社会福祉法人等の利用者負担軽減制度とは、介護サービスの利用者負担額・食費・居住費(滞在費)を原則4分の1軽減する制度です。対象となるのは、社会福祉法人等が運営し都道府県・市区町村に届出をした事業所を利用する、住民税非課税で生計が特に困難な世帯です。老齢福祉年金受給者は2分の1軽減、生活保護受給者は個室の居住費が全額軽減となる場合があります。対象者の要件、軽減される費用と割合、申請の流れ、高額介護サービス費など他制度との違いを、厚生労働省の通知と複数自治体の公式情報にもとづいて解説します。
社会福祉法人等の利用者負担軽減制度とは何か
社会福祉法人等の利用者負担軽減制度は、介護保険サービスを提供する社会福祉法人等が、経済的に厳しい状況にある利用者の負担を自ら軽減する仕組みです。介護保険制度そのものの給付とは別に、事業者側が自治体への届出を条件として利用者負担の一部を引き受ける点に特徴があります。
制度の目的
なぜこの軽減制度が設けられているのでしょうか。背景にあるのは、低所得で特に生計が困難である方について、介護保険サービスを提供する社会福祉法人等が、その社会的な役割に鑑みて利用者負担を軽減することにより、介護保険サービスの利用を促進する、という考え方です。この説明は茨城県や埼玉県など、制度を案内する複数の自治体の公式ページで共通して示されています。社会福祉法人は税制上の優遇を受ける公益性の高い法人であることから、低所得者への配慮という社会的責任を果たす仕組みとして、この軽減制度が位置づけられていると理解しておくとよいでしょう。
制度の根拠(厚生労働省の通知にもとづく制度)
本制度の根拠となっているのは、平成12年5月1日付で厚生省老人保健福祉局長が発出した「低所得者に対する介護保険サービスに係る利用者負担額の減免措置の実施について」(老発第474号)という通知です。介護保険制度が始まった平成12年当初から、低所得の生計困難者に対する配慮の仕組みとして設けられていることが分かります。実際の運用にあたっては、この通知にもとづいて各都道府県・市区町村が独自に実施要綱を定めており、対象者要件の基本的な枠組みは全国でおおむね共通していますが、細部の運用は自治体ごとの要綱に委ねられています。例えば沼田市の要綱のように、市区町村が例規集で独自の実施要綱を公開している例もあります。
この通知の位置づけを理解するうえで押さえておきたいのは、本制度が介護保険法にもとづく給付そのものではなく、社会福祉法人等という事業者側が自らの判断と負担で行う軽減措置である、という点です。国が全国一律の給付として保障するものではないため、実施するかどうか、どこまでのサービスを対象にするかについて、事業者と自治体の間で一定の裁量が残されています。この裁量の幅が大きいことが、後述する「事業所ごとに対象サービスが異なる」「自治体によって運用が異なる」という注意点につながっています。
対象者の要件
誰でも利用できる制度ではありません。単に所得が低いというだけでなく、複数の要件をすべて満たす方に限られます。複数の自治体の公式ページで共通して示されている要件は、次のとおりです。
収入・預貯金等の基準額
まず前提として、世帯全員が市町村民税(住民税)非課税であることが必要です。そのうえで、年間収入と預貯金等について、それぞれ具体的な基準額が定められています。年間収入は、単身世帯で150万円以下が基準となり、世帯員が1人増えるごとに50万円が加算されます。したがって2人世帯では200万円以下、3人世帯では250万円以下が目安です。預貯金等については、単身世帯で350万円以下が基準となり、世帯員が1人増えるごとに100万円が加算されます。2人世帯では450万円以下、3人世帯では550万円以下が目安になります。これらの基準額は船橋市や北海道など、複数の自治体の案内ページで共通して確認できます。
| 世帯人数 | 年間収入の基準額 | 預貯金等の基準額 |
|---|---|---|
| 単身(1人) | 150万円以下 | 350万円以下 |
| 2人 | 200万円以下 | 450万円以下 |
| 3人 | 250万円以下 | 550万円以下 |
| 4人以降 | 300万円以下(1人増えるごとに50万円加算) | 650万円以下(1人増えるごとに100万円加算) |
そのほかの要件(資産・扶養・保険料滞納の有無)
収入・預貯金の基準額に加えて、次の要件もあわせて満たす必要があります。
- 日常生活に必要な資産以外に活用できる資産がないこと(自宅や生活に必要な家財以外に、換金して生活費に充てられるような資産を保有していないこと)
- 負担能力のある親族等に扶養されていないこと(仕送りなどの経済的な援助を受けられる親族がいないこと)
- 介護保険料を滞納していないこと(保険料を継続的に納めていること)
これらの要件は東京都福祉局や大阪市の案内でも同様に示されています。なお、これらの一般的な要件とは別に、生活保護受給者や中国残留邦人等支援給付受給者は、個室を利用する場合などに別枠の対象者として軽減の対象になることがあります。この点は次の「軽減される割合」で改めて説明します。自己負担そのものの仕組みについては、介護保険の自己負担割合を解説した記事もあわせて参考にしてください。
要件が複数にわたるため、実際には「収入・預貯金の基準額は満たしているが、扶養してくれる親族がいるため対象外になった」「住民税は非課税だが、保険料を滞納していたため申請が通らなかった」といったケースも起こり得ます。基準額のうち1つでも満たしていれば必ず軽減が受けられる、という制度ではない点に注意してください。自分が要件を満たしているかどうかを事前に自己判断だけで決めず、収入・預貯金の資料一式をそろえたうえで、市区町村の窓口に相談しながら確認するのが確実な進め方です。
軽減の対象となる費用
軽減の対象となる費用は、大きく分けて「利用者負担額」と「食費・居住費(滞在費)」の2種類です。ただし、具体的にどのサービスが対象になるかは、後述するとおり事業所や自治体によって異なります。
利用者負担額(1〜3割部分)
介護保険サービスを利用した際、利用者は原則1割(所得に応じて2割・3割)の自己負担を支払います。この本人負担分の一部が、本制度の軽減対象です。訪問介護や通所介護(デイサービス)など、在宅サービスの利用者負担額も軽減の対象になり得ますが、対象サービスの範囲は事業所・自治体ごとに異なるため、後述の「軽減を受けられる事業所の条件」で確認する必要があります。
食費・居住費(滞在費)
特別養護老人ホームなどの施設サービスやショートステイを利用する場合には、利用者負担額に加えて食費・居住費(滞在費)も軽減対象に含まれます。ショートステイの宿泊費も対象となる場合があります。ただし、対象となるサービスの種類は自治体によって幅があります。例えば大阪市のように、訪問介護・通所介護・短期入所生活介護・特定施設入居者生活介護など13種類前後の幅広いサービスを対象とする自治体がある一方で、特別養護老人ホームやショートステイに限定し、介護老人保健施設や介護医療院を対象外としている自治体もあります。同じ「施設に入所している」状態であっても、入所先が特別養護老人ホームか介護老人保健施設かによって、この制度の対象になるかどうかが変わり得るということです。利用している(または利用を検討している)サービスが対象に含まれるかどうかは、必ず事業所または市区町村の窓口で個別に確認してください。
軽減される割合
軽減される割合は、対象者の区分によって異なります。誰にでも一律の割合が適用されるわけではない点に注意が必要です。
同じ制度でも、対象者の区分によって軽減幅が異なります。原則は利用者負担額・食費・居住費の4分の1軽減ですが、老齢福祉年金受給者は2分の1軽減となり、生活保護受給者は個室を利用する場合の居住費(滞在費)が全額軽減される場合があります。
原則4分の1軽減
前述の要件(住民税非課税、年間収入・預貯金の基準額以下、資産・扶養・保険料滞納に関する要件)を満たす対象者については、利用者負担額・食費・居住費(滞在費)が原則として4分の1軽減されます。例えば、本来の利用者負担額が月4万円であれば、軽減後は3万円になる、という計算です(軽減対象となるサービス・費用の範囲は事業所・自治体により異なります)。
老齢福祉年金受給者・生活保護受給者への上乗せ
対象者の中でも、老齢福祉年金を受給している方については、軽減割合が2分の1に引き上げられます。老齢福祉年金は旧国民年金法にもとづく年金で、現在の受給者はごく少数にとどまりますが、該当する場合はより手厚い軽減を受けられます。自分が老齢福祉年金の受給者かどうかは、年金振込通知書の年金種別欄などで確認できます。さらに、生活保護受給者については、個室(ユニット型個室・従来型個室)を利用する場合の居住費(滞在費)が全額軽減され、自己負担が生じない扱いとなる場合があります。これらの上乗せ措置についても、複数の自治体の公式ページで共通して確認できます。自分がどの区分に該当するかは、申請時に市区町村の窓口で確認するのが確実です。
老齢福祉年金受給者のケースで金額をイメージすると、月の利用者負担額が5万円だった場合、2分の1軽減により軽減後は2万5,000円が目安です(実際の金額は利用しているサービスの種類や、そのサービスが軽減対象に含まれているかどうかによって変わります)。生活保護受給者について個室居住費が全額軽減される場合は、その部分の自己負担が発生しないことになります。
軽減を受けられる事業所の条件
どの事業所でも軽減を受けられるわけではありません。介護保険サービスを提供する事業所のうち、一定の手続きを行っている事業所に限られます。
都道府県・市区町村への届出が必要
軽減を実施できるのは、都道府県または市区町村に「軽減実施の届出(軽減申出書の提出)」をしている社会福祉法人等の事業所に限られます。社会福祉法人等が経営する事業所であっても、この届出をしていなければ本制度による軽減は受けられません。逆に言えば、同じ地域・同じサービス種別であっても、事業所によって軽減の有無が分かれることになります。利用中、または利用を検討している事業所が届出済みかどうかは、事業所の窓口や、市区町村が公表している届出事業所の一覧で確認する必要があります。熊本県や松山市のように、届出済みの事業所名を一覧化して公表している自治体もあるため、まずはお住まいの自治体のホームページで一覧の有無を確認してみるとよいでしょう。
対象サービスは事業所・自治体により異なる
届出をしている事業所であっても、軽減の対象となるサービスの範囲は事業所や自治体によって異なります。訪問介護・通所介護など在宅サービスを含む幅広いサービスを対象とする自治体がある一方で、特別養護老人ホームやショートステイなど施設系サービスに限定している自治体もあります。同じ社会福祉法人等が複数のサービスを提供していても、そのすべてが軽減対象になっているとは限りません。「この事業所は軽減対象事業所である」ということと、「利用しているこのサービスが軽減対象になっている」ということは、必ずしもイコールではない点に注意してください。
申請の流れ
利用するには、利用者側からの申請が必要です。複数の自治体の案内をまとめると、次の4段階の流れになります。
- 利用者(または家族)が市区町村の窓口に「確認証」の交付を申請する
- 市区町村が提出書類にもとづいて要件を審査する
- 適格と認められれば「確認証」が交付される
- 確認証を軽減実施事業所の窓口に提示し、軽減後の負担額を支払う
必要書類と申請先
申請の際には、前年の収入が分かる書類や、預貯金通帳の写しなど、収入・資産の状況を確認できる書類の添付が求められます。申請窓口や必要書類の詳細な様式は自治体ごとに異なるため、実際に申請する際は、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口(江東区や足立区の案内のように、区市町村ごとに窓口・様式が公開されています)に確認するとよいでしょう。
確認証の交付と有効期間・更新
確認証には有効期間があり、期限が来ると更新の手続きが必要です。有効期間の区切り方は自治体によって異なり、例えば足立区や大阪市のように、毎年7月31日までを有効期間とし、翌年度に改めて更新申請が必要と案内している自治体もあります。確認証を提示し忘れると軽減が適用されない場合があるため、更新時期が近づいたら早めに市区町村へ確認することをおすすめします。なお、確認証の交付を申請してから実際に交付されるまでには一定の審査期間がかかります。サービスの利用を開始してから慌てて申請するのではなく、利用を検討し始めた段階で、担当のケアマネジャーに相談しながら早めに申請の準備を進めておくと、軽減が適用されないまま利用期間が過ぎてしまう事態を防ぎやすくなります。
高額介護サービス費・負担限度額認定証との違い
介護サービスの費用負担を軽くする公的な仕組みには、この制度のほかにも「高額介護サービス費」や「介護保険負担限度額認定証」があります。名称や仕組みが似ているため混同されがちですが、それぞれ独立した別の制度です。
3つの制度はいずれも介護サービスの費用負担を軽くする仕組みですが、対象となる費用・要件・申請先がそれぞれ異なる別々の制度です。1つの制度を利用したからといって、他の制度の申請が不要になるわけではありません。
3つの制度の違い
福岡県の案内ページで整理されているとおり、上の図で示した3つの制度はそれぞれ独立しており、要件も軽減対象も異なります。「高額介護サービス費」の詳細は高額介護サービス費を解説した記事、「介護保険負担限度額認定証」の詳細は介護保険負担限度額認定証を解説した記事で説明しています。この記事のテーマである社会福祉法人等の利用者負担軽減制度は、上記2つとは別枠で、届出をした事業所が独自に利用者負担額・食費・居住費を原則4分の1(老齢福祉年金受給者は2分の1)軽減する仕組みです。3つの制度はそれぞれ独立した別の制度であり、申請窓口や申請の要否は制度・自治体によって異なりうるため、それぞれについて個別に確認する必要があります。
併用については自治体・事業所への確認が必要
3つの制度は制度としては独立していますが、実際に自分のケースでどの制度がどのように適用されるか、また複数の制度をあわせて利用できるかどうかは、世帯の所得区分や利用しているサービスの種類によって個別に変わってきます。この記事では、一次情報で確認できた「3つの制度がそれぞれ独立した別の制度である」という点までを事実として説明しますが、具体的な併用の可否や適用順序については、担当のケアマネジャーや、お住まいの市区町村の介護保険担当窓口に個別に確認することをおすすめします。
制度によって申請の要否や仕組みが異なるため、自分が使っているサービスがどちらに当たるかは、担当のケアマネジャーや市区町村の窓口に確認するとよいでしょう。複数の制度を利用できる可能性がある場合は、どれか1つを申請して終わりにせず、それぞれの制度の申請窓口・必要書類を個別に確認し、該当するものはすべて申請しておくことが、負担を最小限に抑えるための基本的な考え方になります。
注意点・よくある失敗
実際に利用する際、勘違いや見落としが起こりやすいポイントを整理しておきます。
事業所ごとに対象サービスが異なる
すでに述べたとおり、軽減の対象になるかどうかは事業所単位で決まります。「以前利用していた事業所では軽減を受けられたから、今回の事業所でも当然受けられるはず」という思い込みは失敗のもとです。同じ社会福祉法人等が運営していても、事業所や提供しているサービスの種類によって、軽減実施の届出をしているかどうか、対象サービスに含まれているかどうかが異なります。新しい事業所を利用し始める際は、その都度、軽減の対象になっているかを確認する習慣をつけるとよいでしょう。
自治体によって運用が異なる場合がある
この記事で示した収入・預貯金の基準額や軽減割合は、老発第474号の通知にもとづく全国共通の枠組みですが、確認証の申請窓口や様式、有効期間の区切り方、対象サービスの範囲といった運用の細部は、自治体ごとに定める実施要綱によって異なります。他の市区町村の案内をそのまま自分の住む自治体にも当てはめて判断すると、実際の手続きと食い違う可能性があります。必ずお住まいの市区町村が公表している最新の案内、または窓口での説明を確認してください。また、実施している事業所は届出をした社会福祉法人等に限られるため、全国一律に「この事業所なら必ず対象」と判断できるものではありません。利用中・利用予定の事業所のケアマネジャーや窓口に確認するのが最も確実な方法です。
加えて、本制度自体の実施自治体数や利用者数についての全国的な統計は、本記事の執筆時点では公的な形で確認できていません。統計の有無にかかわらず、実施しているかどうかは自治体・事業所ごとの個別事情によるため、「近隣の自治体で実施されているから自分の自治体でも同じように使えるはずだ」と決めつけず、実際に利用する(またはこれから利用する)事業所・自治体に個別に確認する姿勢が大切です。
まとめ
社会福祉法人等の利用者負担軽減制度は、社会福祉法人等が運営し届出をした事業所を利用する住民税非課税・生計困難な世帯を対象に、利用者負担額・食費・居住費を軽減する仕組みです。要点を整理すると、次のとおりです。
- 対象者は、世帯全員が住民税非課税で、年間収入(単身150万円以下+世帯員1人につき50万円加算)・預貯金等(単身350万円以下+世帯員1人につき100万円加算)などの要件をすべて満たす方に限られる
- 軽減対象は利用者負担額(1〜3割部分)・食費・居住費(滞在費)で、軽減割合は原則4分の1、老齢福祉年金受給者は2分の1、生活保護受給者は個室居住費が全額軽減となる場合がある
- 軽減を受けられるのは、都道府県・市区町村に届出をした社会福祉法人等の事業所に限られ、対象サービスの範囲は事業所・自治体によって異なる
- 利用するには市区町村への申請と「確認証」の交付が必要で、有効期間があるため更新を忘れないようにする
- 高額介護サービス費・介護保険負担限度額認定証とは別の独立した制度であり、それぞれ別々の申請が必要になる
まずは、①収入・預貯金の状況がわかる書類を準備すること、②担当のケアマネジャーか市区町村の介護保険担当窓口に相談すること、この2点から始めるとよいでしょう。
介護保険制度は数年ごとに見直しが行われており、本制度の基準額や運用が将来変更される可能性もあります。本記事の情報は執筆時点で確認できた厚生労働省の通知・複数自治体の公式情報にもとづくものであり、実際に制度を利用する際は、最新の要件や金額を厚生労働省の公表資料や、お住まいの市区町村の窓口で確認してください。このサイトは特定の施設や事業者を評価・推奨するものではなく、公的資料にもとづく中立的な情報提供に努めています。運営方針の詳細はこのサイトの立ち位置をご覧ください。