後期高齢者医療保険料と介護保険料は、どちらも年金から天引きされることが多く「似た保険料」に見えますが、対象年齢・運営主体・決まり方・徴収の優先順位がまったく異なる別の制度です。結論として、介護保険料は65歳以上の全員が支払い、後期高齢者医療保険料は原則75歳以上が対象で、天引きの際は介護保険料が優先されます。この記事では厚生労働省・広域連合・日本年金機構の公表資料にもとづき、両者の違いを金額の目安とあわせて整理します。
後期高齢者医療保険料と介護保険料とは何か
まず前提として、この2つの保険料は「加入する制度」自体が異なります。混同しやすいポイントを整理します。
対象になる人の違い
後期高齢者医療保険料は、原則75歳以上(一定の障害がある65歳以上の人を含む)が加入する後期高齢者医療制度の被保険者にかかる保険料です。一方、介護保険料(第1号被保険者分)は65歳以上の全員が対象で、75歳未満でも徴収されます。つまり65〜74歳の人は介護保険料のみを負担し、75歳になった時点で後期高齢者医療保険料の負担が新たに加わる、という時系列の関係にあります。
運営主体の違い
後期高齢者医療制度の運営主体(保険者)は、都道府県ごとに全市区町村が加入して設立する「後期高齢者医療広域連合」です(出典:東京都後期高齢者医療広域連合)。これに対して介護保険の保険者は市区町村(特別区含む)で、保険料の基準額や所得段階の区分は市区町村ごとに条例で定められます(出典:中野区)。同じ「都道府県内で共通の基準」に見えても、後期高齢者医療保険料は都道府県単位でおおむね統一された保険料率が使われるのに対し、介護保険料は市区町村ごとに基準額が異なる点が大きな違いです。
保険料の決まり方の違い
金額の算出方法も両者でまったく異なります。
後期高齢者医療保険料:均等割額+所得割額
後期高齢者医療保険料は「均等割額(被保険者全員が定額で負担する部分)」と「所得割額(所得に応じて負担する部分)」の合計を、被保険者1人ごとに個人単位で賦課します(出典:厚生労働省)。世帯単位ではなく個人単位で計算される点は、世帯主にまとめて課税される国民健康保険とは異なる特徴です。
介護保険料:基準額×所得段階
介護保険料は、市区町村ごとに定める「基準額」に、本人および世帯の所得・課税状況に応じた「所得段階別の乗率」を掛けて算出します。例えば中野区では令和6年度の基準額が年額75,282円で、所得等に応じて19段階に区分されています(出典:中野区)。段階数や区分の刻み方は自治体によって異なるため、居住地の自治体が公表する保険料率表を確認する必要があります。
保険料の金額の目安
具体的な金額の目安を、公表されている全国平均・自治体例で見てみます。
後期高齢者医療保険料の全国平均
厚生労働省の資料によると、令和6年度の後期高齢者医療保険料は全国平均で均等割額が年額50,389円(月額換算4,199円)、所得割率が10.21%で、1人あたりの平均保険料額は年額84,988円(月額換算7,082円)です。令和4・5年度は均等割額47,777円・所得割率9.34%・平均月額6,575円だったため、2年間で保険料水準がやや引き上げられたことになります(出典:厚生労働省)。
出典:厚生労働省「令和6年度からの後期高齢者医療の保険料について」(月額は年額の12分の1換算)
介護保険料の基準額の例
介護保険料は市区町村ごとに基準額が異なるため全国一律の数字はありませんが、例として中野区の令和6年度基準額は年額75,282円(月額換算6,274円)です(出典:中野区)。これはあくまで基準額(所得段階の中間にあたる標準的な金額)であり、実際の負担額は本人・世帯の所得状況に応じた所得段階によって増減します。
賦課限度額の引き上げ
後期高齢者医療保険料には年間の上限額(賦課限度額)が設けられており、令和6年度は73万円でしたが、段階的な引き上げにより令和7年度は80万円となる見込みです。ただし、年金収入が153万円相当以下にあたる被保険者の約6割については、令和6年度の見直しによる負担増が生じないよう経過措置が講じられています(出典:厚生労働省)。介護保険は3年ごとに制度改定が行われる仕組みのため、こうした基準額・限度額は今後の改定で変わりうる点に注意が必要です。
徴収方法の違いと優先順位
両保険料とも「特別徴収(年金天引き)」と「普通徴収(納付書・口座振替)」の2通りの徴収方法がありますが、両方が同時に発生する人にとっては優先順位のルールが重要になります。
特別徴収(年金天引き)の要件
日本年金機構によると、老齢基礎年金等の年額が18万円以上ある人は、原則として年金からの特別徴収の対象になります。年額18万円未満の場合や、一定の要件を満たさない場合は、納付書または口座振替による普通徴収になります(出典:日本年金機構)。介護保険料の特別徴収の詳しい仕組みは介護保険料の特別徴収(年金天引き)とは何かを解説した記事で説明しています。
介護保険料が優先される理由
75歳以上で介護保険料と後期高齢者医療保険料の両方を負担する人の場合、年金天引きは介護保険料の特別徴収が成立していることが前提となり、後期高齢者医療保険料はそれに「乗る」形で追加されます。つまり介護保険料の特別徴収が優先され、後期高齢者医療保険料は介護保険料の天引きが行われている年金からのみ、あわせて天引きされる仕組みです(出典:東京都後期高齢者医療広域連合)。
普通徴収に切り替わるケース
年金の受給額が少なく、天引きできる金額に制約がある場合は、次章で説明する「1/2ルール」により後期高齢者医療保険料のほうが普通徴収に切り替わることがあります。この場合も介護保険料の特別徴収は継続され、後期高齢者医療保険料だけが納付書や口座振替での納付に変わります(出典:東京都後期高齢者医療広域連合)。
年金天引きの合計額に上限はあるか
「年金から際限なく天引きされるのではないか」という不安を持つ人も多いですが、天引き額には明確な上限ルールがあります。
受給額の1/2ルール
介護保険料と後期高齢者医療保険料をあわせた1回あたりの天引き額が、特別徴収の対象となる年金の1回あたり受給額の2分の1を超える場合、後期高齢者医療保険料は年金天引きの対象から外れ、普通徴収に切り替わります(出典:東京都後期高齢者医療広域連合)。この時、介護保険料は優先されるため特別徴収が継続されます。
上限にかかった場合の扱い
普通徴収に切り替わっても、支払う保険料の総額が減るわけではありません。天引きされなくなった分の後期高齢者医療保険料は、自治体(広域連合)から送付される納付書や口座振替によって別途納付する必要があります。年金額が少ない人ほどこの切り替えが起こりやすいため、「急に納付書が届いた」という場合はこのルールに該当している可能性があります。
社会保険料控除での取り扱い
税金の計算においては、両保険料とも同じ扱いを受けます。
どちらも全額が控除対象
後期高齢者医療保険料・介護保険料は、いずれもその年に実際に支払った金額の全額が社会保険料控除の対象になります(出典:千葉市)。年末調整または確定申告の際に、支払った保険料の金額を申告することで所得控除を受けられます。介護保険料控除の具体的な申告方法や必要書類については介護保険料控除とは何かを解説した記事で詳しく説明しています。
控除額の確認方法
年金から天引き(特別徴収)されている場合は、日本年金機構が発行する公的年金等の源泉徴収票に、その年に天引きされた介護保険料・後期高齢者医療保険料の金額が記載されます。一方、納付書や口座振替(普通徴収)で支払っている場合は、自治体や広域連合が発行する納入済通知書・領収書で金額を確認し、自分で申告する必要があります(出典:千葉市)。天引きと普通徴収が混在している年は、両方の書類を確認して合算する必要がある点に注意してください。
保険料の軽減制度
所得が低い世帯には、両制度ともそれぞれ独自の軽減措置が設けられています。
後期高齢者医療保険料の均等割軽減
後期高齢者医療保険料には、世帯の所得水準に応じて均等割額を7割・5割・2割軽減する制度があります。神奈川県後期高齢者医療広域連合の令和7年度基準では、世帯の総所得金額等が「43万円+10万円×(給与・年金所得者数-1)」以下の場合に7割軽減、「43万円+30.5万円×被保険者数+10万円×(給与・年金所得者数-1)」以下の場合に5割軽減、「43万円+56万円×被保険者数+10万円×(給与・年金所得者数-1)」以下の場合に2割軽減が適用されます。65歳以上の人は公的年金等に係る所得からさらに15万円を控除した額で判定されます(出典:神奈川県後期高齢者医療広域連合)。軽減の基準額や判定方法は広域連合・年度によって細部が異なることがあるため、実際の適用可否は居住地の広域連合に確認する必要があります。
出典:神奈川県後期高齢者医療広域連合「保険料の軽減(令和7年度保険料について)」
東京都独自の所得割軽減
東京都では独自の軽減策として、公的年金収入のみで年金収入168万円以下(旧ただし書所得15万円以下)の場合、所得割額を50%軽減する措置があります。また、後期高齢者医療制度に加入する直前まで会社の健康保険等の被扶養者だった人は、資格取得から2年間、均等割額が5割軽減され、所得割額は課されません(出典:東京都保健医療局)。こうした独自軽減の有無や内容は都道府県・広域連合によって異なります。
介護保険料の所得段階別軽減
介護保険料は、そもそもの決まり方が所得段階に応じた乗率方式のため、住民税非課税世帯や生活保護受給者などは基準額より低い段階に区分され、結果として保険料が軽減される仕組みになっています。段階数・乗率・軽減幅は市区町村ごとに条例で異なるため、正確な金額は居住する自治体の介護保険料率表で確認する必要があります(出典:中野区)。
滞納した場合の違い
保険料を滞納した場合のペナルティも、両制度で内容が異なります。
介護保険料の滞納:利用者負担割合の引き上げ
荒川区の例によると、介護保険料を1年間滞納すると、サービス利用時にいったん費用の全額を自己負担し、後日申請により保険給付分の払い戻しを受ける「償還払い」に切り替わります。1年6か月滞納すると保険給付の一部または全部が差し止められます。さらに2年以上滞納し時効を迎えると、未納期間に応じて利用者負担割合が本来の1〜2割から3割または4割に引き上げられ、高額介護サービス費等の負担軽減制度も利用できなくなります(出典:荒川区)。滞納が長期化した場合の具体的な影響は介護保険料を滞納するとどうなるかを解説した記事でさらに詳しく説明しています。
後期高齢者医療保険料の滞納:資格証明書という仕組み
後期高齢者医療保険料については、平成21年度の制度改正により、特別な事情がないまま1年以上滞納した場合に「被保険者資格証明書」を交付できる仕組みが設けられています。資格証明書が交付されると、医療機関の窓口ではいったん医療費の全額を自己負担し、後日申請することで保険給付相当額の払い戻しを受ける形になります。ただし、近年はマイナ保険証の普及に伴い資格確認書への移行が進んでおり、滞納時の具体的な運用(資格証明書を実際に交付するかどうかの基準や手続き)は自治体・広域連合によって異なり、制度自体も今後変わりうるため、滞納の不安がある場合は居住地の広域連合や市区町村の窓口に直接確認することをおすすめします。
よくある誤解・注意点
両制度を混同しやすいポイントを整理しておきます。
「同じ制度」と勘違いしやすい
年金の通知書に介護保険料と後期高齢者医療保険料がまとめて「特別徴収額」として記載されるため、1つの保険料だと誤解されがちです。しかし前述のとおり、運営主体(市区町村と広域連合)も、決まり方(所得段階方式と均等割+所得割方式)も、軽減制度も別々です。それぞれの通知書を別々に確認する必要があります。
天引きされない=払わなくてよい、ではない
1/2ルールなどにより年金天引きから普通徴収に切り替わった場合でも、支払い義務そのものがなくなるわけではありません。納付書や口座振替への切り替え通知を見落とし、未納のまま放置してしまうケースがあるため、通知が届いたら速やかに納付方法を確認することが重要です。
まとめ
- 介護保険料は65歳以上全員が対象、後期高齢者医療保険料は原則75歳以上が対象で、運営主体も市区町村(介護保険)と都道府県単位の広域連合(後期高齢者医療)で異なる
- 介護保険料は基準額×所得段階、後期高齢者医療保険料は均等割額+所得割額という異なる方式で計算される(令和6年度全国平均は月額7,082円、令和7年度は月額7,192円見込み)
- 年金天引きでは介護保険料が優先され、合計額が年金受給額の2分の1を超えると後期高齢者医療保険料のみ普通徴収に切り替わる
- 両保険料とも支払った全額が社会保険料控除の対象になるが、確認する書類(源泉徴収票または納入済通知書)が異なる
- 滞納時のペナルティは、介護保険料は利用者負担割合の引き上げ、後期高齢者医療保険料は資格証明書という別々の仕組みになっており、制度改定により内容が変わりうる
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