介護に関する入門的研修は、介護未経験者が基礎を学ぶ21時間の公的研修です。介護の仕事を考える人だけでなく、家族の介護に不安がある人の学びにもつながります。
ただし資格ではなく、修了しても訪問介護員にはなれません。受講資格や費用は自治体ごとに違うため、申込前に実施主体の最新案内を確認してください。
介護に関する入門的研修とは・誰向けの研修か
まず、研修の目的と想定されている対象者、そして家族の介護が目的の場合の考え方を整理します。
定義と目的
介護に関する入門的研修は、これまで介護と関わりがなかった未経験者が、介護の基本的な知識・技術を学ぶ研修です。厚生労働省の通知では、参入のきっかけを作り、業務への不安を払拭して多様な人材の参入を促すことが目的とされています。
主な対象者
通知が主な対象として挙げているのは、定年退職予定者、中高年齢者、子育てが一段落した人です。あわせて、地域住民や学生を対象にした実施も可能とされています。実際に誰が受けられるかは自治体が決めます。
家族の介護が目的の人は受けてよいか
通知が示す目的は介護分野への参入ですが、カリキュラムには相談先、介護保険の概要、介護休業制度、認知症の理解など、家族の介護でも役立つ内容が含まれます。一方で、家族の介護だけを目的とした受講が認められるかどうかは、確認できた公的資料には明記されていません。
受講できるかは、自治体が定める対象要件(在住・在学・在勤、年齢、未経験者であることなど)で決まります。家族介護が目的の場合も、その自治体の募集要項を読み、不明点は実施主体に問い合わせてください。家族向けの講座を探している場合は、市区町村の窓口や地域包括支援センター(高齢者の総合相談窓口)に尋ねる方法もあります。
よくある誤解
- 資格ではありません。修了すると修了証明書が交付されますが、国家資格や公的な資格とは別のものです
- 入門的研修だけで訪問介護員にはなれません(詳しくは後半で説明します)
- どの自治体でも同じ内容・同じ条件とは限りません。通知は21時間を示していますが、構成や日程は自治体により異なります
カリキュラム21時間の内訳
ここでは、通知が示すカリキュラムの科目と時間、学ぶ内容、開催の形を見ていきます。
基礎講座3時間と入門講座18時間
通知が示すカリキュラムは、基礎講座と入門講座で構成されます。
| 区分 | 科目 | 時間 |
|---|---|---|
| 基礎講座(3時間) | 介護に関する基礎知識 | 1.5時間 |
| 介護の基本 | 1.5時間 | |
| 入門講座(18時間) | 基本的な介護の方法 | 10時間 |
| 認知症の理解 | 4時間 | |
| 障害の理解 | 2時間 | |
| 介護における安全確保 | 2時間 |
合計は21時間です。愛知県は基礎講座3時間と入門講座18時間の計21時間で、通知どおりの構成です。自治体により構成が異なる場合があるため、実際の時間は各自治体の募集要項で確認してください。
図のとおり、最も長いのは「基本的な介護の方法」の10時間で、実技を伴う科目が中心です。
各科目で学ぶ内容
概要資料に示されている主な内容は次のとおりです。
- 介護に関する基礎知識:相談先(市区町村の窓口、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所=ケアマネジャーがケアプランを作る事業所)、介護保険の概要、介護休業制度
- 介護の基本:ボディメカニクス(体の使い方を工夫して介助者と本人の負担を減らす技術)、介護予防・認知症予防の体操
- 基本的な介護の方法:介護職の役割、生活支援技術(移動・移乗、食事、入浴、排泄、着脱、整容、口腔清潔、家事援助)、老化の理解
- 認知症の理解:中核症状と行動・心理症状(BPSD、認知症に伴って現れる不安や行動の変化)、認知症の種類、本人と家族への関わり方
- 障害の理解:ノーマライゼーション(障害の有無にかかわらず地域で共に暮らすという考え方)、国際生活機能分類(ICF、心身の状態と生活の関わりを総合的にとらえる分類)、障害の特性、家族への支援
- 介護における安全確保:事故・感染の予防、腰痛予防、手洗い・うがい
認知症の理解や生活支援技術は、仕事に就かない場合でも家族介護の場面で役立つ内容です。ただし、研修は基本を学ぶものであり、個々の方の状態に応じた対応は、主治医やケアマネジャーなど専門職への相談が前提になります。
開催日程のパターンと柔軟な実施
概要資料では、開催のパターンとして、基礎講座のみを1日(3時間)で行う例、1日7時間で3日程度、1日3〜4時間で6日程度の例が示されています。また通知は、企業などで働く人向けに基礎講座のみを実施するといった柔軟な実施も認めています。
実習や施設見学の扱い
通知本文に「実習」という語はなく、施設での就労体験実習は求められていません。ただし自治体によっては実技・演習や施設見学を設けています。山口県の令和8年度の研修では、会場実技は各会場2日間で、施設見学が含まれます。動きやすい服装が必要な研修もあり、愛知県は実技があるため動きやすい服装を案内しています。
受講資格・費用(自治体別の条件と費用)
受講資格と費用は国が一律に決めるものではなく、実施主体ごとに異なります。確認できた4自治体を並べて比べます。
「未経験者」の考え方と自治体ごとの違い
研修は「介護との関わりがなかった人」を想定しており、福岡県も未経験者を対象としています。すでに介護の仕事の経験がある人が対象になるかは自治体の判断のため、募集要項の対象欄や問い合わせ先で確認してください。以下は確認できた案内の例であり、評価や優劣を示すものではありません。
自治体別の条件と費用
| 自治体 | 対象 | 定員 | 費用 | 日程 | 就職支援 |
|---|---|---|---|---|---|
| 福岡県(令和8年度) | 5日間すべて参加できる未経験者 | 各日程50名 | 無料 | 令和8年7月〜令和9年2月、福岡・北九州・筑豊・筑後で複数日程。申込は3週間前までで先着順(日程によっては終了済み、2026年10月時点) | 委託先の県社協福祉人材センターが受講後の就職サポートを案内 |
| 愛知県 | 高校生以上で県内在住 | 確認できた資料に記載なし | 無料(教材費を含む) | 基礎3時間+入門18時間の計21時間。実技があり動きやすい服装 | 修了後にサポーターバンクへ登録可 |
| 山口県(令和8年度) | 確認できた資料に記載なし | 各会場20名 | 無料 | オンライン8月5〜6日(終了済み)、会場実技は周南9月7〜8日(終了済み)、下関10月6〜7日、山口10月22〜23日。各会場2日で施設見学を含む | 福祉人材センターが求人情報の提供・施設見学・面談の日程調整を行う |
| 千葉市(令和7年度) | 市内に在住・在学・在勤 | 80名 | 無料 | 全6日間、日曜開催(令和7年度分は終了済み)。修了証を交付 | 確認できた資料に記載なし |
このほか茨城県(対象は県内在住の人)と福島県の研修も無料です。受講資格では、在住・在学・在勤の条件、年齢の下限、全日程への参加が必要かどうかが募集ごとに異なるため、仕事や家族の予定と照らして確認すると安心です。
有料の例もある
令和7年度の通知にもとづく研修の一覧(厚生労働省掲載)には、有料の例があります。たとえば白老町は9,500円、小山市・栃木市は2,200円、富士見市は500円と記載されています。「無料が多いが有料の例もある」と考え、金額と、教材費・交通費の扱いを募集要項で確認してください。会場までの交通費、昼食代、動きやすい服装などは自己負担になることがあります。
受講・修了実績の公表例
令和7年度の個別の実績として、茨城県は受講151名・修了144名、福島県は受講69名・修了55名と公表されています。受講者に対する修了者の割合は、茨城県で約95%、福島県で約80%で、修了率の目安になります。全国の修了者数・就職者数は、確認できた範囲では公表値を見つけられなかったため、全国の数字は示していません。
探し方と申込の流れ・注意点
実施の有無や日程は地域によって大きく違うため、まず探し方と申込までの手順を確認します。
探し方から申込まで
一般的な流れは次の図のとおりです。細かな手順や必要書類は自治体ごとに異なります。
各段階で確認する具体的な情報は次のとおりです。
- 探し方:厚生労働省は、令和8年度の実施予定(令和8年4月1日現在)、令和7年度の実施状況、自治体独自の研修、事例集を掲載しています。まずこの一覧や都道府県の案内で探せます
- 申込期限:福岡県は開催の3週間前までで先着順です。定員が埋まることがあります
- 受講:動きやすい服装など、案内された持ち物を準備します
注意したい点と問い合わせ時の確認項目
- 全日程の参加が必要な研修もあり、欠席時の扱いは主催者に確認が必要です
- 初任者研修などの免除や認知症介護基礎研修との関係は自動ではなく、事前の確認が必要です
- 制度や実施状況は変わるため、必ず実施主体の最新の案内を確認してください
問い合わせるときは、次の項目を確認しておくと申込後の食い違いを防げます。
- 対象(在住・在学・在勤、年齢、未経験者の条件)に当てはまるか
- 受講料と、教材費・交通費・昼食代などの扱い
- 日程と、全日程に参加する必要があるか、欠席時の扱い
- 定員、申込期限、先着順か抽選か
- 修了証明書の交付と、修了後の就職支援の内容
- 家族の介護が目的でも受講できるか
相談先
家族の介護が目的の場合は、市区町村の窓口や地域包括支援センターが相談先になります。就労が目的の場合は、都道府県の福祉人材センターが窓口になります。当サイトは特定の研修や事業所を勧めたり、仲介したりするものではありません。
修了後の流れ(修了証・マッチング・福祉人材センター)
修了後に受け取れるもの、利用できる就労支援、届出の仕組みを順に見ます。
修了証明書
通知は、基礎講座・入門講座を修了した人に修了証明書を交付することを定めています。様式は「基礎講座」「入門講座」「基礎講座及び入門講座」の別があり、愛知県は知事名で発行しています。これは資格ではなく、研修を修了した証明です。
就労希望者への支援
通知は、就労を希望する修了者に、介護施設・事業所とのマッチング支援を行うよう求めています。これは実施主体である自治体や委託先が行うもので、当サイトが関わるものではありません。事業者団体や福祉人材センターとの連携が想定されています。
具体例として、山口県は福祉人材センターが求人情報の提供、施設見学、面談の日程調整を行うとしています。福岡県は県社協福祉人材センターが委託先で、受講後の就職サポートを案内しています。愛知県は修了後にサポーターバンクへ登録できるとしています。
福祉人材センターへの届出
通知によれば、修了者は介護福祉士等の届出制度により、都道府県福祉人材センターに届け出ることができます。届出の方法は各都道府県のセンターが案内しているため、希望する場合は問い合わせてください。
どの段階も希望する人が自分で利用するもので、支援の内容は実施主体によって異なります。
初任者研修との関係と働ける範囲
入門的研修の修了後に、さらに別の研修を受ける場合や就職する場合の位置づけを整理します。
研修の時間数の比較
入門的研修(21時間)は、生活援助従事者研修(59時間)、介護職員初任者研修(130時間)、介護福祉士実務者研修(450時間)の前段として位置づけられる短い研修です。関連研修の時間数は概要資料と介護労働安定センター資料(令和6年3月)にもとづきます。実務者研修の450時間は、免除される科目がある場合は実際の受講時間が短くなります。初任者研修については介護職員初任者研修とは、生活援助従事者研修については生活援助従事者研修とはで詳しく解説しています。
時間の差は大きく、入門的研修はまず介護に触れるための入口にあたります。
一部免除は都道府県の判断で、自動ではない
通知は、都道府県の判断により、介護職員初任者研修や生活援助従事者研修の一部を免除できるとしています(老振発0330第1号に関わる扱い)。ただし、免除は一律ではなく、免除の有無や範囲は都道府県によって異なります。免除される時間数は、確認できた資料に記載がないため、ここでは示しません。
入門的研修を修了すれば初任者研修が自動的に短くなるわけではありません。後日の受講を考えている人は、受講予定の研修の実施機関と、居住する都道府県の担当窓口に、免除の扱いを事前に確認してください。
働ける範囲:訪問介護員にはなれない
入門的研修を修了しても、訪問介護員として従事することはできません。概要資料によれば、訪問介護員には介護職員初任者研修(130時間)以上の修了が必要で、生活援助従事者研修(59時間)の修了者は生活援助中心型(掃除・調理など家事の援助が中心のサービス)のみ担当できます。一方、通所・居住・施設系のサービスの介護職員としては、無資格でも従事できます。
就職先を考えるときは、この働ける範囲の違いを前提に、サービスの種類を確認してください。
認知症介護基礎研修の義務化と入門的研修との関係
令和6年4月1日から、介護サービス事業所が新たに採用した無資格の介護職員は、認知症介護基礎研修の受講が義務づけられました。新規採用・中途採用を問わず、採用後1年の猶予があります(介護労働安定センター資料、令和6年3月)。
東京都のQ&A(令和6年7月9日時点)によれば、訪問系サービス(訪問入浴を除く)、福祉用具貸与、居宅介護支援以外が対象です。医療・福祉関係の資格を持つ人は対象外ですが、認知症サポーター養成講座の修了は対象外になる理由にはなりません。詳しくは認知症介護基礎研修とはで解説しています。
入門的研修を修了すると認知症介護基礎研修が免除されるかについては、確認できた資料では判断できませんでした。就職先の事業所や都道府県・市区町村に確認してください。
制度の根拠(通知と基金)
最後に、この研修がどのような制度にもとづいて実施されているかを確認します。
通知と基金
この研修は、厚生労働省社会・援護局福祉基盤課長から都道府県に宛てた通知「介護に関する入門的研修の実施について」(社援基発0330第1号、平成30年3月30日)にもとづいています。社会保障審議会福祉部会の福祉人材確保専門委員会の報告書(平成29年10月4日)の提言を受けたものです。通知は、地域医療介護総合確保基金を活用して積極的に実施するよう都道府県に求めています。この基金は、消費税の増収分を財源として各都道府県に設置されたものです。基金のメニューには「介護に関する入門的研修、生活援助従事者研修の受講等支援事業(受講支援からマッチングまでの一体的支援事業)」があります(介護保険最新情報Vol.1083、令和4年6月22日)。
通知の原文は平成30年付のままで、改正の記載は確認できませんでした。一方で事業そのものは令和8年度も各地で実施予定が公表されています。制度や運用は今後変わる可能性があるため、最新の状況は厚生労働省と実施主体の案内で確かめてください。
実施主体と委託
実施主体は都道府県と市区町村です。研修の運営は、社会福祉協議会、介護労働安定センター、介護福祉士会、民間企業などに委託できるとされています。たとえば福岡県は県社会福祉協議会の福祉人材センターに委託しています(令和8年度の案内)。
まとめ
この記事のポイントを整理します。
- 入門的研修は介護未経験者向けで、通知が示すカリキュラムは基礎講座3時間と入門講座18時間の計21時間です
- 資格ではなく、修了すると修了証明書が交付されます。訪問介護員としては従事できません
- 受講資格や費用は自治体ごとに異なり、無料の例が多い一方、有料の例もあります。家族介護が目的の場合も、自治体の対象要件の確認が必要です
- 修了後は、実施主体による就労支援や福祉人材センターへの届出があり、初任者研修などの一部免除は都道府県の判断です
- 制度は変わることがあるため、最新の案内を実施主体で確認してください
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