生活援助従事者研修は、2018年度(平成30年度)に創設された、59時間で修了できる訪問介護の研修です。身体介護を含む130時間の介護職員初任者研修に比べて短期間で修了でき、修了後は掃除・洗濯・調理など生活援助中心型のサービスに限定して訪問介護員として働けるようになります。この記事では、59時間のカリキュラムの内訳、受講資格、初任者研修との違い、費用の目安、修了後のステップアップの流れを、厚生労働省の資料にもとづいて解説します。
生活援助従事者研修とは何か
生活援助従事者研修は、訪問介護のうち「生活援助中心型」のサービスに従事するために必要な知識を、比較的短い時間数で身につけるための研修です。ここでは制度が生まれた経緯と、修了後にできること・できないことを見ていきます。
制度創設の経緯と目的
生活援助従事者研修は、平成30年度(2018年度)の介護報酬改定にあわせて、生活援助中心型サービスの担い手の裾野を広げつつ質を確保するために新設された研修制度です。厚生労働省老健局振興課長通知「介護員養成研修の取扱細則について」(老振発0328第9号、老振発0330第1号で一部改正)に、その内容が定められています。
同通知には、生活援助中心型のサービスに従事する人材の裾野を広げるとともに、担い手の質を確保できるようにするという趣旨が示されています。研修の開始時期は自治体によって異なり、たとえば東京都では平成30年10月から研修が始まっています。介護保険制度はおおむね3年ごとに改定が行われるため、研修の実施要件も今後見直される可能性があります。最新の実施状況は、受講を予定している都道府県のホームページで確認してください。
対象となる業務範囲:できること・できないこと
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| できること(生活援助) | 掃除・洗濯・調理・買い物代行など、利用者の日常生活を支える家事援助 |
| できないこと(身体介護) | 入浴介助・食事介助・排泄介助など、利用者の身体に直接触れて行う介護 |
生活援助従事者研修を修了すると、訪問介護のうち「生活援助中心型」のサービスに、訪問介護員として従事できるようになります。一方で、身体介護は生活援助従事者研修の修了だけでは担当できません。この線引きは、厚生労働省が示す「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(平成12年3月17日老計第10号)にもとづいています。訪問介護における身体介護と生活援助の違いを押さえておくと、生活援助従事者研修がカバーする業務範囲もイメージしやすくなります。身体介護を含めて訪問介護員として働きたい場合は、後述する介護職員初任者研修以上の研修を修了する必要があります。
カリキュラムの内容と59時間の内訳
生活援助従事者研修のカリキュラムは、次の9科目・合計59時間で構成されています。
9科目の時間数一覧
| 科目 | 時間数 |
|---|---|
| ①職務の理解 | 2時間 |
| ②介護における尊厳の保持・自立支援 | 6時間 |
| ③介護の基本 | 4時間 |
| ④介護・福祉サービスの理解と医療との連携 | 3時間 |
| ⑤介護におけるコミュニケーション技術 | 6時間 |
| ⑥老化と認知症の理解 | 9時間 |
| ⑦障害の理解 | 3時間 |
| ⑧こころとからだのしくみと生活支援技術 | 24時間(うち移動・移乗関連の実習2時間を含む) |
| ⑨振り返り | 2時間 |
| 合計 | 59時間 |
59時間のカリキュラムを修了した後、別途、筆記試験による修了評価が行われます(0.5時間程度。上記の59時間には含まれません)。最も時間数が多いのは⑧「こころとからだのしくみと生活支援技術」で24時間、全体の4割を占めています。
図のとおり、59時間のうち最も大きな比重を占めるのは、入浴・排泄・食事などの生活支援技術を扱う⑧の24時間です。生活援助中心型のサービスであっても、こころとからだのしくみを理解したうえで支援を行うことが重視されている構成になっています。
通信学習で受講できる範囲
この研修は、59時間のうち最大29時間までを通信学習(自宅学習)で受講できます。ただし、通信学習に振り替えられる時間数は科目ごとに上限が定められており、すべての科目を通信学習だけで完結させることはできません。実技を伴う内容や、演習・グループワークが中心となる科目は、通学(スクーリング)での受講が必要です。通信学習の範囲や実施方法は、研修を実施する都道府県指定の事業者によって運用が異なる場合があるため、申し込み前に各事業者の案内を確認してください。
受講資格・対象者
生活援助従事者研修は、誰が、どのような目的で受講できる研修なのでしょうか。受講資格と、想定される受講者像を見ていきます。
誰でも受講できるか
生活援助従事者研修の受講資格は、「生活援助中心型のサービスに従事しようとする者」であることのみで、年齢・学歴・実務経験・性別による制限はありません。厚生労働省の通知やガイドブックにも、受講資格を限定する記載は見当たりません。
想定される受講者の例
「生活援助従事者研修の実施に関するガイドブック」(令和4年3月、令和3年度厚生労働省老人保健健康増進等事業)では、想定される受講者の例として、次のような人が挙げられています。
- 学生
- 就労移行支援・就労継続支援事業所の利用者
- 子育て中の主婦・主夫
- 定年退職者・アクティブシニア
- 無資格で介護事業所に勤務している職員
- 介護職への復職を希望する人
これらはいずれも、これまで130時間の初任者研修を受講するハードルが高かった層です。59時間という短い時間数で修了できる点が、こうした「人材の裾野を広げる」という制度の目的に沿った受講者像につながっています。
介護職員初任者研修・実務者研修との違い
訪問介護に関する研修には、生活援助従事者研修のほかに、介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修などがあります。時間数とできる業務の範囲を見比べてみましょう。
時間数とできる業務の比較
| 資格 | 時間数 | できること |
|---|---|---|
| 介護福祉士 | 時間数の定めなし(国家試験) | サービス提供責任者可 |
| 実務者研修 | 450時間 | サービス提供責任者可 |
| 介護職員初任者研修 | 130時間 | 身体介護を含む訪問介護員として従事可 |
| 生活援助従事者研修 | 59時間 | 生活援助中心型のみ訪問介護員として従事可 |
| 入門的研修 | 21時間 | 訪問介護員として従事不可 |
表中の「サービス提供責任者」とは、訪問介護計画の作成やヘルパーへの指導・調整を行う責任者のことです。
実務者研修・初任者研修の修了者は、履修科目が生活援助従事者研修の課程を包含するとみなされ、都道府県の判断で生活援助従事者研修の全科目が免除される場合があります。時間数だけを見ると生活援助従事者研修が最も短期間で修了できますが、その分、担当できる業務は生活援助中心型に限定されます。身体介護を含めて訪問介護員として働くための研修内容は、介護職員初任者研修とはの記事で詳しく解説しています。
それぞれのメリット・デメリット
研修ごとに時間数と担当できる業務の範囲が異なるため、メリット・デメリットも変わってきます。
生活援助従事者研修(59時間)
- メリット:59時間という短い時間数で修了でき、就業までの期間を短くできる
- メリット:まず訪問介護の仕事を体験してみたい人にとって着手しやすい
- デメリット:担当できる業務が生活援助中心型に限られ、身体介護は担当できない
介護職員初任者研修(130時間)
- メリット:修了すれば身体介護を含めて訪問介護員として従事できる
- デメリット:生活援助従事者研修に比べて時間数が長く、修了までの期間が長くなる
介護福祉士実務者研修(450時間)
- メリット:修了することでサービス提供責任者の要件を満たせる
- デメリット:3つの研修の中で時間数が最も長く、修了までにまとまった時間がかかる
自分がどの業務にどのくらいの期間で就きたいかに応じて、どの研修から始めるかを検討することになります。
研修の実施主体と受講できる場所
この研修は、どこで、誰が実施しているのでしょうか。実施主体の仕組みと、自治体ごとの実施状況を見ていきます。
都道府県が指定する研修事業者
生活援助従事者研修の実施主体は、「都道府県又は都道府県知事の指定した者」と定められています。実際には、各都道府県が指定した民間の研修事業者が、都道府県の基準にもとづいてカリキュラムを実施する形が一般的です。受講先を探す場合は、お住まいの都道府県のホームページに掲載されている指定事業者の一覧で確認するのが確実です。この記事では特定の研修事業者を選ぶ判断は行いません。
自治体ごとの実施状況の違い
生活援助従事者研修の実施状況や研修開始時期は、都道府県によって異なります。たとえば東京都福祉局では平成30年10月から研修がスタートしており、大阪府・愛媛県・福岡県・沖縄県など、複数の都道府県が指定事業者の一覧や研修日程をホームページで公表しています。開催頻度や定員、受講料は自治体・事業者ごとに異なるため、居住地または勤務予定地の都道府県のホームページで最新の情報を確認してください。
費用の目安と教育訓練給付金
受講を検討するうえで気になるのが費用です。受講料の目安と、教育訓練給付金など補助制度の有無を見ていきます。
受講料の相場
前述のガイドブックでは、生活援助従事者研修の受講料の目安として「テキスト代を含めて約18,000円程度」という金額が示されています。ただし、これはあくまで目安であり、実施主体や地域によっては無料で受講できる場合や、自治体独自の補助制度が用意されている場合もあります。正確な金額は、受講を検討している都道府県指定の研修事業者に直接確認してください。
補助制度の有無
教育訓練給付金は、雇用保険の被保険者等が厚生労働大臣の指定する講座を受講・修了した場合に、支払った受講料の一部が支給される制度です。厚生労働省のQ&Aでは、介護分野の一部研修が「特定一般教育訓練」(資格取得を目的とした講座やデジタル関係講座などが対象となる区分)の指定対象になり得る旨の記載がありますが、生活援助従事者研修という研修類型そのものが一律に指定講座となっているという公式な明記は確認できませんでした。指定講座にあたるかどうかは、研修を実施する事業者ごとに厚生労働大臣の指定を受けているかによって異なるため、断定はできません。教育訓練給付金の利用を検討する場合は、受講を予定している研修事業者に、その講座が指定講座に該当するかどうかを個別に確認してください。
なお、生活援助従事者研修単独の全国的な受講者数・修了者数を集計した公的統計は、確認した範囲では公表されていません。
修了後のステップアップとカリキュラム免除
この研修を修了した後、さらに担当できる業務を広げたい場合の道筋を紹介します。
初任者研修へのステップアップ
この研修を修了した後、身体介護も担当できるようになるためには、介護職員初任者研修(130時間)を追加で受講する必要があります。生活援助従事者研修の履修科目は初任者研修の一部と重複しているため、都道府県または研修実施事業者の判断により、重複するカリキュラムの時間数が免除される仕組みがあります。さらにその先、サービス提供責任者や介護福祉士国家試験の受験資格を目指す場合は、介護福祉士実務者研修(450時間)への進級が次のステップになります。
免除される時間数の具体例
前述のガイドブックには、生活援助従事者研修の修了者が介護職員初任者研修を受講する場合の具体例として、通常130時間かかるところを、生活援助従事者研修と重複する59時間分が免除され、71時間に短縮されるケースが掲載されています。逆方向として、無資格の介護職員に認知症に関する基礎的な理解を身につけてもらうための研修である認知症介護基礎研修や、入門的研修(21時間)を修了した人が生活援助従事者研修を受講する場合にも、一部の科目が免除される場合があります。実際に免除される時間数や科目は、受講する都道府県・研修事業者の判断によって異なるため、事前に確認が必要です。
なぜ今この資格が注目されているのか
この研修が生まれた背景には、訪問介護を中心とした介護人材の不足があります。公的統計から実情を見ていきましょう。
訪問介護の人材不足の背景。有効求人倍率の実情
厚生労働省が公表した「介護人材確保の現状について」(令和7年5月9日、社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会資料)によると、介護関係職種の有効求人倍率は次のとおりです。
| 区分 | 有効求人倍率 |
|---|---|
| 介護関係職種全体(令和6年度) | 4.08倍 |
| 介護関係職種全体(令和7年3月・全国平均) | 3.97倍 |
| 全職業平均(令和7年3月) | 1.16倍 |
| 東京都(介護関係職種、令和7年3月) | 7.65倍 |
令和7年3月時点の介護関係職種の有効求人倍率3.97倍は、全職業平均1.16倍のおよそ3.4倍にあたる水準です。都道府県別に見ると、東京都が7.65倍と最も高くなっています。訪問介護の現場で人手を確保することが難しい状況が続いていることがうかがえ、こうした背景から、身体介護を含む130時間の研修を求めず、より短期間で生活援助を担う人材の裾野を広げる生活援助従事者研修が、人材確保の選択肢のひとつとして位置づけられています。
介護職員の必要数の見通し
厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、介護職員数は2022年度(令和4年度)時点で約215万人でした。これに対し、2026年度に必要となる介護職員数は約240万人(2022年度比で約25万人増)、2040年度には約272万人(同約57万人増)と見込まれています。
将来的に必要数が増える一方で、待遇面の課題も指摘されています。
なお、厚生労働省「賃金構造基本統計調査による介護職員の賃金について」では、介護職員の令和7年の賞与込み給与は月額31.4万円(前年比+3.6%)で、全産業平均(役職者を除く)の39.6万円を下回っています。この数値は介護職員全体の統計であり、生活援助従事者研修の修了者に限定した統計ではありませんが、人材確保の課題を考えるうえでの背景情報として押さえておきたい数値です。
生活援助従事者研修を受ける際の注意点
受講を検討する際に、あらかじめ理解しておきたい点をまとめます。
身体介護はできない点の理解
繰り返しになりますが、生活援助従事者研修を修了しただけでは、入浴介助・食事介助・排泄介助といった身体介護は担当できません。訪問介護の求人の中には、生活援助と身体介護の両方を担当できる人材を募集しているものもあるため、応募前に自分が修了した研修でどこまでの業務を担当できるのかを正しく理解しておく必要があります。将来的に身体介護も担当したい場合は、介護職員初任者研修以上の研修の受講を検討することになります。
就業先を探す際に確認すべきこと
就業先を探す際は、次のような点を確認しておくと、研修で学んだ内容と実際の業務範囲のずれを防ぎやすくなります。
- 募集している業務が生活援助中心型に限定されているか、身体介護も含まれているか
- 勤務予定のエリアの有効求人倍率や、訪問介護の人材需給の状況
- 研修の受講先が、居住する都道府県が指定した事業者に該当するか
このサイトでは特定の求人・事業者を評価・推奨する立場はとっていません。就業先の選定は、ハローワークや都道府県の相談窓口など、公的な窓口も活用しながら、自身の希望する働き方に合うかどうかを個別に確認してください。
まとめ
生活援助従事者研修は、59時間という短い時間数で修了でき、訪問介護のうち生活援助中心型のサービスに限定して従事できるようになる研修です。ポイントを整理すると次のとおりです。
- 生活援助従事者研修は2018年度(平成30年度)に創設された59時間の研修で、生活援助中心型の訪問介護に従事できるようになる
- カリキュラムは9科目・合計59時間で構成され、最大29時間まで通信学習で受講できる
- 受講資格に年齢・学歴などの制限はなく、学生から定年退職者まで幅広い層が受講の対象として想定されている
- 介護職員初任者研修(130時間)や実務者研修(450時間)に比べて時間数が短い一方、担当できる業務は生活援助中心型に限られる
- 修了後に初任者研修を受講する場合、重複する59時間分が免除され71時間に短縮される具体例がある
制度の内容は、3年ごとの介護保険制度改定などにより変更される可能性があります。実際に受講・就業する際は、最新の情報を都道府県のホームページなどで確認してください。このサイトの立ち位置についてはこのサイトについてもあわせてご覧ください。