認知症介護指導者研修とは、厚生労働省の通知に基づき都道府県・指定都市等が実施する「認知症介護実践者等養成事業」の研修体系の最上位に位置づけられる公的研修です。受講には認知症介護実践者研修・実践リーダー研修の修了と一定の実務経験、都道府県等からの推薦が必要で、修了後は自法人や地域の研修講師として認知症ケアの普及にあたる役割を担います。家族の介護をきっかけにこの研修を調べている方にとっては、修了者が在籍する施設かどうかが職員教育の体制を知る一つの手がかりになります。本記事では受講要件、前期・職場実習・後期を合わせて概ね9週間程度とされる研修内容、修了後の役割までを、厚生労働省委託事業の公的資料に基づいて整理します。
認知症介護指導者研修とは
認知症介護指導者研修は、「認知症介護実践者等養成事業」の一環として、厚生労働省が定める要綱(平成18年3月31日老発第0331010号、改正:平成28年3月31日老発第0331第2号)のもとで都道府県・指定都市等が実施主体となり行われる研修です。実際の研修運営(実施機関)を担うのは、東京・仙台・大府にある3つの「認知症介護研究・研修センター」(通称DCnet)です。研修の目的は、認知症介護に関する専門的な知識・技術に加えて、研修プログラムの作成方法や教育技術、介護の質を改善するための指導方法などを修得することにあります。
研修の目的
指導者研修は単に「認知症ケアに詳しい人」を増やすための研修ではありません。修得した知識・技術を自らの現場だけでなく、都道府県等が実施する公的研修の講師として他の介護職員に伝達し、地域全体の認知症ケアの質を底上げする「教える人を養成する」研修という点に特徴があります。
実施主体と実施機関
制度上の実施主体は都道府県・指定都市等ですが、実際のカリキュラム運営は東京・仙台・大府の3センターが担っています。どのセンターで受講するかは、居住地・勤務地の都道府県がどのセンターに委託しているかによって決まるため、募集要項は必ず自身の勤務先が所在する都道府県・指定都市の窓口で確認する必要があります。
制度が設けられた背景
認知症介護の現場では、施設・事業所ごとにケアの質にばらつきが生じやすいという課題があります。厚生労働省はこの課題に対応するため、単発の研修を各地で行うのではなく、「教える人材」を体系的に養成し、その人材が地域や自法人で継続的に知識・技術を波及させていく仕組みとして認知症介護実践者等養成事業を整備しました。指導者研修はこの事業の中でも、波及効果が最も大きい層を養成する研修と位置づけられています。
認知症介護の研修体系における位置づけ
認知症介護指導者研修は、単独で存在する研修ではなく、下位の研修を積み上げて初めて受講資格が得られる階層構造(ピラミッド構造)の頂点にあります。DCnetのパンフレットでは、この体系が次の4段階で示されています。
4段階のピラミッド構造
最下層は認知症介護基礎研修で、令和3年度から無資格の介護職員に受講が義務化されました(3年間の経過措置を経て令和6年度から完全義務化)。その上に実務経験おおむね2年程度の職員を対象とした認知症介護実践者研修、さらに実務経験おおむね5年以上かつ実践者研修修了から1年以上経過した職員を対象とする認知症介護実践リーダー研修が続き、その頂点に本記事で扱う認知症介護指導者養成研修が位置づけられます。各段階は下位資格の修了を要件とする積み上げ式で、途中を飛び越えて指導者研修だけを受講することはできません。
図:認知症介護研修は下位研修の修了を積み上げる階層構造。指導者研修は実践者研修・実践リーダー研修の修了が受講要件になる。
実践リーダー研修との違い
実践リーダー研修が「現場でチームを牽引し、実践者研修修了者等を指導する」ことに重点を置くのに対し、指導者研修は「都道府県レベルの公的研修の講師として、体系だった教育プログラムを企画・実施する」ことに重点が置かれます。同じ「指導」という言葉が使われますが、実践リーダーは主に自法人・自事業所内での実践指導、指導者は自法人を超えた地域レベルでの教育活動を担うという違いがあります。
受講対象者・受講要件
認知症介護指導者研修の受講要件は実施センターごとに実施要項で定められていますが、大府センターの実施要項第5条を例にすると、次の5つをすべて満たす必要があります。
満たすべき5つの要件
- 医師・保健師・助産師・看護師・准看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・社会福祉士・介護福祉士・精神保健福祉士等の資格を有する者(またはこれに準ずる者)
- 介護保険施設・事業所等での相当の実務経験、福祉系大学等で指導的立場にある者、または民間企業で認知症介護の教育に携わる者のいずれかに該当すること
- 認知症介護実践者研修および実践リーダー研修を修了していること
- 修了後、認知症介護基礎研修または実践者研修の企画・立案あるいは講師として従事する予定があること
- 地域ケアを推進する役割を担うことが見込まれること
推薦が必須である点
個人で申し込める研修ではなく、都道府県・指定都市または勤務先施設等の長からの推薦が必須です。推薦を受けたうえで、さらに実施センターが行う受講者選抜考査を経て受講者が決定されるため、推薦を受けたからといって必ず受講できるとは限りません。
要件を満たしているか確認するポイント
受講を検討する時点で、実践者研修と実践リーダー研修の修了証を保有しているか、実務経験年数が実施センターの求める水準に達しているかを、あらかじめ勤務先の管理者とすり合わせておくと話が早く進みます。指導者研修は修了後の役割まで見据えた研修なので、単に「受講したい」という意欲だけでなく、修了後のキャリアパスと施設側の体制整備の両面から検討するとよいでしょう。
受講の流れ
受講に至るまでの一般的な流れは、勤務先施設等の推薦決定から始まります。
推薦から選抜まで
まず勤務先の施設・事業所の長、または法人が、要件を満たす職員を都道府県・指定都市に推薦します。都道府県・指定都市は推薦された候補者を取りまとめ、実施センター(東京・仙台・大府のいずれか)へ推薦します。実施センターは応募状況に応じて選抜考査(書類選考や小論文等)を実施し、受講者を決定します。
申込みのタイミング
募集は都道府県・指定都市ごとに年度単位で行われ、締切や実施回数は自治体によって異なります。希望する場合は、まず自身の勤務先が所在する都道府県・指定都市の高齢福祉担当窓口に、募集時期と推薦の要件を早めに確認しておくことが実務上重要です。
カリキュラムの内容と研修期間
研修は大きく分けて「前期研修(センターでの集合研修)」「職場実習・オンライン研修」「後期研修(センターでの集合研修)」の3つのパートで構成されます。資料によって期間の示し方に幅があり、DCnetのパンフレットと大府センターの実施要項を比べると次のようになります。
| 区分 | DCnetパンフレット表記 | 大府センター実施要項第7条表記 |
|---|---|---|
| 前期研修 | 10日間 | 3週間 |
| 職場実習・オンライン研修 | 6週間 | 4週間 |
| 後期研修 | 5日間 | 2週間 |
| 合計 | 通算9週間程度 | |
資料により「日数」と「週数」で示し方が異なりますが、合計するとどちらもおおむね9週間程度になる点は共通しています。実際の日程配分は年度・実施センターの実施要項で最終確認してください。
図:研修期間の内訳(目安)。合計で概ね9週間程度に及ぶ。実際の日数配分は年度・実施センターにより異なる。
主な科目
カリキュラムには、認知症介護研修総論、教育方法論・授業設計法・模擬授業、人材育成論・成人教育論、職場実習の企画・実施・振り返り・報告、地域における他施設・事業所実習などが含まれます。単に認知症ケアの知識を深めるだけでなく、「どう教えるか」を実践的に学ぶ構成になっている点が特徴です。
職場実習の位置づけ
前期研修で学んだ教育技術を、実際の職場や地域の実習先で試行し、後期研修で振り返って報告する流れになっています。センターでの座学だけで完結せず、実際に「教える」経験を積むプロセスが組み込まれている点は、他の階層の研修と異なる指導者研修ならではの特徴です。
勤務先の理解が不可欠
合計で概ね9週間程度に及ぶ研修期間は、他の階層の研修と比べて長期にわたります。前期研修・後期研修はセンターへの通所または宿泊を伴う集合研修となることが多く、その間は通常業務を離れることになります。職場実習期間も、通常業務と並行して実習の企画・実施に取り組む必要があるため、受講を検討する際は、勤務先の人員体制やシフト調整について、早い段階から管理者と相談しておくことが重要です。推薦を行う施設側にとっても、長期間にわたる代替要員の確保が課題となる点は理解しておく必要があります。
受講定員・受講料と費用負担の仕組み
受講定員は実施センターごとに定められており、大府センターの実施要項第8条では原則1回につき22名とされています。実施回数は年度・センターによって異なるため、募集人数の詳細は年度ごとの募集要項で確認する必要があります。
費用負担の考え方
大府センターの実施要項第15条では、研修に要する経費は都道府県等が負担するものとし(実施要項の表現では「府県等」)、具体的な金額は年度の募集要項で定めるとされています。また、受講途中の取り消し等があった場合も返金しないと定められています。つまり制度上は、都道府県等が費用を負担する仕組みが原則であり、受講者本人が直接高額な受講料を自己負担する制度設計にはなっていません。ただし具体的な金額や自己負担の有無の詳細は年度・実施主体である都道府県等ごとの募集要項によって異なるため、断定はできません。応募前に必ず募集要項で確認してください。
フォローアップ研修との違いに注意
後述する認知症介護指導者フォローアップ研修は、大府センターの実施要項第27条において「研修受講者及び都道府県・指定都市が負担」(実施要項の表現では「府県・指定都市」)と定められており、指導者養成研修とは費用負担の考え方が異なります。この点は混同しやすいため注意が必要です。
応募前に確認しておきたいこと
費用負担の仕組みは制度の骨格としては前述のとおりですが、交通費・宿泊費の扱いや、給与の取り扱い(研修期間中を勤務扱いとするか等)は勤務先の就業規則にも関わってきます。実施センターが定める研修経費の負担区分と、勤務先が独自に定める研修参加時の待遇の両方を、応募前に確認しておくことが望まれます。
修了後にできること・担う役割
研修を修了すると「認知症介護指導者」として登録され、都道府県等が実施する公的研修(認知症介護基礎研修・実践者研修・実践リーダー研修)の企画・立案および講師を担う役割を果たすことが期待されます。
厚労省委託調査に見る実際の役割
厚生労働省の令和2年度老人保健健康増進等事業の調査結果では、指導者研修修了者が実際にどのような役割を担っているかが、次のとおり数値で示されています。
| 担っている役割 | 実施率 |
|---|---|
| 自法人内での研修の企画・立案や講師 | 89.4% |
| 都道府県が実施する認知症介護実践研修等の講師・ファシリテーター | 83.9% |
| チームケアの推進 | 77.6% |
| 自法人の理念の浸透 | 74.0% |
| リーダー等指導的立場の職員を育成する体制づくり | 69.6% |
この数値からも、指導者研修修了者は都道府県レベルの公的研修と、所属法人内の人材育成の両方で中心的な役割を果たしていることが分かります。家族介護者の視点で見れば、こうした指導者研修修了者が在籍している施設は、職員教育の体制づくりに継続的に取り組んでいる一つの目安として参考にできます。
地域ケアの推進役として
受講要件の一つに「地域ケアを推進する役割を担うことが見込まれること」があるとおり、指導者研修修了者には自法人の枠を超えて、地域全体の認知症ケアの質向上に寄与することが求められています。地域の事業所間連携や、他施設実習の受け入れなども、この役割の一環として位置づけられます。
修了がキャリアに与える意味
指導者研修修了は、単に肩書きが増えるということではなく、施設内の人材育成体制の中核を担う立場に変わることを意味します。前述の調査結果が示すように、多くの修了者が「研修の企画・立案や講師」「チームケアの推進」「理念の浸透」といった役割を実際に担っており、現場での実践力に加えて、組織全体を見渡すマネジメント的な視点も求められるようになります。
認知症介護指導者フォローアップ研修
指導者研修を修了した後も、知識・技術を継続的にアップデートするための上位研修として「認知症介護指導者フォローアップ研修」が用意されています。
対象者と目的
対象は指導者養成研修を修了してから1年以上経過した者で、原則5日間の研修とされています。指導者として一定期間活動した後の振り返りや、教育技術のさらなる向上を図る位置づけの研修です。
費用負担の違い
前述のとおり、大府センターの実施要項第27条ではフォローアップ研修の費用は「研修受講者及び府県・指定都市が負担」と定められており、指導者養成研修(原則、都道府県等が負担)とは異なり、受講者本人にも一定の費用負担が生じうる点に注意が必要です。詳細は実施センター・年度ごとの募集要項で確認してください。
年度ごとの募集スケジュールの例と注意点
募集スケジュールは実施センター・都道府県ごとに異なり、年度によっても変動します。
実施回数・スケジュールは年度・センターにより異なる
前期研修・職場実習・後期研修をどのようなサイクルで年間何回実施するかは、センターの予算や応募状況によって年度ごとに変動します。具体的な実施回数や日程は、必ず最新の年度の募集要項で確認しましょう。各センターのウェブサイトや、勤務先が所在する都道府県・指定都市の窓口が一次情報源になります。
下位研修の制度変更にも目を配る
認知症介護基礎研修は令和3年度から義務化され、カリキュラムのeラーニング化が進められました。こうした下位研修側の運用変更は、指導者研修の受講対象者の増減や募集スケジュールに間接的な影響を及ぼす可能性があります。応募を検討する段階では、指導者研修そのものの情報だけでなく、下位研修の最新の制度情報にも注意を向けておきたいところです。
確認すべき窓口
募集情報は各実施センター(東京・仙台・大府)のウェブサイトに加え、都道府県・指定都市の高齢福祉担当課からも案内されます。指導者研修は推薦制であるため、勤務先の法人・施設が過去に推薦実績を持っているかどうかによっても、情報の得やすさが変わってきます。初めて指導者研修を目指す場合は、まず勤務先の管理者や法人の研修担当部署に、都道府県からの募集案内の有無を確認するところから始めるとよいでしょう。
よくある誤解・注意点
個人で自由に申し込める研修ではない点、費用が一律無料とは限らない点、研修期間の表記に幅がある点はすでに述べたとおりです。ここでは、それ以外に見落としやすい実務的な注意点を挙げます。
推薦を受けるための相談は早めに
推薦は施設・法人の長を経由するため、まず社内でどのタイミングに相談を持ちかけるかが意外と重要になります。人事評価や研修計画の見直し時期に合わせて話を切り出すと、施設側も次年度の人員体制を含めて検討しやすくなります。募集要項の締切ぎりぎりに申し出ると、代替要員の確保が間に合わず見送りになるケースも考えられるため、興味を持った段階で早めに管理者へ相談しておくのが得策です。
フォローアップ研修と混同しないための確認ポイント
指導者養成研修とフォローアップ研修は名称が似ているうえ、費用負担の考え方が異なります。案内文書やチラシを見る際は、対象が「これから指導者を目指す職員」なのか「すでに指導者研修を修了した職員」なのかをまず確認し、そのうえで費用欄に記載された負担者(都道府県等のみか、受講者との按分か)をあわせて見ておくと取り違えを防げます。
まとめ
- 認知症介護指導者研修は、認知症介護実践者研修・実践リーダー研修修了者を対象とする、認知症介護研修体系の頂点に位置する公的研修である
- 受講には資格要件・実務経験・下位研修の修了・都道府県等または勤務先の推薦・選抜考査の通過が必要で、個人で自由に申し込める研修ではない
- 研修は前期研修・職場実習およびオンライン研修・後期研修で構成され、合計で概ね9週間程度に及ぶ
- 費用は原則、都道府県等が負担する制度設計だが、具体額は年度の募集要項次第であり、上位のフォローアップ研修は受講者本人の負担が生じうる
- 修了者の83.9%が都道府県の公的研修の講師・ファシリテーターを担うなど、修了後は地域の認知症ケアを支える教育人材としての役割が期待される
制度の詳細は法改正や年度ごとの実施要項の見直しにより変更されることがあります。最新情報は必ず各実施センターおよび勤務先が所在する都道府県・指定都市の公式情報で確認してください。当サイトの記事の位置づけについてはこのサイトの立ち位置もあわせてご覧ください。