介護報酬の地域区分とは、介護サービスの価格を決める「1単位の単価」を、事業所のある地域ごとに10円から11.40円の範囲で変える仕組みです。同じ内容のサービスでも、事業所の所在地によって、利用者が支払う金額が変わることがあります。この記事では、級地ごとの上乗せ割合、単価表、自己負担の概算、令和6年度の見直しと今後の動きを、厚生労働省や自治体の資料にもとづいて整理します。
結論:1,000単位・1割負担なら、1級地(人件費割合70%)で約1,140円、「その他」の地域(上乗せのない地域)で約1,000円となり、差は約140円です(単価表からの概算)。
地域区分とは
はじめに、地域区分が何を決める仕組みなのか、誰に関わるのかを確認します。
地域区分の定義と目的
介護報酬は、サービスごとに「単位数」が決まっており、これに「1単位の単価」を掛けた額が、事業者に支払われるサービス費の総額になります。1単位の単価はサービスの種類と地域によって設定され、範囲は10円から11.40円です。この「地域によって単価を変える仕組み」が地域区分です。
地域区分を設ける理由は、従業者の賃金に地域差があり、それを報酬に反映するためと厚生労働省の資料は説明しています。そのため、上乗せ割合の高い級地ほど1単位の単価が高くなります。
法律上も、介護報酬は事業所が所在する地域などを考慮した平均的な費用の額を勘案して設定する、とされています(介護保険法第41条第4項等。厚労省資料による)。
誰に関係する仕組みか
地域区分は、まず事業者側の収入に関わる仕組みですが、利用者の自己負担にも間接的に関わります。利用者は介護報酬のうち1〜3割を負担するため、単価が高い地域では同じ単位数でも自己負担の円換算額が大きくなります。多摩市の資料も、地域区分が高いとサービス利用料の自己負担分は割高になる一方、事業所の収入は増えると説明しています。
親の介護を検討する家族にとっては、実家のある地域と自宅のある地域で料金の目安が違うのかが気になるところです。どちらの地域の単価になるかは、次の「よくある誤解」で整理します。
よくある誤解
- 「地域区分は利用者の住所で決まる」と思われがちですが、国の資料は「事業所が所在する地域」の区分によるとしています。親と離れて暮らす場合も、基準になるのは利用する事業所の所在地の市区町村の級地です。迷ったときは、担当のケアマネジャーや市区町村に確認してください。
- 「地域区分が高い=サービスの質が高い」という意味ではありません。地域の賃金水準を報酬に反映する仕組みです。
- 「単位数が地域で変わる」わけではありません。変わるのは1単位あたりの円の単価です。
介護報酬=単位数×1単位の単価
地域区分を理解する前提として、介護報酬の計算の基本を押さえます。
単位数と円換算の考え方
介護報酬は、サービスの種類・時間・内容ごとに「単位数」が決まっています。たとえば訪問介護の身体介護中心型(30分以上1時間未満)は387単位です。
円に換算するときは「単位数×1単位の単価」で計算します。1単位の単価は、全国でいちばん低い地域では10円です。鹿児島市のように10円と案内している自治体もあります。
利用者の負担は1〜3割
円換算した介護報酬の総額のうち、利用者が支払うのは1割から3割です。残りは介護保険から給付されます。負担割合の判定の詳細は、お住まいの市区町村から届く通知で確認できます。負担割合の仕組みは介護保険の自己負担割合を解説した記事で整理しています。
介護報酬そのものの基本
介護報酬の全体像(改定の流れや加算・減算など)は介護報酬の基本を解説した記事にまとめています。この記事では、その中でも「地域による違い」に絞って説明します。
級地と上乗せ割合
地域区分は「級地」という区分で表され、級地ごとに上乗せ割合が決まっています。
1級地から7級地とその他の8区分
地域区分は、1級地から7級地までと「その他」を合わせた8区分です。「その他」は上乗せのない地域(上乗せ割合0%)を指します。各市町村がどの級地になるかは、原則として公務員の地域手当(公務員の給与に上乗せされる、地域ごとの手当)の区分に準拠しており、隣接する地域の状況によって一部に特例があります。
| 区分 | 上乗せ割合 |
|---|---|
| 1級地 | 20% |
| 2級地 | 16% |
| 3級地 | 15% |
| 4級地 | 12% |
| 5級地 | 10% |
| 6級地 | 6% |
| 7級地 | 3% |
| その他 | 0% |
8区分になるまでの沿革
厚生労働省の資料によると、地域区分は平成12年度に5区分で始まりました。平成21年度に、人件費割合が2類型から3類型(70%・55%・45%)に見直され、平成24年度に7区分、平成27年度に現在の8区分となっています。
級地はどう決まるか
各市町村の級地は、国家公務員・地方公務員の地域手当の区分に原則準拠します。多摩市の資料も、2級地(16%)である理由を「地域手当の設定に準拠している」と説明しています。
一方で、隣接地域との差が大きい場合などには特例が設けられています(令和6年度の特例は後の節で触れます)。
人件費割合3区分と単価表
級地の上乗せ割合は、サービスごとの人件費割合を通して、実際の単価に反映されます。
サービスごとの人件費割合
上乗せ割合がそのまま単価に反映されるわけではありません。サービスごとに「人件費割合」が70%・55%・45%の3区分で決められており、人件費の比重が大きいサービスほど地域差が大きくなります。
| 人件費割合 | 主なサービス |
|---|---|
| 70% | 訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、居宅介護支援、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護 |
| 55% | 訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、短期入所生活介護 |
| 45% | 通所介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、地域密着型通所介護 |
1単位の単価表(令和6年度改定後)
令和6年度改定後の1単位の単価は次のとおりです(円)。
| 人件費割合 | 1級地 | 2級地 | 3級地 | 4級地 | 5級地 | 6級地 | 7級地 | その他 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 70% | 11.40 | 11.12 | 11.05 | 10.84 | 10.70 | 10.42 | 10.21 | 10 |
| 55% | 11.10 | 10.88 | 10.83 | 10.66 | 10.55 | 10.33 | 10.17 | 10 |
| 45% | 10.90 | 10.72 | 10.68 | 10.54 | 10.45 | 10.27 | 10.14 | 10 |
単価の計算の考え方(目安)
一次資料に計算式そのものは明記されていませんが、自治体資料の例と整合する考え方として「10円+10円×上乗せ割合×人件費割合」があります。たとえば3級地の訪問介護(人件費割合70%)なら、10+10×0.15×0.7=11.05円となり、上の表の値と一致します。あくまで考え方の目安であり、正式な単価は厚生労働大臣が告示(国が定める正式な決まりとして公表されるもの)で定めています。
自治体の級地の例と確認方法
お住まいの地域や利用先がどの級地かを知るための、代表例と確認方法です。
代表的な自治体の級地
級地の全体は約1,290の自治体にわたり、厚生労働省の資料では一覧表(画像)で示されています。ここでは代表例のみ挙げます(自治体名の例示であり、特定の事業所を示すものではありません)。
- 1級地(20%):東京都特別区(23区)
- 2級地(16%):調布市、町田市、狛江市、多摩市、横浜市、川崎市、大阪市など
- 3級地(15%):さいたま市、千葉市、八王子市、府中市、名古屋市、西宮市など
- 4級地(12%):神戸市など
- 6級地(6%):日進市
- 7級地(3%):小牧市
自分の地域の級地を確認する方法
級地を確認するには、事業所が所在する市区町村の介護保険担当課に問い合わせるのが確実です。厚生労働省の資料や自治体の広報にも級地の一覧が掲載されます。基準になるのは、利用する事業所の所在地の市区町村の級地です。
実際にかかる費用の見込みは、担当のケアマネジャーに相談してください。
隣接する自治体で違うことがある
隣り合う自治体でも級地が異なる場合があります。小牧市は7級地(3%)ですが、隣接する市町には6級地が多いと同市の資料で説明されています。通う事業所を選ぶ際は、所在地の市区町村の級地を確認しておくと、料金の目安をつかみやすくなります。
自己負担への影響(1,000単位の計算例)
単価表をもとに、級地による自己負担の差を具体的な数字で見てみます。
人件費割合70%のサービスで1,000単位を使った場合
人件費割合70%のサービス(訪問介護など)で1,000単位を使った場合の、総額と1割負担額の概算は次のとおりです。以下は、単価表の値から単純に計算した筆者による概算であり、実際の請求額とは端数の扱いなどで異なる場合があります。
| 区分 | 総額(概算) | 1割負担(概算) |
|---|---|---|
| 1級地 | 11,400円 | 1,140円 |
| 2級地 | 11,120円 | 1,112円 |
| 3級地 | 11,050円 | 1,105円 |
| 4級地 | 10,840円 | 1,084円 |
| 5級地 | 10,700円 | 1,070円 |
| 6級地 | 10,420円 | 1,042円 |
| 7級地 | 10,210円 | 1,021円 |
| その他 | 10,000円 | 1,000円 |
1級地とその他の差は、1割負担で1,000単位あたり約140円(14%)です。人件費割合45%のサービス(通所介護など)の場合、1級地の単価は10.90円ですので、1,000単位の1割負担は約1,090円となります。
訪問介護の例(日進市の資料)
日進市の資料では、訪問介護(身体介護中心、30分以上1時間未満)の387単位について、現在の6級地で387×10.42=約4,033円と示されています。同じ資料には、地域区分の引上げを検討した際の試算として、5級地なら約4,141円、4級地なら約4,195円という数字もあります。いずれも事業所に支払われる報酬額で、利用者の負担はこの1〜3割です。
保険料への影響
地域区分を引き上げると保険給付費が増え、介護保険料にも影響しうるとされます。たとえば日進市は、引上げを検討した際に、保険料の月額が約110円(5級地)〜約170円(4級地)増えるとの試算を示しています。自治体が検討段階で示した試算であり、すべての地域に当てはまる数字ではありません。
区分支給限度基準額との関係
在宅サービスには、要介護度ごとに利用できる上限があります。この上限と地域区分の関係を見ます。
限度額は単位数で管理される
在宅サービスの上限(区分支給限度基準額)は単位数で管理されます。単位数は全国共通ですが、円換算した上限額は地域で変わります。
| 要介護度 | 限度額(単位) |
|---|---|
| 要支援1 | 5,032 |
| 要支援2 | 10,531 |
| 要介護1 | 16,765 |
| 要介護2 | 19,705 |
| 要介護3 | 27,048 |
| 要介護4 | 30,938 |
| 要介護5 | 36,217 |
限度額の詳細は支給限度額を解説した記事でも整理しています。
円換算の目安
以下は単位数×単価による筆者の計算で、実際の請求額とは異なる場合があります。要介護5の36,217単位は、単価10円なら36,217×10=362,170円(約36.2万円)、単価11.40円なら36,217×11.40=約412,873円(約41.3万円)です。大田区や杉並区の資料も、同程度の金額を案内しています。
要介護3の27,048単位を限度まで使った場合、1級地(70%の単価11.40円)とその他(10円)の総額差は27,048×1.4≒37,867円で、1割負担なら月に約3,800円の差になります。使える単位の枠そのものは、どちらの地域でも変わりません。
限度額を超えた場合と対象外
限度額を超えた分は全額が自己負担になります。限度額の対象外となるサービスとして、居宅介護支援、居宅療養管理指導、施設系サービスが挙げられています。
令和6年度の見直しと経過措置
令和6年度の介護報酬改定で、地域区分に関して何が変わったかを整理します。
級地の変更状況
令和6年度の介護報酬改定では、現行の級地の適用を基本としつつ、特例の新設と経過措置の延長が行われました。厚生労働省の資料では、級地が変更された自治体は38(引上げ35、引下げ3)、経過措置が適用された自治体は80(引上げ2、引下げ78)とされています。
経過措置の延長
経過措置とは、見直し前の上乗せ割合を一定期間残せるようにする猶予の仕組みです。平成27年度改定時の経過措置は令和5年度末が期限でしたが、告示の改正により令和8年度末まで延長されました。従前の上乗せ割合を維持することを含め、見直し前後の範囲内で市町村が選べる仕組みとされています。
新設された特例
令和6年度には、複数隣接ルールと5級地差ルールなどの特例が新設されました。5級地差ルールは、5級地以上の差がある地域と隣接する場合に、4級地差になるまで引上げ・引下げを認めるものです。こうした特例により、お住まいの自治体の級地が変わりうるため、自治体で確認してください。
今後の見直しの見通し
令和9年度改定での地域区分は、まだ確定していません。厚生労働省のスケジュール案では、令和8年10〜12月に議論し、令和9年1月頃に諮問・答申(厚生労働大臣が審議会に意見を求め、審議会が答える手続き)を行うとされています。
公務員の地域手当の見直し
地域区分は公務員の地域手当に準拠するため、その見直しが影響します。令和6年の人事院勧告で、国家公務員の地域手当は都道府県を基本に広域化され、7区分から5区分(20%・16%・12%・8%・4%)となり、令和7年度から段階的に実施されるとされました。東京都特別区は20%のままです。
令和9年度改定に向けた議論
令和6年度改定の審議報告では、地域区分は令和7年度の公務員地域手当の見直しを踏まえて在り方を検討すべきとされました。令和7年6月の閣議決定の計画でも、次期報酬改定までに必要な見直しを実施するとされています。令和8年8月の介護給付費分科会でも「令和9年度介護報酬改定における対応」が論点に挙がっていますが、この時点で具体的な級地は決まっていません。上記のスケジュールはあくまで「案」で、変更の可能性があります。
自治体の見通しの扱い方
小牧市や日進市は、見直しを見据えた検討状況を資料で示していますが、これらは検討中の段階で、国の確定情報ではありません。本記事では、特定の地域の将来の級地や単価を断定しません。
注意点
最後に、この記事の数字を使うときの注意点です。
概算の限界
この記事の計算例は、単価表をもとにした概算です。実際の請求額は、加算・減算の有無や端数の扱いなどによって変わります。契約前に、事業所やケアマネジャーから見積もりや利用票を確認してください。
制度は変わりうる
地域区分の級地や単価、経過措置は、3年ごとの改定のたびに見直される可能性があります。本記事は令和8年10月14日時点で確認できた公的資料にもとづいており、最新の内容は事業所所在地の市区町村の介護保険担当課や、厚生労働省の公表資料で確認してください。
このサイトの立ち位置
かいごの窓では、特定の事業所や施設を評価・順位付けせず、公的な情報を並列に整理する方針です。詳しくはこのサイトの立ち位置をご覧ください。
まとめ
- 地域区分は、事業所の所在地によって1単位の単価を10円〜11.40円の範囲で変える仕組みで、8区分(1〜7級地とその他)がある。
- 上乗せ割合は1級地20%から7級地3%、その他0%。サービスの人件費割合(70・55・45%)により、実際の単価の差は変わる。
- 1,000単位・1割負担の概算では、1級地(70%)で約1,140円、その他で約1,000円、差は約140円。
- 令和6年度改定で特例が新設され、経過措置は令和8年度末まで延長された。令和9年度改定での扱いは未確定。
- 級地の確認は事業所所在地の市区町村の介護保険担当課、費用の見込みは担当のケアマネジャーに相談する。