高額療養費制度とは、1ヶ月間(月初〜月末)にかかった医療費の自己負担額に上限を設け、上限を超えた分を後から払い戻す公的医療保険の制度です。年齢や所得によって自己負担限度額は異なり、2026年8月1日からは限度額の見直しと年間上限額制度の新設が行われました。この記事では、所得区分別の限度額、世帯合算のルール、限度額適用認定証の使い方、事後申請の期限、そして介護保険の類似制度との違いを整理します。
高額療養費制度とは何か
高額療養費制度は、医療保険(健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度など)に加入している人が、病気やけがで医療費が高額になった場合に、1ヶ月あたりの自己負担額に上限(自己負担限度額)を設ける仕組みです。上限を超えて支払った分は、後日申請すれば払い戻されます[1][2]。
医療費の自己負担に月単位で上限を設ける制度
この制度の算定単位は「月」です。診療を受けた月の1日から末日までにかかった自己負担額を合計し、その月の限度額と比較します。月をまたいで合算することはできないため、同じ入院でも月の切れ目をまたぐと、それぞれの月で限度額が別々に適用される点に注意が必要です[3]。
差額ベッド代・食事療養費は対象外
高額療養費制度の対象は、保険診療にかかる自己負担分に限られます。個室などを希望した際の差額ベッド代、入院中の食事療養費、先進医療にかかる費用などは、保険診療の自己負担ではないため、この制度による払い戻しの対象になりません[3][4]。入院費用の見積もりを見る際は、どの部分が高額療養費の対象になるのかを事前に確認しておくことが大切です。
自己負担限度額はどう決まるか(所得区分別)
自己負担限度額は、年齢(69歳以下/70〜74歳/75歳以上)と所得区分によって異なります。この記事の執筆時点(2026年9月)では、2026年8月1日に見直された後の限度額が適用されています[9][10]。
69歳以下の5区分の限度額
69歳以下は、所得に応じて5つの区分に分かれます(2026年8月以降の限度額)[9][10]。
- 約1,160万円以上:270,300円+(医療費−901,000円)×1%
- 約770万〜1,160万円:179,100円+(医療費−597,000円)×1%
- 約370万〜770万円:85,800円+(医療費−286,000円)×1%
- 約370万円以下:61,500円
- 住民税非課税:36,900円
いずれの区分も、医療費が高額になるほど自己負担額も一定の割合(1%)で増える仕組みになっている点が特徴です。
70〜74歳の限度額
70〜74歳のうち現役並み所得者は、69歳以下の上位3区分と同じ計算式が適用されます。一般区分は外来18,000円(年間上限144,000円)、外来+入院の世帯単位で57,600円です。低所得Ⅰは15,700円、低所得Ⅱは8,000円(外来)となっています[9][10]。
75歳以上(後期高齢者)の限度額
75歳以上の後期高齢者医療制度における自己負担限度額は、2026年8月以降、以下のようになっています[7][8][9][10]。
- 現役並み所得3:270,300円+(医療費−901,000円)×1%(年間上限168万円)
- 現役並み所得2:179,100円+(医療費−597,000円)×1%(年間上限111万円)
- 現役並み所得1:85,800円+(医療費−286,000円)×1%(年間上限53万円)
- 一般2(2割負担):外来22,000円(年間上限21.6万円)、外来+入院61,500円(年間上限53万円)
- 一般1・区分2(1割):外来11,000円、外来+入院25,700円
- 区分1(1割):外来8,000円、外来+入院15,700円(年間上限18万円)
一部の公的資料には「令和8年7月まで」の旧限度額が掲載されている場合がありますが、記事執筆時点(2026年9月)は2026年8月の改定後にあたるため、本記事では改定後の数値を基準としています。制度の詳細は必ず最新の厚生労働省・加入している医療保険者の案内を確認してください[9][10][15]。
世帯合算のルール
1ヶ月の医療費が1人分の受診だけでは限度額に届かない場合でも、同じ世帯・同じ医療保険に加入している家族の受診分や、同一の人が複数の医療機関を受診した分を合算できる「世帯合算」という仕組みがあります[3][4]。
同一世帯・同一医療保険内での合算条件
世帯合算ができるのは、同一月・同一の医療保険(同じ保険者・同じ保険証番号)に加入している場合に限られます。同一受診者が複数の医療機関にかかった場合の自己負担も合算対象です。ただし、加入している医療保険が家族ごとに異なる場合(それぞれ別の会社の健康保険に加入しているなど)は、世帯であっても合算できません[4]。
69歳以下と70歳以上の合算基準の違い
69歳以下の場合、世帯合算の対象となるのは、1件(1つの医療機関・1ヶ月分)につき自己負担額が21,000円以上のものに限られます。21,000円未満の受診分は合算の対象外です。一方、70歳以上の場合は金額の下限がなく、すべての自己負担を合算できます[3][4]。この違いから、69歳以下の家族が複数の医療機関に少額ずつ受診しているケースでは、合算されずに限度額に届かないことがあります。
多数回該当で限度額がさらに下がる仕組み
直近12ヶ月の間に3回以上、高額療養費の支給を受けた場合、4回目以降は「多数回該当」として自己負担限度額がさらに軽減されます[10]。
直近12ヶ月に3回以上該当した場合の軽減額
69歳以下の多数回該当の限度額は、2026年8月の改定後も維持されており、区分ウ(約370万〜770万円)相当で44,400円程度が目安とされています。低所得区分では24,600円などとなっています[10]。
回数のカウント・確認方法
多数回該当の回数は、高額療養費の支給を受けた月を1回として、直近12ヶ月で数えます。長期の治療・入退院を繰り返す場合は、これまでに何回該当しているかを加入している医療保険に確認しておくと、次回以降の負担見込みが立てやすくなります。
窓口負担を抑える「限度額適用認定証」
入院や手術など医療費が高額になることが事前に分かっている場合、窓口での支払いをあらかじめ自己負担限度額までに抑える方法として「限度額適用認定証」があります[6][11]。
申請方法と交付までの流れ
限度額適用認定証は、加入している医療保険(協会けんぽ、健康保険組合、市町村国保、後期高齢者医療広域連合など)に申請書を提出して交付を受けます[6][17]。交付後は医療機関の窓口に提示することで、その月の窓口負担が自己負担限度額までに抑えられ、後から高額療養費の払い戻しを申請する手間が省けます。
マイナ保険証で認定証が原則不要になった仕組み
令和3年10月に導入されたオンライン資格確認により、マイナ保険証を医療機関の窓口に提示し、限度額情報の提供に同意すれば、限度額情報が自動的に連携される仕組みが整いました。これにより、原則として限度額適用認定証の事前申請は不要になっています[5][11]。ただし、オンライン資格確認を導入していない医療機関を受診する場合や、非課税世帯で長期入院(過去12ヶ月で91日を超える入院)の食費減額を受ける場合は、従来どおり書面での申請が必要です[5][11]。
事後申請「高額療養費支給申請」の方法
限度額適用認定証を使わずに窓口で通常の自己負担分を支払った場合は、後日、高額療養費の支給申請を行うことで超過分の払い戻しを受けられます[12]。
申請先・必要書類
申請先は、加入している医療保険(協会けんぽの各支部、健康保険組合、市町村国保、後期高齢者医療広域連合など)です。「健康保険高額療養費支給申請書」に必要事項を記入し、医療費の受診状況が分かる資料などを添えて提出します[4][12]。診療を受けた月から実際に支給されるまでは、一般的に3ヶ月以上の期間がかかります[12]。
申請期限は2年(時効に注意)
高額療養費の支給申請には時効があります。申請期限は、診療を受けた月の翌月1日から2年です。この期間を過ぎると時効により申請ができなくなり、払い戻しを受けられません[12]。入院や治療が続く中で申請を後回しにしがちですが、2年という期限があることを念頭に、早めに申請しておくと安心です。
2026年8月の制度改正で何が変わったか
高額療養費制度は、2024年末に自己負担限度額の見直し案が検討されましたが、当初の予定より実施が見送られた経緯があります。最終的に、健康保険法等の一部を改正する法律案が令和8年5月29日に成立し、2026年8月1日から新しい自己負担限度額の適用が始まっています[8][9][10][16]。
自己負担限度額の見直し内容
今回の改定では、69歳以下・70〜74歳・75歳以上のいずれの年齢層でも、所得区分ごとの自己負担限度額が見直されました。具体的な限度額は本記事「自己負担限度額はどう決まるか」の各区分で示した数値のとおりです[9][10][15]。
年間上限額制度の新設
2026年8月の改定にあわせて、医療費の年間上限額制度が新設されました。これは、8月から翌年7月までの12ヶ月間で、高額療養費の月ごとの限度額の合計が一定の年間上限額を超えた場合、その超えた分が返還される仕組みです。75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得区分ごとに年間上限額が設定されています(現役並み所得3で168万円、現役並み所得2で111万円、現役並み所得1で53万円、一般2で21.6万円、区分1で18万円など)[7][8][9][10]。
高額介護サービス費・高額医療合算療養費制度との違い
高額療養費制度と似た名前の制度がいくつかあり、混同されやすいため、それぞれの対象範囲と算定単位を整理します。
対象範囲と算定単位の違いを整理
高額療養費制度は医療保険のみを対象に、1ヶ月単位で自己負担の上限を設ける制度です。一方、高額介護サービス費は介護保険のみを対象に、同じく1ヶ月単位で上限を設ける制度です。さらに、両方の保険を使っている世帯向けに、高額医療・高額介護合算療養費制度があり、これは医療保険と介護保険の自己負担を、毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間で合算し、両制度それぞれの限度額を超えてもなお負担が高額な場合に、さらに軽減する制度です[13][14]。
それぞれ別に申請が必要な理由
これら3つの制度は、根拠となる保険制度や算定期間が異なるため、それぞれ別に申請が必要です。高額療養費制度は加入している医療保険へ、高額介護サービス費は加入している介護保険(市区町村)へ、高額医療・高額介護合算療養費制度は原則、医療保険者へ申請します。医療費と介護費の両方がかかっている家庭では、まず月単位の2つの制度で払い戻しを受けたうえで、年度末に合算制度の対象になるかどうかも確認するとよいでしょう[13][14]。
申請時の注意点・よくある失敗
制度の仕組みを理解していても、申請の実務では見落としやすい点がいくつかあります。
医療機関をまたぐと合算されないケースがある
69歳以下の場合、世帯合算の対象になるのは1件21,000円以上の自己負担分に限られます。複数の医療機関に少額ずつ通院している場合、合算されずに限度額に届かないことがあります。また、同一の医療機関でも診療科が異なる場合や、入院と外来を分けて計算する場合など、合算のルールは細かく分かれているため、加入している医療保険に個別のケースを確認しておくと安心です[3][4]。
非課税世帯の長期入院時の食費減額
住民税非課税世帯で、過去12ヶ月の入院期間が91日を超える長期入院になった場合、入院時の食費(標準負担額)がさらに減額される制度があります。この減額を受けるには、マイナ保険証によるオンライン資格確認だけでは対応できず、書面での「限度額適用・標準負担額減額認定申請書」の提出が必要です[5][11][17]。長期入院が見込まれる場合は、早めに加入している医療保険の窓口に相談しておくとよいでしょう。
まとめ
この記事のポイント
- 高額療養費制度は、医療保険のみを対象に、1ヶ月単位で自己負担額の上限を設ける制度である
- 自己負担限度額は年齢と所得区分によって異なり、2026年8月1日から限度額が改定され、年間上限額制度が新設された
- 同一世帯・同一医療保険内での合算(世帯合算)、直近12ヶ月に3回以上該当した場合の多数回該当により、さらに負担が軽減される場合がある
- 限度額適用認定証を使えば窓口負担を事前に抑えられ、マイナ保険証があれば原則申請が不要になる
- 事後申請の期限は診療月の翌月1日から2年。介護保険のみを対象とする高額介護サービス費、医療+介護を年単位で合算する高額医療・高額介護合算療養費制度とは対象範囲・算定単位が異なるため、それぞれ別に確認・申請する必要がある
手続きにあたっての注意
医療保険の制度は法改正により今後も見直される可能性があります。実際の手続きにあたっては、加入している医療保険(協会けんぽ、健康保険組合、市町村国保、後期高齢者医療広域連合など)の最新の案内を必ず確認してください。当サイトの記事の位置づけについてはこのサイトの立ち位置もご覧ください。