介護保険のレンタル用具のうち、月平均100件以上貸与される商品には、商品ごとに月額の上限があります。ただし、上限は適正価格ではなく、同じ商品でも事業所によって価格は違います。
この上限は平成30年(2018年)10月に始まった仕組みで、商品ごとの全国平均貸与価格と上限額は厚生労働省が公表しています。この記事では、厚生労働省の資料にもとづいて、仕組みと確認方法を整理します。
この記事で分かること
- 上限の算出方法と、見直し・公表の時期
- 上限を超えた場合の扱いと、自己負担・月の限度額との関係
- 最新の上限額の調べ方と、事業所に尋ねたい点
なお、介護保険制度は改定や通知の見直しがありうるため、最新の上限額や対象商品は、必ず厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」ページでご確認ください。
福祉用具貸与の価格上限とは何か
定義と対象範囲
福祉用具貸与は、車いすや特殊寝台などを介護保険でレンタルできるサービスです。サービスそのものの内容は福祉用具貸与とはの記事で整理していますので、ここでは「価格」の面に絞ってお話しします。
価格上限とは、商品ごとに貸与価格の上限を設け、これを超える貸与を保険給付の対象外とする仕組みです。厚生労働省は、運営基準の改正により、平成30年(2018年)10月から商品ごとに全国平均貸与価格を公表し、貸与価格の上限を設定しました。目的は、貸与価格の適正化を図ることと、利用者が適切な福祉用具を選択できるようにすることとされています(厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会資料)。
なぜ上限が設けられたのか
福祉用具の貸与・購入には、介護報酬のような国が定めた公定価格がありません。保険給付は「現に要した費用」を基準に行われ、原則として費用の9割(所得により8割・7割)が給付されます。つまり、事業所が自由に価格を設定できる面があるため、同じ商品でも事業所によって貸与価格に差が生じえます。
上限は、貸与価格の適正化を目的に、商品ごとの全国平均を示し、そこから大きく離れた価格での貸与を抑える仕組みとして導入されました。あわせて、「その商品の相場がどのあたりか」を知る手がかりが、公表資料から得られるようになりました。
よくある誤解
- 上限額は適正価格ではありません:上限は平均に標準偏差を加えた「天井」です。上限以下であっても、事業所によって価格に差があります。
- すべての商品に上限があるわけではありません:月平均100件以上の貸与がある商品が対象で、100件に満たない商品には上限が設定されていません。
- 利用者が上限を計算する必要はありません:上限額は厚生労働省が商品ごとに公表しています。
「全国平均貸与価格+1標準偏差」の算出方法
上限額を決める計算式
上限は、商品ごとに「全国平均貸与価格+1標準偏差(1SD)」で決まります。標準偏差とは、価格のばらつきの大きさを表す統計の指標です。平均に1SD分を足した金額が上限になります。
貸与価格が正規分布(平均を中心に左右対称に分布する形)に従うと仮定すると、平均+1SDは上位約16%に相当します。ただし、この約16%は正規分布を仮定した場合の目安です。上限適用後は、上限を超える貸与は給付対象外となり、平成30年10月貸与分で上限超は0.0%でした。
平均を計算する期間
全国平均貸与価格は、公表前のおおむね3か月間の平均価格を用います。
上限が設定される商品
上限の対象は、月平均100件以上の貸与がある商品です。月平均100件未満の商品には上限が設定されていません。厚生労働省の資料では、令和7年1月1日現在で4,630商品が上限の設定対象とされています(社会保障審議会介護給付費分科会資料)。
商品の特定には、公益財団法人テクノエイド協会が運営する福祉用具情報システム(TAIS)の商品コードが用いられます。種目ごとのコードもあり、同じ商品かどうかを判別する基準になっています。
上限額の見直しと公表のスケジュール
新商品は3か月に1度の公表
新しく貸与の対象となった商品は、3か月に1度のペースで全国平均貸与価格と上限が公表されます。厚生労働省の資料に示された公表実績の例は、次のとおりです。
| 公表時期 | 公表された商品数 |
|---|---|
| 令和6年4月公表(適用は令和6年10月) | 61商品 |
| 令和6年7月公表 | 53商品 |
| 令和6年10月公表 | 75商品 |
| 令和7年1月公表 | 62商品 |
令和7年10月貸与分の新商品の公表については、介護保険最新情報Vol.1379(令和7年4月25日)で周知されています。最新の公表分の内容は、厚生労働省のページで確認してください。
既存商品は3年に1度の見直し
すでに上限が設定されている商品は、3年に1度見直されます。制度開始当初は約1年に1度の見直しでしたが、令和3年4月貸与分から3年に1度となりました。令和6年4月にも上限が改定されました。次回の時期は、厚生労働省のページで確認してください。
公表から適用までの期間
公表は、事業所が価格の準備をする時間を確保するため、適用のおおむね6か月前に行われます。令和6年4月公表分が令和6年10月に適用された例が、これに当たります。
また、令和6年度の介護報酬改定に向けた審議報告では、貸与価格が上昇している実態を半年に1度程度把握すべきとされました。今後も運用が見直される可能性があるため、最新の情報は厚生労働省のページで確認できます。
3つの周期を図にまとめました。
導入後の変化と現在の状況
導入前後の比較
厚生労働省の資料(令和2年6月の社会保障審議会介護給付費分科会)では、上限の導入前後について次の数字が示されています。
| 項目 | 導入前(平成29年10月貸与分) | 導入後(平成30年10月貸与分) |
|---|---|---|
| 上限を超える貸与 | 約61万レコード | 0.0% |
| 超過額の総額 | 約3.4億円(貸与額総額の約1.5%) | 資料では確認できませんでした |
上限と同額の請求があった商品
一方で、上限額と同額で請求された商品も報告されています。令和6年4〜6月の貸与では、上限と同額の請求があった商品が160件あり、全4,206件の3.8%でした。令和5年4〜6月は155件(3.7%)でした(社会保障審議会介護給付費分科会 第244回資料)。
この160件の内訳は、自社製品・輸入品が90件(56%)、OEM(他社が製造した製品を自社ブランドで販売するもの)が52件(33%)、不明が18件(11%)です。
数字の読み方
上限と同額の請求があった商品が160件(3.8%)あったことだけでは、価格が高いとは断定できません。
利用者にとって大切なのは、上限額に近いかどうかだけでなく、同じ商品で複数の事業所の見積もりを比べ、サービス内容も含めて判断することです。
上限を超えた場合の扱いと利用者の負担
上限を超える貸与は保険給付の対象外
上限を超える価格での貸与は、保険給付の対象外とされています。また、同じ商品で商品コードが変わった場合でも、上限は引き続き適用されます。
一方で、上限を超えた分を利用者が負担することになるのか、事業所が請求できるのかは、今回確認した資料では分かりませんでした。見積書の月額が上限を超えているときは、事業所、担当のケアマネジャー、お住まいの市町村の窓口に確認してください。
自己負担の考え方
福祉用具の貸与の自己負担は、原則として費用の1割で、所得に応じて2割または3割です。仮に月額の貸与価格が上限以内であっても、その1〜3割が毎月の自己負担となります。
また、福祉用具貸与の費用は、居宅サービスの区分支給限度基準額に含まれます。図4は要介護度ごとの月額です(介護サービス情報公表システム掲載の月額の目安。地域区分等の扱いは担当ケアマネジャーに確認してください)。限度額を超えた分は全額自己負担になります。これは価格上限とは別の、サービス全体の月の枠です。
事業所による価格差
上限以下であっても、事業所ごとに価格には差があります。介護サービス情報公表システムでは、車いすの月額例として、次のような価格帯の違いが示されています。
| 事業所 | 月額の例 |
|---|---|
| A事業所 | 400〜6,000円 |
| B事業所 | 300〜3,000円 |
価格以外にも、キャンセル時の費用の徴収や交通費の扱いが事業所ごとに異なります。比べるときは、同じ商品で、諸費用込みで比べます。見積書の段階で、月額のほかに諸費用がないかを確認してください。
最新の上限額を確認する方法
厚生労働省ページで調べる
商品ごとの全国平均貸与価格と上限は、厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」のページで公表されています。あわせて、テクノエイド協会のページにも掲載されています。車いすや特殊寝台などの具体的な上限額は、このページで商品名から探せますので、本記事では金額を載せていません。
ページは随時更新されるため、記事を読んだ時点の情報が最新とは限りません。次の流れで調べます。
- 事業所から提示された見積書や貸与計画書で、商品名・型番を確認する
- TAISの商品コードが分かれば、あわせて控えておく
- 厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」ページから、公表されている上限額の一覧を開く
- 商品名・型番をもとに、該当商品の全国平均貸与価格と上限額を探す
- 見積書の月額が上限を超えていないか、また他の事業所の価格とどの程度違うかを見る
TAISの商品コードの見方
TAIS(福祉用具情報システム)はテクノエイド協会が運営しており、商品ごとに商品コードと種目コードが付いています。事業所の書類にコードの記載があれば、公表資料と照らし合わせやすくなります。コードが分からないときは、福祉用具専門相談員に尋ねてください。
事業所に説明を求める
福祉用具専門相談員には、利用者への説明の義務があります。平成30年1月の社会保障審議会の資料では、次のような内容が示されています。
- 商品の特徴と貸与価格に加えて、全国平均貸与価格を説明すること
- 機能や価格帯の異なる複数の商品を提示すること
- 福祉用具貸与計画書を、ケアマネジャーにも交付すること
介護サービス情報公表システムの福祉用具貸与のページにも、同趣旨の説明があります。提案が1商品だけだったり、全国平均貸与価格の説明がなかったりした場合は、複数の商品の提示や説明を依頼できます。
貸与と販売の選択制と価格上限の関係
選択制の概要
価格上限は貸与の仕組みです。そのため、貸与と販売を選べる用具では、選択制も費用を考える材料になります。
令和6年4月から、一部の福祉用具では、貸与と特定福祉用具販売(購入)のどちらかを選べる選択制が導入されました。対象は、次の3種目です。
- 固定用スロープ
- 歩行器(歩行車を除く)
- 歩行補助つえ(松葉づえを除く。カナディアン・ロフストランド・プラットホームクラッチ・多点杖)
目的は、利用者の負担軽減、制度の持続可能性の確保、そして適時適切な利用と安全の確保とされています。貸与と販売の違いについては特定福祉用具販売とはの記事も参考にしてください。
手すりは選択制の対象外
手すりは選択制の対象ではなく、これまでどおり貸与のみです。
上限は貸与にだけ適用される
価格上限は貸与の仕組みであり、販売には適用されません。販売の場合は、年間10万円が原則の支給限度基準額となります。貸与か販売かを選べる用具では、長く使うほど、月ごとの貸与料の積み重ねと購入費用のどちらが負担になるかを、あらかじめ考える必要があります。
令和6年8月の判断基準の通知(老高発0802第2号、介護保険最新情報Vol.1296)では、貸与か販売かを選べることを利用者に十分に説明すること、医師や専門職の意見、身体の状況を踏まえて提案することが求められています。
選択制対象用具のモニタリング
選択制の対象となる用具を貸与で使う場合、利用開始から6か月以内に、少なくとも1回モニタリング(使用状況の確認)を行うこととされています。このモニタリングは選択制の対象用具に限られ、すべての貸与用具に一律に求められるものではありません。
専門相談員とケアマネジャーの役割
価格や商品の選び方は、専門相談員とケアマネジャーに相談しながら決めていきます。ここでは、それぞれの役割を整理します。
福祉用具専門相談員とは
福祉用具専門相談員は、本人の希望、心身の状況、住環境を踏まえて福祉用具を選び、適合や助言を行う専門職です。指定された事業所には、常勤換算で2名以上を配置する義務があります。資格や役割については、別の記事(福祉用具専門相談員とは)でも整理しています。
ケアマネジャーの位置づけ
ケアマネジャーは、福祉用具を居宅サービス計画(ケアプラン)に位置づける際に、判断基準を活用します。軽度者(要支援・要介護1)の車いす、特殊寝台などは、原則として給付の対象外とされています。該当するかどうか、例外的に給付されるかどうかは、市町村やケアマネジャーに確認してください。詳しくは福祉用具貸与の例外給付とはの記事をご覧ください。
家族ができること
家族は、本人の状態の変化や、住まいで困っていること(段差、立ち上がり、移動など)を、専門相談員やケアマネジャーに具体的に伝えることができます。価格の話をするときも、「この商品でなければ困るのか」「他に機能の違う選択肢はあるか」を一緒に確認すると、納得感のある選び方につながります。
注意点とよくある失敗
上限額と適正価格を混同しない
上限額は、全国平均+1SDという統計上の天井です。上限以内でも、事業所の価格が低いとは限りません。
見積もり時に確認したい項目
- 月額の貸与料と、全国平均貸与価格・上限額との関係
- キャンセル時の費用や交通費などの諸費用
- 機能や価格帯の異なる複数の商品を提示してもらえたか
- 選択制の対象用具の場合、貸与と販売の両方の説明があったか
- 福祉用具貸与計画書がケアマネジャーにも共有されるか
制度改定の可能性
介護保険の制度は改定されうるもので、価格上限の運用も審議のなかで見直されうる仕組みです。見直しの頻度や対象商品、公表の時期などが変わることもあります。この記事の内容は、執筆時点の厚生労働省の資料にもとづいています。最新の上限額や運用は、厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」ページや、お住まいの市町村、担当のケアマネジャーでご確認ください。
まとめ
福祉用具貸与の価格上限について、要点を振り返ります。
- 価格上限は、商品ごとに「全国平均貸与価格+1標準偏差」で決まり、月平均100件以上貸与される商品が対象です。平成30年10月に始まりました。
- 上限を超える貸与は保険給付の対象外です。新商品は3か月に1度公表、既存商品は3年に1度見直され、公表から適用までおおむね6か月です。
- 上限は適正価格ではなく、上限以下でも事業所ごとに価格差があります。同じ商品で、諸費用込みで比べましょう。
- 自己負担は原則1割で、所得により2割または3割です。月の限度額の中で、他のサービスと合算されます。
- 貸与と販売の選択制は、固定用スロープ・歩行器・歩行補助つえの3種目で、価格上限は貸与にのみ適用されます。
- 商品選びや見積もりは、福祉用具専門相談員とケアマネジャーに相談できます。最新の上限額は厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」ページで確認してください。
この記事の編集方針や考え方はサイトの立ち位置もご覧ください。