成年後見制度の費用は、大きく「申立てのときに一度だけかかる費用」と「後見人等が就任している間、毎年かかる報酬」の2つに分かれます。東京家庭裁判所の手引(令和7年4月)によれば、後見開始の申立てに必要な収入印紙と郵便切手は合計7,400円で、これに診断書の作成料などが加わります。一方、報酬は家庭裁判所が審判で決めるもので、大阪家庭裁判所が公表しているめやすでは成年後見人の基本報酬は月額2万円です。ここでは各費用の根拠と、払えないときの助成制度までを整理します。
成年後見制度の費用は全体でいくらかかるか
まず、全体像をつかむためにモデルケースで見てみます。「80代の親、預貯金は500万円ほど、施設入所の契約のために後見開始を申し立てる」という、介護の現場でよくある状況を想定した場合の費用は次のようになります。
| タイミング | 費目 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 申立て時(1回だけ) | 収入印紙(申立手数料800円・登記手数料2,600円)+郵便切手4,000円 | 合計 7,400円 |
| 診断書の作成料/登記されていないことの証明書 | 診断書は医療機関により異なる/証明書は300円 | |
| 必要と判断された場合のみ | 鑑定費用 | 10〜20万円程度(ただし実施される割合は約3.4%) |
| 就任中(毎年) | 成年後見人への基本報酬 | 月額2万円=年額24万円 |
このケースの初年度の負担は、概算で約25万円です(申立て時の手続費用7,400円+診断書の作成料+報酬の目安 年額24万円)。2年目以降も、報酬として年額24万円程度が本人の財産から支出され続けます。なお、預貯金500万円という水準は、後述するとおり専門職が後見人として関与しやすい水準にあたります。家族が無報酬で務めることを前提にした計算は、この規模の財産があると崩れやすい点に注意してください。
金額の出典は、申立て費用が東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」(令和7年4月)、鑑定の実施率が最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」、報酬が大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和7年4月)です。あくまで目安であり、実際の額は本人の財産額・後見人が行う事務の量・管轄の家庭裁判所によって変わります。
「申立て時の一時費用」と「毎年かかる報酬」の2階建て
この表からわかるとおり、成年後見制度の費用は2階建ての構造をしています。
- 1階:申立て時の一時費用……収入印紙(申立手数料・登記手数料)、郵便切手、診断書作成料、登記されていないことの証明書、必要な場合は鑑定費用。申立ての準備時に1回だけ発生します。
- 2階:継続的にかかる報酬……後見人等への報酬、監督人が選任された場合はその報酬。就任している間、原則として毎年発生します。
1階の一時費用は、後見開始の場合で1万円に届かない水準です。金額そのものが家計を圧迫することは多くありません。
負担として重いのは2階の報酬のほうです。大阪家庭裁判所のめやすにある月額2万円は、年額にすれば24万円。制度は原則として本人が亡くなるまで続くため、たとえば80歳で利用を開始して90歳まで存命であれば、合計で240万円ほどが本人の財産から支出される計算になります。ただし報酬額は毎年の審判で決まり、財産額や事務量によって変わるため、これはあくまで単純計算の目安です。それでも「申立てに数万円かかる制度」ではなく「毎年数十万円が継続的にかかる制度」と捉えたほうが、実態に近い理解といえます。
費用を負担するのは誰か
負担者は1階と2階で考え方が異なります。2階の報酬は、家庭裁判所が審判で額を決め、本人(被後見人等)の財産から支払われます。申立てをした子が自分の収入から払い続けるわけではありません。実務上どのように支払われるかは、後述の「報酬は本人の財産から支払われる」で詳しく取り上げます。
1階の一時費用は、法律上は原則として申立人の負担です。ただし家庭裁判所の裁量で本人負担とすることもでき、東京家庭裁判所のようにその運用をとっている裁判所もあります。この点も後述の「手続費用の負担者は裁判所が判断する」で扱います。なお診断書の作成料は手続費用に含まれず、原則として申立人の負担です。
成年後見制度の基本と介護との関わり
費用の内訳に入る前に、制度の枠組みを確認しておきます。どの類型を選ぶかによって申立ての手数料も報酬の考え方も変わるため、ここを飛ばすと金額の比較ができません。成年後見制度は、すでに判断能力が低下してから使う「法定後見」と、低下する前に備えておく「任意後見」に分かれます。
法定後見の3類型(後見・保佐・補助)
法定後見は、本人の事理弁識能力(物事を判断する能力)の程度に応じて3つの類型に分かれます。
| 類型 | 本人の判断能力 | 支援者の主な権限 | 利用者数(令和7年12月末) |
|---|---|---|---|
| 補助 | 不十分 | 補助人が、特定の行為について代理権を持つ。個別に定めた事項について同意権(本人が契約などをするとき支援者の同意を必要とする権限)と取消権(同意なく行われた契約を後から取り消せる権限)を持つ | 18,078人 |
| 保佐 | 著しく不十分 | 保佐人が、個別に定めた行為について代理権を持つ。借財や不動産の処分など法律で定められた重要な財産行為について取消権を持つ | 58,162人 |
| 後見 | 欠く常況(ほとんど判断ができない状態が続いていること) | 成年後見人が、財産に関する法律行為について包括的な代理権を持つ | 180,828人 |
類型の定義と権限は法務省、利用者数は最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によります。これに任意後見の2,833人を加えた合計は259,901人で、前年の253,941人から2.3%増えました。権限が広いほど本人の行為能力への制約も大きくなるため、必要最小限の類型を選ぶのが制度の建前ですが、実際の利用は後見に大きく偏っています。
開始の原因で最も多いのは認知症で61.3%を占め、知的障害9.6%、統合失調症9.3%と続きます。本人の年齢は、女性の63.1%、男性の34.5%が80歳以上です(同概況)。介護の現場と重なる層が制度の中心的な利用者だとわかります。
任意後見との違い
任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来支援してもらう人(任意後見受任者)と支援の内容をあらかじめ契約で決めておく仕組みです。契約は公証人が作成する公正証書で結ぶ必要があります。
ただし、契約を結んだだけでは効力が生じません。本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力が発生します(厚生労働省「成年後見はやわかり」)。この監督人には報酬が発生するため、任意後見を選んでも継続的なコストは必ず生じます。金額の詳細は後述の「任意後見を選んだ場合の費用」で扱います。
申立ての45.7%に介護保険契約が関わっている
成年後見制度が介護と深く結びついていることは、申立ての動機の統計に表れています。次のグラフは、令和7年の終局事件42,674件を母数とした複数回答の集計です。
申立ての半数近くに介護保険契約が関わっているという数字は、「施設や在宅サービスの契約を本人に代わって結ぶ必要が生じたため、やむを得ず制度を使い始めた」という典型的な流れを裏づけています。施設入所時に求められる身元保証の問題とも関連が深いため、介護施設の身元保証人について解説した記事もあわせて確認してください。後見人は身元保証人と役割が異なり、後見人が就いたからといって身元保証人が不要になるとは限りません。
申立てにかかる費用の内訳
ここからは1階部分、申立て時の一時費用を項目ごとに見ていきます。以下の金額は東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」(令和7年4月)に基づくもので、裁判所ごとに異なる部分があります。
収入印紙(申立手数料・登記手数料)
申立てには、申立手数料としての収入印紙と、登記手数料としての収入印紙の2種類が必要です。登記手数料は類型を問わず一律2,600円ですが、申立手数料は求める権限の内容によって変わります。
| 申立ての内容 | 申立手数料(収入印紙) | 郵便切手 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 後見開始 | 800円 | 4,000円 | 7,400円 |
| 保佐開始(のみ) | 800円 | 5,000円 | 8,400円 |
| 保佐開始+代理権付与 | 1,600円 | 5,000円 | 9,200円 |
| 保佐開始+代理権付与+同意権の拡張 | 2,400円 | 5,000円 | 10,000円 |
| 補助開始+代理権付与 | 1,600円 | 5,000円 | 9,200円 |
| 補助開始+同意権付与 | 1,600円 | 5,000円 | 9,200円 |
| 補助開始+代理権付与+同意権付与 | 2,400円 | 5,000円 | 10,000円 |
合計欄には、どの類型にも共通してかかる登記手数料の収入印紙2,600円を含めています。後見開始は包括的な代理権が付与されるため申立手数料が800円で済みますが、保佐・補助では必要な代理権や同意権を個別に求めるため、その分だけ手数料が積み上がる仕組みです。それでも合計は最大で1万円であり、この段階の金額は大きくありません。
郵便切手(連絡用郵券)
裁判所が親族への意向照会や審判書の送達などに使う郵便切手を、申立ての際にあらかじめ納めます。東京家庭裁判所では後見開始で4,000円、保佐・補助開始で5,000円です。
気をつけたいのは、必要な額も、内訳となる切手の種類・枚数も、納付の方法も裁判所ごとに異なるという点です(裁判所「後見開始」)。現金を保管金として電子納付できる裁判所もあります。書類を準備する前に、管轄の家庭裁判所のウェブサイトで最新の一覧を確認するか、窓口に問い合わせてください。使われなかった分は手続終了後に返還されます。
診断書・登記されていないことの証明書
申立てには、本人の判断能力について医師が作成した診断書(成年後見制度用)の提出が必要です。この診断書の作成料は手続費用に含まれず、原則として申立人が負担します。金額は医療機関によって異なり、裁判所は具体額を公表していません。かかりつけ医や主治医に見積もりを確認してください。
診断書とあわせて、本人の生活状況や支援の実態を医師に伝えるための「本人情報シート」を提出する運用があります。このシートは、ケアマネジャーやケースワーカーなど本人の状況をよく知る福祉関係者に作成を依頼します(東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」令和7年4月)。
もうひとつ必要なのが「登記されていないことの証明書」です。本人がまだ成年後見等の登記を受けていないことを証明する書類で、東京法務局後見登録課などで取得します。手数料は収入印紙300円です。
手続費用の負担者は裁判所が判断する
では、ここまでの費用は最終的に誰が負担するのでしょうか。申立て時に収入印紙や郵便切手を納めるのは申立人ですから、いったんは申立人が実際に支出します。その後、誰が最終的に負担するかを家庭裁判所が判断します。法律上は原則として申立人の負担ですが、裁判所の裁量で本人負担とすることができる建て付けです。
東京家庭裁判所では、申立手数料・登記手数料・裁判所が使用した郵便切手・鑑定費用について、後見等開始の審判をする際に本人負担とする裁判をする運用がとられています。この場合、申立人は審判が確定した後、選任された後見人等に対して本人の財産からの償還を求めることができます(東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」令和7年4月)。流れとしては、申立人が数千円から1万円程度を立て替え、審判確定後に本人の財産から返してもらう、というイメージです。
これは東京家庭裁判所の運用であり、全国一律ではありません。どの費用を誰の負担とするかは各家庭裁判所の判断によるため、申立てを検討している管轄の家庭裁判所に必ず確認してください。また診断書の作成料はこの手続費用に含まれないため、原則として申立人の負担のままである点にも注意が必要です。
鑑定費用は本当にかかるのか
費用を調べていて最も不安になるのが鑑定費用でしょう。10万円から20万円という金額が示されることが多いためです。しかし統計を見ると、実際に鑑定が行われるケースは例外的です。
鑑定費用の目安は10〜20万円
鑑定とは、本人の判断能力について医師が医学的に判定する手続です。東京家庭裁判所の手引は「鑑定には、10〜20万円程度の費用がかかります」と明記しており、後見・保佐の場合は法律上、原則として鑑定が必要であるとも記しています。
制度上は鑑定が原則である、というのがここまでの話です。ただし実際の運用は、次の項で見るとおりこれとは大きく異なります。なお鑑定が行われた場合の期間は、1か月以内が52.6%、1か月超2か月以内が36.8%となっています(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」)。
実際の鑑定実施率は3.4%
令和7年に実際に鑑定が実施された事件の割合は、約3.4%でした(同概況)。前年は約3.8%で、実施率は低下傾向にあります。100件の申立てのうち96件以上は、鑑定を行わずに診断書や本人調査などの資料で判断されているということです。
診断書や本人情報シートの記載が充実し、鑑定を要しないと裁判所が判断できるケースが大半になっているためと考えられます。したがって「成年後見の申立てには必ず鑑定費用がかかる」という理解は実態と異なります。ただし実施するかどうかを決めるのは家庭裁判所であり、申立人が選べるものではありません。判断能力の程度に争いがある場合などには、鑑定が命じられる可能性があります。
鑑定費用の実際の分布
鑑定が実施された場合でも、費用が20万円に達するケースはまれです。
10万円以下に85.8%が収まり、15万円を超えるのは合計で約1.2%、20万円を超えるのは0.1%にとどまります。東京家庭裁判所の手引にある「10〜20万円程度」という記載は上限を含んだ目安であり、実際の中心帯は10万円以下だと理解しておくとよいでしょう。
資金計画としては、鑑定が命じられる確率が約3.4%と低いこと、命じられても多くは10万円以下に収まることを踏まえ、「万一に備えて10万円程度を見ておく」という組み立てが現実的です。ただし実施の有無も費用額も家庭裁判所が判断するため、確実な見込みが必要な場合は管轄の家庭裁判所にご確認ください。
後見人等への報酬の決まり方と目安
ここからが2階部分、長期的に効いてくる報酬の話です。報酬は当事者同士の契約で決めるものではなく、家庭裁判所が審判で決定します。
家庭裁判所が審判で決める仕組み
民法862条に基づき、後見人等が「報酬付与の申立て」を家庭裁判所に行い、家庭裁判所が審判で報酬額を決定します(裁判所「報酬の付与」)。報酬付与の申立てとは、後見人が家庭裁判所に報酬を請求する手続きのことで、家族が毎年行うものではありません。申立てには収入印紙800円と郵便料がかかりますが、これは通常、後見人等が本人の財産から支出します。
押さえておきたいのは、報酬額の基準が法律で定まっていないという点です。裁判官が、後見人等が行った事務の内容、本人の財産の内容や規模などを総合的に考慮し、裁量で算定します。そのため事前に金額を確定させることはできず、「めやす」と「実績の分布」から見当をつけるしかありません。
では、実際に誰が後見人になっているのか。令和7年の統計では、後見人等と本人の関係は親族が7,014件(16.4%)、親族以外が35,718件(83.6%)です。親族以外の内訳は次のとおりです。
| 属性 | 件数 | 親族以外に占める割合 |
|---|---|---|
| 司法書士 | 11,966件 | 33.5% |
| 弁護士 | 8,903件 | 24.9% |
| 社会福祉士 | 7,280件 | 20.4% |
| その他法人 | ― | 8.2% |
| 行政書士 | ― | 6.3% |
| 社会福祉協議会 | ― | 4.5% |
| 市民後見人 | 390件 | 1.1% |
「―」は件数が公表されていない項目です。割合は親族以外35,718件に占める割合で、出典は最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」。なお親族の内訳は、子52.0%、その他親族18.9%、兄弟姉妹15.0%、配偶者7.5%、親6.6%となっています。8割以上が親族以外である以上、報酬が発生するケースが大半だと考えておくのが現実的です。
大阪家庭裁判所が公表している報酬額のめやす
報酬額について具体的な数字を公表している例として、大阪家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(令和7年4月)があります。管理財産額(預貯金・有価証券等の流動資産の合計)に応じて、基本報酬の水準が示されています。
成年後見人の基本報酬は月額2万円が出発点で、管理財産額が1,000万円超5,000万円以下なら月額3万〜4万円、5,000万円超なら月額5万〜6万円とされています。継続的な財産管理権が付与された保佐人・補助人についても同様の考え方がとられます。複数の後見人等が選任されている場合は、それぞれが分掌する事務の内容に応じて按分されます。
なお、東京家庭裁判所の報酬めやすは現在公表されていません。ここで示したのは大阪家庭裁判所が公表している基準であり、他の家庭裁判所が同じ基準で運用しているとは限らない点に注意してください。
最高裁の報酬実情調査でわかる実際の付与額
めやすとは別に、実際にいくらの報酬が付与されているかを集計した資料もあります。最高裁判所事務総局家庭局「報酬に関する実情調査の集計結果(令和7年7月〜12月)」は、102,466件(成年後見人66,111件、保佐人23,320件、補助人6,885件、監督人4,793件、任意後見監督人1,357件)を対象とした集計で、「成年後見制度の利用者にとって、報酬付与額の予測可能性が高まることを目指す」ことを目的に公表されました。数値は報酬付与の対象期間おおむね12か月、すなわち年額ベースです。
| 本人の流動資産額 | 親族が後見人の場合 | 親族以外(専門職等)の場合 |
|---|---|---|
| 100万円未満 | 20万円台(56.6%) | 20万円台(73.9%) |
| 100万〜500万円未満 | 20万円台(63.0%) | 20万円台(80.2%) |
| 500万〜1,000万円未満 | ― | 20万円台(80.6%) |
| 1,000万〜5,000万円未満 | 30万円台(30.6%) | 30万円台(54.0%) |
| 5,000万〜1億円未満 | ― | 50万円台(50.3%) |
| 1億円以上 | ― | 70万円台(70万円以上80万円未満、43.0%) |
「―」は該当する数値が公表されていない区分です。この表を読むときは、親族と親族以外で数字の意味が違う点に注意してください。本人の流動資産が1,000万円未満の場合、年額20万円台に収まるのは、親族以外(専門職等)が後見人のときは7割から8割(73.9%・80.2%・80.6%)ですが、親族が後見人のときは5割から6割台(56.6%・63.0%)にとどまります。つまり親族が後見人の場合のほうが、付与額のばらつきが大きいということです。
いずれの場合も、資産が大きくなるほど報酬も上がります。1,000万〜5,000万円未満では30万円台が最多階層となり、親族以外では1億円以上で70万円台が最多です。介護が必要になった高齢の親の預貯金が数百万円規模であるケースが多いことを踏まえると、多くの家庭では年額20万円台から30万円台が現実的な見込みといえます。
監督人が選任された場合の報酬
後見人等とは別に、その事務を監督する監督人が選任されることがあります。この場合、監督人への報酬が後見人等の報酬とは別に発生します。
大阪家庭裁判所のめやすでは、成年後見監督人等の基本報酬は、管理財産額5,000万円以下で月額1万〜2万円、5,000万円超で月額2万5,000円〜3万円とされています。この水準は保佐監督人・補助監督人、そして任意後見監督人についても同様とされています。
監督人が選任される頻度は、令和7年に認容で終局した後見・保佐・補助開始事件39,860件のうち1,375件(3.4%)です。内訳は弁護士726件(52.8%)、司法書士474件(34.5%)、社会福祉協議会121件(8.8%)でした(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」)。頻度としては高くありませんが、選任されれば後見人報酬と合わせて年額40万円を超える負担になる可能性があります。
報酬は本人の財産から支払われる
審判で決まった報酬は、本人の財産から支払われます(裁判所「報酬の付与」)。申立人である子や配偶者が自分の収入から支払う必要はありません。「後見人を頼むと自分が毎年20万円払うことになる」という誤解は、ここで解いておいてください。
「親の口座は凍結されているのに、どうやって払うのか」と疑問に思う方も多いところです。後見人が選任されると、後見人は本人名義の預貯金口座を管理できるようになります。報酬も、本人の生活費や施設利用料も、後見人がその口座から支払います。凍結状態を解消すること自体が、制度を利用する目的のひとつでもあります。
ただし裏を返せば、本人の財産が毎年着実に減っていくということでもあります。年金収入と施設利用料がほぼ拮抗しているような場合、報酬の分だけ預貯金の取り崩しが早まります。本人の財産がごくわずかで報酬を払う余力がないときは、後述する市区町村の助成制度を検討することになります。生活保護を受給している場合の介護サービス費の扱いについては、介護扶助の仕組みを解説した記事もあわせて参照してください。
家族が後見人になって費用を抑えられるか
「子である自分が後見人になれば、報酬はかからないのではないか」。費用を調べている方が最初に考えるのがこの方法です。理屈としては成り立ちますが、実現するかどうかは家庭裁判所の判断次第で、財産額によっては専門職の関与が避けられない場合もあります。ここで論点を整理します。
親族が選任される割合は16.4%
先に見た16.4%という数字だけを見ると、「親族はほとんど選ばれない」と感じられるかもしれません。
ただし同じ統計には、申立書に親族を候補者として記載した事件の割合は約19.7%で、80.3%は親族候補者なしでの申立てだった、という数字もあります(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」)。選任割合16.4%の母数は選任された後見人等42,732件、候補者記載19.7%の母数は申立件数であり、母数が異なるため単純な比較はできません。それでも、親族を候補者に挙げた申立てが2割弱にとどまることが、親族の選任割合の低さの背景にあると考えられます。親族を希望しても全く選ばれない、というわけではありません。
申立人の内訳(母数42,829)を見ると、本人24.8%(10,620件)、市区町村長23.7%(10,139件)、子18.5%(7,929件)、兄弟姉妹10.6%、その他親族10.3%、親5.1%、配偶者4.0%となっています。身寄りがないなどの理由で市区町村長が申し立てるケースが約4分の1あり、こうした事案では親族候補者が存在しません。
専門職が選任されやすいケース
親族を候補者にしても専門職が選任されやすいのは、本人の財産が一定以上ある場合です。東京家庭裁判所では、流動資産額が500万円以上ある後見開始事件について後見制度支援信託・支援預貯金の利用を検討することがあり、利用に適すると判断した事案では原則として専門職が関与し、その報酬が発生します(東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」令和7年4月)。
これは東京家庭裁判所の運用であり、全国一律ではありません。管轄の家庭裁判所がどのような取扱いをしているかは個別にご確認ください。いずれにせよ、預貯金が数百万円を超える場合には「親族が無報酬で務めるから費用ゼロ」という想定が成り立たない可能性がある、と見ておくのが安全です。
後見制度支援信託・支援預貯金で増える費用
いま触れた後見制度支援信託・後見制度支援預貯金とは、日常の生活費や施設利用料は手元の口座に残したうえで、当面使わない大きな金額を信託銀行等に別に預けておく仕組みです。預けた分の払戻しには家庭裁判所の指示書が必要になります。後見人による財産の不正な流出を防ぐために設けられた制度で、財産が大きいほど利用が検討されやすくなります。
費用の面で押さえておきたいのは、この仕組みの利用に適すると判断された事案では、原則として専門職が関与して報酬が発生するという点です。親族が後見人になるつもりで申し立てても、財産額によっては専門職の報酬が生じます。
さらに、この仕組みは後見類型でのみ利用でき、保佐・補助の類型では使えません。そのため保佐・補助で一定額以上の財産がある場合には、監督人の選任が一般的な対応となり、結果として監督人報酬が別途発生します。監督人の報酬額は先に見たとおり、管理財産額5,000万円以下で月額1万〜2万円が大阪家庭裁判所のめやすです。
親族が後見人になった場合の報酬
親族が後見人に選任された場合、報酬付与の申立てをしないことも可能です。申立てをしなければ報酬は発生せず、本人の財産が報酬で減ることもありません。実際、親族が後見人を務めながら無報酬で続けているケースは少なくないと考えられます。
一方で、親族が報酬付与を申し立てることもできます。前掲の最高裁の実情調査で親族の後見人についても報酬額の分布が集計されているのは、そのためです。財産管理や事務の負担が大きい場合、報酬を受け取るという選択も制度上は認められています。
ただし大前提として、誰を後見人に選任するかを決めるのは家庭裁判所です。申立書に記載した候補者が必ず選任されるとは限らず、その判断に対して不服を申し立てることもできません。「親族が無報酬で務める」という前提で資金計画を立てると、専門職が選任されたときに計画が崩れます。報酬が発生する場合も想定した見積もりを、申立て前に立てておいてください。
費用を払えないときに使える支援制度
本人の財産が乏しく、申立費用も報酬も負担できないというケースは珍しくありません。そのための公的な支援として、市区町村の成年後見制度利用支援事業と、法テラスの民事法律扶助があります。
市区町村の成年後見制度利用支援事業
成年後見制度利用支援事業は、低所得の高齢者・知的障害者・精神障害者に対して、申立費用や後見人等への報酬を助成する市町村の事業です。第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年3月25日閣議決定、令和4年度から令和8年度までの5か年)に基づいて実施が進められています。
厚生労働省の事務連絡(令和4年10月17日)は、この事業の「適切な実施」とは少なくとも次の3つを含むものだと明記しています。
- 市町村長申立て以外の、本人申立て・親族申立てについての申立費用および報酬
- 生活保護受給者以外の低所得者についての申立費用および報酬
- 後見等監督人が選任される場合の報酬
かつては市町村長申立てのケースに限って助成する自治体が少なくありませんでしたが、対象を広げる方向で整理されてきました。実施状況は次のとおりです。
(1)実施自治体数と助成範囲(令和7年4月1日時点・全1,741市区町村)
- 高齢者を対象とした助成制度がある自治体:1,699
- うち申立費用と報酬の両方を助成:1,622(93.2%)
- 申立費用のみ:9/報酬のみ:68
- 助成制度がない自治体:42(2.4%)
(2)助成対象となる申立ての種類(高齢者関係・令和7年度)
- 市町村長申立て:1,695自治体
- 本人申立て:1,290自治体
- 親族申立て:1,253自治体
(3)資力要件
- 「生活保護のみ」を対象とする自治体:20
- 「広く低所得者」を対象とする自治体:1,679
(4)令和6年度の助成実績
- 高齢者関係:申立費用助成4,451件/報酬助成18,011件
- 障害者関係:申立費用助成1,115件/報酬助成7,715件
出典は厚生労働省「令和7年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要版)」(令和8年4月公表)です。市町村長申立てだけでなく本人申立て・親族申立ても対象とする自治体が7割を超え、資力要件も「広く低所得者」とする自治体が大半を占めています。生活保護を受給していなくても対象になる可能性がある、という点は覚えておいてください。
助成の上限額・対象者は自治体により異なる
助成の上限額や対象者の要件は自治体ごとに定められており、内容は一律ではありません。具体例として、京都市と大阪市の制度を挙げます。
| 項目 | 京都市 | 大阪市 |
|---|---|---|
| 報酬助成の上限(在宅) | 月額28,000円 | 月額28,000円以内 |
| 報酬助成の上限(施設入所) | 月額18,000円 | 月額18,000円以内 |
| 対象経費(申立費用) | 申立手数料・登記手数料・郵便切手代・診断書料・鑑定費用 | ― |
| 主な対象者 | 生活保護受給者、中国残留邦人等支援給付受給者、市民税非課税世帯で預貯金が一定額以下の者等 | 生活保護受給者またはそれに準じる要保護者 |
| 申請期限 | ― | 報酬付与審判から3か月以内 |
(京都市・大阪市の公表資料より。2026年9月時点。「―」は、この比較表の作成にあたって内容を確認できなかった項目です)
注目したいのは2点です。ひとつは、在宅と施設入所で上限額が異なること。もうひとつは、大阪市のように申請期限が定められている場合があることです。報酬付与の審判が出てから3か月以内に申請しなければ助成を受けられない運用があるため、後見人等と連携して手続の時期を把握しておく必要があります。上限額の水準は自治体によって幅があり、大阪家庭裁判所のめやすの基本報酬(月額2万円)に近い水準を設定している自治体もあります。お住まいの市区町村の制度内容・上限額・申請手続については、必ず担当窓口にご確認ください。
法テラスの民事法律扶助(費用の立替)
民事法律扶助とは、収入が少ない人が弁護士・司法書士に依頼する費用を、法テラス(日本司法支援センター)が一時的に立て替える制度です。援助の種類は、無料で法律相談を受けられる「法律相談援助」、弁護士・司法書士の費用を立て替える「代理援助」、裁判所に提出する書類の作成費用を立て替える「書類作成援助」の3類型です。
利用するには、次の3つの条件を満たす必要があります。
- 収入・資産が資力基準以下であること
- 勝訴の見込みがないとはいえないこと
- 民事法律扶助の趣旨に適すること
| 区分 | 東京都特別区・大阪市等の高額地域 | その他の地域 |
|---|---|---|
| 手取月収の基準 | ||
| 単身 | 200,200円以下 | 182,000円以下 |
| 2人家族 | 276,100円以下 | 251,000円以下 |
| 1人増えるごとの加算 | +33,000円 | +30,000円 |
| 資産の基準(地域による差なし) | ||
| 単身 | 180万円以下 | |
| 2人家族 | 250万円以下 | |
(日本司法支援センター(法テラス)公表資料。2026年9月時点)
資産の基準には現金・預貯金・不動産・有価証券が含まれます。なお、この収入・資産が誰のものを指すのか(本人か、申立てをする家族か)を含め、具体的な当てはめは事案によって異なるため、必ず法テラスに直接ご確認ください。
立て替えられた費用は分割で返済しますが、無利息です。生活保護を受給している場合は援助が終結するまで償還が猶予される場合があり、すべての援助事件が終結した後に「償還免除申請書」を提出することもできます。具体的にいくら立て替えてもらえるかは事案によって異なり、法テラスの公表資料でも一律の金額は示されていません。
成年後見制度利用促進の整備状況
助成制度があっても、相談先がわからなければ使えません。その意味で、地域に「中核機関」が整備されているかどうかは実務上の差になります。中核機関があれば、助成の有無や申請の手順を一か所で相談しやすくなるためです。整備は次のように進んでいます(厚生労働省「令和7年度成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(概要版)」令和8年4月公表)。
- 中核機関を整備済みの市町村:1,340(77.0%)。令和6年4月は1,187(68.2%)、令和5年4月は1,070(61.5%)で、着実に増加している
- 人口50万人以上の自治体では100%が整備済み。一方、人口1万人未満では64.7%にとどまる
報酬を抑える選択肢として期待される市民後見人(弁護士・司法書士等の資格を持たない、親族以外の市民による後見人)については、養成は進んでいるものの受任にはつながりにくい状況です。
- 令和7年4月1日時点の累計養成者数:28,484人(市町村が主体となっているものが81.7%)
- うち候補者名簿への登録者:9,963人(35.0%)
- うち実際に受任した人:2,093人(7.3%)
- 養成を実施している市町村は855(49.1%)
市民後見人は、自治体主催の養成講座を受講し、実務経験を経て候補者名簿に登載され、自治体が家庭裁判所に推薦して選任されるという流れが基本とされています(厚生労働省「成年後見はやわかり」)。ただし養成・名簿登録・受任の仕組みは自治体によって異なります。お住まいの市区町村の高齢福祉担当課でご確認ください。
任意後見を選んだ場合の費用
はじめにお断りしておくと、すでに判断能力が低下している場合、任意後見は利用できません。親の認知症が進んでから調べ始めた方は、この見出しを読み飛ばして構いません。本人に十分な判断能力があるうちに備える方法として読んでください。
任意後見契約公正証書の作成費用
任意後見契約は公正証書で結ぶ必要があります。日本公証人連合会が公表している内容(Q22)によれば、作成にかかる費用は次のとおりです。
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| 公証役場の手数料 | 1契約につき13,000円(法務省令の計算方法により、紙の枚数が3枚を超えるときは1枚ごとに300円加算。病床での作成は19,500円) |
| 法務局に納める収入印紙代 | 2,600円 |
| 登記嘱託手数料 | 1,600円 |
| 書留郵便料 | 実費 |
| 正本・謄本等の作成手数料 | 電磁的記録は1通2,500円、書面は枚数×300円 |
単純な契約であれば、合計でおおむね2万円前後から準備できる計算です。ただし任意後見受任者を専門職に依頼する場合は、その専門職との間で別途費用が生じます。なお、厚生労働省「成年後見はやわかり」は基本手数料11,000円・登記嘱託手数料1,400円・登記所印紙代2,600円と記載しており、日本公証人連合会の数値と食い違っています。本記事は公証実務を所管する日本公証人連合会の数値を採用していますが、実際の額は必ず利用する公証役場にご確認ください。
任意後見監督人の報酬
任意後見で費用を考えるうえで最も重要なのが、監督人の報酬です。前述のとおり、任意後見契約は家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて効力が生じるため、監督人の報酬は必ず発生します。
大阪家庭裁判所のめやす(令和7年4月)では、任意後見監督人の基本報酬は成年後見監督人等と同様とされ、管理財産額5,000万円以下で月額1万〜2万円、5,000万円超で月額2万5,000円〜3万円です。親族が任意後見人となり無報酬とした場合でも、年額でおよそ12万円から24万円が本人の財産から支出される計算になります。
令和7年の任意後見監督人選任の申立件数は881件(前年比0.8%増)、任意後見の利用者数は2,833人にとどまります(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」)。利用者数259,901人全体から見ればごく一部で、法定後見に比べて広く使われている状況ではありません。
申立て前に知っておきたい注意点
ここで挙げるのは、制度を避けるための情報ではありません。預貯金の引き出しや施設入所契約が必要な場合、ほかに取れる手段は限られます。費用と制約を知ったうえで始めるための情報として読んでください。
申立ては裁判所の許可なく取り下げられない
東京家庭裁判所の手引には、次のように書かれています。
審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ申立てを取り下げることはできません
(東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」令和7年4月)
同手引は、取下げが認められない典型例として「申立人が希望する人が後見人に選ばれそうにないから」「監督人が選任されるのは嫌だ」「困っていたことが解決したので必要なくなった」という理由を挙げ、これらでは原則として取下げは認められないとしています。
つまり「とりあえず申し立ててみて、費用が想定より高そうならやめる」ということはできません。申立ての前に、報酬が毎年発生することを含めた見通しを家族間で共有しておく必要があります。
希望した候補者が選ばれるとは限らない
同じ手引には、次の記載もあります。
申立書に記載された候補者が必ず選任されるとは限りません/これらの選任や複数の後見人等を選任することについての家庭裁判所の判断には、不服申立てをすることはできません
(東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」令和7年4月)
親族を候補者に挙げても専門職が選任されることがあり、その判断に不服を申し立てる手段はありません。誰が選ばれやすいかについては「家族が後見人になって費用を抑えられるか」で詳しく取り上げました。
審理にかかる期間も見ておきましょう。全国の統計では、審理期間は1か月以内が37.9%、1か月超2か月以内が33.2%で、2か月以内に71.1%、4か月以内に93.8%が終局しています(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」)。東京家庭裁判所の手引では、申立てから審判までおおむね1〜2か月、親族への意向照会に約2週間、鑑定が行われる場合は約1〜2か月、本人調査に約1か月、審判確定から登記完了までは約2週間とされています。
原則として本人が亡くなるまで続く
裁判所の「成年後見Q&A」には、成年後見は「本人が病気などから回復し判断能力を取り戻すか、本人が亡くなるまで続く」と説明されています。東京家庭裁判所の手引でも、後見等は本人の死亡または後見等開始の審判の取消しにより終了するとされています。
言い換えれば、「施設の入所契約を結ぶため」「凍結された預金を下ろすため」といった当初の目的が達成されても、それだけでは制度の利用を終えることはできません。認知症のように判断能力の回復が見込みにくい場合、制度は本人が亡くなるまで続き、その間ずっと報酬が発生し続けます。費用を考えるうえで最も本質的なのは、この「終わりが見えにくい」という性質です。ただしこの点は、2026年に成立した改正法で見直されます(2026年9月時点で未施行)。
2026年に成立した民法改正で費用はどう変わるか
成年後見制度はいま、大きな転換点にあります。「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が令和8年(2026年)6月17日に参議院本会議で可決・成立し、6月24日に公布されました。費用や利用期間に直結する内容が含まれています。
後見・保佐を廃止して補助に一元化
改正の中心は、後見・保佐の制度を廃止し、補助の制度に一元化することです(法務省民事局の概要資料)。改正後は、①事理弁識能力が不十分であること、②本人の同意、③制度利用の必要性を要件として、特定の行為について個別に代理権付与や要同意の審判をする仕組みに変わります(民法7条・9条・11条)。必要な範囲だけに支援を限定する、という考え方への転換です。
例外として、事理弁識能力を欠く常況にある人については「特定補助の仕組み」を選択できます(民法10条)。法定の重要な財産行為をいずれも取り消せるようにするもので、従来の後見に近い保護を確保する枠組みです。特定補助の利用には医師2人以上の意見を聴取することが必要ですが、明らかに必要がないときは鑑定を要しないとされています(家事事件手続法119条)。
必要がなくなれば終了できる制度へ
費用面で最も影響が大きいのが、この見直しです。改正後は、本人の事理弁識能力が回復していない場合であっても、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立てまたは職権で制度利用を終了できるようになります(民法12条)。
現行制度では、当初の目的を達成しても原則として本人が亡くなるまで続き、報酬も発生し続けました。改正後は「終われる制度」となるため、たとえば不動産の売却や施設入所契約といった個別の目的が終われば制度を終了させる余地が生まれ、生涯にわたる報酬の総額を抑えられる可能性があります。
あわせて、次の見直しも行われます。
- 解任事由に「本人の利益のために特に必要があるとき」が追加され、不正行為がなくても、面談を行わないなどで本人が適切な保護を受けられていない場合には解任(交代)が可能になる(民法876条の5)
- 選任時の考慮要素の冒頭に「本人の意見」が規定される(民法876条の2)
- 補助人に本人の意向を把握する義務が課される(民法876条の11)
- 補助人の死後事務の権限が拡充され、火葬・埋葬に関する契約や未払いの施設利用料の支払いなどが行えるようになる(民法876条の26)
報酬の予測可能性を高める見直し
報酬についても、家庭裁判所が報酬を決定する際に補助人が行った事務の内容等が考慮要素であることが、規定上明確化されます(民法876条の19)。財産の額だけでなく、実際に行った事務の内容が報酬に反映されることが条文上はっきりする、ということです。
さらに、報酬請求が認容された事案の実績が公表される予定とされています。本記事で取り上げた最高裁判所の「報酬に関する実情調査の集計結果」は、まさにこの方向性に沿った取り組みで、「成年後見制度の利用者にとって、報酬付与額の予測可能性が高まることを目指す」と目的が明記されています。申立て前に費用の見通しを立てやすくなることが期待されます。
施行時期(2026年9月時点では未施行)
ここが最も重要な注意点です。成年後見制度に関する改正部分の施行日は、公布日(2026年6月24日)から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。最長で2028年12月までということになります。
本記事の執筆時点である2026年9月の時点では、改正法はまだ施行されていません。したがって、いま申立てをする場合には現行の後見・保佐・補助の3類型に基づく手続が適用され、費用の考え方もここまで説明してきたとおりです。「補助に一元化されるなら待ったほうがよいのか」という判断は、本人の状況や急を要する契約の有無によって変わるため、家庭裁判所や地域の相談窓口にご相談ください。
費用を確かめるために次にやること
ここまで見てきたとおり、金額は管轄の家庭裁判所とお住まいの市区町村によって変わります。自分のケースでいくらかかるかを確かめるには、次の順番で確認するのが効率的です。
- 地域包括支援センターに相談する。介護のどの場面で後見が必要になっているのか、ほかの方法で対応できないかを含めて整理できます。窓口の役割については地域包括支援センターについて解説した記事をご覧ください。
- 市区町村の高齢福祉担当課または地域包括支援センターで、成年後見制度利用支援事業の有無・上限額・申請期限を確認する。申立費用と報酬の両方が対象か、資力要件はどうか、申請の期限があるかを聞いてください。中核機関が設置されている自治体では、そこが相談の窓口になります。
- 主治医に、成年後見制度用の診断書の作成を依頼する。作成料の目安もあわせて確認します。本人情報シートは、ケアマネジャーやケースワーカーなど本人の状況をよく知る福祉関係者に依頼します。
- 管轄の家庭裁判所に、申立書類一式と郵便切手の内訳を確認する。切手の額・種類・納付方法は裁判所ごとに異なります。手続費用を誰の負担とする運用かも、あわせて確認しておくとよいでしょう。
- 費用の負担が難しい場合は、法テラスに資力基準を確認する。誰の収入・資産で判断されるかを含め、直接問い合わせてください。
まとめ
- 費用は「申立て時の一時費用」と「毎年の報酬」の2階建て。東京家庭裁判所の場合、後見開始の印紙・切手は合計7,400円で、これに診断書料と登記されていないことの証明書300円が加わります。鑑定費用は10〜20万円程度とされますが、実施率は約3.4%、実施された場合も85.8%が10万円以下です(東京家庭裁判所の手引・令和7年4月/最高裁判所・令和7年)。
- 報酬は家庭裁判所が審判で決め、本人の財産から支払われます。大阪家庭裁判所のめやす(令和7年4月)では基本報酬は月額2万円、管理財産額1,000万円超5,000万円以下で月額3万〜4万円、5,000万円超で月額5万〜6万円です。
- 申立ては家庭裁判所の許可なく取り下げられず、親族を候補者に挙げても専門職が選任されることがあり、その判断に不服申立てはできません。無報酬を前提とした資金計画は崩れる可能性があります。
- 費用を払えない場合は、市区町村の成年後見制度利用支援事業(高齢者向けは1,699自治体で実施)や法テラスの民事法律扶助を確認してください。上限額・対象者・申請期限は自治体により異なります。
- 2026年6月に民法改正が成立し、後見・保佐は補助に一元化され、必要がなくなれば終了できる制度に変わります。ただし2026年9月時点では未施行で、施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日です。
成年後見制度の運用は家庭裁判所ごとに異なる部分があり、助成制度の内容も市区町村ごとに定められています。加えて、成年後見制度は2026年に成立した改正法の施行を控えています。制度も金額も変わりうるため、最新の情報は管轄の家庭裁判所やお住まいの市区町村の担当窓口でご確認ください。