介護職員等処遇改善加算は、介護職員の賃金改善を目的として介護報酬に上乗せされる加算です。令和6年6月に従来の3つの加算が一本化され、事業所が満たす要件の数に応じてI〜IVの加算率区分が決まる仕組みになりました。介護保険制度は原則3年ごとに見直され、加算の内容も令和8年度に拡充が予定されています。この記事では、加算率の仕組み、対象サービス、職員の賃金への反映方法、事業所が加算を取得するための要件、実際にいくら給与が上がったかを、厚生労働省の資料にもとづいて解説します。
介護職員等処遇改善加算とは
制度の目的と創設の背景
介護職員等処遇改善加算は、介護職員の賃金を他産業との差を縮める形で改善し、人材の確保・定着につなげることを目的とした介護報酬上の加算制度です。制度の出発点は平成24年度に創設された「介護職員処遇改善加算」で、介護職員のキャリアパス構築や賃金改善の取組を評価する仕組みとして導入されました。その後、令和元年10月には、経験・技能のある介護職員に重点的に配分する「介護職員等特定処遇改善加算」が新設されました。さらに令和4年10月には、収入を3%程度(月額平均9,000円相当)引き上げることを目的とした「介護職員等ベースアップ等支援加算」が加わりました。
令和6年6月の3加算一本化
これら3つの加算はそれぞれ算定要件や賃金改善のルールが異なっていたため、事業所にとっては複数の加算を並行して管理する事務負担が課題となっていました。厚生労働省は令和6年度介護報酬改定にあわせて、令和6年6月から3つの加算を「介護職員等処遇改善加算」として一本化し、新加算I〜IVの4区分(経過措置として新加算V(1)〜(14)を設定)に整理しました。一本化にあわせて加算率も引き上げられ、事業所が申請・算定しやすい仕組みへと見直されています。
加算率の区分(I〜IV)としくみ
介護職員等処遇改善加算は、後述するキャリアパス要件・月額賃金改善要件・職場環境等要件のうち、満たす要件の数に応じてI〜IVの4段階の区分に分かれています。区分によって介護報酬に上乗せされる加算率が異なり、一般に、より多くのキャリアパス要件や職場環境等要件を満たす事業所ほど、加算率の高い区分I・IIを取得できる設計になっています。逆に、一部の要件しか満たせない事業所は、加算率の低い区分III・IVにとどまります。
サービス種別ごとの加算率一覧
令和6年6月時点の加算率は、サービス種別によって水準が大きく異なります。全区分(I〜IV)が公表されている訪問介護と、区分I・IVが公表されている主なサービスをまとめると、次のとおりです。
| サービス種別 | 新加算I | 新加算II | 新加算III | 新加算IV |
|---|---|---|---|---|
| 訪問介護 | 24.5% | 22.4% | 18.2% | 14.5% |
| 通所介護 | 9.2% | ー | ー | 6.4% |
| 特定施設入居者生活介護 | 12.8% | ー | ー | 8.8% |
| 小規模多機能型居宅介護 | 18.1% | ー | ー | 12.2% |
| 介護福祉施設サービス(特別養護老人ホーム等) | 14.0% | ー | ー | 9.0% |
| 介護保健施設サービス(介護老人保健施設等) | 7.5% | ー | ー | 4.4% |
| 介護医療院サービス | 5.1% | ー | ー | 2.9% |
訪問介護は新加算Iで24.5%と、他サービスに比べて高い加算率が設定されている一方、介護医療院は新加算Iでも5.1%にとどまります。通所介護以下の各サービスにも新加算II・IIIの加算率が設定されていますが、区分IとIVの間の値として定められており、正確な数値は厚生労働省の告示・通知で確認する必要があります。このように加算率は同じ区分でもサービス種別によって大きく異なるため、事業所に支払われる加算額の総額もサービス種別ごとに変わってきます。
経過措置としての新加算V
一本化前の3加算(旧処遇改善加算・旧特定処遇改善加算・旧ベースアップ等支援加算)のいずれか、または組み合わせをすでに取得していた事業所が、新加算I〜IVの要件を満たすまでの移行期間に活用できる経過措置として、新加算V(1)〜(14)の14区分が設けられました。新加算Vは、旧3加算の取得状況の組み合わせに応じて細かく枝分かれしており、令和6年度末までの経過措置として位置づけられています。新加算Vは令和6年度末で経過措置が終了しており、記事執筆時点(令和8年度)では、かつて新加算Vを算定していた事業所もすでに新加算I〜IVのいずれかに移行済みです。
対象となる介護サービス・事業所の範囲
介護職員等処遇改善加算は、すべての介護サービスが対象になっているわけではありません。ここでは令和6年度時点の対象サービスの範囲と、令和8年度に予定されている対象拡大の内容を整理します。
令和6年度時点の対象サービス
令和6年度時点で介護職員等処遇改善加算の対象となるのは、訪問介護、夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、訪問入浴介護、通所介護、通所リハビリテーション、特定施設入居者生活介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・短期入所生活介護、介護老人保健施設・短期入所療養介護、介護医療院等です。訪問系・通所系・居住系・施設系の主要な介護サービスの多くが対象に含まれている一方、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、介護予防支援、居宅療養管理指導、福祉用具貸与、特定福祉用具販売は、令和6年度時点では対象外とされています。これらのサービスに従事する看護職員やケアマネジャー等は、令和6年度時点ではこの加算による賃金改善の対象になっていませんでした。
令和8年度の対象拡大
令和8年度からは、これまで対象外だった訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、介護予防支援が新たに介護職員等処遇改善加算の対象に加わります。一方、福祉用具貸与と居宅療養管理指導は、令和8年度の見直し後も引き続き対象外とされています。対象拡大にあわせて、訪問看護には1.8%、訪問リハビリテーションには1.5%、居宅介護支援等には2.1%の加算率が新設されました。これにより、これまで処遇改善加算の枠組みの外にいた訪問看護師や居宅介護支援事業所のケアマネジャー等も、新たに加算による賃金改善の対象となる見込みです。
加算額はどのように職員の賃金に反映されるか
事業所に支払われた加算額は、決められたルールに沿って職員の給与に配分されます。ここでは基本給・手当・賞与への配分方法と、経験・技能のある介護職員への重点配分の考え方を解説します。
基本給・手当・賞与への配分ルール
介護職員等処遇改善加算によって事業所に支払われた加算額は、対象職員の基本給、毎月決まって支払われる手当、賞与等の改善に充てなければならず、加算導入前からの既存の賃金水準を低下させることは認められていません。とくに「月額賃金改善要件I」では、新加算IVに相当する加算額の2分の1以上を、基本給または毎月決まって支払われる手当の改善に充てることが求められています。賞与(一時金)のみで賃金改善を完結させることはできず、毎月の給与水準そのものを底上げする仕組みが組み込まれています。なお、新加算IVに相当する額を上回る部分については、基本給・手当に加えて賞与等への充当も認められており、事業所は毎月の給与と賞与のバランスを踏まえて配分方法を決めることになります。
厚生労働省が令和6年度に実施した処遇状況等調査によると、事業所が実際に採用した賃金改善の方法(複数回答)は「ベースアップ等(賃金体系の改善)」が59.8%ともっとも多く、次いで「定期昇給」が43.6%、「賞与等の引き上げ・新設」が33.1%となっており、複数の方法を組み合わせて賃金改善を行っている事業所が多いことがうかがえます。
経験・技能のある介護職員への重点配分
加算の配分先は介護職員が基本となりますが、そのなかでも「経験・技能のある介護職員」への重点的な配分が制度の柱のひとつです。厚生労働省が示す目安は介護福祉士の資格を持ち、勤続年数がおおむね10年以上の職員とされていますが、具体的な基準は法人・事業所の裁量に委ねられています。ただし、特定の職員だけに極端に偏った配分や、複数事業所を運営する法人が特定の事業所のみに集中して配分することは認められていません。介護職員以外の職種(看護職員、リハビリ職、生活相談員、事務職員等)への配分も、介護職員への配分を土台としたうえで一定の範囲内で認められています。
事業所が加算を取得するための3つの要件
事業所が介護職員等処遇改善加算を取得するには、(1)キャリアパス要件、(2)月額賃金改善要件、(3)職場環境等要件の3つを満たしたうえで、都道府県または市区町村に加算の届出を行う必要があります。届出は毎年度の算定開始前に行うのが原則で、要件を満たさなくなった場合は速やかに区分の見直しや届出内容の変更が必要になります。要件の細部は毎年度の通知やQ&Aで補足されるため、事業所は最新の内容を確認しながら運用することになります。
キャリアパス要件
キャリアパス要件はI〜Vの5項目からなり、加算区分に応じて満たすべき項目数が定まっています。要件Iは職員の任用要件と賃金体系の整備、要件IIは資質向上のための研修の実施や研修機会の確保等、要件IIIは経験・資格等に応じて昇給する仕組みの整備、要件IVは経験・技能のある介護職員のうち少なくとも1人が改善後の賃金年額440万円以上となること、要件Vは新加算区分Iのみに求められるもので、介護福祉士等の一定割合以上の配置を内容としています。要件Iの賃金体系整備では、資格・勤続年数・職責等に応じた任用要件と賃金額を就業規則等の書面で整備し、すべての介護職員に周知することが求められます。要件IVの年額440万円という水準は、経験・技能のある介護職員のキャリアの到達点を示す指標として位置づけられており、事業所内で長く働き続けることで一定の賃金水準に到達できる道筋を示す狙いがあります。
月額賃金改善要件
月額賃金改善要件は、加算によって得た収入の一定割合以上を、基本給または毎月決まって支払われる手当の改善に充てることを求める要件です。前述の「月額賃金改善要件I」では、新加算IVに相当する加算額の2分の1以上を基本給・手当の改善に充てる必要があり、これを満たさない場合は、実際に賃金改善が行われていても加算の要件を満たしたことにはなりません。
職場環境等要件
職場環境等要件は、「入職促進に向けた取組」「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」「両立支援・多様な人材の確保・活用」「腰痛を含む心身の健康管理」「生産性向上のための業務改善の取組」「やりがい・働きがいの醸成」の6区分・計28項目から構成されています。新加算区分I・IIでは、6区分それぞれについて2つ以上(うち生産性向上の区分から3つ以上)、区分III・IVでは各区分1つ以上(うち生産性向上の区分から2つ以上)の取組を実施し、実施内容を介護サービス情報公表システム等で公表することが求められます。なお、常時雇用する職員が10人未満の小規模な事業所では、就業規則の整備に代えて、内規等の整備でも要件を満たしたと認められる取扱いがあります。介護サービス情報公表システムで公表された内容は求職者も閲覧できるため、就職・転職先を検討する際に、事業所がどのような職場環境等の取組を行っているかを確認する材料になります。
加算で実際にいくら給与が上がったか
制度上の仕組みだけでなく、実際に介護職員の給与がどれだけ増えたかを、厚生労働省の調査データから確認します。あわせて、加算を取得している事業所の割合や、取得していない事業所の理由も見ていきます。
処遇状況等調査に見る給与額の変化
厚生労働省が実施した令和6年度介護従事者処遇状況等調査によると、常勤の介護職員の月給(基本給等)は、令和5年9月の242,680円から令和6年9月には253,810円となり、1年間で11,130円(4.6%)増加しました。基本給に手当・一時金の月額換算分を加えた平均給与額でみると、令和5年9月の324,240円から令和6年9月には338,200円へと、13,960円(4.3%)の増加となっています。
| 時点 | 基本給等 | 平均給与額(基本給+手当+一時金の月額換算) |
|---|---|---|
| 令和5年9月 | 242,680円 | 324,240円 |
| 令和6年9月 | 253,810円 | 338,200円 |
| 増減 | +11,130円(+4.6%) | +13,960円(+4.3%) |
加算取得率と算定していない事業所の理由
同調査では、介護職員等処遇改善加算(新加算I〜V)全体の取得率は95.5%で、区分別では新加算Iが45.7%、新加算IIが32.2%、新加算IIIが11.8%、新加算IVが2.6%、経過措置の新加算Vが3.2%となっています。なお、介護給付費等実態統計にもとづく別集計では新加算Iが42.3%、新加算IIが36.0%とやや異なる数値が示されており、調査対象・集計方法の違いによって数値に差が出る点には注意が必要です。
加算を算定していない事業所にその理由を尋ねた調査(複数回答)では、「事務作業が煩雑」が39.6%ともっとも多く、次いで「利用者負担の発生」が22.4%、「算定要件を満たすことができない」が22.1%、「届出のための事務作業を行う職員がいない」が22.0%となっています。3加算の一本化は事務負担の軽減を狙いのひとつとしていましたが、算定していない事業所の理由でも依然として「事務作業の煩雑さ」がもっとも多く挙げられている点は、制度の運用面での課題を示しています。加算率が高い区分ほど自動的に給与が上がるわけではなく、事業所が要件を満たして届出を行い、実際に賃金改善に充てて初めて職員の給与に反映される仕組みである点は理解しておく必要があります。転職を検討する際には、応募先の事業所がどの区分の加算を取得しているかを確認することも、給与水準を見極める材料のひとつになります。
令和8年度の制度拡充・期中改定の内容
令和8年度には、加算率の引き上げと対象サービスの拡大という2つの見直しが行われます。ここではその内容を具体的に見ていきます。
賃上げ幅の引き上げと生産性向上
令和8年度の期中改定では、新加算区分I・IIがそれぞれ「イ(従来相当)」と「ロ(新設・上乗せ)」に分割されました。訪問介護の場合、新加算Iイが27.0%、新加算Iロが28.7%、新加算IIイが24.9%、新加算IIロが26.6%、新加算IIIが20.7%、新加算IVが17.0%へと、いずれも従来より加算率が引き上げられています。この改定は、月額1.0万円(3.3%相当)の賃上げを基本とし、生産性向上や多職種協働化に取り組む事業者にはさらに月額0.7万円(2.4%相当)を上乗せし、定期昇給分0.2万円を含めると最大で月額1.9万円(6.3%相当)の賃上げを目指す措置と位置づけられています。事業所が生産性向上や多職種協働化にどこまで取り組んでいるかによって、実現できる賃上げ幅に差が出る仕組みになっています。
新たに対象化されたサービス
対象拡大の詳細は前章のとおりですが、この見直しの意味合いは加算率の数値以上に大きいといえます。訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援、介護予防支援は、令和6年6月の3加算一本化からしばらくの間、介護職員等処遇改善加算の枠組みの外に置かれてきました。これらのサービスに従事する看護職員やケアマネジャー等は、加算による賃金改善の対象になっていなかったため、令和8年度の対象化は、制度創設以来の空白を埋める見直しと位置づけられます。一方、福祉用具貸与と居宅療養管理指導は、令和8年度の見直し後も対象外のままです。
注意点・よくある誤解
制度の仕組みが複雑なため、加算をめぐっては誤解も少なくありません。ここでは特に誤解されやすい2つの点を取り上げます。
加算は必ずしも全額が自分の給与に反映されるわけではない
介護職員等処遇改善加算は、事業所単位で介護報酬に上乗せされる加算であり、職員一人ひとりに機械的に同じ金額が支給される仕組みではありません。前述の月額賃金改善要件やキャリアパス要件を踏まえたうえで、法人・事業所が職種・経験・役職等に応じた配分ルールを定めて賃金改善を行うため、同じ事業所内でも職員によって増加額は異なります。また、加算率が高い区分(新加算I等)を取得している事業所ほど、加算による収入の総額は大きくなりますが、それがそのまま個々の職員の給与増加額の大小に直結するとは限りません。実際の配分は事業所の賃金規程や配分ルールによって決まります。自分の給与にどう反映されているかを知りたい場合は、給与明細の内訳や、事業所が公表している賃金改善計画・実績報告の内容を確認することが、状況を把握する手がかりになります。
非正規・派遣職員も対象になりうる
パート・アルバイトなどの非常勤職員や、派遣労働者として介護職に従事する人も、介護職員等処遇改善加算の配分対象になり得ます。誰にどのように配分するかは事業所の裁量に委ねられており、厚生労働省が公表しているQ&Aでも、非常勤職員や派遣職員の取り扱いについて個別の質問項目が設けられています。雇用形態を理由に一律に対象外とされるものではないため、自分の働き方で加算の対象になるかどうかは、勤務先の事業所や派遣元に確認するのが確実です。就職・転職の面接時や契約更新のタイミングで、加算の配分方針について具体的に質問してみることも、賃金の見通しを立てるうえで参考になります。
まとめ
- 介護職員等処遇改善加算は、令和6年6月に旧3加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)が一本化された介護報酬上の加算で、新加算I〜IVの4区分と経過措置の新加算Vがある
- 加算率はサービス種別・区分ごとに異なり、訪問介護は新加算Iで24.5%(令和8年度改定後は新加算Iイ27.0%・Iロ28.7%)が設定されている
- 対象サービスは令和6年度時点で訪問介護・通所介護・特養等が中心だったが、令和8年度から訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅介護支援等にも拡大される
- 加算額は基本給・手当・賞与の改善に充てる必要があり、月額賃金改善要件I等のルールにより一定割合以上を基本給・毎月の手当に充てることが義務付けられている
- 令和6年度処遇状況等調査では常勤介護職員の基本給等が1年間で11,130円(4.6%)増加した一方、加算取得率は95.5%で、算定していない事業所も一定数存在する
介護保険制度は3年ごとの改定などにより内容が変わることがあります。実際に加算の取得状況や賃金への反映方法を確認する際は、最新の情報を勤務先や検討中の事業所に確認してください。このサイトは特定の施設・事業者の評価や推奨は行わず、公的データにもとづく中立的な情報提供に努めています。運営方針の詳細はこのサイトの立ち位置をご覧ください。