介護保険料の通知書を見て「自分の親はなぜこの金額なのか」「所得段階とは何段階まであるのか」と疑問に思う方は少なくありません。65歳以上(第1号被保険者)の介護保険料は、市区町村が定める「基準額」に、本人や世帯の所得・住民税課税状況に応じた「所得段階」ごとの保険料率(乗率)を掛けて算出されます。国の標準段階は2024年度からの第9期で9段階から13段階に増え、自治体によってはさらに細かく分けているところもあります。この記事では、所得段階の仕組み、第1〜13段階それぞれの対象条件、基準額が市区町村ごとに違う理由を、厚生労働省・自治体の一次情報にもとづいて解説します。
介護保険料の所得段階とは
介護保険料の所得段階とは、65歳以上の第1号被保険者の保険料を、本人や世帯の所得・住民税課税状況に応じていくつかの区分に分け、それぞれ異なる保険料率(乗率)を適用する仕組みです。介護保険料そのものの基礎的な仕組みは介護保険料とはという記事で解説していますので、まずそちらで全体像をつかんでから本記事を読むと理解しやすくなります。
基準額×保険料率で決まる仕組み
第1号被保険者の保険料は「市区町村が条例で定める基準額(所得段階の中央、国標準では第5段階に相当)×所得段階ごとの保険料率(乗率)」という計算式で決まります。基準額は、各市区町村が3年間の介護給付費の見込み総額をもとに設定するもので、地域によって金額が異なります。所得段階が高いほど乗率も大きくなり、基準額に乗率を掛けた金額が実際に納める保険料額になります。以下、本記事で「基準額」「保険料額」という場合は特に断りがない限り年額を指します(明石市「第9期介護保険事業計画期間における介護保険料(案)について」)。
所得段階の対象は第1号被保険者
所得段階の区分が適用されるのは、65歳以上の第1号被保険者です。40〜64歳の第2号被保険者は、加入している医療保険の算定方法で保険料が決まるため、この所得段階制度の対象外です。第1号・第2号の違いについては被保険者区分の違いを解説した記事で詳しく説明しています。
なぜ所得段階が設けられているのか
介護保険料に所得段階が設けられているのは、負担能力に応じて保険料額を調整する「応能負担」の考え方があるためです。
応能負担の考え方
介護保険は40歳以上の全員が加入する社会保険制度であり、所得の少ない人にも一定の保険料負担が生じます。そこで、生活保護受給者や住民税非課税世帯の低所得者には低い乗率を、住民税を納めている合計所得金額の高い人にはより高い乗率を適用することで、所得の多寡に応じた負担の調整を行っています。低所得層の乗率を引き下げる一方、高所得層の負担を引き上げることで、制度全体の財源を確保しつつ低所得者の負担を軽くする仕組みになっています(厚生労働省老健局介護保険計画課「介護保険最新情報 Vol.1180」)。
本人の所得だけでなく世帯の課税状況も関わる
所得段階を判定する際は、本人の年金収入や合計所得金額だけでなく、本人が属する世帯全員の市区町村民税の課税状況も判定材料になります。同じ年金収入額でも、世帯に住民税課税者がいるかどうかで段階が変わることがあるため、「自分は非課税なのに保険料が高い」と感じるケースは、同居家族の課税状況が影響している可能性があります(明石市 上記資料)。
国の標準段階は9段階から13段階へ
国が示す第1号保険料の標準段階数は、これまで介護保険事業計画の改定に合わせて見直されてきました。
第9期(2024〜2026年度)の見直し内容
国の標準段階は、第8期(2021〜2023年度)までは9段階でしたが、第9期(2024〜2026年度)から13段階に変更されました。これは厚生労働省老健局介護保険計画課が示した第9期計画期間に向けた検討にもとづくもので、多くの市区町村がこの13段階の標準に沿って条例を定めています(厚生労働省老健局介護保険計画課「介護保険最新情報 Vol.1180 第9期計画期間に向けた1号保険料に関する検討について」令和5年10月17日)。
低所得層の軽減と高所得層の引き上げ
今回の多段階化の目的は、低所得者の保険料負担を軽減しつつ、負担能力のある高所得者の保険料を引き上げることです。具体的には、9段階制のときに存在した上位区分(合計所得金額の高い層)をさらに細かく分割し、より所得の高い区分に高い乗率を設定する形で、負担の公平性を高めています(厚生労働省 上記資料)。
所得段階ごとの対象者の条件
国標準の13段階それぞれの対象条件を、明石市の公表資料をもとに整理します。所得の基準額は自治体・年度によって多少の違いがある場合があるため、正確な金額は自分が住む市区町村の通知や案内で確認してください。なお、第1〜5段階の判定に使う「年金収入等」と第6〜13段階の判定に使う「合計所得金額」は異なる基準です。合計所得金額は年金収入だけでなく給与収入や事業収入なども合算したうえで必要経費等を差し引いた金額であるため、単純に年金額だけでは比較できない点に注意してください。
| 段階 | 対象となる主な条件 |
|---|---|
| 第1段階 | 生活保護受給者/世帯全員が住民税非課税で老齢福祉年金受給者/世帯全員非課税かつ本人の年金収入等が約80.9万円以下 |
| 第2段階 | 世帯全員が住民税非課税かつ本人の年金収入等が約80.9万円超120万円以下 |
| 第3段階 | 世帯全員が住民税非課税かつ本人の年金収入等が約120万円超 |
| 第4段階 | 本人は住民税非課税だが世帯に課税者がいる、かつ本人の年金収入等が約80.9万円以下 |
| 第5段階(基準) | 本人は住民税非課税だが世帯に課税者がいる、かつ本人の年金収入等が約80.9万円超 |
| 第6〜13段階 | 本人が市区町村民税課税。合計所得金額が約120万円未満から約720万円以上まで段階的に区分(各段階の詳細な合計所得金額の区切りと乗率は下記「図1:第1〜13段階の保険料率」を参照。通知書に記載された段階番号と図1を照合してください) |
第1〜5段階(住民税非課税世帯が中心)
第1〜3段階は、世帯全員が住民税非課税である人が対象で、生活保護受給者や年金収入の少ない人ほど段階が低く、乗率も小さくなります。第4・第5段階は、本人自身は住民税非課税でも、同居する家族など世帯の中に住民税課税者がいる場合に該当します。第5段階が国標準の基準額そのものにあたる区分です(明石市 上記資料)。
第6〜13段階(本人が住民税課税)
第6段階以降は、本人自身が市区町村民税の課税対象となっている人が該当し、合計所得金額が高くなるにつれて段階と乗率も上がっていきます。第13段階は合計所得金額が約720万円以上の層が対象で、国標準の中で最も高い乗率が適用されます(明石市 上記資料)。
条件を見るときの注意点
ここで示した金額はあくまで国標準・明石市の資料にもとづく目安であり、「約」の表記が付いている数値は概数として扱っています。実際にどの段階に該当するかは、住んでいる市区町村から送られる決定通知書で必ず確認してください。
所得段階ごとの保険料率(乗率)の一覧
各段階の保険料額は、基準額に段階ごとの保険料率(乗率)を掛けて算出されます。国標準・第9期以降の乗率は次のとおりです。
第1〜13段階の乗率一覧
図1:第1〜13段階の保険料率(乗率)
出典:明石市「第9期介護保険事業計画期間における介護保険料(案)について」。基準額(第5段階=乗率1.0、年額)に各段階の乗率を掛けた金額が実際の年間保険料になります。オレンジ=基準額より低い段階、ティール=基準額以上の段階。
第8期の9段階制との違い
第8期(2021〜2023年度)の9段階制と比べると、第9期の13段階制では低所得層(第1段階・第3段階など)の乗率が引き下げられ、逆に高所得層は新たな区分が新設されるか乗率が引き上げられています。全体として、低所得者の負担を軽くしつつ、高所得者により多くの負担を求める方向に調整されたことになります(明石市 上記資料)。
基準額はなぜ市区町村ごとに違うのか
保険料率(乗率)は国が標準を示していますが、掛け算のもとになる「基準額」は市区町村ごとに異なります。
3年間の給付費見込みから逆算する
基準額は、市区町村が3年間(介護保険事業計画の1期分)の介護給付費見込み総額、地域支援事業費、国や都道府県からの調整交付金などをもとに算定した「保険料収納必要額」を、その市区町村の被保険者数で割って設定します。3年ごとの介護保険事業計画の改定に合わせて見直されるため、基準額は3年に一度改定されるのが基本です(明石市 上記資料)。
高齢化率やサービス利用状況が影響する
基準額に地域差が生じる主な要因は、地域の高齢化率、介護サービスの利用状況、介護保険給付費準備基金(保険料の余剰分を積み立てておく基金)の活用状況などです。高齢化が進み介護サービスの利用が多い地域ほど基準額が高くなりやすく、逆に準備基金を取り崩して保険料上昇を抑えている自治体もあります(明石市 上記資料)。
自治体独自の多段階化の実例
国は13段階を標準として示していますが、市区町村は条例で国標準を超える多段階化を独自に行うことができます。
明石市・目黒区・八王子市の段階数
実際に、明石市は16段階、東京都目黒区は18段階、東京都八王子市は17段階と、国標準の13段階よりも細かい区分を設定しています(明石市 上記資料/目黒区「65歳以上のかたの介護保険料(令和6年度から令和8年度)」/八王子市「令和6年度から令和8年度の介護保険料(所得段階)」)。
国標準を超えて多段階化する理由
国標準より多い段階数を設定する自治体が多いのは、より高所得の層をさらに細かく区分することで、所得に応じたきめ細かな負担調整を行うためです。特に合計所得金額が高い層が一定数いる都市部の自治体では、上位段階をさらに分割する傾向が見られます。
全国平均の保険料はいくらか
自分の保険料額が高いのか低いのか気になる場合、全国平均と比較する方法があります。
第9期の全国加重平均は月額6,225円
図2:全国加重平均の第1号保険料基準月額(第8期→第9期)
※第9期6,225円・第8期6,014円は、厚生労働省が公表しているとされる全国加重平均額として複数の自治体資料・報道で広く紹介されている数値です(厚労省の一次公表資料そのもののURLは本記事執筆時点で特定できていないため、参考値としてご覧ください)。第8期から約211円(約3.5%)の増加となります。
厚生労働省が公表しているとされる数値によれば、第9期(2024〜2026年度)の第1号保険料基準月額は全国加重平均で6,225円とされています。第8期(2021〜2023年度)の6,014円と比べた増加分については図2キャプションのとおりですが、この増加の背景には、後述する高齢化の進行に伴う給付費見込みの増加や、低所得層の負担軽減分を高所得層の区分細分化で補う制度設計があります(明石市 上記資料)。
個別自治体の基準額は全国平均と一致しない
ただし、この6,225円という数値はあくまで全国の加重平均であり、実際の基準額は自治体ごとに異なります。例えば明石市の基準月額は第8期の5,870円から第9期は6,200円に改定されており、全国平均に近い水準ですが完全には一致していません。自分の基準額が全国平均より高いか低いかだけで一喜一憂せず、自分が住む市区町村の実際の通知額を確認することが大切です(明石市 上記資料)。
所得段階はいつ・どう決まるのか
所得段階は毎年見直され、必ずしも一定ではありません。
前年所得と住民税の賦課決定を待って判定
所得段階は毎年度、前年(1〜12月)の所得と世帯の市区町村民税課税状況にもとづいて判定されます。判定は市区町村民税の賦課決定(前年の所得をもとに、その年に納めるべき住民税額を市区町村が正式に確定させる手続きで、通常5〜6月頃に行われる)を待って行われるため、年度が始まる4月時点ではまだ確定していないこともあります。所得段階の判定のために本人が特別な申告手続きをする必要はなく、住民税・確定申告の内容が自動的に反映されます(柏市「介護保険料の通知と納付方法」)。
決定通知書は毎年6月頃に届く
所得段階が確定すると、市区町村から決定通知書が毎年6月頃に送付されます。この通知書で自分(または親)がどの段階に該当し、年間の保険料額がいくらになるかを確認できます。保険料の納め方(年金天引きの特別徴収か、納付書・口座振替の普通徴収か)については特別徴収の仕組みを解説した記事で詳しく説明しています(柏市 上記資料)。
注意点・よくある誤解
所得段階についてよくある誤解を整理します。
本人が非課税でも世帯に課税者がいると段階が上がる
「本人は年金収入だけで住民税非課税だから保険料も一番低いはず」と考える人がいますが、同居する配偶者や子どもなど世帯の中に住民税課税者がいる場合、第4・第5段階に区分され、第1〜3段階よりも保険料が高くなります。本人の所得だけでなく世帯全体の課税状況を確認する必要があります。
年度ごとに段階が変わることがある
例えば、それまで無職だった同居の子が就職して住民税課税者になった場合、本人自身の年金収入が変わらなくても、翌年度は世帯に課税者がいる第4・第5段階へ段階が上がることがあります。逆に、世帯に唯一の課税者だった配偶者が退職・年金生活に移行すれば、翌年度に段階が下がるケースもあります。「去年と同じ段階のはず」と思い込まず、毎年届く決定通知書を確認することが大切です。
基準となる金額は数年ごとに見直されることがある
所得段階の区分の基準となる金額(年金収入や合計所得金額の閾値)は、物価や年金額の変動に応じて、介護保険事業計画の改定に合わせて数年ごとに見直されることがあります。将来、区分の基準額が変更される可能性がある点は念頭に置いておくとよいでしょう。制度の改定情報は、お住まいの市区町村の広報や介護保険担当窓口で確認できます。
まとめ
- 介護保険料は「市区町村の基準額×所得段階ごとの保険料率(乗率)」で決まる
- 国の標準段階は第9期(2024〜2026年度)から9段階から13段階に増えた
- 第1〜5段階は主に住民税非課税世帯、第6〜13段階は本人が住民税課税の層が対象
- 基準額は市区町村ごとの3年間の給付費見込みで決まるため地域差がある
- 所得段階は毎年度、前年所得と住民税の賦課決定にもとづき再判定され、6月頃に通知される
保険料の減免制度については介護保険料の減免制度を解説した記事、万一の滞納については介護保険料を滞納するとどうなるかを解説した記事もあわせてご確認ください。このサイトは特定の制度・事業者を評価・推奨するものではなく、公的情報を整理してお伝えする立ち位置です。詳しくはこのサイトについてをご覧ください。