負担が発生しない
みなし2号の受給者は介護保険の被保険者ではないため、そもそも介護保険料を負担する義務がありません。この点も、通常の第1号・第2号被保険者との大きな違いです。
ケアプラン作成費用・要介護認定の手続きの違い
ケアプランの作成費用と要介護認定の申請窓口も、被保険者資格の有無によって異なります。
ケアプラン作成費用の給付元
通常の介護保険被保険者(65歳以上、または40〜65歳未満で医療保険に加入している第2号被保険者)の場合、ケアプラン作成費用は介護保険から100%給付されます。一方、みなし2号の場合は、生活保護法で指定を受けた居宅介護支援事業者に限り、介護扶助から100%給付される仕組みです。指定を受けていない事業者にケアプラン作成を依頼すると、介護扶助の対象とならない可能性があるため注意が必要です。
要介護認定の審査を行う機関の違い
通常の被保険者の場合、要介護認定の審査判定は保険者である市町村が実施します。一方、みなし2号の場合は介護保険の被保険者ではないため、福祉事務所が保険者(市町村)へ審査判定を依頼する形になります。申請窓口自体が異なるため、どちらに該当するか分からない場合は、まず担当のケースワーカーに確認するのが確実です。
施設入所と福祉用具・住宅改修における扱いの違い
医療扶助には「施設」という概念がありませんが、介護扶助では施設介護サービスの利用が対象になる一方、居室のタイプによって扱いが分かれる点に注意が必要です。
特養・老健等の施設介護サービスは介護扶助の対象
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院などの施設介護サービスは、介護扶助の対象となります。福祉事務所が発行する介護券にもとづき、施設利用にかかる費用が介護扶助から給付される仕組みです。
ユニット型個室など利用者負担が生じる個室は原則利用できない
施設介護サービスの中でも、ユニット型個室のように利用者に室料等の負担が生じる個室については、原則として利用できません。これは介護扶助が現物給付として給付する範囲を超える追加的な費用が発生するためです。ただし、この運用には自治体によって差がある場合があるため、個室の利用を検討する際は、必ず事前に担当の福祉事務所に確認することが必要です。
福祉用具・住宅改修は事前許可が前提
前述のとおり、福祉用具の購入や住宅改修についても、原則3社の見積もりを取得したうえで、事前にケースワーカーへ連絡し許可を得ることが必須です。許可を得る前に発注・購入した場合、介護扶助の対象として認められない可能性があります。
申請手続きの違い|医療券と介護券
医療扶助と介護扶助では、利用のたびに発行される券の種類とその手続きの流れも異なります。
医療扶助は医療券、介護扶助は介護券
医療扶助を利用する際は福祉事務所が発行する医療券が、介護扶助を利用する際は福祉事務所が発行する介護券が必要です。それぞれ発行の単位や更新のタイミングが異なり、医療券は暦月単位で外来原則6か月・入院原則3か月ごとの更新、介護券は毎月発行される運用になっています。
受診・利用前にケースワーカーへ相談するのが基本
いずれの扶助も、原則として利用前にケースワーカーへ相談し、券の発行を受けてからサービスを利用する流れになります。急な病気やけがで緊急受診が必要な場合など、事前相談が難しいケースでは、事後的に福祉事務所へ連絡し手続きを進めることも可能ですが、できるだけ早い段階で担当のケースワーカーに連絡することが望まれます。
券の発行単位・更新サイクルの違い
医療券・介護券はいずれも暦月単位(1か月ごと)で福祉事務所から発行されます。ただし医療券の場合、発行の根拠となる医療要否意見書は外来が原則6か月・入院が原則3か月ごとの提出でよいのに対し、介護券は介護サービスの利用状況に応じて毎月確認が行われる傾向があり、福祉事務所とのやり取りの頻度に違いが出ることがあります。長期的に介護サービスを利用する家庭では、この毎月の更新手続きが必要になることを念頭に置いておくとよいでしょう。
注意点|制度変更や自治体ごとの運用差がある
生活保護制度は法律や運用要領にもとづいて全国的な基準が定められていますが、実際の運用には自治体ごとの差が生じる場合があります。また、介護保険制度自体が3年ごとに制度改定を受けるため、医療扶助・介護扶助の運用にも影響が及ぶ可能性があります。
ユニット型個室の扱いなど自治体差がある項目
本記事で紹介したユニット型個室の扱いや、福祉用具・住宅改修の許可手続きの細部などは、自治体によって運用の幅がある場合があります。実際の手続きを進める際は、必ず担当の福祉事務所・ケースワーカーに個別に確認してください。
介護保険制度改定による影響
介護保険制度は3年ごとに見直しが行われ、サービス区分や給付内容が変更されることがあります。介護扶助は介護保険制度の枠組みに連動する形で運用されているため、制度改定の際は介護扶助の対象範囲や手続きにも変更が生じる可能性があります。最新の情報は、居住する自治体の福祉事務所や厚生労働省の公表資料で必ず確認してください。
家族が代わりに相談・手続きをする場合の注意点
高齢の親や配偶者に代わって、子世代や同居家族が福祉事務所への相談・手続きを行う場面も多くあります。医療扶助・介護扶助のいずれも、本人以外の家族が代理で相談することは可能ですが、要介護認定の申請書類への記入や、福祉用具・住宅改修の見積もり取得など、実務的な手続きが発生する場面では、担当のケースワーカーと継続的に連絡を取りながら進めることが重要です。制度の細部が複雑なため、分からないことがあれば都度確認する姿勢が、手続きの遅れやトラブルを防ぐことにつながります。
まとめ
- 医療扶助(生活保護法第15条)は生活保護受給者全般が対象で、診察・薬剤・入院看護等の医療サービス全般をカバーする
- 介護扶助(同法第15条の2)は要介護・要支援認定を受けた被保護者だけが対象で、居宅介護・施設介護・福祉用具等をカバーする
- 65歳以上・40〜65歳未満で医療保険に加入している場合は介護保険9割+自己負担1割分を介護扶助でカバーするが、医療保険未加入の「みなし2号」は特定疾病要件を満たせば介護費用の10割を介護扶助でカバーする
- 福祉用具購入・住宅改修は事前に3社見積もりとケースワーカーの許可が必須。ユニット型個室など利用者負担が生じる個室は原則利用できない
- 制度の細部には自治体差・制度改定の影響があるため、実際の手続きは必ず担当のケースワーカー・福祉事務所に確認する