重度訪問介護従業者養成研修は、重度の障害のある人の自宅での生活を支える重度訪問介護の担い手になるための研修で、基礎・追加・統合・行動障害支援の4課程があります。千葉県・秋田県の要綱(自治体が研修の実施方法を定めた文書)では基礎10時間、追加10時間、統合20.5時間、行動障害支援12時間ですが、大阪府は時間数が異なるなど、府県による差があります。この記事では、課程別の時間数、受講資格、修了後に従事できる範囲を、厚生労働省や自治体の資料にもとづいて整理します。
重度訪問介護従業者養成研修とは
最初に、この研修の位置づけと対象、よくある誤解を整理します。
定義と位置づけ
重度訪問介護従業者養成研修とは、重度の障害のある人の自宅などでの暮らしを支える「重度訪問介護」の担い手になるための研修です。実施の枠組みは都道府県ごとの要綱で定められており、都道府県または知事が指定した事業者が開講します。修了すると、修了証明書(携帯用の証明書もあわせて)が交付され、修了者名簿は都道府県で管理されます。
研修は大きく、基礎課程・追加課程・統合課程・行動障害支援課程に分かれます。どの課程を受けるかは、支援したい利用者の状態や、働き方の希望によって変わります。課程ごとの時間数は次の見出しで詳しく見ていきます。
誰が受講する研修か
受講の対象は、原則として重度訪問介護に従事する人、または従事を希望する人です。特別な資格を持っていなくても受けられます(詳しくは「受講資格」の項)。
すでに介護福祉士や初任者研修修了者などの資格がある人は、この研修を別に受ける必要がないとされています(詳しくは「初任者研修などとの関係」の項)。
よくある誤解
まず、「修了すればホームヘルパー全般の仕事ができる」という理解は正確ではありません。修了後に従事できる範囲には制限があり、同行援護や行動援護には従事できません(詳しくは後述します)。
次に、「全国どこでも同じ時間数・同じ料金」という誤解もあります。時間数は都道府県の要綱で定められ、府県によって異なる場合があります。受講料についても全国統一の公的な資料はなく、事業者ごとに差があります。本記事では、確認できた自治体の資料を例として示します。
重度訪問介護とはどんなサービスか
研修の内容は、重度訪問介護というサービスの特徴と結びついています。サービスの対象と利用の実態、利用する側の家族が知っておく点を見ていきます。
サービスの対象と内容
重度訪問介護は、重度の肢体不自由、または重度の知的障害・精神障害により行動上著しい困難があり、常に介護を必要とする障害のある人に向けた、自宅などでのサービスです。入浴、排せつ、食事の介護、調理・洗濯・掃除などの家事、そして生活全般にわたる援助や、外出時の移動中の介護を総合的に行います。見守りなどの支援を含みます。
令和元年10月からは、入院中の病院で意思疎通の支援を行うことも、サービスの対象に含まれています。
対象となる人の要件
対象は障害支援区分(支援の必要度を示す区分)4以上の人で、次のいずれかに当てはまる必要があります。
- (一)二肢以上に麻痺などがあり、認定調査項目の「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれもが「支援が不要」以外と認定されている
- (二)行動関連項目など(12項目)の合計点数が10点以上である
参考までに、居宅介護は障害支援区分1以上が対象です。想定される状態像としては、ALS、筋ジストロフィー、頸髄損傷、脳性麻痺、重度知的障害、高次脳機能障害などが挙げられています。
利用の実態(国保連データ)
厚生労働省の報酬改定検討チーム資料(国民健康保険団体連合会=国保連が扱う請求データ、令和5年4月)によると、重度訪問介護の事業所は7,527か所、利用者は12,458人でした。利用者の障害支援区分は、区分6が84.9%、区分5が12.2%、区分4が2.9%と、区分6の人が大半を占めます。
月150時間以上利用している人は54%です。
家族が利用する側として知っておくこと
サービスを使うには、利用の手続きは市区町村の窓口で確認してください。対象は障害支援区分4以上で、前の見出しの(一)(二)のいずれかに当てはまる人です。区分の判定や個別の判断は、市区町村の窓口に確認してください。
なお、家族が研修を受けて自分の家族の介護に従事できるかどうかは、本記事の作成時点で確認できていません。確認できているのは、受講資格が重度訪問介護に従事を希望する人であること(千葉県の要綱)までです。
研修の課程区分と時間数
研修は4つの課程に分かれ、時間数は都道府県の要綱で決まります。課程ごとの内容と府県による違いを整理します。
課程の全体像
以下の時間数は、千葉県(令和4年4月1日施行)と秋田県の要綱に記載された内容にもとづきます。なお、全国の告示本文そのものは本記事の作成時点で確認できていません。時間数は都道府県の要綱で定められるため、受講先の最新の募集要項で必ず確認してください。
- 基礎課程:10時間(講義3時間+実習7時間)
- 追加課程:10時間(講義7時間+実習3時間)
- 統合課程:20.5時間(講義11時間+演習1時間+実習8.5時間)
- 行動障害支援課程:12時間(講義6.5時間+演習5.5時間)
基礎課程と追加課程
基礎課程(10時間)の講義は3時間で、重度の肢体不自由者の地域生活等に2時間、基礎的介護技術に1時間を割り当てます。実習は7時間で、基本介護とコミュニケーションに5時間、外出時の介護に2時間です。
追加課程(10時間)の講義は7時間で、医療的ケアを要する利用者の障害と支援に4時間、コミュニケーション技術に2時間、緊急時対応に1時間です。実習は3時間で、障害支援区分5・6の肢体不自由者にサービスを提供している現場で行います。
追加課程の受講対象は基礎課程の修了者です。ただし、秋田県の要綱では、基礎課程と追加課程を同時並行で受ける場合は除くとされています。
統合課程
統合課程(20.5時間)は、基礎課程と追加課程に、喀痰吸引等研修の類型の一つである第3号研修の基本研修部分を統合した課程です。講義11時間の内訳は、地域生活等2時間、基礎介護1時間、コミュニケーション2時間、喀痰吸引を要する人の障害と支援3時間、経管栄養(管を通して栄養を取る方法)を要する人の障害と支援3時間です。演習は喀痰吸引等で1時間です。
実習8.5時間の内訳は、基礎介護とコミュニケーションに3時間、外出時の介護に2時間、サービス提供現場に3.5時間です。実習には、在宅などで生活する障害支援区分5または6の肢体不自由者の介護サービス提供現場を、1か所以上含める必要があります。
行動障害支援課程
行動障害支援課程(12時間)は、講義6.5時間と演習5.5時間で構成されます。強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)と同内容で、合同開催が可能とされています。
府県による違いと履修期間
大阪府は、基礎課程18時間、追加課程12時間、統合課程30時間、行動障害支援課程14時間と掲載しています。千葉県・秋田県の要綱(10時間、10時間、20.5時間、12時間)とは数字が異なります。このため、「重度訪問介護従業者養成研修は何時間」と一律に言い切ることはできず、府県によって時間数が異なる場合があるといえます。
履修期間にも差があります。秋田県では、基礎・追加・行動障害の各課程は1か月以内(やむを得ない場合は2か月以内)、基礎と追加の同時並行は2か月以内(同4か月)、統合課程は2か月以内(同4か月)とされています。千葉県は2か月以内(やむを得ない場合は4か月)です。
また、保有資格や実務経験による科目の免除が設けられている場合があります(秋田県の要綱の別紙)。免除を受けるには書類の提出が必要になるため、該当しそうな人は事前に開講事業者へ確認してください。
統合課程と喀痰吸引等研修の関係
統合課程は、喀痰吸引等研修の一部を組み込んだ課程です。その関係と、課程を選ぶときの考え方をまとめます。
なぜ統合されているのか
追加課程・統合課程には、医療的ケアを要する利用者の障害と支援を学ぶ科目が含まれます。ただし、実際に吸引等を行うための手続きは、喀痰吸引等研修の制度で確認が必要です。
統合課程の内容は、前の「統合課程」の項のとおりです。千葉県の要綱では、第3号研修の一部履修が免除される扱いの科目があると示されています。
選ぶときの考え方
基礎課程+追加課程の合計は20時間、統合課程は20.5時間と、時間数はほぼ同じです。違いは、統合課程に喀痰吸引・経管栄養に関する学習が組み込まれている点です。統合課程に組み込まれているのは第3号研修の基本研修部分です。吸引等の実施に必要な手続きは、喀痰吸引等研修の制度で確認が必要です。受講料の目安は「東京都の実施状況と受講料」の項にまとめています。どの課程が自分の働き方に合うかは、勤務先や就業を考えている事業所に確認してください。
受講資格と申込・費用の目安
受講できる人の条件と、費用・申込の目安を確認します。
受講資格
受講の対象は、原則として重度訪問介護に従事する人、または従事を希望する人です(千葉県)。秋田県の要綱では、すでに従事している人や従事が確定している人も含まれます。特別な資格は求められていません。世田谷区の募集では、18歳以上(高校生は不可)で、全日程に出席できることが条件とされています。
研修は都道府県ごとに運営され、募集条件も開講主体ごとに異なります。応募前に、必ず募集要項を確認してください。
東京都の実施状況と受講料
東京都福祉局が公表している実施事業者の一覧(令和7年7月15日現在。開講予定は令和7年7月16日〜9月15日)では、通学形式が34件ありました。受講料は、基礎・追加課程が12,000〜30,000円、統合課程が25,000〜30,000円です。期間は2日間から約2か月までと、事業者により差があります。
世田谷区の例
世田谷区の令和8年度の募集(東京都知事指定の基礎・追加課程)では、受講料は無料です。ただしテキスト代2,640円(税込)と、実習の交通費は自己負担です。定員は6名、日程は3日間で、修了後に区内の事業所に登録して従事する意思があることが条件とされています。
世田谷区の募集では、修了後に区内の事業所に登録して従事する意思があることという条件が付いています。他の募集は各要項で確認してください。
申込の流れと注意点
申込方法は募集要項で確認してください。大阪府では、事業者が開講日の90日前までに府へ指定申請を行う仕組みです。受講料の全国統一の公的な基準は確認できなかったため、金額は東京都などの公表資料を例として参考にしてください。
修了後に従事できる範囲
修了後にどのサービスに従事できるかは、働き方に直結します。大阪市の資料の整理にもとづいて見ていきます。
重度訪問介護への従事
研修を修了すると、重度訪問介護に従事できます。この点は大阪市の従業者資格一覧でも整理されています。また、平成18年9月30日時点で居宅介護事業に従事していた経験者は、知事が認めた場合に従事できる経過的な扱いもあります。
居宅介護との違いと減算
居宅介護については、修了者の従事範囲に注意が必要です。大阪市の資料では、居宅介護の身体介護・通院等介助(身体介護あり)に従事する場合は報酬が10%減算される(本来の報酬から10%が差し引かれる)区分とされています。家事援助等には従事できますが、こちらも減算の対象です。
さらに、身体障害者の直接支援業務の経験がない修了者は、所要時間が3時間未満でも減算の対象になります。経験者であれば所定単位数で算定されます。事業所の報酬算定に関わります。働く事業所に確認してください。
同行援護・行動援護には従事できない
同行援護と行動援護には、この研修の修了だけでは従事できません。同行援護については、同行援護従業者養成研修の記事をご覧ください。
従事範囲は、ここで見た大阪市の資料の整理にもとづきます。他の自治体の扱いは確認できていないため、働く自治体に確認が必要です。
他資格との関係とサービス提供責任者の要件
ほかの資格を持っている場合の扱いと、サービス提供責任者(事業所に配置が求められる責任者)の要件を確認します。
初任者研修などとの関係
介護福祉士、実務者研修、看護師、准看護師、居宅介護職員初任者研修、介護職員初任者研修、介護職員基礎研修の修了者は、重度訪問介護従業者になれます。つまり、これらの資格があれば、重度訪問介護従業者養成研修を別に受ける必要はないとされています。
一方、この研修の修了者が従事できる範囲は、前の見出しで見たとおり限られています。働く範囲を広げたい場合に何が必要かは、働く自治体や事業所に確認してください。
サービス提供責任者の要件
重度訪問介護のサービス提供責任者は、常勤のヘルパーのうち1名以上を配置します。
要件は、介護福祉士、実務者研修修了者、または居宅介護職員初任者研修修了者等で3年以上の実務経験がある人です。やむを得ない事情があれば、相当の知識と経験のある従業者を充てることも認められます。
重度訪問介護従業者養成研修の修了のみでは、サービス提供責任者の資格要件の欄に含まれていません。仕事の内容は、サービス提供責任者の記事で整理しています。
人員基準・報酬と令和6年度改定のポイント
事業所側の報酬や人員の仕組みは、働く先を考えるときの背景知識になります。要点を絞って見ます。
人員基準
事業所にはヘルパーを一定数配置することが求められ、その対象にこの研修の修了者が含まれます。
基本報酬の目安
基本報酬(令和3年4月〜)は時間に応じて設定され、8時間を超える部分は95%で算定されます。報酬は改定のたびに見直され、令和8年度の改定における重度訪問介護の個別の変更点は、本記事の作成時点では確認できていません。最新の告示や通知を確認してください。
受講者にとっては、報酬の細かな仕組みは事業所が確認する事項です。まず知っておきたいのは、この研修の修了者が事業所の人員基準を満たす担い手として位置づけられている点です。
令和6年度改定のポイント
令和6年度の報酬改定(令和6年2月6日の改定概要)で、重度訪問介護には次のような変更がありました。報酬は「単位」(報酬額の計算に使う点数)で定められています。
- 入院中の特別なコミュニケーション支援を、障害支援区分6のみから区分4・5にも拡大
- 入院時支援連携加算を新設
- 熟練従業者の同行支援の割合を、従業者それぞれ85%から90%に変更
- 15%加算の対象者の支援に初めて従事する従業者も、同行支援の対象に加わった
入院中の支援の状況
入院中の利用は、障害支援区分4以上で、入院前から重度訪問介護を利用していた人が対象です。令和5年4月の入院中利用者(加算取得)は90人でした。また、令和5年11月20日付の事務連絡(医政局・障害福祉課)では、入院時の支援者の付添いを医療機関が受け入れるよう促しています。
介護保険優先原則・共生型との関係
利用者が65歳以降になったときの扱いと、共生型サービスとの関係を整理します。
65歳以降の扱い
障害福祉サービスに相当する介護保険サービスがある場合は、原則として介護保険が優先されます。ただし、これは一律の運用ではなく、個別の状況にもとづいて判断されます(社会保障審議会障害者部会 第116回、令和3年8月30日)。
65歳になったからといって一律に切り替わると決まっているわけではなく、本人や家族の場合にどうなるかは、市区町村の窓口に確認してください。
仕組みは介護保険優先原則の記事で詳しく解説しています。
共生型サービスとの関係
共生型サービス(介護保険と障害福祉の両方の指定を受けやすくする仕組み)は平成30年4月に創設され、対象はホームヘルプ、デイサービス、ショートステイです。同じ時期に、介護保険の利用に伴う利用者負担を軽減する新高額障害福祉サービス等給付費も創設されています。
従業者として知っておきたい点
重度訪問介護の利用者が高齢になると、介護保険サービスが優先される場合があるため、年齢や状況で制度の適用が変わりうることを知っておく必要があります。個別の判断は市区町村の窓口に確認してください。
まとめ
ここまでの内容を5点にまとめ、最後に次の一歩を示します。
この記事のポイント
- 研修とサービス:重度訪問介護に従事する(希望する)人のための研修で、特別な資格は不要。サービスの対象は障害支援区分4以上の人
- 課程と時間数:基礎・追加・統合・行動障害支援の4課程。千葉・秋田の要綱では10/10/20.5/12時間、大阪府は18/12/30/14時間と異なる
- 統合課程と費用:統合課程は基礎+追加に喀痰吸引等研修(第3号)の基本研修部分を統合した課程。受講料は事業者で差がある(東京都の例:基礎・追加12,000〜30,000円)
- 従事範囲と他資格:修了後は重度訪問介護に従事可。居宅介護は減算あり、同行援護・行動援護は従事不可。この研修の修了のみではサービス提供責任者の要件欄にない
- 制度の確認:報酬は改定されうる。介護保険優先は個別の状況で判断される
次の一歩
- お住まいの都道府県の実施事業者を探す
- 課程・費用・日程を比べる
- 勤務先・就職先に、従事範囲や必要な課程を確認する
制度や要件、報酬は、今後改定される可能性があります。受講や就業を考える際は、各都道府県・市区町村、厚生労働省の最新の公表資料をご確認ください。当サイトの編集方針については、このサイトの立ち位置もあわせてご覧ください。