
認知症の人はさまざまな苦悩を抱えて暮らしています。介護する側の負担も大きく、ストレスを抱えがちです。その対応に困ることも多いでしょう。そうしたなか、ケアをするうえで「やってはいけないこと」がいくつかあります。特に注意すべきことを8つ列挙しましたので、介護する家族の方はもちろん、介護職員の方々も改めて振り返ってみましょう。
1.本人を否定するようなことを言う
認知症ケアをするにあたって大原則は、本人の訴えを否定してはいけません。例えば、利用者の方が「家に帰りたい」と言ってきたとします。これは「帰宅願望」といって、今いる場所が不安だったり落ち着かないときに出る症状だとされています。その際、「家には帰れませんよ」などと否定すると、ほぼ間違えなく不穏になります。不安が増して、さらに帰りたい気持ちになったり、怒る、暴力を振るうといった行動にもつながるケースもあるのです。「帰宅願望」の理由は、それぞれの人によって異なります。その人の訴えの背景を考え、気持ちに寄り添うようにしてください。
2.本人が嫌がることを無理やり押し付ける
認知症の人の症状として、「介護拒否」というものがあります。介護をしようとしても、言うことを聞いてくれなかったり拒否されるといったもの。この症状はさまざまな場面で見られます。例えば、薬を飲むのを嫌がる、着替えを拒否するなど。だからといって、本人が嫌がることを無理やり押し付ければ、拒否の気持ちがより一層、強くなってしまいます。なぜ、拒否するのかを考えるようにしてください。そもそも介護されることが嫌なのかもしれません。それぞれの人の心の声に耳を傾けることが大切です。誰でも無理強いされるのは嫌なもの。気持ちが落ち着いたころを見計らって声を掛けるなどの対応をしてください
3.できないことを責める、非難する
認知症の症状が進行していくと、できないことが多くなってきます。例えば、整理整頓や書類作成、電話の応対など日常生活に支障が出てくるようになります。その際、介護する側は、できないことを責めたり非難するようなことはしてはいけません。認知症の人は自らの変化に戸惑い、不安を感じているのです。記憶力や判断力は低下しても自尊心や羞恥心という感情は残っています。間違いを指摘されると、さらに自分自身を失い、不安が増幅していきます。非難せず、どうしたらできるか、また思い出してくれるのかを考えてケアをしてみてください。残っている機能に目を向けてサポートしましょう。
4.命令や上から目線での指示をする
認知症の人は日々、できることとできないことが変化します。昨日までできていたことが、今日になったらできなくなってしまうこともあります。それに激怒し、上から目線で「こうやりなさい」と指示をすると本人は余計に落ち込んでしまい自信を失くし、悪化していきます。負の悪循環に陥らないように命令口調などは控えてください。
5.危険性の無いことなのに行動を制限する
認知症の症状で特徴的なのは「徘徊」という行動。在宅介護中に家族の人が寝ているときに、認知症の人が徘徊し事故に合うというケースが散見されます。意味もなく歩き回っているようにも見えますが、その行動には目的があるのです。ただ、目的があったとしても途中で何をしようとしたのか分からなくなってしまったりして、歩き続けてしまうのです。だからと言って行動を制限すると余計に認知症の症状が進行する恐れがあります。本人に危険が及ばない範囲で好きなことをさせて見守っていれば、次第に落ち着いてくることがあります。状況に応じた対応が大切です
6.本人の失敗を叱る
失敗には何らかの理由があるもの。例えば、トイレでの排せつ。失敗したからといって、叱ってしまっては自尊心を大きく傷つけてしまいかねません。なぜ失敗したのか、その理由を見つけて改善につなげていってください。次は成功するかもしれません。また、成功するまで手伝うことで、本人はすごく喜ぶときもありますので是非一緒に取り組んでいきましょう。
7.意味が分からないからと話すのをやめる
認知症が進行してくると幻覚や幻聴、独語の頻度が増えます。誰もいないのに「あそこに人がいて怖い」など本人しか理解できないものもあります。それを「いつものことだから」と、きちんと聞かずにおざなりな対応していると信頼関係は崩れてしまいます。まずはその人の「世界」に入って話を聞いてあげてください。そうすることによって落ち着きを取り戻します。幻覚や幻聴は本人にとっては実際に見え、聞こえているものですので、否定しないでください。
8.何度も同じことを聞かれるので会話を控える
高齢者施設で介護をしていると、「いつになったら帰れるの?」や、食事をしたばかりなのに「ご飯はまだこないの?」と訴える認知症の人が少なくありません。介護する側は、同じことを何度も聞かれるので返答が雑になったりストレスにもなりがちです。しかし、それ以上の戸惑いや混乱を認知症の方は感じているのです。何度も同じことを聞かれても丁寧に返答するようにしてください。
まとめ
実際の介護の現場は非常に過酷です。認知症の方への対応で、困ったり悩むことも多いでしょう。ただ、認知症の方の言動や行動は、本人の認知している状況と現実に乖離が生じてしまっているため、周囲には理解できないものになってしまっているのです。現実がどんどん崩壊していっている状況といってもいいかもれません。ですから、本人の気持ちに寄り添ったサポートをしていきましょう。また、在宅介護の場合、どうしても困ったら地域の福祉課に相談するなどして、介護する側も一人で抱え込まないようにしてください。
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